『EmotionTech Day 2024』イベントレポート

顧客は自社サービスやプロダクトを購入・利用する中で、どのような体験をしているのか。またその体験をいかに向上させていくか。

今、企業の事業戦略、マーケティング戦略の上で重要項目となっているのがCX(顧客体験)マネジメントだ。CXの向上は売上増につながるだけでなく、サービスやプロダクト、ブランドに愛着を持ち、積極的に他者に利用を勧めるロイヤル顧客の増加にもつながるためだ。

一方で、顧客体験価値の向上に取り組む企業はアメリカで約9割に達するのに対して、日本企業では約4割にとどまる(※1)。CXマネジメントの重要性を理解しながらも、具体的な施策に踏み出せていない企業が多いのが現状だ。

そのような中、日本でCXやEX(従業員体験)、IX(投資家体験)のマネジメントサービス群「EmotionTech」を提供するのが、株式会社エモーションテック(以下、エモーションテック)だ。

CXマネジメントの潮流、そして同社の提供するサービスとはどのようなものなのだろうか。それを知るため、同社が2024年1月26日に開催したイベント『EmotionTech Day 2024』を取材した。

独立行政法人情報処理推進機構「DX白書2023」

『EmotionTech Day 2024』

『EmotionTech Day 2024』とは

株式会社エモーションテック 代表取締役CEO 今西良光氏
株式会社エモーションテック 代表取締役CEO 今西良光

イベント冒頭はエモーションテック 代表取締役CEOの今西良光氏が登壇し、イベント開催の背景と同社事業の歩みを説明した。同社の創業は2013年3月であり、10周年を迎えている。同社の節目に、初の試みとして本イベントを開催したという。今西氏は顧客や支援者、来場者に謝辞を述べつつ、同社創業の経緯について振り返った。

今西氏は同社を創業する以前、アパレル製造小売大手で店舗マネージャーをしていた。その際に熱烈なファンからの手紙を受け取り、それを店舗で共有したところ、シフトに入ったスタッフが率先して顧客を喜ばせるよう行動し、日次売上も跳ね上がったという。顧客と店舗、従業員それぞれがポジティブなサイクルを描く体験が、同社創業の原体験になったという。

「創業当時は、CS(顧客満足度)やWeb系でいうUXの概念が散発的に聞かれるくらいで、CXはほとんど日本で認知されていませんでした。そんなときにある講演に行き、アメリカではすでにCSからCXに移行していることを聞きました。つまり、結果ではなくさまざまな顧客体験のプロセスを観測し、それらの一連の体験を改善していくことこそ重要な経営活動という考えにシフトしていたんです」

同時に知ったのが、結果指標としてのNPS®(※2)というスコアの存在だった。CXの概念とNPS®という指標との出会いこそが、現在のサービス群につながるものになったと語る。そこから生まれたのが、現在「EmotionTech CX」の原型となるプロダクトだった。

以来、同社はCXだけでなくEXやIXをマネジメントするサービスの開発など、体験価値の向上を企業価値に結びつけるための取り組みを進めてきた。現在までに600社以上のCXマネジメントを支援してきたという。一方で、今西氏は「私たちが掲げる『企業・顧客・従業員すべてがハッピーになり、そのサイクルが回っていく三方よしの社会を創る』の実現度はまだ1%」だという。

企業あるいは組織を横断するかたちで、いかに顧客に向けたアクションをとるべきか。これが現在、多くの企業が直面している壁であり、私たちも今まで以上に取り組みを深めていかなければならないと考えています」

同社での10年間を振り返りながらも、今後CXマネジメントを通したより高い価値提供への決意を述べた。最後に、今西氏は今回のイベントの趣旨を説明しつつ、次のように締めくくった。

『分析をする組織から行動して顧客体験を変えていく組織へ』。今回はこの変容を1つの重要なテーマとして取り扱いながら、分析から行動に向けた活動を当社がどのように支援できるのか、今後どういうことをやっていきたいと思っているのかを紹介します。

