もし、「来月から、チームリーダーをお願いしたい」と、突然上司から言われたらどうしますか?「リーダーなんてやったことないのに、自分には無理」「そもそもリーダーって、何をすればいいの?」と、さまざまな不安が頭をよぎるのではないでしょうか。
わたしは、44歳で会社を退職し、現在はフリーランスのディレクター・ライターとして活動しています。会社員時代には、主任・課長・部長を経験し、最大で50名を超える部署の責任者をしていました。
そんなわたしが「初めてリーダーを任されたときに、読んでおきたかった」という本が、『実践するドラッカー<チーム編>』です。この本は、現代社会を読み解く最高の哲人と称されるピーター・ドラッカー氏の言葉に、解説や実践シートを添えて、わかりやすく編集されています。読み終えたあと、目から鱗が落ちたような気持ちになりました。
今回は、本書からチームマネジメントの極意を抜粋してご紹介します。
目次
メンバーの強みを生かし、弱みはチームで補い合う
そもそも、チームは何のためにあるのでしょうか?
ドラッカー教授は、こう言っています。
「チームの目的は、メンバーの強みをフルに発揮させ、弱みを意味のないものにすることである。こうして一人ひとりが力を発揮する。大事なことは一人ひとりの強みを共同の働きに結びつけることである」
人は、つい弱みに目を向けがちです。できないことをできるようにしようと躍起になることもあります。しかし、それが不得意なことの場合、人並みにできるようになるには膨大な時間がかかります。もしかしたら、いくら頑張っても成果が出ないかもしれません。それでは、モチベーションが保てません。
だからマネジャーは、メンバーが強みを生かして仕事ができる環境を整える。そして、できないことや苦手なことは、チームで補い合う。そうやって、一人ひとりの弱みを意味のないものにしていくのだと、本書にはあります。
ここでひとつお伝えしておきたいのは、「やればできること」や「やりたくないこと」は、弱みではありません。組織で働くうえで必要なことは、身につけてもらわなければなりません。
お互いを知り、活用し合う
チームでこなすことができる仕事量の限界は、人数を増やすことで乗り越えられます。しかし、クオリティーの限界は、相乗効果を生み出さなければ突破するのは難しいと、本書にはあります。それでは、相乗効果を生み出すには、どうすればよいのでしょうか?
ドラッカー教授は、こう言っています。
「成果を上げる秘訣の第一は、共に働く人たち、自らの仕事に不可欠な人たちを理解し、その強み、仕事の仕方、価値観を活用することである。仕事とは、仕事の論理だけでなく、共に働く人たちの仕事ぶりに依存するからである」
チームのメンバーは、強みや弱み、ワークスタイル、価値観が一人ひとり異なります。
たとえば、こんな感じです。
AさんとBさんは、ともに営業部に所属しています。Aさんは、人と話すことが得意。一方、書くことは苦手で、資料作成には人より時間がかかる。Bさんは、資料をつくるのが得意。一方、話をすることは苦手で、初対面の人と話すときはとても緊張する。
この場合、AさんとBさんに同じ業務を担ってもらうよりも、Aさんには新規契約の獲得の営業に集中してもらい、Bさんには資料や書類の作成に集中してもらった方が、チームとしての成果が期待できるのではないでしょうか。
相乗効果を生み出すには、次の3つのステップで考えるとよいと本書にはあります。
つまり、この3つの環境を整えることが、マネジャーの仕事というわけです。
成長させるのではなく、成長を支援する
メンバーに仕事の仕方を教えても、「なかなかうまくできない」「パフォーマンスが上がらない」ということは、どこの組織でもあるのではないでしょうか。そんなとき、マネジャーは「自分の教え方が悪いのではないか?」「うまく伝わっていないのか?」と自問することもあるでしょう。もちろん、そうであれば改善するべきです。一方で、マネジャーは「そもそも、他人を成長させることはできない」というマインドセットを持っておくことも大事です。
ドラッカー教授は、こう言っています。
「成長は、常に自己啓発によって行われる。企業が人の成長を請け負うなどということは、法螺(ほら)にすぎない。成長は一人ひとりの人間のものであり、その能力と努力に関わるものである」
成長は、個人のものです。個人の努力なくして、成長することはできません。会社やマネジャーができることは、メンバーの成長を支援することです。たとえば、新しい仕事に挑戦してもらったり、思い切ってプロジェクトを任せてみたりと、成長の機会をつくって必要があればフォローする。メンバーが自分で考えて行動できるように、環境を整えていくのです。
目標は、成長のためにある
マネジャーは、メンバーが一丸となって成果を出すためにチームの目標を設定しますが、ともすれば、メンバー個人の目標までガチガチに決めてしまってはいないでしょうか。それでは、メンバーが目標を自分事として捉えられず、成長につながりません。
ドラッカー教授は、こう言っています。
「目標を規定することは、一人ひとりの責任である。まさに最大の責任である。ということは、自らの属する組織の目標の設定に参画することが、一人ひとりの責任だということである」
組織は、一人ひとりの集合体です。組織の目標は、部門やチームの目標に落とし込まれ、さらに、一人ひとり目標にまでなって初めて機能します。したがって、メンバーには、組織やチームの目標に参画意識を持って、自分の目標を設定する責任があります。マネジャーの仕事は、個人の目標設定を支援すること。そして、一人ひとりの未来像と、組織でなされるべき仕事のベクトルを合わせていくことだと、本書にはあります。
大事なのは、「メンバーの自己実現が目標に反映されているか?」という視点。メンバーがいきいきと働くには、「仕事が自分の成長につながっている」という実感が必要なのです。
よりよい選択につなげよう
マネジメントは、一朝一夕でできるものではありません。PDCAをまわしながら地道にチームに最適な方法を見つけていくしかないのです。その際、マネジメントの本質を理解していれば、よりよい選択につながります。
『実践するドラッカー』は、「思考編」「行動編」「チーム編」の3冊が刊行されています。今回は「チーム編」の内容から抜粋してご紹介しましたが、「思考編」「行動編」も合わせて読むことで、より理解が深まると思います。
(文:コクブサトシ)