約2万人の社員を対象にした「NEC丸ごとデジタル IDプロジェクト」。このプロジェクトが目指すのは、社員のエンゲージメント向上につなげると同時に、デジタルテクノロジーを活用した新しい働き方を世の中に提案することだ。

このプロジェクトを推進してきたデジタルID・働き方DX統括部長の今泉 万寿美さんに、取り組み内容や目指す世界などについて、話を聞いた。

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今泉 万寿美さん プロフィール
日本電気株式会社 コーポレートIT・デジタル部門 デジタルID・働き方DX統括部長。1998年に日本電気株式会社(NEC)へ新卒入社。2023年4月から現職。
創業119年目にはじまったNECの大変革
今泉さんがデジタルID・働き方DX統括部長に就任したのは2023年4月のこと。それまでは、海上自衛隊のソーナーシステム事業を担当するなど、約20年間技術に携わってきた生粋の技術者だ。仕事内容がシフトしたことで、スピーディーさとしなやかさが求められるようになった。現在は、DXで働きやすい職場をつくるため、さまざまな変革をおこなっている。

「当社が経営困難の危機にあった際に『とにかくNECを変えていくんだ』と、経営陣が立ち上がりました。そして2018年には『Project RISE』がはじまり、DXを強く推進していくことになりました。DXビジョン、デジタル経営基盤や標準プロセス、組織・人材からカルチャーなどを同時進行で変革し、いまのコーポレート・トランスフォーメーションにつながっています」

創業119年目を迎えた際、時代を越えて選ばれ続け、持続的な成長ができる企業基盤を再構築するためにはじまった「Project RISE」。このときからNECの大変革がはじまった。

「コーポレート・トランスフォーメーション」とは、デジタル化やシステム化、クラウド化などに加え、マネージメントの高度化やエンゲージメントの向上など会社の変革、経営の変革そのものと捉えている。

今泉さんが統括部長を務めるコーポレートIT・デジタル部門は、デジタルIDなどの技術を活用し、コーポレート・トランスフォーメーションを進めている。

デジタルID活用:生体認証とWeb3・分散ID技術で手ぶらで過ごせる職場を実現

コーポレートIT・デジタル部門で進めているのが、顔認証を活用したIDで職場のあらゆるサービスを利用できる「NEC丸ごとデジタル IDプロジェクト」だ。NECの本社ビルで働く社員は、2024年4月から従来のカード型の社員証を使わずに、手ぶらで過ごせるようになった。

生体認証によるデジタルIDとWeb3・分散ID技術を用いた社員証のデジタル化で、入退場や売店・自動販売機などの決済、備品ロッカー開錠や、複合機での印刷などのさまざまな手続き・サービスが利用できる。企業でよくある「社員証を忘れてしまったから社内に入れない」といった問題が解決される。

ウォークスルーでスムーズにオフィスへ入れる

「2020年ごろから、『IT会社なのだから社員証をカードレスにしていこう』という機運が高まり、最初は本社に所属する社員の約200名を対象に、実証実験をはじめました。そのころは、カメラの前で立ち止まる必要がありましたが、改良を重ねて現在はウォークスルーが可能です。2023年度に総まとめとして、本格的にルールメイクを含めてデジタル認証を進めました」

プロジェクトの開始時には、逆光により顔認証ができないなどの壁があった。そこから、NECにおける顔認証のプロフェッショナルである今岡フェローなどの協力を得ながら技術の向上を進めた。さまざまな部門と連携し、協力を得られたからこそいまの成功がある。

「デジタルID・働き方DX統括部には30人弱ほどしかいませんが、プロジェクトには200人以上が携わっています。プロダクトをつくる部門、人事や総務部門、ビジネス部門やカルチャー変革に関連する部門と連携してプロジェクトを進めています」

プロジェクトを進めると、どうしても課題が発生してしまう。そのときに他部門と連携し、協力しながら進めることが大事だ。今泉さんは多くの社員を巻き込み、仲間を増やしながらプロジェクトを進めてきた。

「昔の社員証には戻れない」DXを体感した社員からの声

「NEC丸ごとデジタル IDプロジェクト」の取り組みを含めたさまざまな施策の結果、2018年時点の社員エンゲージメント率は19%ほどだったが、2023年度は39%にまで向上。2025年度末までの目標である50%に向かって着実に進捗している。