本イベントを通して、皆さまが明日からの活動につながるTipsを見出していただければ幸いです」

CXマネジメントのこれまでとこれから

株式会社エモーションテック Strategic Project Manager 武下大作氏
株式会社エモーションテック Strategic Project Manager 武下大作

続く講演では、「CXマネジメントのこれまでとこれから」と題し、エモーションテックの武下大作氏が登壇。武下氏は同社でNPS®の調査設計やCXマネジメントの推進体制の構築など、コンサルタントとして企業のCXマネジメントを総合的に支援する役割を担っている。そのような視点から、日本におけるCXマネジメントの現状を分析しつつ、今後の展望を説明した。

武下氏は『DX白書』などの資料を引用しながら、日本におけるCXマネジメントの現状を説明した。現在、日本企業で顧客体験を分析している割合は36%。そのうち分析指標にNPS®を用いる企業は26%であり、最も多かったのが消費者からのレビューで48%、ついで消費者の行動分析は37%であると説明した。

一方で、指標を分析した後、実際にCXの向上に取り組めている企業の割合は44%だ。具体的なアクションを起こしている企業でも、短いサイクルで顧客体験の改善に取り組めている企業の割合は少ない。

武下氏は「企業によって事業内容が異なり、サイクルが短ければよいというものではない」と踏まえつつも、CXマネジメントの現状について次のように分析する。

「現在はテクノロジーの進歩など、さまざまな要因によって市場や事業環境の変化が大きくかつ早くなっています。そのような環境の変化に合わせながら顧客体験を改善していくことに苦労している企業が多い印象です。8割の企業は顧客を理解し、分析する組織にはなっているものの、まだ顧客体験を戦略的に変えていけるような、行動する組織になれていないのが現状です」

続いて武下氏は、エモーションテックが支援する企業の現状について紹介した。同社では、2023年秋に取引先企業を総合的に評価したCXマネジメントの成熟度を考案し、導入期・検証期・浸透期・定着期の四段階に振り分けている。講演では同社の取引先企業150社を抽出した成熟度の割合が示されたが、同社取引先でも6割の企業が導入期であるという。

「当社が支援している企業の多くは、積極的にCXマネジメントの取り組みを始めています。しかし、CXに対する意識が強いのは、顧客の声が持つ価値を理解している一部の部署にとどまり、全社としてCXの重要性が浸透しきっていない場合が多いです。

今後は経営層から現場の担当者まで、全社員がCXを自分ごとと捉えていくことが求められています。一方で、すでに成熟度の高い企業もあり、そのような企業の場合は、顧客の声がしっかりと企業の意思決定に反映されていて、全社横断でよりよい顧客体験を提供するための改善やブラッシュアップに定期的に取り組んでいることが特徴です」

CXマネジメントの先進国であり、NPS®発祥の地であるアメリカの場合、約9割の企業がCXマネジメントに取り組み、顧客体験向上に向けた活動も月次単位以下のサイクルで取り組んでいることも紹介している。しかし、武下氏は同社が創業した10年前までは日本でNPSの概念もほとんど普及していなかったことに触れつつ、「CXマネジメントもNPS®のように、認知拡大とともに取り組む企業の割合は急速に増えている」と評価する。

「日本企業におけるCXマネジメントのこれからは、分析をする組織から行動して顧客体験を変えていく組織にいかに移行していくかが課題です。今後数年で浸透が進み、日本企業全体がよりよい顧客体験を創出し、戦略的に提供できる未来が来ると確信しています。

当社でも、CXマネジメント成熟度を活用した人的支援やテクノロジーによる支援を加速していきたいと考えています」

CXマネジメントを支えるテクノロジーの進化

株式会社エモーションテック 執行役員 Product Team Manager 吉田翔氏
株式会社エモーションテック 執行役員 Product Team Manager 吉田翔

