「鉄工所はクリエイティブなんです」
そう話すのは、株式会社乗富鉄工所の取締役副社長・乘冨賢蔵氏だ。
乗富鉄工所は、福岡県柳川市で70年以上続く老舗水門メーカー。若手の集団離職から崩壊の危機にあった会社を立て直し、職人の技術力を生かした新規事業「ノリノリプロジェクト」を推進している。
「モノづくりの楽しさを鉄工所から発信していきたい」という乘冨氏に、大切にしている仕事のルールを聞いた。
乘冨賢蔵(のりどみ けんぞう)氏
福岡県柳川市出身。九州大学大学院工学府修了後、住友重機械マリンエンジニアリング株式会社入社。オイルタンカーの生産計画・管理業務に7年従事。2017年、株式会社乗富鉄工所入社。現社長の後継者(3代目)として、工程管理の属人化、ITツールによる業務効率化、職人の働き方改革など思い切った経営改革を実施。2020年にデザイナーや大学生と職人技を生かした商品開発活動「ノリノリプロジェクト」をスタート。地域のさまざまなプレイヤーを巻き込みながら九州のモノづくりを盛り上げるべく奔走中。
目次
Rule1.好きなことを大事にする
「仕事に感情を持ち込むな」という言葉を聞くことがありますが、わたしはそうは思いません。なぜならば、好きなことや得意なことを仕事にすれば、自然とやる気が湧いてくるからです。逆にそれを我慢してしまうと、気持ちが抑制されて負の感情が生まれるのではないでしょうか。
わたしたちは、2020年から「ノリノリプロジェクト」という新規事業に取り組んでいます。これは、職人の技術力とデザイナーのユーザー視点をもとに、地域のさまざまなプレイヤーとつながって、新たなプロダクトを生み出そうというもの。このプロジェクトで開発した最初の商品も、キャンプ好きの職人がいなければ生まれていません。
好きなことや得意なことからアイデアが生まれ、新しい仕事につながる。そのような働き方が理想です。
Rule2.雑談で信頼関係を築いていく
社員には「どんどん雑談するように」と伝えています。
当社では、雑談から「趣味を応援しくれる手当があったらいいよね」という話が出て、年間2万円を趣味に使える「ノリノリ手当」が生まれました。そのほか、若手社員の「制服がダサい」という話から、制服もリニューアルしました。
プロジェクトがうまくいかない要因は、結局コミュニケーションの問題が多いんですよね。「この人とこの人が仲悪いから話が通らない」なんてことは、いくらでもあります。「あいつが言うなら一肌脱ぎますか」というような信頼関係があれば、もっとスムーズに仕事は進むと思います。
だから、雑談の時間はコミュニケーションを円滑にするための投資と考えています。
Rule3.管理するのではなく、見える化する
どれだけよい機械を導入しても、人がやる気にならなければ生産性は上がりません。過去のことを思い返してみると、どんなに緻密にデータを積み上げても、わたし一人でつくり上げた計画でうまくいった試しがないのです。自分の頭のなかでこねくり回して、現場の人に結論だけ持っていっても、どこか他人事として捉えられてしまいます。
「なぜそれをするのか?」ということを共有したうえで、現場の人と一緒にアイデアを考えると、施策の成功率が上がりました。一緒につくり上げていく過程で、どんどん自分事になっていくことが成功の要因なのかもしれません。
一人ひとりのモチベーションが上がって自律していけば、自ずと会社はよくなっていくもの。だから、社員には「好きにしていいので、その代わりにちゃんと見えるようにしておいてね」と伝えています。また、マネジャーには、その人がワクワクするような課題を本人と話し合ってつくり、それを自主的に進めるようなマネジメントを期待してます。
Rule4.常にオープンマインドでいる
「ノリノリプロジェクト」を進めるにあたって、さまざまな人との出会いがありました。そのなかで、わたしたちの技術は、人とのつながりによって新しい価値を生むことを実感しました。
たとえば、アウトドアショップの店長とキャンプ好きの職人との出会いから生まれたキャンプギア。「閑散期の夏に売れる商品をつくりたい」という、米袋メーカーからの相談を受けて開発した、キャンプで使える頑丈な紙袋。地元の家具メーカーと一緒に進めているオフィス家具ブランドの立ち上げなど、これまでの乗富鉄工所にはなかった仕事がどんどん生まれています。
自分を開いて行動したことによって、視野が広がって仕事がより楽しくなりました。だから、いままでのやり方が正しいと思わずに、いろいろな考え方があることを知り、いいところは取り入れていく。オープンマインドの姿勢が大事です。
Rule5.クリエイティブ思考を忘れない
人から言われたことをその通りにやるのではなく、自分で考えてなにかをつくり出す。それは、モノじゃなくても、仕組みや改善でもいいんです。そうすると、仕事は楽しくなります。
わたしたちの会社では、職人のことを「メタルクリエイター」と呼んでいます。
いまの日本のモノづくりにおいては、生産性がより重視され、モノづくり本来の楽しさを感じる機会やクラフトマンシップを発揮する機会が少なくなってきているように感じます。だからこそ、わたしたちは、あらためて町工場からモノづくり本来の魅力を発信していきたいです。
Rule6.できないことは、伸びしろだ
わたしが家業に戻ってすぐのとき、前職とのあまりの違いに驚きました。製造や工事の工程を管理している人がいなかったんです。職人に図面と材料を渡して「あとはおまかせ」というスタイルは、生産管理畑のわたしには信じがたいものがありました。
でも、あのとき「なんでこんなこともできないんだ」と指摘ばかりしていたら、誰もついてきてくれなかっただろうし、職人技を生かしたブランドをつくろうという発想にも至らなかったでしょう。どんなことにも、現在に至る経緯があります。先人へのリスペクトを忘れてはいけません。
だから、サッカーの本田選手ではないですが、“できないことは、伸びしろだ”と捉えて、ポジティブに考えるようにしています。
新しいことに取り組んでいるときは、できないことがたくさん出てきますよね。そんなとき、会社や他部署のできていないことに対してモノ申す社員には、「あなたにできることはなんですか?」と問いかけるようにしています。
「他人事にして批判する」というのがいちばん嫌いなので、きちんと向き合って話をします。
Rule7.成功するまでチャレンジする
失敗したときに、そこからなにかを得ようと試行錯誤する。転んでもただでは起きない。そういう姿勢でチャレンジし続ければ、いつか成功につながると信じています。
わたしの場合、時間をかけて開発した商品が売れなかったり、社員と考えが食い違ったりといったつらいことがあると、情熱大陸に出たときのネタになると思うようにしています。「あのときは大変だったんですよ」って、いつか言えればいいと思って。それでモチベーションを上げるタイプです。
失敗したことが伏線になるように、成功するまでチャレンジして、少しずつつじつまを合わせればいいじゃないですか。人生うまくいかないときがあっても、最後にうまくいけば楽しいと思うんです。
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(取材/文/撮影:コクブサトシ)