※20年近く前の話から始まりますので、一部時系列が前後しているかもしれません、できるだけ確認して進めますが、差異がありましてもご容赦ください。

本業を忘れる。

なかなか難しいことですが、仕事をするうえで実はとても重要なことなのかもしれません。

映画ライターという仕事をしていると、およそ1日1本のペースで映画を観ていることになります。海外では、ドラマやアニメの世界と映画の世界で、演者やクリエイターが棲み分けされている場合も多いと感じます。しかし、日本ではそうもいかない事情もあって大変です。

ドラマやアニメに触れていても、ついつい映画のことを考えてしまい、映像エンタメに触れて”ガラッとリフレッシュ”とはいってくれません。

筆者と同じ状況に陥っている方、たまには映像以外のエンタメを求めている方などにご提案したいのが、演劇やミュージカルなどの「生のパフォーマンス」です。そこには、まさに一期一会の熱量があります。筆者が「生のパフォーマンス」を追いかけるようになったきっかけから、「生のパフォーマンス」で得られる魅力をお伝えしたいと思います。

舞台観劇のきっかけは映画


そもそも映画を生業にしようとしたときに、いくつか諦めたものがありました。大きく括ると生のパフォーマンスモノ、後はアイドル関連とお笑いです。
あまり「流行を追う」という観点から離れすぎないほうがいいと思いますが、それでも時間とお金の差配を考えたとき、映画を優先すると、自然とそういう選択になりました。

そんな心持ちの人間が、なぜ演劇やミュージカルを定期的に見るようになったのか。それもやっぱり、映画がきっかけでした。

2004年ですから、もう20年近く前になりますが『オペラ座の怪人』という映画が公開されます。これはガストン・ルルーの小説というよりは、アンドリュー・ロイド・ウェバーによるブロードウェイミュージカルの映画化といったほうが適切で、実際にアンドリュー・ロイド・ウェバーがスタッフとして参加しているミュージカル映画でした。

偶然だと思うのですが、ときを同じくして劇団四季「オペラ座の怪人」が東京で上演されていました。そんなこともあって「映画も観たから、舞台も観てみよう!」と軽い気持ちでチケットにバイト代を注ぎました。

結果、生で見るパフォーマンス、終劇後のスタンディングオベーションなどなど、劇場の一体感に映画では感じることができないものがあることを知ったのです。

さて、ここで話が終わればそこまでなのですが、演劇を観に行かれたことのある方はイメージがしやすいかと思います。お芝居を観に劇場に行くと、挟み込まれたチラシの束を渡されますよね。同時期、または少し後に上演されるもの、出演者や演出者の次回作などが主。「オペラ座の怪人」を観に行ったときに渡された束の中に「キャッツ」のチラシがありました。同じ劇団四季の演目ですから当然と言えば当然ですが「ああ、キャッツがあるのか……」と思ったものです。

当時のキャッツシアターは五反田にありました(この辺り、かなり昔話感があります)。時期的に3~4か月後。この絶妙な“間”で思わず「キャッツ」のチケットを購入してしまいました。これまた生の感触に感激し、おまけにカーテンコールでは通路側の席だったこともあって、“猫”と握手までしてしまいました。

「オペラ座の怪人」から「キャッツ」という豪華リレーのおかげで、気が付けば生のパフォーマンスを求めるようになったのです。

舞台人の映像作品への進出


これと前後して、多くの演劇人が映像作品に関わるようになりました。90年代に東西で起きた小劇場ブームから多くの演出家、俳優が登場します。三谷幸喜から松尾スズキ、宮藤官九郎なんていう存在も現れました。

俳優で言うと枚挙にいとまがなく、気が付けばヒットドラマ、ヒット映画で人気俳優が演じる主役の脇役を演劇畑の人たちが埋める構図が、多く見られるようになりました。

当然、そういうパターンが増えれば、脇役とはいえども注目と人気が集まっていきます。そうなると伝わってくるのが「〇〇は舞台で見てこそだよ」とか「○○の演出や脚本は舞台でこそだよ」といった話です。個人的に分析すると少し“コレクター気質”があるのかもしれませんが、そういわれると一度は生で観てみたくなります。

それ以降、脚本家、演出家、俳優、ときに演目(映画化されたことがあったりすると惹かれます)を目印に追っかけていくようになります。とはいえ舞台はチケット代もお高く、早々ポンポンと通えるものでもありません。それに比べれば、まだ映画は安いですよね。

「キャッツ」の後に観たのが人気演劇ユニット“地球ゴージャス”の作品で、今は無き新宿コマ劇場でした。「オペラ座の怪人」~「地球ゴージャス」までがちょうど季節に一回、3~4か月に1回だったので、それ以降、3~4か月後を目印に舞台を観ることになりました

とくに琴線に触れるのは奇想天外な演目なようで、リアルな現代劇よりは突飛なコスチュームプレイや時代劇を楽しんでいます。とくに好きなのは劇団☆新感線や地球ゴージャス、TEAM-NACSあたりです。毎回チケット争奪戦に挑んでいます。

ただ、いろいろ見ているような気でいますが、歌舞伎も数えるほどですし、シェイクスピアも4代悲劇をやっとこさというところ。宝塚歌劇団も能楽も未経験で、2.5次元もほとんど観ていません。落語も学校行事以来ごぶさた。まだまだ観ておかないといけない人、演出、劇場はたくさんあります。
映画(とドラマとアニメ)を見逃さないようにしつつも、ときどきはそれらを忘れさせてくれる一期一会のエンタテインメント=舞台には、これからも通いたいと思います。

とりあえず、次の狙いは劇団☆新感線の新作「天號星」と堂本光一主演のミュージカル「チャーリーとチョコレート工場」ですかね。

舞台はハードルが高いと思われる方も多いと思いますが、最近はコロナ禍もあって(実際のチケット代金よりは割安の)配信もあります。最近私は「キングダム」と「SPY×FAMILY」の千穐楽を配信で観ました。

また、映画と演劇のハイブリッドというべき“ゲキ×シネ”や“シネマ歌舞伎”、“ライブビューイング”など“生の一期一会”をスクリーンに焼き付けたモノもあって、これはかなり気軽に見られます。これから舞台観劇の世界へ入るのは非常に良い道筋だと思います。

何を隠そう、私が劇団☆新感線の最初の作品を見たのは“ゲシ×キネ”の『髑髏城の七人~アオドクロ~』でした。実際に生で新感線を観たのは、それから3年後のことです。

(文:村松健太郎

presented by paiza

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