株式会社MIXI(以下、MIXI)が提供する、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」(以下、「みてね」)。子どもの写真や動画を祖父母や親戚など、招待した家族だけに共有し、コミュニケーションして楽しめるサービスだ。写真や動画を無料で無制限にアップロード可能となっている。
2015年4月にリリースされ、2023年11月には利用者が2,000万人を突破し、現在は7言語・175の国と地域で利用できるグローバルなサービスだ。
「みてね」の開発組織に浸透しているアジャイル型の文化について、みてねプロダクト開発部 部長の平田将久さんに話を聞いた。

平田 将久さん プロフィール
株式会社MIXI Vantageスタジオ みてねプロダクト開発部 部長。
2011年にミクシィ(現:MIXI)に新卒入社し、エンジニアとしてSNSの「mixi」を担当。2013年に転職し複数企業でエンジニアとしてプロダクト開発、チームのスクラム導入、組織変革などのマネジメント業務に携わった。米国シリコンバレーのスタートアップ企業でプロダクト開発やDX変革のリードを経て、2022年12月にMIXIに再入社。現在、みてねプロダクト開発部部長として「家族アルバム みてね」におけるエンジニアリング組織全体のマネジメントに従事。
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目次
SNSの「mixi」から変わらず、コミュニケーションを軸に

2011年にミクシィ(現:MIXI)に新卒入社した平田さん。2013年にMIXIを退職してから複数企業で働き、シリコンバレーでのプロダクト開発も経験した。MIXIを外の世界からどのように見ていたのだろうか。
「僕がMIXIを2013年に退職したときは、まだSNSの『mixi』が主力事業でした。その後、『モンスターストライク』が大ヒットして、徐々にゲーム色が強くなった印象を持っていましたね。ただ、現在のMIXIのパーパスにもある『コミュニケーション』を軸にしている点が一切ブレていなかったことは、外から見ても感じていました」
「みてね」は2015年にリリースされ、平田さんの同期が初期開発に携わっていた。平田さんは、新しいスタートアップ事業が生まれたなと思っていたそうだ。MIXIを退職したあとも送別会や懇親会などに呼ばれ、関わりは続いていた。
ある日、創業者の笠原健治さんからFacebookのMessengerでランチに誘われたことをきっかけに、9年ぶりにMIXIへ再入社した平田さん。笠原さんからの突然の連絡に驚き、笠原さんのFacebookアカウントが乗っ取られているのではないかと思ったそうだ。
MIXIへの再入社後は、「みてね」のエンジニアリング組織全体をマネジメントしている。
「家族」にフォーカスしたコミュニケーション
世の中には写真・動画共有アプリは「みてね」以外にも存在するが、なぜ2,000万人以上が利用するほどのサービスになったのだろうか。ほかのサービスとの違いについて平田さんに聞くと、MIXIが大事にしている「コミュニケーション」という言葉が、ふたたび出てきた。
「『みてね』は単なるストレージサービスではなく、コミュニケーションのための写真・動画共有サービスです。とくに『家族』という関係性にフォーカスして、コミュニケーションしやすいようになっています。無料で無制限に使えるので気軽にはじめられますし、プレミアムプランをご利用の際には、家族の誰かが課金すれば家族全員が恩恵を受けられるようになっています」
新しい写真や動画が「みてね」に投稿されると、招待されている家族に通知される。また、閲覧履歴が残るため、遠くに住んでいる家族が見てくれたかどうかも確認できることも安心できるポイントだ。
「みてね」では、「世界中の家族のこころのインフラをつくる」をミッションに掲げている。MIXIと創業者の笠原さんらしさを表している。
「このミッションは、創業者の笠原さんの想いが込もったものだと思っています。SNSの『mixi』をつくっていたときにも、『コミュニケーションのインフラになる』をミッションに掲げていました。家族のこころのインフラは、コミュニケーションなくしてありえません。こうした想いがミッションにも表れています」
「みてね」のサービスサイトには、「みてねの始まりと、これから」というページがある。そこには創業者である笠原さんの、二児の父であり、1人の「みてね」ユーザーとしてのストーリーが綴られている。
アジャイル組織の文化浸透により、ワンチームを目指す

2022年に平田さんが再入社した際、「みてね」の事業部は50名規模の組織だった。2024年7月現在、組織は100名近くにまで拡大している。
拡大する組織のなか、平田さんはプロダクト開発部の部長としてエンジニアリング組織のマネジメントをおこなってきた。そのなかで注力してきたのが「アジャイルの文化浸透」だ。なぜ、アジャイルの文化浸透が必要だと考えたのだろうか。
「前提として、『みてね』の事業は不確実と戦う必要があると思っています。なにもかもが不確実なんですけど、不確実と戦うことだけは確実でした。不確実に対応できるカルチャーとしてアジャイルが必要と考え、本格的に文化浸透を進めました。
また、メンバーにヒアリングをした際、アジャイルの代表的な開発フレームワークであるスクラムを進めるときに、職種によって少し壁を感じるという課題を聞いていました。そういった面でもアジャイルの考え方でワンチームになれると考え、文化浸透を進める価値は大いにあると思いました」
アジャイルのフレームワークを導入するだけでは、組織にアジャイル文化を浸透させることは難しい。そこで平田さんは、浸透施策の1つとして研修をおこなった。受講者をオープンに募集し、「みてね」事業部に限らず全社からも募った。
さらに実施したのが、フィロソフィーマネジメントによるアジャイルカルチャーへのアプローチだ。
「アジャイルという言葉を多くのメンバーが聞いたことはあり、理解もしている状況でした。そのなかでなにをしていくのかが大事になります。たとえば『みてね』の組織バリューをアップデートし、『Be Agile』など4つの信念を掲げました。組織全体として『Be Agile』という言葉をつねに頭のなかに置き、その方向に動くように取り組みました」
アジャイルカルチャーを阻害しないために組織構造の変革もおこなった。スクラムに適した組織構造をトップダウンでオフィシャルに整えたのだ。

