「慣れてないことが多いので、まだまだ難しいと思っています。組織マネージメントをやっているときとは違うフェーズにいることを実感していますね(笑)」
CTO就任から現在までの率直な感想を聞くと、吉野さんはこう言って笑った。しかし、その言葉にネガティブな印象はなく、むしろ新たなチャレンジに心を踊らせているような響きを感じた。吉野さんがMIXIのCTOに就任したのは2023年4月と、取材時点で就任から10か月目を迎えたところだ。
2008年に新卒入社し、以来エンジニアからマネージメントへ、そして開発本部長と、さまざまなポジションや役職を歴任してきた。現在ではCTOとして同社のエンジニア約300名をマネージメントしている。
では、吉野さんはエンジニアとしてどのようなキャリアを歩み、現在にいたるのだろうか。プログラミングとの出会い、MIXIへの入社、そしてCTO就任までのストーリーを聞いた。
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吉野 純平氏 株式会社MIXI 執行役員CTO

筑波大学大学院修士課程修了。2008年4月に新卒エンジニア職で株式会社ミクシィ(現MIXI)に入社。同社SNS「mixi」のインフラ、アプリ運用などを担当後、「モンスターストライク」のインフラネットワーク全般の業務に加え、幅広い新規事業のインフラ支援にも従事。
その後、物理インフラ、サーバ運用、ネットワークから映像処理や撮影などのIP通信に関連する開発を手がける。
2019年5月にはインフラ室の室長を担当。2022年4月に開発本部 本部長として多数のプロジェクト、エンジニアのマネージメントに従事し、2023年4月執行役員 CTOに就任。
メガヒットアプリを生み出した会社のCTOの原風景
パソコンが徐々に普及し始めた1990年代、家庭より先にまず学校にパソコンが配置され始めた。分厚いブラウン管のモニターの向こうにある新しい世界に、多くの子どもたちは魅了された。その中の少なからぬ人が後年、現在活躍するIT企業の代表やCTOとして活躍することになる。吉野さんもその一人だった。

「中学1年生くらいのときでしたね。そのときは図書館に置いてある数少ないプログラミングの本を読むくらいで、実機を触ったのは後になります。そして、プログラミング系の雑誌をお小遣いで買うようになっていきました」
吉野さんが抱いた「純粋」な気持ちは、もしかすると潜在的に未来への可能性を見出していたのかもしれない。小学校の卒業文集で、吉野さんは将来の夢を「ゲームをつくる人」と書いていた。
「これも実はそこまでゲームをつくる人になりたいわけではなくて、他の子が書いているのをまねしたというのが正直なところです(笑)。ただ、パソコンを操作することがおもしろそうで、ぼんやりとでしたがパソコンを使う自分の将来像を思い描いていたんだと思います」
それから20年ほどが経過した2023年、吉野さんがインフラ面を中心に貢献したひっぱりハンティングRPG「モンスターストライク」の国内累計売上額は約1.6兆円(105億ドル)※を突破する。
日本を代表するメガヒットアプリを支えるインフラを構築し、現在は約300名のエンジニアの活躍を支えるCTOの原風景は、新たな世界の地平線から見出した「おもしろそう」という高鳴りだった。
未知の場所へと歩むことにワクワクするマインド。冒頭の言葉の響きは、ここに在処があるのかもしれない。
出典:10周年を迎えた『モンスト』が国内収益約1兆5810億円(105億ドル)を突破。直近3年の収益ランキング上位の常連で、平均月利用者数は580万超え|ファミ通.com
友人の誘いから始まったCTOへの道
その後パソコンは急速な普及を遂げ、吉野さんが中学2年生のころにはパソコンは自宅にあり、その距離は一気に近づいた。吉野さんは「中高生のときは適当に遊んでいた」と謙遜するが、筑波大学の情報系の学部にAC入試で合格。
当時は2000年代後半、世界的に見てもSNS黎明期ともいえる時期であり、日本では純国産SNS「mixi」による交流が花開いていた。筆者を含め、mixiは若者にとっての必須の交流ツールであり、吉野さんもまたヘビーユーザーであったという。

「当時はもはやユーザー目線というよりも、エンジニアとしての目線でmixiを見ていて、負荷対策がされていく様子をリアルタイムに追うことができました。ただ、まさかそれを自分が支えていくサービスになるということは考えていませんでしたね」
そのような吉野さんとMIXIをつなげたのは、同じ研究室に所属していた友人からの気軽な誘いからだった。
「その友だちが『知り合いがMIXIで働いているから、会社見学に行くので一緒に来ないか』と言いました。その友だちも私がmixiのヘビーユーザーであることを知っていたので、一緒に会社見学に行かないかと誘ってくれたんです。それで二つ返事に行くことにしたのが、MIXIで働く縁になりました」
そのとき、同社では新卒入社の選考プロセスがすでに開始されている状態だったが、吉野さんが偶然会社見学に行き、エンジニアと話をしたところ選考に誘われ、そのまま入社が決まったという。こうして、吉野さんの同社CTOへの道は始まった。
新卒1年目の冬から取締役会で予算折衝をおこなう
MIXIに入社後、吉野さんはmixiのインフラ周りの担当に配属された。

