2023年6月14日から15日にかけて開催された「Developer eXperience Day 2023」(主催:日本CTO協会)。本カンファレンスでは、「Developer eXperience(開発者体験)」をテーマにさまざまな講演がおこなわれました。

本記事では、「開発者体験は入社前から始まっている!?東急、ゆめみ、Trackの3社で考える『採用時の候補者体験』」というテーマで開催されたセッションのレポートをお届けします。

登壇者は、コーディングテストツール「Track Test」をリリースしたギブリーの山根さん、Webサービスなどの内製化支援事業をおこなう、ゆめみで代表を務める片岡さん、東急でデジタル内製化組織「URBAN HACKS」を立ち上げた宮澤さんの3名です。

登壇者

山根 淳平さん
株式会社ギブリー 執行役員 Track Test 事業責任者
2013年よりギブリーに入社、2016年同社執行役員に就任。「企業の選考における無意識なバイアス(国籍、性別、学歴など)を無くし、エンジニアの技術力が正しく評価される環境をつくりたい」という想いから、コーディングテストツール「Track Test」をリリース 。エンジニア採用・育成支援領域にて10年以上関わっている。

片岡 俊行さん
株式会社ゆめみ 代表取締役1976年生まれ。
京都大学大学院情報学研究科在学中の2000年1月、株式会社ゆめみ設立・代表取締役就任。在学中に100万人規模のコミュニティサービスを立ち上げ、その後も1000万人規模のモバイルコミュニティ・モバイルECサービスを成功させる。また、大手企業向けのデジタルマーケティングの立ち上げ支援を行い、共創型で関わったインターネットサービスの規模は5000万人規模を誇り、スマートデバイスを活用したデジタル変革(DX)支援をおこなう。

宮澤 秀右さん
東急株式会社VP of Engineering
2021年東急入社、デジタル内製化組織「URBAN HACKS」立ち上げでDX推進。新しい体験価値を提供し、「City as a Service」の実現を目指す。過去はソニーグループ勤務、最後はソニーモバイルでIoT UXデザイン・企画統括。日産自動車でデジタル内製化組織立ち上げ、コネクテッドカーのソフトウェア・UX開発統括も経験。

採用候補者に求める人物像


山根:トークセッションのファシリテーターを担当させていただく山根です。株式会社ギブリーでコーディングテストサービス「Track Test」の事業責任者を務めています。

今回は、「開発者体験は、入社前から始まっている」というテーマで、株式会社ゆめみで岡代表取締役をされている片岡さん、東急株式会社でVPoEを担う宮澤さんと3人でお話を進めていきたいと思います。

宮澤:東急株式会社の宮澤です。デジタル内製化組織の「URBAN HACKS」を立ち上げて、自社のDXを推進しています。

片岡:2000年に株式会社ゆめみを創業した片岡です。共創型のWebサービスづくりの支援をおこなっています。よろしくお願いします。

山根:エンジニアからの開発者体験の評価が高い東急さんとゆめみさんの2社に参加いただきました。この2社がエンジニアの採用プロセスの中で、どのような体験を提供しているのか、深くお話を聞いていきたいと思います。

まず、採用候補者のエンジニア像と選考プロセスについて、それぞれお話いただけませんでしょうか。

宮澤:採用したい人物像について、エンジニアだけではなくデザイナーなどの他の職種も含めて、下記5点のマインドを持った方を採用したいと考えています。

  • 自ら考える
  • 自ら手を動かす
  • ユーザーと向き合う
  • 想像力を働かせる
  • 勇敢に立ち向かう

東急グループでは、「交通」「不動産」「生活サービス」「ホテルリゾート」とさまざまな領域の事業を営んでいます。東急グループの連結子会社だけでも約130社あり、すべての知識を学びきることは難しいです。

そのため、弊社のエンジニアの方には、わずかな情報からを想像してプロジェクトをスタートさせていくこと、それぞれの事業部の方々と連携しながら価値のあるシステムを開発していくこと、この2点が求められます。つまり、自考自走しながらプロジェクトを進める力が重要なのです。

採用プロセスは、書類選考→面接(1〜2回と適性試験)→内定→条件面談のステップで進んでいきます。ここで心がけていることは、スピードです。また、応募される方の事情に合わせ、柔軟に採用プロセスをつくるようにしています。

片岡:わたしたちは、各企業のインターネットサービスの開発支援やデジタル組織の内製化を支援する会社です。多くの事業会社のサポートをするため、特定の業界やプロダクトだけではなく幅広くテックに興味がある方を求めています。

