BASE株式会社は、ネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」を通じて、誰でも簡単にネットショップを作成できるプラットフォームなどを提供している。現在、200万以上のショップが展開され、急成長を遂げているBASE。本項では2019年にわずか28歳でCTOに就任し、企業の成長に大きく貢献した川口将貴さんに、「開発組織のマネジメント論」について話を伺った。

「作る」以外の手間のかかる作業を、最小限に。

——まずはプロダクトの内容を教えてください。

川口:当社は、ネットショップ作成サービス「BASE」を開発・運用しています。BASEを使えば、誰でも無料でネットショップを簡単に作成できるんです。その上で、運営に関する多くの煩雑な手続きを省略できます。

ハンドメイド商品のショップを例に挙げると、まずは購入者がネットショップにアクセスし、商品を注文・購入しますよね。ハンドメイド商品が作られた後に商品が発送され、購入者の手元に届きます。オーナーの視点で言えば、必要なのは基本的に手数料だけです。

——料金形態もスタンダードプランとグロースプランで分かれています。

川口:そうなんです。手数料って積み重なると痛手じゃないですか。手数料が高いとユーザーもより安価なプラットフォームを選びますよね。とはいえ、逆に手数料が低すぎると企業としては質の良いプロダクトをサステナブルに提供することが難しくなってしまいます。そのため「BASE」ではオーナーの状況に合わせた2パターンのプランを提供して、多様なニーズに応える努力をしています。

——集客・販促からマーケティング、運営効率化まで、BASEは「売上を伸ばす」ための多くの機能を提供しています。なぜこの点に焦点を当てたのでしょうか?

川口:僕は創業メンバーではないので、あくまで今のBASEとしての視点になってしまうのですが、クリエイターが本来やりたい仕事に焦点を当てた結果だと思っていて。オーナーがものづくりを通してやりたい仕事は、商品の世界観の構築やものづくりじゃないですか。だからBASEでは「作る」以外の手間のかかる作業を、最小限に抑えるのが大切だと考えています。そういう意味で、売り上げを支援する機能が充実していると思ってもらえればいいなと。

——確かにBASEは、SNSの連携にも力を入れているイメージがあります。

川口:そうなんです。SNSはもはや、現代のモールと言える存在じゃないですか。だから、SNS連携は非常に重要だなと。FacebookやInstagramなどのSNSを活用すると、集客や販促に大いに役立つので。ショップ運営においても重要な要素です。

——BASEが競合に勝る「売上を伸ばす技術」または「仕組み」はどういった点だと思いますか?

川口:BASEの強みは、シンプルな操作で誰でも簡単にショップを始められる点です。専門的な知識がなくても、直感的な操作でショップを作成可能。料金プランも、ショップの規模に合わせて柔軟に選べますし、機能も必要に応じてカスタマイズできます。シンプルな使いやすさが、強みの一つですね。

BASEでは「BASEかんたん決済」というシステムがあるのですが、自分でネットショップを始めようとすると、クレジットカード会社の審査などで決済まで結構手間がかかります。実際、知り合いの中には審査だけで1週間かかった人もいて。もちろん落ちるケースもあります。それに対して、BASEは最短で即日から使えるので、信頼されているプラットフォームとして差別化できているんじゃないかなと。

ちなみに、BASEのエンジニアマネージャーがどのような姿勢で仕事をしているかについては、エンジニアリングマネージャー・植田隼人氏のインタビュー記事を参照いただきたい。

BASEエンジニアリングマネージャー・植田隼人氏の仕事における7つのルール

ChatGPTを活用した「BASE AI アシスタント」も好評

——「BASE AI アシスタント」機能ではChatGPTの文章生成機能を活用しています。AIアシストの効果や具体的な活用法を教えてください。

川口:ChatGPTが流行り始めた頃に、プロダクトのどこに使うかを色々考えたんです。ただAIを複雑な領域に導入するにはまだ時間がかかる気がして。まずは商品説明のような、ブランディングに関する簡単なタスクからAIを導入し、オーナーが自分のメッセージを伝えやすくするお手伝いをしています。

正直なところChatGPTを普段から使用している人には新鮮さはないかもしれません。現在は、BASEの内部でプロンプトを調整し、ユーザーエクスペリエンスを向上させる役割を担っています。実際、BASEをご利用のショップオーナーには有効的にご使用いただいている印象です。

——社内でITのトレンドについても話し合ったりするのでしょうか?

