世界175か国以上で事業を展開するIBM(本社アメリカ)の日本法人として、1937年に設立された日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)。AIや業界別のクラウド・ソリューション、ビジネス・サービスや量子コンピューティングなどのイノベーションを通じて、顧客に価値を提供している。

日本IBMの執行役員を務める大久保 そのみさんに、テクノロジー事業本部の戦略や技術者の採用・育成方法などについて聞いた。

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大久保 そのみさん プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員。 テクノロジー事業本部 テクニカル・リーダーシップ事業統括部長。

テクノロジー事業本部の戦略は「共創」と「オープン」

IBM製品の販売責任を担う部門のテクノロジー事業本部。アーキテクトやエンジニア、デザイナーやカスタマーサクセスなど、さまざまなスペシャリストが所属している。そのなかで、技術営業の責任者を務めているのが大久保さんだ。

所属するメンバーは技術者であると同時に、IBM製品の専門家でもある。営業担当とともに、顧客やパートナーのビジネス課題の解決をおこなう。

現在テクノロジー事業本部では、AIとハイブリッドクラウドを主軸として活動している。ただ製品を販売するだけではなく、「共創」と「オープン」をアプローチ手段として、顧客の成長に寄与している。

「いまは、製品の機能を説明して、さあ、使ってくださいという時代ではありません。お客さまやパートナーさまと一緒に共創活動をおこないます。そのために、『クライアント・エンジニアリング』という組織を3年前に新設しました。そこではAIエンジニアやソリューション・エンジニア、デザイナーなどが一体となり、お客さまやパートナーさまとともにテクノロジー活用を試しています」

「共創」と「オープン」により、IBMの製品やテクノロジーを活用し、顧客やパートナーとともに「新しい世界」をつくる。それこそが日本IBMの競争優位性であり、軸となる戦略だ。

「小さな試し」を繰り返してわかることがある

クライアント・エンジニアリングには、さまざまな業界から多彩なバックグラウンドと知識を持つ人材が集まっている。そのなかで代表的な成果を挙げているのが、AI関連のプロジェクトだ。2024年だけでも顧客との共創活動を数百件も実施しており、日本IBMのWebサイトにて、多くの事例が紹介されている。AI関連のプロジェクトでは「小さな試し」が大事だ、と大久保さんは話す。

「『プロジェクト』という言葉を使うと、すごく大きいもののように感じるかもしれませんが、『小さな試し』を繰り返しています。まずは、お客さまと一緒に小さくてもつくってみるんですね。やってみて、つくってみることで、お互いにわかることがたくさんあります。お客さまがテクノロジーの活用方法や価値を理解する瞬間もあるし、私たちがこのように活用したらどうかと気づける瞬間もあるんです」

テクノロジー事業本部が、AIに加えて注力しているハイブリッドクラウド。なぜ、ハイブリッドクラウドに注力しているのだろうか。

「システムは動いてこそ意味のあるものです。システムが稼働し続けるためには、ハイブリッドクラウドの環境が最適解だと考えています。当社は長い間、お客さまのシステムをともにつくって運用してきていますし、そのことを大切にしているんです。どこになにを置き、どこを柔軟にして、どこを固めていくかを考えたときに、ハイブリッドクラウドが中核の要素になります」

ハイブリッドクラウドにより、コストと柔軟性を担保してシステムをつくり、新しいことをはじめたり、効率を高めたりするためにAIの技術を活用する。そうして、顧客の成長に寄与することを使命と考えて活動している。

100年以上にわたって受け継がれる「学び続ける文化」

日本IBMを支えているのは、社員である「IBMer」だ。テクノロジー事業本部では、顧客視点で物事を考えられ、仲間とともに1つのものをつくれる、技術者として誇り高きプロフェッショナルを求めているという。そこで大久保さんは、就職活動をしている学生と接するときに必ず伝えていることがある。

「就職先として会社を選ぶ場合、さまざまな条件を確認すると思います。私はインターンシップや採用イベントなどで学生の方に会うと、会社の理念や哲学に共感できるかを大事にしてほしいと必ず話します。会社の理念というものは、社員のなかに浸透していくものです」

1911年の創立以来、100年以上にわたって受け継がれるIBMの理念がある。

THINK(考えよ)
Be a good corporate citizen.(良き企業市民たれ/社会とともに)
There is no saturation point in education.(教育に飽和点はない)

これらの理念があるからこそ、プロフェッショナルな技術者が生まれる。

「当社の理念にもとづいて、私たちはつねに学び続けています。テクノロジー事業本部は製品の専門家集団です。最新の製品情報や世の中の情報を徹底的に学ぶ文化があります。それこそが、エンジニアの育成につながっています。ただ、学ぶだけだと消化していきません。タスクやコミュニティでのアウトプットなどで、自分のなかにスキルとして定着させ、ビジネスに活用していきます。このサイクルを若いエンジニアからベテランのエンジニアまで、全員が続けています」

時代が変わり、テクノロジーが変化しても継続的に学び、顧客のために考え抜くことが文化として根づいている。

理念に加えて、継続的に学び続けるためのシステムも重要だ。IBMには「Your Learning」というオンライン学習システムがあり、日本だけではなく世界中の研修を受けられる。技術研修もグローバルに展開されており、最新の技術情報が全世界で同時に展開されている。

