第一線でご活躍されているエンジニア組織のリーダーをお招きして、対談形式でこれまでのキャリア、組織のリーダーとして大切にしていること、組織課題などを語っていただく「Tech×Career Talk」。ナビゲーターは元DMM.comCTOで、現在は株式会社デジタルハーツでCTOを務める城倉和孝氏です。
連載第2回は、位置ゲームをはじめとしたソーシャルアプリや、モバイルコンテンツサービス、ブロックチェーン事業などを開発・運営する株式会社モバイルファクトリーでエンジニア組織開発責任者を務める小林謙太さんにお話を聞きました。
株式会社モバイルファクトリー エンジニア組織開発責任者 小林 謙太氏
2011年に新卒で株式会社モバイルファクトリーに入社。ゲーム開発やプロダクトマネージャーを経て、現在はエンジニア組織開発責任者。エンジニアの育成、採用、組織課題などに取り組む。
位置情報ゲームやブロックチェーン事業に取り組む
城倉さん(以下、「城倉」):今日はよろしくお願いします。はじめに株式会社モバイルファクトリーの事業内容についてお話しいただけますか。
小林さん(以下、「小林」):大きく分けると3つあります。
1つはキャリア向けのモバイルコンテンツの月額サイトです。これは昔から弊社を支えている事業ですね。
次に位置情報ゲームです。具体的にはリアルにお出かけをして駅を集めるゲーム、『駅メモ』シリーズなどのタイトルを開発しています。
最後に、現在はブロックチェーンの事業にも注力しています。これからは物理的なもののやり取りだけでなく、デジタルなデータのやりとりを身近な世界に持っていきたいなと思っています。
城倉:小林さんは「エンジニア組織開発責任者」だそうですが、具体的にはどういったことをされているのですか。
小林:役割としては「VPoE」が近いのかなと思っています。エンジニア開発の責任者ではなくて、エンジニア組織の責任者ですね。開発の生産性を上げることにコミットしています。
城倉:VPoE、もしくは全社のスクラムマスター。そんなイメージですかね。
小林:そうですね。影響を与える対象としては開発のパフォーマンスや開発の文化、開発文化以前の全社的な文化などにもコミットするような感じで動いていますね。
エンジニアとして入社後、希望してマネジメント側のキャリアへ
城倉:現在のポジションに至るまでのお話を伺えますか。
小林:10年前にこの会社に新卒で入社しました。もともとは数学の教員になりたかったんですけど、大学でプログラミングに触れたら楽しくて、「これを仕事にしたいな」と思ったんですよね。それでエンジニアとして就職しました。
入社から5年ほどは主にソーシャルゲームの開発をしていて、技術としてはバックエンドからフロントエンドまで全体的に触れていました。その後はプロダクトマネジャーを3年ぐらい務め、さらにHR部門に異動して現在の役割となりました。
城倉:「本当はエンジニアとしてコードを書きたいけれど、マネジメントする人がいないからしょうがないから自分がマネジャーをやるか」ってその道を選ぶ場合と、マネジメントがそもそも好きだったり得意だったりでその道を選ぶ場合とあると思うんですが、小林さんはどちらのタイプでした?
