2021年からNFTという言葉をネットで見かけるようになりました。とはいえ、まだまだ一般層にとっては「NFT? なにそれ?」という反応がほとんどだと思います。

言葉自体を知っていても、世間での印象は「よくわからないイラストを高いお金で買っている」というレベルでしょうか。

そのようななか、NFTを活用して飲食業界をはじめとする「サービス業界」に新たな選択肢を増やそうと、日々NFTのことを考えている人がいます。

それが、香川県丸亀市にある人気のうどん屋さん「純手打うどん よしや」の店主である山下義高氏です。

山下義高(やました・よしたか)プロフィール

1975年、香川県生まれ。小さいころからうどんを食べて育つ。

高校を卒業したのち東京に出るが、旅館を営む高齢の両親を思い香川に戻る。夜は実家の旅館を手伝うかたわら、朝と昼は小さいころから美味しいと感じていたうどん店で働く。10年間の修行ののち、2009年に「純手打うどん よしや」を創業。

機械を使わない手打ち、手切りにこだわり、今では『あさイチ』『ケンミンSHOW』『情熱大陸』などでも紹介される有名店に。現在は飲食業界を盛り上げるためにNFTにも力を注ぐ。

うどん屋さんがNFTに興味を持ったきっかけとは?

――山下さんがNFTを知ったのはいつですか?

山下義高氏(以下「山下」):
NFTという言葉を知ったのは2022年1月の末でした。

ちょうどコロナ禍だったことで、本業のうどん屋にお客様がまったく来ない状況で暇だったんです。暇というか、現実的にはかなり危機感をもっていましたが。

「このままではやばい。なにか勉強しないと!」と思い、調べているうちにNFTにたどりつきました。

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)についても最初に軽く説明しますね。これまでは、インターネット上で見かける写真やイラストのようなデジタル画像データは「複製できるもの」という前提だったと思います。

そこに登場したのが、偽造しにくい技術である「ブロックチェーン」です。この技術によって、デジタルデータにも「これは本物で、オンリーワンのデータだよ」と、まるで「一点物」の商品のような証明ができるようになりました。ブロックチェーンによって一点物としての価値を与えられたデジタルデータがNFTです。

――NFTに興味をもったきっかけはなんでしょうか?

山下:
NFTに興味をもったきっかけは「DAO」こと、自律分散型組織に興味をもったことです。「自律分散型組織」とは「中央集権型組織(権力をもつリーダーがいてそこを中心として成り立つ組織)」の真逆の性質をもった組織のことですね。

社長がトップにいて権力をもつ「株式会社」がまさに中央集権型組織で、それに対して「自律分散型組織」というのはリーダーがいなくて、参加者全員が平等な立場で成り立つ組織のことです。

「株式会社を超える組織形態」というフレーズに衝撃を受け、好奇心が刺激されました。好奇心というよりも「トップが意思決定をせずにどうやって組織を動かすんやろ?」という疑問でしたね(笑)。

その「DAO(=自律分散型組織)」について調べていたら、どうやらNFTが必要だということを知り、そこからNFTについて興味をもつようになりました。

知れば知るほどワクワク感が増し、「今からやっていれば、なにかの役に立つのでは?」という気持ちでNFTに足を踏み入れました。

「飲食×NFT」の視点と「ロード・トゥー・うどん」

――NFTの魅力はなんでしょうか?

山下:
「え?」と思われるかもしれませんが、僕にとってNFTの魅力は「人」です。

実は「Discord(ディスコード)」をプラットフォームにしたNFTのコミュニティがいくつかあります。「NinjaDAO(ニンジャ・ダオ)」という日本最大のNFTコミュニティが有名ですが、わたしの場合はNFTについて学べる「NFT Marketing Orchestra(NFTマーケティング・オーケストラ)」でたくさんのことを学ばせていただきました。

現状ではある意味、NFTの情報を得るためにはNFTと「Discordのコミュニティ」はセットで、そこでのコミュニケーションが重要になっています。

もともとは、NFTのことを知るのが目的でコミュニティに入りましたが、気がつけばそこでのやりとりが楽しくなりました。同じ「NFTに興味をもっている人たち」が集まる場なので、サークルのようなものをイメージするとわかりやすいでしょうか。サークルとは比較にならないほど、人数は多いのですが。

新しいもの好きで優秀なメンバーが多く、コミュニティに入っていなければ知ることがなかったであろう情報をたくさん得られました。たとえば、僕のようなうどん業界では「Googleフォーム(無料で入力フォームを作成し、アンケートがとれるサービス)」すら使っている人はほとんどいなくて、教えていただいたときには感動しました。

今話題の「ChatGPT」や画像生成AIの「Midjourney(ミッドジャーニー)」なんて、僕がNFTに興味をもっていなければ、知ることになるのはずっと未来の話だったかもしれません(笑)。

――NFTとうどん屋さんはぜんぜん違うジャンルに見えますが、結びつくのでしょうか?