また、弊社はテック志向が強い会社のため、自身で専門性を高めるための自学力も必要です。

片岡:採用フローでは、2018年から導入したコーディングテスト・ワークサンプルテストを重視。エンジニアの採用活動だけではなく、営業職やPMなど全職種の採用活動で実施しています。

面接の目的は、一次面接と最終面接で分けています。一次面接では候補者に「この会社で働きたい」と思ってもらえるような魅力づけを実施。最終面接では、会社と候補者がマッチするか、見極めをしています。

採用活動を続ける中で、魅力づけと見極めは同時に実施できないとわかったため、このような選考フローにしました。

選考時の候補者体験

山根:採用活動を行う際に、それぞれが考えられている「候補者体験」について教えていただけませんでしょうか。

宮澤:私たちとしては、候補者の方は東急のお客様と認識しています。リアルビジネスを中心としたコングロマリットな事業展開をしている弊社だからこその選考への考え方の中で、最もユニークなポイントかもしれないですね。

また、カジュアル面談でキャリアの方向性を確認し、選考ポジションの変更を提案することもあります。

他には、希望により対面での面接を実施したり、他社選考の状況を加味して選考を進めたり、カルチャーフィット面談なども行ったりしています。

片岡:我々は、コーディングテストなどの選考プロセスの中で、開発者体験の実態が自然と伝わることを重視しています。具体的には以下の通りです。

  • 面接の場では相手を見極めるのではなく、普段通りの態度を大切にしています。
  • 入社後のギャップを無くすために、リアリスティックジョブプレビュー(現実的な仕事情報の事前開示)を行い、社内の課題をオープンにしています。
  • 採用面接の場ではフィードバックを重視していますが、候補者の成長の機会だけではなく、採用担当者のフィードバック向上の機会も兼ねています。

このように、採用候補者と採用担当者の体験のバランスを重視しています。

採用担当者の体験が悪いと、その雰囲気は採用候補者に伝わりますよね。採用担当者・採用候補者のどちらにもいい体験をしてもらえるように選考フローを設計しています。

選考時の候補者体験向上のためにやっていること

山根:続いて、選考時の候補者体験を高めるために行っていることについて、お聞きしていこうと思います。

宮澤:東急の選考フローは、基本的にはユーザーを設計の中心に採用プロセスや採用手法を考えています。

最終面接では、基本的には自社の文化やマインドを伝えるようにしていますが、技術面接時に実施したソースコードのレビューを要望されれば、フィードバックもします。候補者からの質問や要望には包み隠さず全力で応えます。

山根:片岡さんはいかがでしょうか。

片岡:我々は候補者の期待値が上がりすぎないように、期待値のコントロールをしています。たとえば、カジュアル面談時に、「面接になれない担当が参加することもあるため、会社について質問されても回答できないことがある」と事前にドキュメントで伝えています。

候補者の方の心理的なハードルも下げたいと思っているので、コーディング試験とその評価方法はQiitaやGitHubでオープンにしているんです。最近では一部の職種を除いてChatGPTの使用も許可しています。

また、弊社では、全社員の40%が採用業務に携わります。採用担当者2人で候補者の面接に臨むのですが、候補者の評価レポートを書く際に、2人の面接官が「それぞれどう感じたか」フィードバックを記入する欄を設けています。弊社の面接にはマニュアルがないため、面接自体を社員の学習体験の場にしているんですね。

最終面接では、候補者に一次面接の印象や感想を聞いた上で、その言葉を一次面接を担当した社員に伝えています。細かくフィードバックを実施することで、面接の質を上げています。

山根:ありがとうございます。東急さんは、社内の課題などを候補者に伝えていましたよね。

宮澤:入社してからギャップが生じるとお互いにとって悪い結果になるため、機密情報を除いて、質問に対してはすべて回答しています。また、事業の課題を解決するために新しい人材が必要ということも明確にお伝えしています。

候補者体験をこれから意識したい企業に向けて

山根:それでは、最後のテーマです。候補者体験をこれから意識して選考フローを設計しようとしている企業に向けてご意見をいただけたらと思います。

宮澤:採用候補者の方とは一期一会で今後も巡り合う機会があるので、「出会いを大事にする」という姿勢で採用候補者の方と向き合うことが重要だと思います。

片岡:我々の一次面接は、「勉強会の後の懇親会の雰囲気」と定義しています。画一的なマニュアルは一切なく、あまり緊張感の高くない雰囲気で選考を行っています。採用担当者と採用候補者の両名がお互いに頑張りすぎず、素の状態を出せるように選考を進めるといいのかなと思います。

 

(取材/文:中 たんぺい

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