「CXマネジメントを支えるテクノロジーの進化」と題した本講演では、エモーションテックのプロダクト開発に携わる吉田翔氏が登壇。CXマネジメントにおけるテクノロジー活用のあり方などを紹介した。

最初に、吉田氏は「顧客の声を聞いて改善することの重要性は誰もが認識しているのに、全社としての行動や改善活動が進まないのはなぜか」と問いを投げかけた。同社ではその要因を追求し「行動することによって組織に生じる負担を恐れている」という仮説に行き着いたと語る。

「その『負担』とは具体的になにかというと、各レイヤーに対するCX活動の説明です。たとえば顧客の声を集める際の説明、そこから見出された課題についての説明、そこから改善活動する際にも説明が必要であり、その後の効果についても説明しなければなりません。

しかし、それぞれのプロセスでていねいな説明を提供したとしても、場合によってはネガティブに捉えられてしまうこともあり、なかなか全社への取り組みへと進んでいかない。本イベントに参加する皆さんは先陣をきって顧客の声を聞き、組織に向けた情報伝達をしていると思いますので、中には実感されている方もいるのではと思います」

このような吉田氏の投げかけに対し、うなずく来場者が多かったのが印象的だった。では、このような要因に対して、テクノロジーはどのように向き合ってきたのだろうか。従来、CXマネジメントに対するテクノロジー活用の考え方は、顧客解像度を高める分析力の強化に主眼を置かれていた。

しかし、アウトプットはジャーニーマップ分析など専門的な知見で読み解くものが多く、分析結果を全社に共有する際の説明が難しく、説明しても信じてもらえない場合もあったという。吉田氏は分析力を強化することも重要と踏まえつつも「これまでのテクノロジー活用は、CX活動に参加する人を限定してしまったり、場合によってはCXマネジメントを難しいと感じさせてしまうものだった」と振り返る。

「そのため、エモーションテックではCXマネジメントのあり方や活用の仕方を見直し、同時にプロダクトを開発することも決定しました。今回の開発にあたってのコンセプトは、『顧客分析から専門性をなくす』

つまり、CXマネジメントに関わるすべての方々に、それぞれの人に合わせた情報を届けることによって、誰もが顧客を深く理解し自分ごと化してポジティブに改善行動が進められるプロダクトの開発を目指しました。そこから生まれたのが、『CX-Summary』と『TopicScan』です」

両プロダクトにはそれぞれ核となる部分があるという。CX-Summaryは「シンプルかつ簡単に顧客の思いがわかる仕組みの構築」、TopicScanは「CXマネジメントへの生成AIの導入」だ。これにより、誰もが自分ごと化しながら顧客と向き合える状態をつくり、誰もが迅速に有益な示唆を得られるようにした。

さらに、エモーションテックでは今後、すでに提供している機能のブラッシュアップも予定しているという。アンケート集計機能やデータの連携・加工まで、顧客理解のすべての工程において分析の専門性をなくし直感的にわかりやすく、誰もが顧客に向き合える仕組みを再構築していくという。

「当社は今後、顧客分析から専門性をなくすことを目指して、プロダクトを届けていきたいと考えています。それぞれのCX活動に関わる人に合わせた情報を届けることで、ポジティブに改善活動が進められる。そのような支援のあり方を追求し続けてまいります」

CX-Summaryを活用したキャリアアドバイザー(CA)部門と取り組むCXマネジメント

株式会社マイナビ 事業推進統括事業部 新卒紹介事業推進部 事業推進課 課長 酒井芳浩氏
株式会社マイナビ 事業推進統括事業部 新卒紹介事業推進部 事業推進課 課長 酒井芳浩

本講演では、エモーションテックのプロダクト「CX-Summary」を活用する企業の事例として、マイナビの酒井氏が登壇。同社でのCX活動の変遷や、導入後の変化などを紹介した。

酒井氏は新卒採用向けのエージェントサービス「マイナビ新卒紹介」を提供する部門に所属している。キャリアアドバイザーが面談した学生を企業に推薦し、内定承諾時点で企業に費用を請求するサービス形態だ。