川口:当社のプロダクトオーナーや経営陣は、インターネットに対する感度が非常に高い方が多いんです。その一方で、BASEはリアルショップやイベントもサポートしているので、両方の要素をバランスよく扱えている気がします。最終的には、オーナーとお客様の関係性も人と人とのつながりだと思います。

——現在のBASEのプロダクトにおける課題を教えてください。

川口:BASEは10年以上の歴史があり、成熟したプラットフォームと見なされていますが、まだまだ改善の余地はあると思うんですよね。特に「ショップオーナーのかゆいところに手が届く」ような微調整はまだまだできると思っていて。SNS連携もそうです。ショップオーナーの視点に寄り添った調整など、まだまだ伸ばすべきポイントはいくつもあります。それにプロダクトは、市場の変化に合わせて成長させるべきですし。トライアンドエラーはまだまだ続きそうです。

——具体的に、ショップオーナーの視点を持つというと…?

川口:オーナーさんへのインタビューや、実際にお仕事されているお客様のご意見を参考にしています。そこで集めたフィードバックは、ユーザーリサーチの形で社内で共有しています。メンバーの中にはオーナーを兼業している方もいるんです。そういう多くの視点から情報を集めています。

エンジニアリングとマネージメントは「似ている」

——過去の記事で、BASE株式会社 SVP of Developmentの藤川さんが「雇用形態や国籍は問わないが、創業以来内製でソースコードを書いてきたチームだから内製チームの実現にこだわりを持っている」とおっしゃっていました。現在でも引き続き、内製の重要性に重きを置いたチーム体制で運用されているのでしょうか?

川口:体制的には、外注という形で他の会社さんにうちのソースコード開発を依頼しません。もちろん、業務委託の形態もあるかもしれませんが、基本的にはすべて内製でソースコードを開発し、運用しています。この方針に変更の予定はありません。

——川口さんは、「最初は藤川さんからのCTOの引き継ぎを『開発に携われなくなるから』と断った」と読みました(笑)。

川口:そうなんです。最初は戸惑いましたが、今はなんとかやっています(笑)。単にコードを書きたいというよりも、優れたプロダクトを継続的に提供し、問題を解決したい気持ちが強いんだと思います。(マネージメントは)得意ではないんですけど、もう大人ですし、避けるわけにはいかなかったんです。

——組織を率いる立場になってみて、まずは何から始めたのでしょうか?

川口:最初はチームの構成と情報の流れを詳しく調査しました。組織内で情報がどのように移動しているかを確認し、どこから情報を得られるのかを考えました。噛み砕いて説明すると、経営層からどのように下層へ伝達されているか、ですね。情報の在処がわからないと、学ぼうにも学べないですし。

——川口さんほど急でなくても、意外と似たようなキャリアアップで悩んでいる方は多そうです。

川口:技術を極めたいと思う人からすると、マネージャーへのキャリアチェンジをあまり希望していないケースもよくある話だと思っていて。でも、実はマネージメントとエンジニアリングって似ているんですよ。考えるべきはどこに人材を配置し、どのように動かすか。人が相手でも、時にはバグ(コミュニケーションの齟齬など)が発生する場合もありますし。もちろん人間相手なので感情は大切です。でも一つの「組織」という箱の中で適切にアウトプットを行う意味では、エンジニアリングとあまり変わらないんです。そういう意味では、マネージメントが業務に入ったとしても「エンジニアリングマネージャー」という肩書きに違和感はないです。

——お言葉を借りてよくある「バグ」の一種についてお聞きしたく。上司が部下と円滑にコミュニケーションを進めるためにはどうすれば良いと思いますか?

川口:そもそも視座と情報量が違う点は認識しておくべきですよね。そこに上下関係はないと思うんですけど、持っている情報には必ず格差があるはず。メンバーはプロダクトに焦点を当て、即座に成果を出そうと考えているかもしれませんが、マネージメント側は3年や5年といった長期的な視点も必要になりますから。

反対にメンバー同士だから気づける些細な変化もありますよね。「あの人、今日はちょっと疲れているかもしれない」とか。私たちからは見えない要素をメンバーだからこそ気がつけるような。その情報差を意識したコミュニケーションが重要だと思っています。

——最後に、川口さんの考える「優秀なリーダー」には何が備わっていますか?

川口:「他人を信頼できる力」ですかね。リーダーは自分が動くのではなく、日々、メンバーからの情報を収集・整理し、最終的にはチームに現場を任せることになるので。

ただ、期待のしすぎはよくないと思っていて。期待と信頼って違うものじゃないですか。最終的な責任はリーダーにあるからこそ、メンバーができなかった仕事を怒られるのもリーダーです。そう思うと、過度な期待をかけるのは避けるべきかなと。

BASE株式会社
https://binc.jp/

(取材・文:すなくじら、撮影:渡会春加

presented by paiza

Share