「配属後はいろいろな仕事があって、もちろん技術的な仕事もしていましたが、同時に機材の購入など人と話をしながら進めていく仕事も多かったですね」
しかし、吉野さんはエンジニア採用で同社に入社した。コミュニケーション業務が多いことに不安はなかったのだろうか。
「むしろ楽しかったぐらいです。もちろん技術は技術でできていたこともありますが、なにより予算に対してのマネタイズやビジネスへの効果などを説明する機会は少なかったので、新卒社員にそういった経験をさせてくれるのはありがたかったですね」
学生時代、吉野さんは研究室でも予算管理をしたことがあるというが、ビジネスの世界ではスケールも大きく、できることも多かった。それが吉野さんをよりワクワクさせた。入社1年目の冬を迎えるころには、吉野さんは取締役会に出席し、予算折衝をおこなうようになっていた。
「正直、新卒で入ってきた若造が1億円が必要となるシステムの変更と効果を説明して可と決議してくれる、なんて裁量が大きい会社なんだろうと思っていましたね(笑)。ただ、当時はその分大変でしたね」
当然、そこには吉野さんの合理的な説明があり、経営陣としてもビジネス上のメリットを感じた上での予算付けであったことには違いない。
それからも吉野さんは、MIXIのさまざまなプロダクトのインフラ周りの構築や運用を手がけつつ、経営層や他部署とのコミュニケーション業務を続けた。吉野さんが初めて役職についたのは2017年のことだったが、このような実績を積み上げていったことで、後のマネージメント・経営層に役立つ素地となっていた。
以後、2019年にはインフラ室長、2022年に開発本部長、そして2023年にCTO就任とポジションが上がっていった。徐々に任される業務が経営側にいくに従って覚えたプレッシャーはあったのだろうか。
「さきほどの通り、意思決定という面では1年目からやり始めていたので、それほどプレッシャーにはなりませんでした。ただ、ポジションが上がっていくに従って言語化やビジョンを語ること、意思を強く持ち語るべきことが増えていくのを感じましたね。
自身の役割が経営側に回ったと実感したのは、本部長になり経営会議の議事録へのアクセス権が渡されたときでした。そのとき、どのような議論が行われているかをより高い解像度を持って知ることができ、自分が経営層へと近づいていることを再認識したのを覚えています」
これまでの吉野さんのキャリアについて話を聞くと、早期から予算折衝などビジネスサイドの経験を積んできたことがわかる。多くのエンジニアにとって、ジェネラリストになるか、スペシャリストになるかは、キャリアアップの上で悩ましい問題になる。吉野さんはどの段階から自身のキャリアの方向性を定めたのだろうか。
「実のところ、私自身は今でもスペシャリストでありたいとも思っていて(笑)。でも今では手を動かして自分でなにかやる時間はなく、いかにスペシャリストに頼んで良いものを作ってもらってそれを共に楽しめるかが重要になっていますね」
CTOという立場だからこそ得られる気づき
一方で、吉野さんがMIXIで長年培ってきたビジネス感覚やマネタイズを意識した開発への考え方があってこそ、CTOへの抜擢があったのも事実だろう。そんな吉野さんに、CTOに求められるスキルや条件を聞いた。

「CTOを目指す方々は優秀なエンジニアだと思うので、エンジニアリングに関するスキルは言うまでもないでしょう。
必須になるのはビジネス感覚だと思います。CTOになると開発組織にかかるコストや投資が、将来的にどのような投資対効果を出すのか。また開発するプロダクトが経営上どのようなインパクトを出すのかについては理解し、しっかりと説明する必要があるためです。
そして、意外と難しくも重要なのが、メンバーの話をいかに柔軟に聞けるか。当社はプロダクトとしても組織としてもコミュニケーションを重視する企業なので、お客さまに対しても自分たちに対しても相手へのリスペクトを忘れないよう意識しています」
取材時点でCTO就任から約10か月、実際に就任してから得られた気づきもあるのではないだろうか。
「現時点でも気づきや反省点は多くありますね。たとえば、CTOという立場は明確に開発組織のリーダーになるので、開発目標や目指すべき方向性はより明確に示していく必要があります。目標や方向性の共有は以前からもしてきたことではありましたが、組織としての推進力を高めるためには、もっとうまく伝えていかなければならないと感じています。
また、経営サイドで意思決定の場にいることが増えたので、どのようなことをすれば良い結果に導けるのかという判断材料が得られたのは学びでした。どのような企業でも、経営と現場にはギャップが生まれるものです。これもまた難しい話ですが、そのギャップをいかに埋めてバランスをとっていくのかもCTOの仕事であり、今後意識して取り組んでいきたいことでもあります」
それぞれの視座から見えてくるものがある。CTOとしての吉野さんのキャリアは、まだ始まったばかりだ。最後に、吉野さんが今後思い描くMIXIの開発組織の未来像を聞いた。
「現在MIXIが展開している事業領域すべてで新たなチャレンジができるような開発組織にしていきたいのと同時に、私個人としては新しく事業としてうまくやっていけるようなものをつくっていきたいとも考えています。もしかすると機能提供になるのかもしれませんが、CTOの立場から1つプロダクトを企画し、つくっていくことにもチャレンジしたいと考えています。
そのために学ぶことも多く、現在は役員へと提案するための仕込みをしている段階です。自分自身が新規事業を提案する側を覚えて、積極的にチャレンジしていきたいですね」
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