そのため、同社では学生と企業の両側面でNPS®調査を導入しているという。本講演では、学生への定常調査、とくに初回面談後のアンケート分析や改善活動に主眼が置かれた。

「マイナビ新卒紹介では、2022年4月からエモーションテックのNPS®調査を導入し、学生に対する調査を開始しました。そして2023年1月からはCX-Summaryのβ版での試験運用をおこない、10月から本格運用を開始しました。

運用にあたり、当事業部ではCXマネジメントをどのように浸透させていくかのゴール設定を最初におこないました。マイルストーンは主に3つで、1つめは『NPS®によってキャリアアドバイザーに求められる行動指標が明文化されている状態を目指す』。2つめは『NPS®の重要性というものを現場が認識をして、自組織の状態を理解できている状態』。3つめは『ゴールとなるNPS®課題を現場が認識をし、改善に向けて自走ができる状態』です」

最も難しかった点について、酒井氏は2つめにあたるNPS®の重要性を現場に認識させていくことだったと振り返る。課題になったのがNPS®の理解難易度の高さだった。ジャーニーマップを示しても専門性が高く理解が追いつかない場合もあり、NPS®スコアと収益認識の関連性が見いだせず消極的になる傾向があったという。

「このような課題からの最初の改善策として、私たち事務局側が現場向けのレポートを作成しました。各月のスコアや毎月の推移、改善行動などのサマリーを組織ごとに作成し、現場に共有したところ、閲覧率が非常に高くなりました。

このように、粒度を落として自分の組織に対する課題が明確になるようにすれば、現場が自分ごととして見てくれて活用につながると実感しました。一方で、当事業部は多くの組織群によって構成されているので、毎月このような粒度でレポートを出していくのは現実的でなく、そこが新たな課題として浮かび上がりました」

そのような中でエモーションテックからの提案により試験導入したのがCX-Summaryだった。同プロダクトは、各レイヤーごとに必要な項目を入力するだけで同じフォーマットのレポートが自動で作成できるため、大幅な工数削減を実現できたという。

「レポート自体が非常にわかりやすい内容になっているのもさることながら、エモーションテックの担当者には現場向けの簡単なマニュアルも作成いただいたため、専門性という面での課題も解消されました。

導入の結果、レイヤーごとのCXマネジメントに対する理解度のグラデーションが解消されると同時に、事業部全体が自分ごと化として取り組むようになりました。当社ではコミュニケーションにチャットツールを用いていて、導入後にはNPS®に関する投稿数は220%増加しています。現場浸透という面でも大きな効果を実感しています」

CX-Summaryにより、事業部全体でのCXマネジメントの浸透への効果を語る酒井氏だが、次の課題としてはマイルストーンの3つめにあたる「改善に向けた自走」にあるという。

「イメージとして持っているのは、収益とCXとの関連性をより強く認識していただくことを考えています。 現場で働くキャリアアドバイザーにとってやはり売上は大切なものです。売上とCXの向上がリンクしていることをしっかりと説明し、自走した改善活動を後押しすることが必要だと考えています」

CXと生成AI:顧客の声(VoC)の価値を最大化する最新技術

株式会社エモーションテック LLM Project Manager 蘇鉄本かすみ氏
株式会社エモーションテック LLM Project Manager 蘇鉄本かすみ

本講演では、急速に発展を遂げる生成AIを活用したCXマネジメントの技術展開について、エモーションテックの蘇鉄本かすみ氏が解説した。

同社は2023年に生成AIを導入したテキストAI分析サービス「TopicScan」をリリース。蘇鉄本氏はコンサルタントとして企業のCXマネジメントの支援とともに、プロダクト企画にも取り組んできた。

これまでの講演でも言及された通り、CXマネジメントを社内全体で取り組んでいくためには、経営層から現場の従業員までがCX向上への取り組みを自分ごと化することが要諦となる。その1つのカギとなるのが、顧客の声(VoC=Voice of Customer)だ。

