「心はプログラマ、仕事は経営者」をモットーにしている倉貫 義人(くらぬき よしひと)さん。株式会社ソニックガーデン(以下、ソニックガーデン)の創業者で、数々の著書も出版しています。

長年にわたってプログラマ兼経営者として活動してきた倉貫さんは、これまでに多くの「不確実なもの」と向き合ってきました。システム開発も、その1つです。

不確実なものをうまく取り扱っていくためにはどうしたらいいのでしょうか?

倉貫さんにうかがいました。

倉貫 義人(くらぬき よしひと)さん
大手SIerにて経験を積んだのち、社内ベンチャーを立ち上げる。2011年にMBOをおこない、株式会社ソニックガーデンを設立。月額定額&成果契約で顧問サービスを提供する「納品のない受託開発」を展開。全社員リモートワーク、オフィスの撤廃、管理のない会社経営など新しい取り組みもおこなっている。著書に『ザッソウ 結果を出すチームの習慣』『管理ゼロで成果はあがる』『「納品」をなくせばうまくいく』など。2023年6月10日に新著『人が増えても速くならない ~変化を抱擁せよ~』を出版。
ブログ https://kuranuki.sonicgarden.jp/

Rule1.「ふりかえり」やってみて結果を省みる


世の中には「やってみないとわからないから、とりあえずやってみましょう!」と勧めている人がいますよね。でも僕は、やってみることではなくて、ふりかえってそこから学ぶことが大事だと思っています。

不確実なものに取り組むときには、やってみるだけではなく、ふりかえりをする。ふりかえりをするために、やってみることが大事です。

内省や分析をして、そこから学びを抽出できれば、ふりかえる方法はなんでもいいと思います。3日間やってみて、どうだったかをふりかえって改善するなど、ふりかえる期間は短いほうがいいと思うので、なるべく小さく試すようにします。

Rule2.「そもそも」目的を確認して無駄を省く

不確実なものと向き合って仕事をする際、用意されたものをすべてやれば不確実さが消えるとは限りません。

新規事業で成功するためには、ユーザーヒアリングをしたり、プロトタイプをユーザーに使ってもらって、フィードバックを得て改善したりしますよね。これをやったからといって絶対に成功するかというと、それはわかりません。

不確実なものの場合、やることリストを全部クリアしたからといって、絶対に成功するかはわからないんです。愚直に全部やるのは、不確実なものと向き合うときには、よくない取り組み方といえます。

そもそも、これはなんのためにやっているのかを確認すると、じつはやらなくてもいいことがたくさんあるはずです。

カレーを食べたいという人に、そもそもなぜカレーが食べたいのかを聞いてみるとします。「カレーを食べたことがないので、味を知ってみたい」という答えなら、レトルトカレーやお店で買えばいいですよね。

でも「手作りのカレーが食べたい」という答えなら、つくってあげる必要があります。

このように、そもそもの目的を確認することで無駄を省けますし、不確実なものだとしても確実性は増しますよね。ですので、仕事をする前には「そもそも」を確認することが大事です。

Rule3.「小口化」把握できる範囲に小さくする


不確実なものと向き合うためには、小さくすることが重要です。難しい問題にぶつかったときに小さく分解すると、解決しやすくなることがあります。難しい問題を難しいまま解こうとするのは、頭のいい人が陥りがちです。

たとえば本を書くときに、全部書き終えるまで待っている編集者さんがいるとします。いつ書き終わるのかは、わかりません。終わらないまま1年が過ぎたら、その1年間は本当に苦しくなります。本当に書いてくれているのか、どこまで書けているのかと不安ですよね。

これを小口化して章ごとに提出すれば、8章ある本なら8分の1書き終わるごとに連絡がもらえます。そうすれば進捗状況がわかるので、精神衛生上いいですよね。

このように小口化することで解決できることは、仕事をするうえでたくさんあります

大きくするほうがスケールメリットはあるといわれるかもしれませんが、それは確実性のあるものだけの話です。不確実なものでは、小さく進めたほうがいいと思います。

Rule4.「正射必中」計画より成果を積み上げる

「正射必中」は弓道の言葉です。クラシコムの青木さんから教わりました。正射必中とは、「正しいフォームで射られた矢は、必ず的に中(あた)る」という意味です。的にあてようと考えて射つのではなくて、正しく射てば結果として的にあたるという発想です。

不確実なものと向き合うときには、自分なりの正しいやり方を積み重ねていくしかないと思います。不確実なものは、予定や計画は立てられません。

「3か月後に新規事業を絶対成功させます」といって、逆算して事業計画を作ってスケジュールを考えても、成功するかはわかりませんよね。

進捗を確認しても、新規事業やソフトウェアは不確実なので機能しません。進捗ではなくて成果の確認をすれば、いつでもふりかえって学んで方針転換できます。計画通り進めるよりも変化に対応できるんです。そのほうがうまくいく可能性は高まります。

