完全自動運転のEVの製造に挑戦し、「打倒テスラ」を掲げるTuring。2023年1月には、自社で開発した自動運転システムをLexus RXに搭載した「THE 1st TURING CAR」を発売しました。
このプロジェクトのリーダーを務めたのが、Webエンジニアの渡邉礁太郎氏です。渡邉さんは、サイバーエージェントでWebサービス・EC・広告のエンジニアとして携わった後、リクルートでのフロントエンドの開発を経て、2022年の8月にTuringへ入社しました。
渡邉さんは、なぜITエンジニアから未経験で車づくりに挑戦したのでしょうか。そのキャリアについて、話を伺いました。
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【渡邉礁太郎さん プロフィール】
Turing株式会社UXエンジニアリング チーフエンジニア。大学院修了後、サイバーエージェントに入社。リクルートを経て、Turingへ転職。THE 1st TURING CAR」のプロジェクトリーダーを務めた。
目次
Twitterの投稿がきっかけで、Turingへ入社
ーーTuringに入社するまでのキャリアを教えてください。
大学を卒業後、サイバーエージェントに入社して、エンジニアとして7年間働きました。初めの4年間はゲーム開発に携わり、後半の3年間はSaaS・EC・広告などのサービスを経験しました。
その後、フロントエンドの技術領域の仕事をしたいと思い、リクルートに転職。コスメ関係のサービスに立ち上げから関わり、業務用のSaaSにも携わりました。
ここのUIをつくってくれるAndroidかWebかQtのエンジニアを現在募集しているのです! pic.twitter.com/9C5005krwi
— 山本一成🌤️完全自動運転EV🚗Turing (@issei_y) January 30, 2022
Turingに入社したきっかけは、Twitterでした。ある日、家でTwitterを眺めていたら「テスラで使われているようなカーナビのUIを作れる人を募集している」という山本さん(Turing CEO)のtweetが回ってきたんですよね。
山本さんの名前は知っていたので「興味あります」とDMを送ったら、すぐに返信が来て。それから、副業で少しずつTuringに関わらせていただくようになり、半年ほど経った2022年の8月に正式な社員になりました。
ーーTwitterがきっかけで、Turingにコンタクトを取られたんですね。
本当にカジュアルにコンタクトを取りました(笑)。もともと僕自身、テスラの車に乗っていたんですよ。普段からテスラのカーナビを使っていて、ソフトウェア化が進んでいると実感していました。「これだったらWeb系の技術が活かせそうだな」と普段から考えていたこともあり、カジュアルにコンタクトを取ることができました。
ーーTuringでは、どのような業務を行ってきたのでしょうか
IVI(情報と娯楽を提供するディスプレイシステム)の開発ですね。既存の車を調査して、どういったソフトウェアが使われているのか理解することから始めたのですが、色々と調べた結果、もっとUIや機能面で改善できる部分があるように感じました。ハードウェアとの相性もあるので、一概には言えないかもしれませんが、新しい機能を作っていければと思います。
「Webエンジニアのキャリアは、車づくりでも活かせる」プロジェクトを完遂して確信
ーー「THE 1st TURING CAR」のプロジェクトリーダーとなったのは、いつからですか。
プロジェクトリーダーは、Turingに入社した2022年の8月から務めました。もともと2月から車をつくるロードマップはあって、プロジェクトにも関わっていたので、スムーズに業務を開始できたと思います。プロジェクトチームは10人程度で構成されていて、スケジュールは順調に進んでいきました。また「IVIとWebシステムが似ている」と入社前に感じていたことはほぼ予想通りだったと思います。
ただ、Web系の開発と異なると思ったことが1つあります。それは、自動車というハードウェアとの接続です。Web系の開発は、PCのみで実施できますが、自動車のソフトウェアは、車両というハードウェアも重要です。PCで作った計算機を車にデプロイしようとしたら、「そもそもどうやって載せるのか?」「車に載せていいんだっけ?」という部分から話を始めないといけません。ここは大変な部分でした。
ーー製品として完成させる必要があるので、システムを車に収めるのも大変そうですね。
そうですね。製品として販売するため、試作車のように配線やコンピュータを剥き出しにはできません。しっかりダッシュボードや車の内部に収めることも大変でした。
ーー「THE 1st TURING CAR」はLexus RXがベースになっています。どのような部分を既存車から変えているのでしょうか。
機械学習を推論するための計算機、車の制御をするための計算機、CANユニットなどです。「THE 1st TURING CAR」では、Lexus RXの運転システムにTuringのシステムが介入する形でレベル2の自動運転を行っています。
ただ、Lexus RXのシステムは独立しているので、Turingのシステムが故障しても、自動車の機能は保たれます。
ーー今回、初めて自動車系の開発に携わって、エンジニアとしての経験が役立った部分はりますか
実際に開発を進めてわかったのですが、これまでソフトウェア開発で経験してきたことは、ほぼ活かせると感じました。開発フローもそうですし、工程が滞りなく進むようにレビューすることも、これまでの経験と同じように行いました。
ソフトウェアの開発や進化はWeb系の会社が早いので、製造業や自動車産業に貢献できる部分も多いと思いますね。
ーー1台の車づくりを通して、感じた手応えを教えてください。
1台でも公道を走る車を作れて、達成感は大きかったです。特に製造した後、販売してユーザーと繋がれたことは大事な経験だったと実感しています。
「今の仕事は、ゲーム開発に似ている」
ーー次のマイルストーンは、100台の生産になると思います。現在は、どのような領域を担当しているのでしょうか。
今後は、改造車ではなく新しい車両を開発し、製造していきます。そのため、2030年の完全自動運転の実現に繋げるためのUXをつくるチームに所属しています。
将来的に完全自動運転になるとハンドルが不要になり、車での居住体験が重要になると言われています。ただ、本当にそうなるのかはわかりません。
そのため、ベンチマークにしているテスラでの今の体験をソフトウェア化していくのも大事なのではないかなと思うんです。しっかり今の体験を元に、新しい体験を起こせるようなシステムを1から作りたいです。
実はこの抽象的なことを具体化していくのは、ゲームの開発と似ています。ゲーム開発も何もない状態から世界を作っていくんですよね。ゼロから新しい体験を作っていく今の仕事と通じる部分があります。
ーーありがとうございます。最後に、今後の目標を教えてください。
2023年の10月に開催されるJAPAN MOBILITY SHOW 2023(旧東京モーターショー)に、Turingは出展する予定です。まだ出展する製品は準備していませんが、完全自動運転を目指すような体験か、自動車のUXを再構築した製品を出したいと考えています。まずは、そこに向かって頑張っていきたいですね。
(取材/文/撮影:中 たんぺい)