「実際、NPS®調査の報告会で一番盛り上がるのは、お客さまからのコメントを共有するときであり、社内でも自分ごとと捉えやすい部分だと思います。しかし、テキストデータは複雑で、整理には時間と労力が求められます。また、コメントを読み込んで示唆を得られたとしても客観的なデータとして示すことができず、意思決定に活用しきれていないことが多いのが課題となっていました」

このような課題を解決するため、同社はこれまで形態素解析や機械学習による解析などをおこなってきた。しかし、「分析精度やわかりやすさ」と「手軽さ」がトレードオフの関係となってしまい、歯がゆい思いをしてきたという。

そのような中で、同社が着目したのが近年目まぐるしい進展を見せる生成AIだった。これまで同社が培ってきたノウハウと生成AIを掛け合わせ、技術検証と試行錯誤を繰り返して生まれたのが、TopicScanだ。同サービスはMicrosoftのAzure OpenAI Serviceを活用し、テキストデータをアップロードするだけで、高度なAI分析により、豊富な分析結果をスピーディーかつ簡単に得られる。上述の吉田氏の講演にあったように、開発コンセプトは「顧客分析から専門性をなくす」。蘇鉄本氏は同サービスの特徴を以下のように説明する。

「1つめの特徴は『文脈や感情を読み取る新世代のテキスト分析』であること。これまでのテキスト解析の基本としては、単語や文節を分解したデータを元に分析をおこなうものだったので、言葉の意味や文脈、感情を読み解くことは難しかったです。 TopicScanのアプローチは、人がテキストを読み解くように、文脈からどのような話題が語られ、どのような意味が込められているのかを生成AIが分析するものです。

2つめの特徴は『必要なものは、テキストデータのみ』であることです。専門知識や教師データ、カスタム辞書を用意する必要もありません。たとえば多言語で書かれたテキストデータであっても、あらかじめ翻訳のルールをつくらなくても適切に読み取り、分析できるようになっています。

3つめの特徴は『複雑で大量なテキストであっても、すぐに定量化、可視化できる』こと。データ全体から重要なトピックを自動で抽出し、1つひとつのコメントに対してどのトピックに触れているのかフラグ立てをします。そのデータを基にコメントを定量化し、わかりやすいビジュアルで可視化をしてレポートするまでを一気におこなえます」

上述のように、アンケート上の顧客からのコメントは定量化が難しく、定性的な評価として扱われる場合が多かった。TopicScanはそのようなテキストデータを生成AIを活用して定量化することが可能であり、かつ迅速な分析をして、わかりやすく可視化する。専門性がなくとも顧客理解を深められるため、CXマネジメントの全社的な自分ごと化を促進できるサービス設計となっている。最後に、蘇鉄本氏はTopicScanのサービス展望を以下のように語った。

「顧客の声は、Webアンケートのフリーコメントだけではありません。紙のアンケートをはじめ、口コミやSNSの投稿、インタビューや電話などの音声記録など、さまざまなチャネルや形式で声が寄せられています。TopicScanは今後、そのようなさまざまなチャネルから寄せられた顧客の声を全方位的に分析可能にし、企業の意思決定に資するデータへと昇華させるサービスへとアップデートしていく予定です。

繰り返しになりますが、生成AIはCXマネジメントの推進エンジンとなるような、強力なテクノロジーです。エモーションテックでは、企業のよりよいCXマネジメントの実現を支援するテクノロジーとして、今後も生成AIを活用し、皆さまに提供していきたいと考えています」

顧客愛マネジメントの最前線〜生成AIの時代に変わるもの・変わらないもの

ベイン・アンド・カンパニー パートナー 大越一樹氏
ベイン・アンド・カンパニー パートナー 大越一樹

本イベント最後の講演は、NPS®を開発したベイン・アンド・カンパニーから大越一樹氏が登壇し、世界最先端のCXマネジメントの事例を解説した。生成AIは、世界的にもCXマネジメントのあり方に大きな変化をもたらしているという。大越氏は「顧客にも、今までなかったような優れた体験を提供できるという可能性が広がっている」と言及する。