山下:
はい。僕はNFTについて考えているときも、常に「飲食×NFT」の視点で、すべては「ロード・トゥー・うどん屋(うどん屋への道)」です。

おそらくNFTに興味をもっている人の多くは、NFTを売って、たくさんの人に買ってもらうことで「稼ぎたい」と思っているのではないでしょうか。僕の場合は、うどん業界、飲食業界、ひいては全サービス業界にNFTという「新しい選択肢」を増やしたいと考えています。

昨年は「さぬQN!(さぬきゅん)」という冗談のような名前のプロジェクトをネット上で企画しました。目的は、所属しているコミュニティにいる何万人というメンバーが「うどん屋に行くきっかけ」をつくることでした。

なんでもよいので「うどんの写真(インスタントうどんでもOK)」を撮り、Twitter上で「#うどんtoミント」というハッシュタグとともに投稿するというプロジェクトです。投稿してくれた方には僕のプロデュースで制作したNFTをプレゼントしました。

プレゼントしていたNFTは、こちらの僕のツイートにある画像がそうです。

「NFTを売って稼ぐ」というアプローチとは真逆の試みだったことで、面白がってくれる人がたくさんいました。プロジェクトは大成功だったと思います。

普段はNFTについての情報をやりとりしている大勢のTwitterアカウントが、いっせいにうどんの写真を投稿しはじめる。ハッシュタグ「#うどんtoミント」はTwitterのトレンドにも掲載され、きっと「なにが起こっているんだ?」と思われたことでしょうね。

NFTを介して僕のお店を知った方たちも食べに来てくれ、ちょっとした観光地のように。アナログとデジタルが融合したような感覚をもちましたね。

(※ちなみにこちらは取材用の写真を撮った日に、NFTをとおしてはじめて来店されたお客様のスマホの画像です)

今回、NFTを使ったプロジェクトで「食にそこまで興味のない層」にリーチできたのが一番の収穫だと感じています。食にもともと興味がある人にとって、うどんは「多数ある料理のうちの一つ」という感覚で食べてくれると思うのです。

それに対して、食にそこまで興味がない人に「うどんっていいな!」と思っていただけると、うどんが「外食の定番」とまではいかなくても、食べる回数が増えるのではと。

世界初? NFTでスタンプラリーを!

――今後、NFTを活用した飲食業界やサービス業界での新しい取り組みとしてどのようなことを考えていますか?

山下:
実は、すでにプロジェクトとして開始しようとしているものがあります。それはずばり、「NFTスタンプラリー」です。

スタンプラリーとして提携しているうどん屋にお客様が行き、店内のレジ近くに設置してあるQRコードを読み込むと「来店記念NFT」が無料でもらえます。仕組みとしてはGPSと連動させ、位置情報を取得することで特別なNFTがスマホでゲットできるというものですね。

わかりやすく「NFT」と言いましたが、厳密には「SBT」という種類のNFTです。「SBT」というのは「譲渡できないトークン」で、お金に変えることができません。スタンプラリーにはお金に変えられないというSBTの特徴がポイントだと思っています。

つまりNFT自体に金銭的価値をもたせるのではなく「その場所に行くこと」を価値にするという仕組みです。「外食に行く」というなにげない行動をアミューズメントにするなんて、魔法みたいじゃありませんか?

1か月に1回来るお客様が増えてほしいと思っているので、「毎月行きたくなる」という動機づけとして、「月ごとにイラストが変わるNFTにしたいな」とも考え中です。こういうことを考えるのが僕に合っているみたいで、楽しくてたまりません。

――なぜNFTでスタンプラリーにしようと思ったのでしょうか?

山下:
僕自身スタンプラリーが好きで、以前からリアルのスタンプラリーをよく企画しているからです。

ちょうど、僕の世代では「ビックリマンシール」を集めるのが流行っていましたが、そういう楽しさがあるんですよね。その場所にいかないとハンコを押してもらえないなんて、レア感がある体験じゃないですか。

友人が10店舗行っているのを知ったら「負けたくない!」という、妙な競争心が出たりして楽しいですし。

ここだけの話、NFTだと運営側としても「スタンプの押し間違い」のようなミスが起こらないというメリットもあります。

企画している「NFTスタンプラリー」には、24店舗のうどん屋が参加する予定で、すでにクリエイターの方にイラストも描いていただいています。複数のお店が協力して企画するNFTを使ったスタンプラリーは世界でも初ではないかと。

とはいえ、僕はNFTスタンプラリーだけでなく、アナログならではの魅力も同じぐらい大切にしています。そうでなければ、すべての工程を手作業にこだわったうどん屋なんてやっていませんから(笑)。

「ハンコを押してもらう」というお店の人とのやりとりも思い出になりますよね。これはアナログでなければ味わえないので、NFTスタンプラリーがうまくいっても続けるつもりです。

NFTと飲食業の未来は?

――今後、社会でNFTにどうなってほしいと思いますか?

山下:
世間の人が気づかないところにも、知らない間に浸透してほしいです。NFTの存在を知らない人があとから知って「ああ、これがNFTだったのか!」みたいになれば最高ですね。そうなるだろうとは思っていますが。

NFTを飲食業に活用する側としては、NFTを気軽に利用できるような世の中になってほしいです。極端な話ですが、お店に来たお客様の人数を集計するためだけに「ツール」としてNFTを利用するというレベルで浸透するぐらいに。

ただし、NFTを集客方法として利用するのであれば「NFT以外の魅力」があることは前提条件でしょうね。NFTは「目的」ではなく、あくまで「手段」ですから。

僕のやっている企画ではありませんが、「ふるさと納税」の返礼品としてNFTを利用している自治体もあります。返礼品としてNFTがもらえ、実際にその地に行ってNFTを提示することで、特典がもらえるという仕組みだそうです。

遠くの地からお金だけを寄付し「特産物を送ってもらって終わり」ではなく、「現地に足を運んでもらうきっかけづくり」という、通常の返礼品にはない効果があるなんてすごくないですか?

NFTをリアルの活動に結びつける可能性は無限大だと思っています。今後も「飲食×NFT」の視点で脳をフル回転させ、NFT業界も、うどんをはじめとする飲食業界も、どちらも盛り上げていきたいです。

(取材/文/撮影:ヨス

― presented by paiza

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