なんでも努力をすれば、ある程度のことはできるようになる。だが、達人の域をめざす場合は話が別だ。そこに到達するには、才能が必要だと思う。どんなに努力しても、これ以上うまくならない。そんな壁にぶち当たったとき、こんな言葉が頭に浮かぶ。

「自分には才能がない」
しかし、それは間違いだった。
「やり抜く力」が、足りていなかったのだ。

そう気づかせてくれたのが、『やり抜く力 – 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける(著・アンジェラ・ダックワース)』だ。

成功は、才能よりも「やり抜く力」で決まる

『グレートレース』という番組をご存じだろうか? 焼け付く砂漠、果てしない山、吹雪の北極圏など、人を寄せ付けない大自然の中を何百キロも行く、究極のレースに挑むアスリートたちの姿を追ったドキュメントだ。

休憩もろくに取らず、寝る間も惜しんで何百キロも走り続ける。その気力、体力のすさまじさに圧倒され、「すごい!」という言葉が無意識に出る。そして心のどこかで、「絶対に自分にはできない、恵まれた才能を持つ超人のなせる技だ」と思っている。

“常人の域をはるかに超えたパフォーマンスに圧倒され、それがすさまじい訓練と経験の積み重ねの成果であることが想像できないと、なにも考えずにただ「生まれつき才能がある人」と決めつけてしまうのだ。(P62)”

「あの人は超人だから、張り合っても仕方がない」と神格化することで、現状に甘んじていられるようにしていると、著者は言う。

たしかに彼らは、毎日何十キロも走ったり、栄養管理を徹底したり、人生の多大な時間を鍛錬に割いているに違いない。その積み重ねの結果、偉業を成し遂げている。自分にはそのような努力ができないと決めつけているから、都合よく「才能」という言葉を使っているのかもしれない。

著者は、「人生でなにを成し遂げられるかは、生まれ持った才能よりも『やり抜く力』よって決まる可能性が高い」と言う。「やり抜く力」とは、最も重要な目標の達成をめざす「情熱」と、最後までやり抜こうとする「粘り強さ」の2つの要素からなる。つまり、才能にこだわらず、情熱を持って粘り強く努力を続けることが、成功へのカギというわけだ。

自分で勝手に無理だと思い込まない

中学生のころ、ロックバンドに憧れて、お年玉で真っ赤なストラトキャスターを買った。楽譜もろくに読めなかったので、音源を聴きながらバンドスコアを目で追う。ギターキッズの壁“Fコード”にしばらく苦しんだが、押さえられるようになるといろいろな曲が弾けるようになって、楽しくなった。

社会人になってからはバンドを組み、毎週末3時間スタジオに入ったり、ギタースクールに通ったり。アドリブでギターを弾いているミュージシャンを見て、「あんなふうに自由に演奏できるようになりたい」と練習に励んだ。でも、いくら練習してもアドリブ奏法はつかめなかった。「自分には才能がない」と思い、生活の変化とともにギターを弾かなくなってしまった。

でも、いまは、すこし後悔している。15年前は弾けなかったが、続けていれば弾けるようになっていたかもしれない。本書を読むと、「才能がないからできなかった」とは言えなくなる。

“「2倍の才能」があっても「1/2の努力」では負ける(P77)”

“私たちは子どものころにこう言われて育つ。
「最初からうまくできなくても、何度も挑戦しなさい」
適切なアドバイスに聞こえるが、グリーンベレーではこう言っている。
「何度やってもだめだったら、ほかのやり方を試すこと」(P101)”

上達しなかったのは、「意図的な練習」が足りていなかったからだ。いまの自分よりもすこし高い目標を持ち、「なぜ、できないのか?」「どうしたらできるようになるのか?」を考えて、繰り返しチャレンジする。単純にその試行回数が足りなかったのだ。

情熱を向けられることを見つける

粘り強く努力を続けるためには、情熱を向けられることを見つける必要がある。

“誰だって、自分が本当に面白いと思っていることでなければ、辛抱強く努力を続けることはできません。(P147)”

わたしの仕事の目的は、自分が感じた驚きや感動、発見を伝えることで、誰かの暮らしを豊かにしていくこと。そのためにライターという職業を選んだ。いまでこそはっきり言えるが、当然、はじめからわかっていたわけではない。ここにたどり着くまでに、20年もかかった。なんとまぁ、遠回りをしたものだ。でも、これまでの経験がなければ、この答えにはたどりつけなかっただろう。

やりたいことは、簡単に見つかるものではない。だけど、見つけようとするかしないかは自分で決められる。これは、大きな差ではないだろうか。

40歳を過ぎてから、この先の人生を真剣に考えた。いまの会社で定年まで働くか、別の道を行くか。その答えを出すためには、自分の本音を知る必要がある。

「自分が大事にしたいことはなにか?」
「いまの仕事に満足しているのか?」
「自分にとっての幸せはなにか?」

自分との対話を重ねるうちに、「驚いたり、感動したりするようなことに出会ったとき、無意識に誰かに話している」「書いているときは夢中になっている」という特性に気づいた。そして、自分が大事にしたいことを取り戻す、あるいは手放さないために行動した結果、いまの自分がある。

やりたいことの答えは、自分にしか出せない。だからこそ、自分との対話が大事。焦る必要はない。「これだ!」というものを見つけるまでには、時間がかかるものなのだ。

本書には、「やり抜く力」を伸ばす方法のほか、各分野のエキスパートたちに共通する練習方法や育成方法が具体的に書かれている。読んでいると、「自分もやれるんだ!」という勇気が湧いてくる。

面白いと思うことに全力で取り組む。
「できる」と信じて目標に向かって努力する。
それはきっと、充実した日々に違いない。

(文:コクブサトシ

presented by paiza

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