2026年7月30日、paiza主催のイベント「kenkoooo×saldra対談!技術で突破するエンジニアのキャリア戦略」が開催されました。
登壇したのは、株式会社estieでスタッフエンジニアを務めるkenkooooさんと、「生成AIなんでも展示会」を主催するエンジニアのsaldraさんです。
異なる道を歩んできた2人ですが、蓋を開けてみると考えはよく似ていました。それは、「エンジニアの仕事はなくなるかもしれない」という見立てです。
しかし、そこから導き出された結論は、悲観論とは別のものでした。当日の模様をレポートします。

kenkoooo プロフィール(写真右)
株式会社estieスタッフエンジニア。東京大学卒業後、国立情報学研究所、リクルート、SoundHound、Indeedにてソフトウェア開発に従事。現在は株式会社estieにて、スタッフエンジニアとして開発組織全体の技術ビジョンと戦略的技術選定をリードし、開発生産性の向上や技術文化の醸成を通じて事業成長を支えるエンジニアリング基盤を推進している。翔泳社出版『バックエンドエンジニアを目指す人のためのRust』、マイナビ出版『アルゴリズム実技検定 公式テキスト[エントリー~中級編]』『アルゴリズム実技検定 公式テキスト[上級]~[エキスパート]編』共著者。saldra プロフィール (写真左)
学生時代にバーチャルYouTuberの運営に携わり、現在はIT企業に所属するエンジニア。個人では、AIキャラクターを配信する「AITuber」の開発に従事するほか、「生成AIなんでも展示会」の主催、「ローカルLLMに向き合う会」などのLLMコミュニティの運営にも携わっている。
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目次
kenkooooさん「おすすめのキャリアは、ニート」
kenkooooさん(以下、kenkoooo):AI時代のキャリア戦略は僕もあまりわかっていないですが、やはりおすすめはニートだと思います。ニート、非常におすすめです。
僕自身ニートを経験していまして、どうしてニートになったかというと、みんな実は大学3年生くらいで就活をしているらしいじゃないですか。でも、僕はしていなかったんですよ。しないと卒業後に、当然無職になるわけです。
ニートをやってみるとわかるんですけど、本当に暇なんですよ。暇すぎて競技プログラミングを始めました。いまでこそ就職に役立つと言われますが、当時は本当にマイナーな暇つぶしでした。知る人ぞ知るネトゲみたいな感じでしたね。
待遇を突き詰めた先にあった「虚無」
kenkoooo:ニート生活をしていたときに、転機がありました。国立情報学研究所の助教からTwitter(現:X)のDMで声をかけていただいたんです。それで、国立情報学研究所の技術職員になりました。
やることは競技プログラミングの延長で、アルゴリズムを実装しまくるという感じでした。その実装の実験結果を使って、助教や共著者の方が論文を書いてくださり、有名な学会にアクセプトされました。アルゴリズムを実装しただけの自分が、国際学会で発表する機会をいただくこともありましたね。
ニートをしていて社会を知らなすぎて、「プログラミングでお金ってもらえるんですか!?」みたいな感じでした(笑)。
国立情報学研究所での任期が終わってからは、リクルート(当時、リクルートコミュニケーションズ)に転職しました。そこでやっていたのは、広告配信のオークションに参加するプログラムを作る仕事でしたね。

普通に働いていたら、27歳のときに急にアメリカのAIスピーカー企業からスカウトが来ました。外資って恐ろしいところで、ちょっとしたコーディングのテストを受けるだけで「はい、じゃあ年収ウン千万」みたいな話が急に来るんですよ。
「シリコンバレーは技術のメジャーリーグや!」というイメージとか、なんとなくアメリカへの憧れがあったので転職しました。
外資の待遇はめちゃくちゃ良いなと思って、さらに待遇を良くしたくてIndeedに転職しました。そんな感じでどんどん待遇が良くなってきましたね。
開発環境などにいろいろと不満があって転職していったつもりだったんですけど、労働の不満が解消されていくとマジで不満がなくなって、ただ純粋に「労働が嫌」という状態になってしまったんです。
仕事は楽であるほどいいし、給料は高いほどいいと思っていたんですけど、突き詰めた結果として「これは本当に自分のやりたいことなんだろうか」という「虚無」をやりながら大金をもらう感じになってしまいました。
冷静に考えると、昔は全然働きたくなかったし、そもそもニートで働いていなかったですからね。一番やりたかったことは1日中ゲームをすることだと思い出しまして、「これはニートだったときの自分に顔向けできないな」と思って一旦労働は終了しました。