小林:それでいうと、自分からマネジメントをやりたいと伝えました。
今も技術はもちろん好きで、おそらく今日も帰ったあとコードを書くと思います。心の清涼剤というか、コードを書くと落ち着くっていうのはあります(笑)。一方で、仕事をするうちに、コミットする範囲を広げていきたいとも思っていたので、マネジャーになりたいと思うようになっていきました。
得意かはわからないですが、自分の特性にマネジメントは合っていて、好きだと思っています。何よりメンバーやチームが成長していくのを見るのがすごく好きなんですよね。もともと教員志望だったこともあるのかもしれません。
城倉:なるほど。そこで昔なりたかった教員とつながっているんですね。
小林:あとは、入社3年目頃から全社の技術研修を担当させてもらって、その経験も影響しているかもしれません。
当時「技術スタックは似ているのに各チームごとに教えているのは非効率だなあ」といったような、会社としての課題を感じていました。その解決をしたいと手をあげてから、6年くらい技術研修を担当した経緯もあったので、人材開発・組織開発みたいなところを自分が任せてもらえるような雰囲気ができていたのかなと。
城倉:組織の課題解決や改善に関心があったのですね。ちゃんとエンジニアのリテラシーを持っている方が、コミットする先を広げていくっていうのは、これからの時代に結構必要なことだと思います。まさに実践されていてすごいですよね。
小林:会社としても「仕組み化」というのをとても大事にしていて、属人的な部分を、仕組みでうまく解決していくことが好まれる文化なんです。ただその場限りで済ませるのではなく、仕組みで解決するまでやって1つの仕事だという考えなので。
城倉:会社のカルチャーとしてそういうものが根付いているのはすばらしいですね。個人でそういう思考を持った方っていうのはいらっしゃると思うんですけど、会社としてそこを目指しているというのはなかなかないと思いますよ。
エンジニアが自己成長できる環境を作りたい
城倉:現在、小林さんが最も力を入れていることは何ですか。
小林:エンジニアが自己成長できる環境づくりが組織的な課題だと思っていて、特にそこに力を入れています。
社員に実施しているサーベイ結果からも、自己成長ができる環境があるかが従業員エンゲージメントに影響することが分かっています。悪いケースだと、成長を感じられないと辞められてしまうということです。
編集部:面白いデータですね。エンジニアらしいなと感じます。
小林:主体性や学習意欲が高いようなメンバーって、すごく成長速度が速いんです。自分からどんどん学んで、コミットしていくと、結果的にいろんな経験をして、やっていることが物足りなくなってくる。そのままでは、成長に追いつかないということも起きてきます。
ですから会社としては、そういうメンバーに対しては仕事内容の難度を上げたり、任せる内容を変えていったりするのが、基本にはなるかなとは思っています。ただ、実際できているところとできないところがありますね。
自分が直接メンバーと面談をすることはほとんどないのですが、チームマネジャーとメンバーのエンゲージメントを高めるためにどうするかはよく相談をしています。
城倉:御社の場合、ブロックチェーンや位置情報ゲームといった、割と技術的にチャレンジできる面白いテーマを扱っていますよね。そのあたりを成長機会ややりがいと感じているエンジニアも結構いらっしゃるんじゃないですか。
小林:そこにやりがいを感じているメンバーは確かにいます。「ユーザーからの反応が見えるのがすごく好き」っていうメンバーもいますし、使っている技術スタックに対して興味を持っているメンバーもいます。ブロックチェーンなどは、いい意味でまだ整っていない部分がある事業ですし、成長したい方にはいい環境だと思います。
編集部:「仕事内容の難度を上げる」とは、常に何かチャレンジすることを与えていくってことですか。それでまた高い課題に挑戦してまた成長して……を繰り返していくような形ですか。
小林:そうですね。ただ、与えるというよりは自分で課題を見つけてもらうようにしています。「主体性」は会社のバリューでもあるので、そこは大切にしています。
自分で設定した課題に取り組めたほうが強い当事者意識を持って取り組めますし、成長の効果も高くなります。何よりそのほうが楽しいんじゃないかなと。もちろん課題発見に行き詰まっているメンバーがいれば、マネジャーや周りがサポートはするのですが。
城倉:与えるのが先じゃなくて、何がしたいかを自分で考えてもらわないといけないですよね。小林さんとしては、チームのマネジャーの成長をそうやって促しているんですね。
小林:他にもエンジニアがスキルアップできるような仕組みをどうするかは考えています。たとえば弊社で特徴的なのは社内勉強会制度です。1日1時間、業務として勉強会ができるようになっています。
そういう時間を使ってインプット・アウトプットを続けてきたメンバーと、ただ仕事をこなしてきたメンバーだと、かなり成長速度が変わってきますね。
城倉:成長の早いメンバーがいるっていうこと自体は、企業にしてみるとうれしいことなんですけどね。なかなかそういう状況を作っていくのが難しいと感じている企業がたくさんいると思いますから。