デジタルIDを使用した社員からの声を今泉さんが紹介してくれた。

「最初のころはそれほど利用されていたわけではありませんでしたが、徐々に利用者が増えていき、便利さを感じてくれています。入口ゲートでの導入からはじめたのですが、フロアにも導入してほしいという声が増え、順次展開しています。『昔のカード型社員証には戻れない』と、うれしい声もいただいています」

便利さを体感した社員からは、今度はフロアの外にある自動販売機も顔認証で買えるようにならないか、とリクエストも上がってきた。そういった声に応え、現在は一部の自動販売機で対応しているそうだ。

まずは自分たちで試す「クライアントゼロ」の考え方

このプロジェクトで特徴的なのが、NECの社員自らがゼロ番目のクライアントとなる「クライアントゼロ」戦略のもとで進められてきたことだ。自分たちがクライアントになるからこそ見えてくる課題や発見がある、と今泉さんは話す。

「社員がクライアントになることで、さまざまな課題が見つかります。NECの技術力の高さは自負していますが、システムで難しいのは運用面です。システムは止めてはいけませんので、そのためのノウハウも非常に大切になります。新しい分野でいきなりお客さまにお出ししてしまうと、ご迷惑をおかけすることもあると思うので、自分たちで試すことが重要です」

まずはNEC自身の変革を進め、その成果を顧客や社会のDXに展開する。このように、価値の循環を進めている。

NECは組織が多く、取り組んでいる事業も多岐にわたり、国や自治体を対象にしたシステムやグローバル展開も進んでいる。組織ごとに強みがあるため、担当するプロジェクトで困りごとが発生した場合に相談できる場所がどこかしらにあるという。NECに所属する技術者の特徴を聞くと、今泉さんから次のような言葉が返ってきた。

「みんな非常に真面目で最後までやり遂げます。だからこそ、品質を大事にしていますね。システムを止めてはいけないという想いが強いです」

会社には、それぞれカルチャーがある。そのなかでNECを表現すると「真面目」という言葉が最適といえる。ただし、DXに関する組織では、それ以外にも大切なものがあるという。

「真面目さに加えて、柔軟さとスピーディーさを取り入れなければいけません。それがNEC内でもだいぶ進んできたと思います。この組織に来たときに、ローコードなどのツールを取り入れていて驚きました。重厚なプロジェクトに加えて、柔軟でスピーディーなプロジェクトもできるように取り組んでいるところです」

目指すのは、みんなが取り残されずにつながっていく世界

大企業でありながら、大きな変革を進めているNECでは、新卒採用とキャリア採用をバランスよく進めている。デジタルID・働き方DX統括部では、どのような人材を必要としているのだろうか。

「プロジェクトを牽引していくために、リーダーシップやプロジェクトマネージメント力といったスキルを持っている方が欠かせません。さらに、周りを巻き込まないといけないので、『巻き込み力』の高い人を求めています。一方で、社内のシステムでは独特なものが蓄積されています。そうした技術的課題を解決していくような、専門スキルのある方も必要です。モダナイゼーションを進めるために、技術的知見の深い人材も非常に大切になってきます」

周りを巻き込みながらプロジェクトを牽引していくプロジェクトマネージャーと、技術的課題を解決するプロフェッショナル。こうした人材を今泉さんは求めている。

最後に、デジタルIDで目指す世界について聞くと、大きなビジョンが見えてきた。

「まずは社内のDXを進めていき、さらに社会へとつないでいきたいと思っています。現在はデジタル社員証を、『ミライロID』というデジタル障害者手帳ともつなぐプロジェクトを進めているところです。ID連携に力を入れており、みんなが取り残されずにつながっていくような世界をつくることができればなと思っています」

NECグループが掲げるパーパス「Orchestrating a brighter world」。安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指している。今泉さんが目指す世界もパーパスに沿っている。

2024年7月に125周年を迎えた歴史あるNECグループが、どのような世界を実現していくのか楽しみだ。

(取材/文:川崎博則撮影:撮影:渡会春加

― presented by paiza

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