「自分の理想の会社を作る」ためにestieへ
kenkoooo:仕事を辞めて一番やりたいことは何かを考えたときに、「自分の理想の会社を作ってみたい」と思いました。社会課題を抱えているとかではなく、単純にゲームとしてやりたいという感じですね。小学生のころに熱中したゲーム『シムシティ2000』のように、街を作る感じで会社を作りたいな、と。
外資ってめちゃくちゃ待遇が良いので、待遇を良くしたいと言っている人を見るたびに「だったら外資に行けばいいのに」と思っていました。でも、本当は「俺の会社に来い」って言えるようになるのが一番かっこいいので、そう言える会社を作りたいと考えていたんです。
ただ、いざ会社を作ろうと思ったときに、別に解決したい課題もないので、何をするのか決まっていませんでした。社会課題を見つけて、世の中を良くしようとしている起業家はマジで偉いなと思いますよ。
なので、小さくてフットワークは軽いけど、ビジネスの方向性は決まっているくらいのサイズ感の会社があるといいなと考えたんです。自分の理想の会社を作るためのスターターキットみたいな感じですね。いろいろな会社の話を聞いたなかで、estieが一番ちょうど良さそうでした。
estieは人数に対してやることが無限にあって全部を同時にはできないので、それぞれやりたいことを頑張りましょうという感じの会社です。理想の会社を自分の手で作るには、やりたい人がやりたいことをできるのが、自分のプレイ環境として理想に近いと思っています。
自分の魂が燃えることをやる
kenkoooo:キャリア戦略の話へ戻るんですけど、AIによってソフトウェアエンジニアという仕事はどうなるのかというと、「まあ、なくなるんじゃないですかね」という気がちょっとしています。
じゃあどうすればいいかというと、やはりニートがおすすめです。あとは、「他人の評価基準に乗ってみること」もありだと思います。「惑わされるな」という言説がありますけど、惑わされても別にいいんじゃないですかね。僕もシリコンバレーに惑わされて外資で働きましたが、結構いい経験だったと思っています。

個人的にいまのおすすめとしては、「自分の魂が燃えることをやる」です。いま僕はこれをやっていて、早く月曜日になってくれと思いながら土日を過ごしています。いまの会社はやりたいことが無限にあるので、休みたくないという気持ちです。
まとめとしては「魂が燃えるか」というのが、いまの個人的な答えです。自分の職業やキャリアを決めるときには「これって自分が本当にやりたいことなんだっけ?」と問いかけてみることがおすすめです。
saldraさん「悲観的なシナリオは、ほぼ当たった」
saldraさん(以下、saldra):kenkooooさんと主張がかなり似ちゃったんで、どうしよう。僕はニート経験がないので、ニートになりましょうという話ではないんですが……。
自己紹介しますと、エンジニアをしているsaldraです。文系の大学を2021年に卒業して、そのままエンジニアになりました。「社会にいいことをしているから」という、大学生特有の漠然とした思いで、保育士さんの業務を効率化するSaaSの会社に新卒入社しました。
そうしたらChatGPTが世に出てきました。エンジニアをしつつChatGPTで遊んでいたら、AIに思考を文章生成させて考えていることを合成音声で流せばキャラクターが喋れると思って作ってみました。偶然にも同じ領域のベンチャーがあったのでそこに転職して、いまはまた転職をして別の会社でエンジニアをしています。
プライベートでは「生成AIなんでも展示会」というものを主催しています。前回は5月に開催して、約2500人が来てくれました。
エンジニアのキャリアについては、前提として「かなり厳しいだろう」と自分も思っています。
ChatGPTがリリースされた直後に同僚のエンジニアと話したんですけど、言語が生成できるならコードも生成できるから、まずテストコードの生成が来て、次に小さい関数の実装が来る。それができるなら扱える範囲はどんどん拡大して、最終的には「これやっといて」と打てば終わるよねという話をしていました。
一旦、悲観的なシナリオを前提に覚悟決めておいたほうがいいね、なお解決策なし、という絶望の結論で終わったんです。それでどうなったかというと、ほぼ当たりました。