スクラムが阻害されるとアジャイルカルチャーも阻害されてしまうため、組織構造を整えることは重要だと平田さんは話してくれた。
自律的な組織は透明性の先にある
スクラムをおこなう際において重要なのは、自律的な組織だと平田さんは話す。ただし、自律的に動いてほしいと伝えるだけではうまくいかない。必要な条件がある。
「自律的な組織をつくるためには、大前提として必要な条件があります。その1つが『透明性』です。自分たちがどこに向かうべきなのか、現状はどうなのか、課題はなにで持っている武器はなんなのか。こうしたものがしっかりと見えるように、透明性を実現するための取り組みは欠かせません」
透明性を実現するため、スクラムに適した組織構造にしたうえで情報構造も整えた。チームメンバーが情報をどこに発信して、どこを見れば情報を得られるのかを直感的にわかるようにしている。加えて重要なのが「気軽に情報を発信するカルチャー」だ。
「ストック情報だけを整理して貯めていくようにすると、気軽に情報発信ができなくなってしまいます。そこで、フロー情報を気軽に発信できる場をつくり、オープンなカルチャーになるように工夫しました。ただ、組織規模が50名を超えてくると、情報が多すぎて読まれなくなってしまいます。これを避けるために情報構造を整理しました」
情報構造の整理と、気軽に情報発信できる場を実現するために「Notion」を導入した。適切な場所にストック情報を記録することに加え、フロー情報として気軽に情報発信できる場所をNotionのデータベース機能で実現している。
さらに「Notion AI」を活用している。組織内で1日の間にアウトプットされた情報をNotion AIで要約し、「Slack」に自動投稿をして透明化を実現した。Notion AIのアドオン機能である「Notion Q&A」も活用している。
「Notionに情報を集約することで、AIの質が高まります。Slackとも連携できるので、Slackのオープンチャンネルに書かれている情報も拾えます。Notion Q&Aに質問すれば、NotionやSlackに集まっている情報から回答してくれるので、明らかに業務効率化につながっていますね」
平田さんは、新しく入社したメンバーのオンボーディング時に、「わからないことがあればNotion AIに聞いてください」と伝えているそうだ。細かいことまで先輩社員に聞くのは申しわけないと遠慮してしまう人も、AIになら気軽に聞ける。
最も重要なのは「顧客に価値を提供すること」

専門分野に加えて、さまざまな分野に対する幅広い知識を持つ「T字型人材」。アジャイルカルチャーには、このT字型人材が欠かせないと平田さんは話す。その理由を聞いた。
「アジャイルにおいて最も重要なのは『顧客に価値を提供すること』です。そのためにT字型人材は欠かせません。顧客に価値を提供するためには、なるべく早くプロダクトを提供して、仮説検証を頻繁におこないピボットしていく。そうして不確実と戦っていくことが大事です。
その際に、特定の1職能だけでは価値を提供できないケースが多くあります。全職能において100点のスキルは必要ありませんが、他職種の簡単なタスクを巻き取れるくらいのスキルは求められます」
平田さんは社内においてもT字型人材が重要だと伝えており、一部の例外を除いてT字型人材しか採用していない。「みてね」のプロダクト開発部は、クロスファンクショナルチームとなっており、隣の人が別の職能を持っている。T字型が大事であるというカルチャーが根付いている。このカルチャーをつくることが重要だ。
最後に、今後新たに取り組むことについて平田さんに聞いたところ、社内の人たちが「みてね」について理解できる「みてね事業羅針盤」の作成に取り組んでいると教えてくれた。
「この羅針盤を見れば『みてね』全体でなにを考えているのかがわかります。第1弾を2024年7月にリリースしました。ただ、この羅針盤はそもそも完成しないものだと思っています。ワンチームとして、みんなで協力し合って羅針盤をつねにアップデートする気持ちでつくっていきます」
Notion AIをはじめとした、AIの活用も引き続き進めていく。
「たとえば、APIのドキュメントを書くのは大変で、メンテナンスコストもかかります。ただ、ドキュメントを書いておかないと、はじめて触る人は苦労してしまいますよね。そこで、AIにソースコードを読ませ、自動でドキュメントを書いてもらう取り組みを今期からはじめようとしています」
世界中の家族のこころのインフラをつくるために「みてね」をよりよいプロダクトにし、顧客に価値を提供していく。そのために「みてね」の開発組織はアジャイルカルチャーを根付かせ、不確実と戦い続ける。