「生成AIが登場したことによって可能になったことが4つあります。1つめは『パーソナライズ化されたマジカルな体験』です。あたかも個々人のことをすでに知っていて、それに合わせたかのような体験を提供することが可能になっています。

2つめが『顧客がクリエイターとなり、新たな価値を作り出す』ことが可能になりました。これまでは企業から商品やサービスを訴求する、標準化された価値創造がおこなわれていましたが、お客さま自身が価値創造に関与し、発信していく関係性ができています。

3つめは『テクノロジーを味方につけた超人的な感動接客』。現場で日々懸命に接客に携わる方々がいますが、テクノロジーを味方につけることによって超人的な接客が可能となり、今までないような感動を提供することが可能になっています。

4つめが『顧客よりも早く、深く、顧客を知る』。AIを活用することで、お客さま自身よりも迅速かつ深くお客さまを理解できる時代になりつつあるのです」

大越氏は世界各国での先進的な事例を紹介しつつ、「現在日本でも生成AI活用にリスク管理が課題視されているように、世界的にもリスクと向き合いながら導入を図っている」と言及した。生成AIのリスクにはプライバシーやセキュリティ、正確性、著作権など顕在化しているものもあるが、見過ごされがちなリスクもあるという。

「1つは過度な最適化です。なにを最適にしようとしてアルゴリズムを組み、生成AIを稼働させるのかによって、間違った方向にドライブされていくこともあります。ときにはお客さまに寄り添っていない意思決定となってしまったり、同調や共感に欠けたやり取りになってしまいます。

もう1つの見過ごされがちなリスクは、生成AIは良い意味でも悪い意味でも標準化されていくことです。つまり、生成AIまかせにしてしまうと、これまで人が提供してきた個性や企業ごとの特色を表現できず、どの企業でも同じようなものになってしまいます。

生成AIをCXマネジメントに活用する場合、お客さまの目線で適切な運用をしていくことが求められているのです」

最新のテクノロジーを活用しつつ、全社を巻き込んだ新時代の「顧客愛経営」を駆動するために、企業のCXマネジメントをけん引するリーダーはなにをするべきか。大越氏は「CXリーダーは『分析者』から『ビジネスリーダー』への進化が求められている」と語り、そのために必要な4つのテーマを示した。

「1つめは『顧客愛パーパスに沿って高いゴールを設定すること』。まずは自社にとっての『顧客愛』とはなにか、お客さまを満足させることにどういう意味を持っているのかというWHYをはっきり定義することが重要です。

2つめは『顧客体験の実態や願客の声を可視化して組織内に吹き込む』。あらゆる顧客接点からデータを取得し可視化しつつ、経営層~現場社員が顧客の生の声を聴き、各現場で得られたデータをどう活かしていくのか考える機会をつくることが求められます。

3つめは『象徴的なSignature Actionで現場の意欲に火をつける』。顧客起点の障壁となる、業界の慣行や社内課題(縦割り組織や、不明瞭なKPI、判断基準など)を排除することで変革への本気度を示します。

最後の4つめは、『素早くトライアルを回し、経験・学びを積み上げる』ことです。まずは狭く深くトライアルを始め、成功事例を展開してください。よく『技術の発展がもう少し落ち着くのを見定まってからやりたい』という方がいますが、技術の発展が収まることはありません。これからどんどん加速していきますので、早く始めないと遅れます。

また、アジャイルに進めるということのお膳立てを整えることは大切です。たとえば、予算や権限、プロセスなど、守らなければならないルールを変えていかないとアジャイルに取り込むことが難しい場合もありますので、社内の理解を深めていくべきです。同時に、PoCのケイパビリティを強化することも重要です」

※2 NPS® はベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、 NICE Systems, Inc.の登録商標です

(取材/文/撮影:川島大雅

― presented by paiza

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