計画から逆算して考えるのではなく、積み上げで考えたほうがいい成果を出せます。これが正射必中という言葉に表れているんです。

Rule5.「問題vsわたしたち」対立しないで対話する

チームやお客さまと一緒に不確実なものに取り組むとき、コミュニケーションを取りながら仕事を進めることになります。ただ、コミュニケーションも不確実なものです。

相談や交渉といいながら、どちらかの意見が勝ってしまうとプロジェクトとしてうまくいかなくなってしまいます。

コミュニケーションでなにが起きているのかというと、「相手VSわたし」になってしまっているんです。それぞれの意見を交わすことが議論だと思われているんですけど、これってどちらが勝つかのゲームみたいなものになってしまい、なにもいいことを生み出しません。

では、どうすればいいのかというと、問題に一緒に向き合えばいいんです。「相手VSわたし」ではなく「問題VSわたしたち」というスタンスにするだけで、いろいろなものが解決します。コミュニケーションスタイルのあり方ですね。

たとえば、新規事業をはじめたいとき。上司へ提案をしに行くと、上司はそれを判断しなければなりません。判断のためには、本当にやれるのかを確認するために、計画書をつくることになります。それをもとに「絶対に計画通りうまくいくようにやれよ」と約束させられます。「相手(上司)VSわたし(部下)」の対立になっていますよね。これでうまくいくケースはそれほどありません。

そこで僕が前職時代にやったことは、上司に相談に行くことでした。しかも、雑な状態で相談します。決めきった状態で持っていくと、上司はYESかNOでしか答えられません。「どうしたらいいかわからないので、相談させてください」という状態で持っていけば、一緒に考えてくれるはずです。

「新規事業をやるかやらないか」から、「どうすれば新規事業がうまくいくか」を一緒に考える仲間になってくれるわけです。

じつは雑に相談すると、相手は一緒に考えざるを得なくなります。もちろん、相手との関係性は必要ですが。これを僕は「ザッソウ(雑な相談)」と呼んでいます。ザッソウを実践することで、「問題VSわたしたち」の状況をつくりやすくなります。

Rule6.「構造を解決」人間を変えようとしない

人と仕事をするとき、どうしても人の問題を考えがちです。「どうすればエンジニアをもっと本気で働かせられますか」「どうすればエンジニアの仕事の質を上げられますか」と、相談をよく受けます。

でも、問題はその人(エンジニア)にあるのでしょうか。その人はその人なりに一生懸命やっているはずです。もし、一生懸命やっていないのであれば、構造に問題があると思います。たとえば報酬を全然払っていなければ、一生懸命やりませんよね。

感情や人の問題にフォーカスしがちですけど、人間は不確実なものなのでなかなか変わりません。人よりも構造を変えたほうが、不確実なものに対処していけると考えています。

僕らのやっている「納品のない受託開発」というビジネスモデルがあります。

受託開発には、納品という構造があるから要件定義が必要です。要件定義という構造があるから、事前にすべてを決めなければいけません。でも、つくっている途中に外部環境や技術も変わって、要件内容も変わってしまうかもしれないですよね。そうだとしても、要件定義をして締め切りも事前に決めているから、そのとおりにつくらなければいけません。

これは「納品」という構造の問題ですよね。だから僕らは納品をなくしたんです。構造を解決したことで、人が一生懸命やれば成果の出せる状況がつくれました。

人を変えるのではなく、構造を解決するほうが生産的です。

Rule7.「改善思考」いまあるものを小さく変える

システム開発のような不確実なものと向き合うときに、システムが複雑化してごちゃごちゃしてきたので、一気にリプレイスしたいと考えることがあるのではないでしょうか。でも複雑になってきたのは、それだけ複雑さを内包しているともいえます。

それをそのままリプレイスしても、結局は複雑なものを複雑につくり直すことになります。少しはきれいになるかもしれませんが、複雑さの解消にはなりません。

人はどうしても、リプレイスすれば解決すると思いがちです。もちろんリプレイスしたほうがいい場合もありますが、いまあるものを少しずつエンハンスしていくほうがうまくいくと思います。

負債がたまってマイナス10をいきなり0にする発想ではなく、マイナス10をマイナス9、マイナス8……としていき、負債を0にしていくイメージです。

このように不確実なものと向き合うときは、一気に大きく変えるのではなく、少しずつ小さく変えていったほうがいいと思います。「改革」ではなく「改善」が大事です

(取材/文:川崎博則

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