「とくに技術系の学習は、プロとして欠かせません。英語で発信された最新情報を素早く学んでいきます。さらに、年に2回『学びウィーク』というものがあり、スキルと興味の幅を広げているんです。『学びウィーク』には、さまざまな切り口の学びがあります。たとえば、介護について考えるセッションなんかもあるんです。多様なトピックがたくさんあり、講師は社内のメンバーがボランティアでおこなっています。自分もなにかに貢献できますし、相手からもなにかを教えてもらえるというサイクルをずっと続けています」

技術だけではなく、さまざまなスキルを学ぶことで興味の幅を広げている。教育に飽和点はない。

技術者の育成には「逃げ癖」をつけさせないことが必要

日本IBMには、アーキテクトやスペシャリスト、デザイナーやデータサイエンティストなどを育成する「プロフェッショナル制度」がある。日々の仕事だけではなく、なにを学ばなければならないかを体系立てている。レベル分けがされており、上位レベルのメンバーからメンタリングを受けることが必須になっているという。

「自分を俯瞰して振り返り、継続的に学ぶことが重要です。私たち自身が先輩から育ててもらったので、次の世代をていねいに育てていくことは当たり前になっています。これは文化として根づいていますね」

プロフェッショナル制度には長年の実績があり、技術者育成において中核になっている。熟練の技術者が次世代をていねいに育てる文化が受け継がれている。技術者を育成するうえで、大久保さんが大切にしていることがあるという。

「自律的に自分のキャリアを考えてもらうことが大切です。たとえば研修について考えると、仕事のためにいま必要なものは急いで受けますよね。それと並行して、自分のキャリアでなにが必要かを考えて学ぶことが大事です。私にとって、技術者を育てることがもっとも重要な仕事です。

そのために1年ほど学校へ通って勉強し、2018年にキャリアコンサルタントの資格を取得しました。自分がキャリア育成のプロになれば、マネージャーたちにキャリア・カンバセーション(中長期的なキャリアについての会話)の方法を教えられます。そうすれば、マネージャーがメンバーとおこなうキャリア・カンバセーションの質が高まると思いました」

現在テクノロジー事業本部では、マネージャーに就任すると、大久保さんが1時間にわたってキャリア・カンバセーションの方法を伝授する機会がある。これにより、会話の質が高まり、メンバーとより向き合えるようになる。キャリア・カンバセーションを実施することで、メンバーはどこに向かい、なにを勉強すればいいのかに気づく。そして自律的に学び、成長し、結果的にビジネスへとつながっていく。

また、技術者を育成するうえで「逃げ癖をつけさせない」ことも意識しているという。

「逃げ癖がつくと信用されなくなり、技術者としては成長しません。しっかり解決できるように、育成やサポートをします。とくに最初のキャリアでなにかから逃げてしまうと、自信がなくなってしまうんですよね。それは良くないので、みんなで支えて成功してもらいます。

小さな成功を積み重ねることが大事です。人間なので、失敗することはあります。ただ、お客さまに対する責任を持つのであれば、自分が前に立ち続けなければなりません。それは、キャリアにおいて重要なことです」

若いうちに逃げ癖がつくと、先のキャリアにも大きく影響を及ぼしてしまう。将来のことも考え、大久保さんは小さな成功を積み重ねるように育成をしている。

日本IBMの採用戦略と、エンジニアに求められる能力

日本IBMも注力しているAI。日々進化を続けるAIにより、エンジニアの働き方も変化するだろう。これからの時代に求められるエンジニアの能力について、大久保さんは次のように答えてくれた。

「AIツールは日々進化しています。便利なものが増えていますし、今後もさらに増えていくと思います。AIに関わるエンジニアは、他者が上手につくって、再利用が許可されているアセットやノウハウを理解して、活用・応用することが求められてくるのではないでしょうか。0から1だけではなく、ほかの人が10まで進めたものを一緒に12に高めていく。そういうスキルも、これからのエンジニアに必要とされると予想しています」

現在、どの会社もエンジニア採用に苦労しているが、日本IBMではどのようにして採用を進めているのだろうか。まずは新卒採用について聞いたところ、ジョブ型採用を取り入れているという。

「エンジニア系職種として、ITスペシャリストやデータサイエンティスト、テクニカルセールスや製品開発など、さまざまな職種を用意しています。募集要項に仕事内容や求めるスキルレベルを明記していますし、求められる人物像もていねいに書いているんです。それも誰か1人で書いているわけではなくて、私のような役職の人間も一緒に文言を確認しています。求人に応募してくれる方の目に触れるものですので、魂を込めているんです。

ただ、先ほどもお話ししたように、採用後はキャリア自律を大切にしてほしいと思っています。とくに学生の方は、わからないことも多いと思うので、当社の採用セミナーやインターンシップにぜひ来ていただきたいです」

続いて、キャリア採用についても聞いた。会社側が選考するというよりも、お互いの認識を合わせるための対話を重視している。

「社会人として経験を積んで、当社に入社される方も非常に多いんですよね。採用面談では、しっかりと対話をします。お互いにどういう人間で、どういうことをしていきたいのか、考えているキャリアと合いそうかといったことを長い時間お話しするんです。

募集要項に書いてある文字だけではわからない部分がありますので、お互いにすり合わせをして理解し合い、一緒に働くかどうかを考えていく場にしています。だから、こちらから質問もたくさんしますし、応募してくれた方にもたくさんしてもらいたいと思っています」

テクノロジー事業本部の戦略とエンジニアの採用・育成方法の背景には、100年以上にわたって受け継がれているIBMの理念がある。時代が変化しても、DNAのように刻み込まれている理念は、これから先も続けていくだろう。

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(取材/文:川崎博則撮影:野田涼

― presented by paiza

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