ゲームエンジニアとして仕事をする中でうつ病にかかり、完治まで10年近くかかったという田中正人(まさと・仮名)さん。ゲームエンジニアの仕事は残念ながら、メンタルに負荷がかかりやすいと感じているそう。

田中さんは、自身がうつ病で苦しんだ経験から「どのような状態になったら危険信号であるか」や「そうならないために何を心がけるべきか」が、なんとなくつかめてきたと話します。

「あくまで『今の年齢(40代後半)』の僕が、『現在の仕事(ゲームエンジニア)』で『過去メンタルを病んで休職した経験』を経て、気をつけていることです」。という田中さんに、「ゲームエンジニアがメンタルを病まずに仕事を続けるための7つのコツ」について伺いました。

田中正人さん(仮名)プロフィール
1970年代生まれ・40代後半。男性。九州地方在住。
大学卒業後、大手ゲームメーカーA社で約8年間、エンジニアとして「コンシューマーゲーム(家庭用ゲーム)」の開発に携わる
大手ゲームメーカーB社に転職。約6年間コンシューマーゲーム担当後、10年以上ソーシャルゲーム(主にモバイルのオンラインゲーム)を担当

Rule1.仕事は選ぶ


今の僕は、得意なことは引き受けますが、苦手なことは「期待に応えられないので」といってお断りするようにしています。何でも引き受けて、すべてこなせる人は重宝がられますが、誰にでもできることではありません。

ただ若いうちは仕事を選ばず引き受けたほうがよいと思います。仕事を始めたばかりのころは、何が向いているかわからないので「自分の得意や苦手」を知る必要があります。「何事も勉強」と思って経験しておいたほうがいいです。

どこでギアを変えるかは、正直難しいところです。年齢で区切るのは少し違うと感じます。「若手」と呼ばれなくなり、いわゆる「ベテラン」になって、周囲にある程度以上の成果を期待されるようになったら、が目安でしょうか。苦手なことを無理にしようとしないことは、メンタルを守るために大事なことだと考えています。

Rule2.はじめに「何をしたら終わりか」を細かくイメージしておく

何か作業をするときには、最初に工程を把握します。「ゲームをつくる」「結婚式を挙げる」「料理をする」などに必要な工程を洗い出して「これとこれとこれをやったら終わり」をイメージ。時間配分の目安になるため、不安になることなく仕事ができます。

問題点は、決められたことをこなすには便利ですが、やや地味になりがちなことです。もしかしたらクリエイティブな発想が求められる仕事には向かないやり方かもしれません。とはいえ「何かを終えるために最低限必要な時間」がわかっていれば、残りの時間は、「さらにおもしろく・よくするために」使って大丈夫、という目安にもなります

Rule3.休みの日は「そのとき本当にしたいこと」だけをする


休みの日には「したくないことは一切やらない」と決めると気が楽です。たとえゲームが大好きでも、遊びたくないときもありますよね。新作ゲームを買ったとしても、遊びたいと思わなければ、無理には遊びません。遊びたくないのに無理に遊ぶと「遊び」すら義務になり、いずれつらくなります。自分の心を守るために重要です。

同様に、しんどいときは無理に家事もやらなくていいと思っています。無理すると心が休まりません。「義務感で動くこと」は、「心の負荷」になります。どうしてもやらないといけないことなら、忙しい合間を縫ってでも最低限のことはできると思います。それでもできず生活に支障をきたすなら、かなり危険な状態です。誰かに助けを求めましょう。

Rule4.初対面は大切に!全力で好感度を上げておく

人間関係がどう転ぶかの多くは、初対面の印象にかかっていると感じます。なので、少なくとも最初だけはていねいに接するように心がけています。

初対面で遅刻してしまうと印象は最悪で、そのあとよほどよいことをしても「でもあいつ人を待たせるんだよな」と思われがちです。相手にもたれた悪い印象を挽回するには3倍くらい努力が必要。初めての仕事の場合も、遅れないよう余裕をもって取り組むようにしています。

Rule5.やる気が出ないときは、休みながら少しずつでいいから進める


やる気が出ないのは、うつ病の第一歩かもしれません。

絶対にしなくてはいけないのに、どうしてもやる気が出ないとき、そのままでいたら時間だけが過ぎてしまいますよね。そのようなとき僕は、ほんのちょっとずつでいいから作業を進めるようにしています。

オススメは「やりかけにしたまま放置して休む」こと。途中のままになっていると、続けたくなるのが人の性(さが)なのではないかと思っています。たとえば、わざと間違えた文字を入れて今日の作業を終えると、次の日はそれを消して直すところから入れるので、流れにのって仕事を始められます。

Rule6.つらいときは、信頼できる人に愚痴る

うつ病になりやすい人は、一人で抱え込む人が多いものです。僕自身もそうでした。一人で抱え込まず、つらいときは吐き出すことが大切です。しかし、誰彼かまわず話してしまうと、のちにトラブルになって、余計に心に負荷を与えてしまいます。信頼できる上司や友人、自分と同じような境遇の人にしぼって話すようにしています。

悩んでいるときは「どうしてこんなにつらいのか」がわからないままでいることも多いです。人に話すときって、話を整理しますよね。それだけで、対策方法が見つかることもあります。「苦手な人」について「嫌だな」と思い続けていたのが「こう話せばわかってもらえる」と気づいて楽になれたり。僕の実体験では、一人で抱え込み過ぎると、いつかバーストして動けなくなります。

Rule7.体に症状が現れたら、すぐに休む


「つらいかどうか」のバロメーターとして「つらいなぁ」「ゆううつだなぁ」と心で思っているだけのうちは、意外とまだ余裕があります。でも、体に出たら全力で対処しないと本当にヤバいです。僕自身うつがひどかったときは、体中病気になっていました。ぶつぶつが両手の甲に出ていたり、耳鳴りがしたり、ずっと胃が痛かったり、食べたものを戻したりなど。

心に比べて、体の症状は軽視しがちです。「胃が痛いくらい大丈夫」と考えて我慢し続けてしまうと、気づいたときには相当悪化していることになりかねません。

少し話は違いますが、うつ病になると周りから見て、性格が変わったように見えることがあります。怒りっぽくなったりしますが、病気がそうさせているだけであり、本当にその人本来の性格が変わったわけではありません。

ただ、僕の場合は、うつの後にものの考え方が変わりました。以前と比べ、ストイックではなくなったと思います。うつになりやすい人は、神経質でこだわりの強い人が多いと感じます。僕も以前は「何かをとことん極めたい」気持ちが強いほうでした。

今は「やれる範囲で楽しいことだけできればいい」と思うようになりました。「今、楽しいのか」をちょくちょく自分に問いかけて、楽しくなければやめればいいじゃない、と。

たとえば、本を買っても無理にすべて読もうとせず、目次を見ておもしろそうなところだけ拾い読みするようになりました。以前はスミからスミまで把握しないと気が済みませんでした。でも今は「楽しくなければ無理しなくていい」と考えています。

(文/取材:陽菜ひよ子

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