エンジニアが生き残る術を考えたけど
saldra:それで、生き残る術を考えたんです。1つはいろいろなドメインを結びつけたりとか、特定のドメインに詳しくなって実装まで持っていくこと。もう1つは、セキュリティやアーキテクチャといった技術のコアをやり続けること。でも、どちらもなくなると思っています。
なぜかというと、ドメインを結びつけて実装まで持っていくのは、ドメインに詳しい人がプロンプトを打てばいいですよね。セキュリティやアーキテクチャのコアをやることに関しては競争激化がとんでもないので天才しか生き残れないし、いままでずっとやってきた人しか多分勝てません。
僕は弱者エンジニアなので、市場がシュリンクしていくなかで生き残るのは現実的ではないと思っています。
あまりにも悲観的な話をしすぎだと思われるかもしれないんですけど、いまのエンジニアの働き方が今後50年続くほうに全力で賭けると、外れたときに生き残れません。でも、なくなる可能性に意識を割いておけば、続いてもなんとかなるし、続かなかったとしても考えているからギリギリなんとかなる。そう思いながら、何かしらやったほうがいいという感じです。
LLMが下げた「1個作ってみる」コスト
saldra:明るい話をするとですね、エンジニアを脅かしているLLMが「1個作ってみる」コストをめちゃめちゃ下げたと思います。
Claude Fable 5がリリースされたじゃないですか。その日、午前3時に起きまして、午前5時に公開された瞬間に遊び始めました。そこから1週間くらい、いろいろなものを作りまくったんですよ。
まずは、曲を動的生成するエンジンみたいなものを作りました。ファミコンや昔のパチスロで使われていたFM音源を再現して、小節ごとのコード進行を生成して、それに当てはめてメロディーを作って再生できるというツールです。ほかにもスロットゲームや生成AIなんでも展示会のウェブサイトなどを作りました。
作り続けるうちに、自分は何が好きで、何があまり好きじゃないのかがわかってきます。昔なら作るまでに相当な時間と工数を使わないといけなかったんですけど、いまなら2〜3時間しかかかりません。
とりあえず作ってみたいものを片っ端から作って、おもしろかったものとか、人生を賭けたいと思ったものにコストの比率を高めていく。あと5年くらいこれをやっていたらおもしろそうだなと思ったら、さらに比率を高めていけばいいのかなと思っています。
僕の場合、残ったのはコミュニティ運営とAI×エンタメの領域だったので、これらに時間を使っていますね。

「ポテンシャルポイント」と足切りライン
saldra:キャリアの話をしていきます。学生の方は、いまからエンジニアになるのはキャリア的にはおすすめしづらいです。でも工夫すれば、エンジニアとして会社に入れるとは思います。
就職活動には、新卒採用とキャリア採用のルートがありますよね。学生の方たちは、基本的には即戦力になれないという前提を持って動いたほうがいいと思います。会社も新卒を即戦力としては見ていないので、一定のコストをかけて教育しようと考えています。その「教育しよう」と相手に思わせられるかが重要です。
そのためには「ポテンシャルポイント」を高めていくのが良いと思っています。ポテンシャルポイントというのは、学歴やこれまでの活動、面接における一貫性などです。
合格ラインは会社によって違いますが、共通して足切りラインというものがあります。
「この人を採用したらリスクになる可能性が高い」と思われたら終わりだと考えたほうがいいです。極端な例えですが、面接で暴言を吐くとか、相手の質問に食い気味に答えて相手の発言を遮るとか。あとは、インターネットの内輪ではおもしろいとされているけれど、世間一般ではそうではないとされているものや、差別的なコンテンツが自分のSNSアカウントに堂々と書かれているとかは止めたほうがいいと思います。そういうことを意識すれば、基本的に新卒で会社に入ること自体は不可能ではないです。
すでに働いている人向けの話だと、将来どうなるかは正直誰にもわかりません。なので、どんな未来が来ても生き残れる位置を保ちつつ、直近5年でやりたいことを続ければ、結果的にそれがキャリアになる可能性があると思います。
やりたいことが見つからない人は、子どものころに諦めたことやコンプレックスから逆算すると、意外とやりたいことが見つかると思います。