小林:それでいうと、採用のときから主体性のある方を積極的に評価して採用しているというのもあると思います。技術が好きなメンバー、何かやりたいことを持っているというメンバーが多いですね。いい意味でオタク気質です。そういうメンバーがより伸びる環境を作るために自分たちでブラッシュアップしてきたという感じです。
編集部:その他にも、モバイルファクトリーでは「モバワーク」という働き方3.0を導入されていますね。
小林:普段の成長支援が最も大事ですが、それとともに働きやすい環境も重要だと考えています。フルリモートワークをはじめとした柔軟な働き方ができるほか、キャリア支援制度なども整えています。エンジニアが幸せに開発できるような環境を作りたいですね。自分としてもそういうマネジメントをしていきたいと考えています。
ただ、制度としてはいろいろ用意をしていますが、それを使うのはメンバー自身です。自分でこれを活用して、周りにもどんどん良い影響を与えたいとか、自分で勉強したものをアウトプットしたいと思ってもらうのがポイントだと思っています。与えられるよりも、自ら主体的に行動するほどメリットがありますからね。
さらに言うと、あくまで自分たちがやらなきゃいけないことは、事業目標や経営目標を達成することです。そのへんがまだちゃんとかみ合っていないなと感じるところはあるので、それは私の課題ですね。勉強会をやることによって、どう事業にプラスになったか、どう目標が達成しやすくなったか。その循環がもう少し見える状況にしたいです。
城倉:自己成長のお話が出てきましたけど、よくスクラム開発をやってると、「チームで成長しよう」みたいなお題目もあるじゃないですか。そのあたりでは何か取り組まれていることはありますか。
小林:チームとして強くするという観点でいくと、まだまだ道半ばだと思います。
やるべきことは自分の頭の中にはすでにあって、各チームのパフォーマンスを比較管理しやすい状況に持っていくことが必要だなと考えています。端的に言えばKPIを設定してみて、それの上がり下がりに対して改善を回していくっていうのがもっとできるといいのかなと。現状、KPIの設定がまだ甘いというか、やっていない部署もあるような状況ですから。
たとえばd/d/d (deploys / a day / a developer)といったデプロイの頻度などです。ベロシティっていうとちょっと誤解があるかもしれないですけど。
リーダーとして意識しているのは「楽観的であること」
城倉:組織の責任者として、業務の中での悩みや課題などはありますか。
小林:実はプロダクト作りでの問題って、技術的な理由よりも人に関する理由のほうが大きいんですよね。
自分は現場にいるわけではないので、どうしてもプロダクトやメンバーとの距離感が課題になってくるなと思っていて。「なんかずれたこと言っているな」と思われるのも嫌ですから、たまに顔を出すようにしていますね。チームによっては朝会も入って、プランニングであったりとかも入っていって、といったことはしています。
城倉:最後は組織だったり人だったりっていうところが大事になってきますよね。特にスクラム開発だと、オーナーシップを持って開発していかなければいけないので、どうしても人・組織が機能する環境づくりは必須なのかなと思います。
では、小林さんがエンジニア組織の責任者として一番大切だと考えていることは何ですか。
小林:基本は楽観的であるといいなと思っています。
もちろん悲観的な考えも使うんです。開発ではその人間の能力を過信しないで、それこそ仕組みに頼るとか、「事故は起きるものだ」と思っているとか、そういうところは悲観的に考えることもあります。でも人と接していく部分は楽観的であったほうがいいと思うんですよね。
城倉:仕組みは悲観ドリブンで、実施は楽観的にってことですか。
小林:そうかもしれないですね。新型コロナウイルスもそうですけど、経験したことがないような問題とかに向き合わなきゃいけない場面もあるじゃないですか。でもそこでバタバタするんじゃなくて、「急に来たね、逆風」くらいの気持ちで受け止められないといけないなと。
特に組織の責任者になるのであれば、ドヨーンとするよりは「どうすればできるだろう?」「逆境だけど、やってみるか」「自分たちならできるだろう」といったように思えるほうがいいんじゃないかなと思います。
城倉:小林さんって安心感があるので、部下の方もそういう感じで引っ張られるのだろうなって、話していてすごく感じましたね。ドンと構えて何か起こっても「大丈夫だよ」ってしてくれるリーダーがいると、やっぱり下は安心できると思いますよ。
小林:いやいや、実際にはバタバタしちゃいますけどね(笑)。
編集部:本日はありがとうございました。最後にこの記事を読んだエンジニアの方に向けて、小林さんからメッセージをいただいてもよろしいでしょうか。
小林:さきほどもお話しした通り、モバイルファクトリーはブロックチェーンなど技術的にチャレンジングな取り組みをしていますし、働きやすい環境づくりにも力を入れています。
エンジニアの方にとってやりがいのある会社だと思いますので、ぜひ興味のある方は求人票も見ていただけたらと思います。
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