「ChatGPTの回答は必ずしも正しいとは限りません。重要な情報は確認するようにしてください」。
ChatGPTのチャット画面には、注意書きとしてこのような文言が書かれている。現時点で生成AIは、100%正しい情報をくれるわけではない。そのような状況で生成AIプロダクトを開発するのは難しい。生成AIプロダクトを開発するために必要なことはなんだろうか。
Exa Enterprise AIでAIエンジニアチームを率いてプロダクト開発に携わる、長谷川 駿さんに話を聞いた。

長谷川 駿さん プロフィール
株式会社エクサウィザーズ 技術専門役員。子会社である株式会社Exa Enterprise AIではexaBase生成AI プロダクト責任者、 AI戦略グループ グループリーダー 。東京工業大学在学中に、アルゴリズムの理論解析で国際ジャーナル、生成AI(テキスト自動要約)の研究で最難関国際会議への採録と、国内研究会において若手奨励賞を受賞。2021年4月、エクサウィザーズに新卒入社。テキスト要約、センチメント分析など自然言語処理の幅広い技術検証、社会実装や技術アセット開発に従事。exaBase IRアシスタントの初期検証から立ち上げに携わり、現在は3本のプロダクトを持つExa Enterprise AIにてAIエンジニアチームを率い、AI戦略策定、プロダクト改善、新規開発のAI技術をリード。2024年4月、技術専門役員に就任。
Xアカウント:@exahsgw
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目次
生成AIは嘘をついてしまうことを踏まえて考える
長谷川さんはエクサウィザーズへ新卒入社してから、受託案件を通して様々なAIの社会実装を経験。その後、GPT-3.5のリリースをきっかけに生成AIを活用したIR Techサービス「exaBase IRアシスタント」の開発に携わってきた。開発の際には、どのような苦労があったのだろうか。
「exaBase IRアシスタントの立ち上げは約1年前におこなわれましたが、当時は生成AIを活用したプロダクト開発経験はありませんでした。安定的に生成AIプロダクトを提供するノウハウが溜まっていなかったため、ログを確認しながらサーバーのスペックを調整するなど、ユーザーが増える中でも全てを手探りで検証していく必要のある点が、プロダクトとしての難しさでしたね」
さらに、生成AIの課題ともいえる「ハルシネーション」対策にも頭を悩ませたという。ユーザー体験を考えながら開発を進めた。
「生成AIは嘘をついてしまうことがあります。それを踏まえたうえで、どうすればユーザーにとってよい体験になるかを考える必要がありました。たとえば、質疑応答機能で回答を生成する際、初手から100%の精度は期待できません。前提として、修正が必要です。そのため『こういう方針でつくって、こういう情報を見て、こういう回答を作りました』という中間生成物を出してあげることで、修正がしやすくなります。生成AIの苦手な部分を仕組みでカバーし、いかにユーザーにとってのよい体験にするか。こちらに注力しました」
さらに、業務フローへの組み込みにも注力した。生成AIだけですべての業務を代替できて、完全に人がいらなくなるわけではない。最後には人のチェックや修正が必要だ。業務フローに組み込むことで、しっかりと現場で活用されるプロダクトとなる。その考えがプロダクト名にも反映されている。「exaBase IRアシスタント」は、あくまで「アシスタント」だ。
実務を理解している人間がプロダクト開発に入る重要性
生成AIはできることが多く、具体的に業務のどのような部分で活用できるのかわかりにくい面がある。「exaBase IRアシスタント」はターゲットを絞り、IR業務に特化したことで、わかりやすくて活用しやすいプロダクトになった。
その際に重要なのが、IR業務の理解だ。プロダクト開発にIR業務歴の長い人間が関わることで、実際に業務で活用できるものができた。

「約20年にわたってIR業務を続けてきたIR部長が、プロダクトの立ち上げ時から入ってくれたことが大きいです。IR担当者自身が使いたいものをつくっているので、しっかりとIR業務に使えるプロダクトになりました。エンジニアだけでIR業務に関するプロダクトをつくるより、実務を経験してきた人間が入ることで解像度が高くなりましたね。これはプロダクト開発において大事なポイントです」
新たな業務特化型プロダクトの「exaBase 採用アシスタント」も公開された。このプロダクトは、エクサウィザーズが戦略的に推進している、企業業務の支援・効率化を提供する「AIアシスタントシリーズ」の第2弾だ。生成AIを活用し、採用領域の業務効率化を支援していく。
顧客開拓とカスタマーサポート
プロダクトは開発が終われば成功ではない。実際にプロダクトを使ってもらうための活動も必要となる。「exaBase IRアシスタント」もリリース当初は顧客開拓に苦労したそうだ。
「IR業務に携わる担当者の数が少ないことや業務の属人化などの理由があり、はじめは苦労しました。『市場との対話が本質だから、ほかの業務を効率化する』というコンセプトを伝えることや、IR業務に役立つ議事録作成機能などの機能拡充をしていったことで、いい流れが来ましたね」
生成AIに限らず、あらゆるツールにおいて、使い方がよくわからず使われなくなってしまうケースもある。長谷川さんたちは、どのように顧客サポートをしているのだろうか。
「単純に生成AIプロダクトを導入しても、それだけでなにかができるわけではありません。ユーザーがどう使って問題を解決するのかをしっかり理解する必要があります。また、ユーザーがはじめて生成AIを使う場合、活用方法のわからないことが多いので、他社事例を増やして共有することは大事です。ちなみに「exaBase IRアシスタント」と並行して提供している「exaBase 生成AI」ではユーザー会を開催しております。ユーザー同士が集まって情報交換する場を設けるなど、Exa Enterprise AIとして情報をシェアすることも意識してサービス提供をしています」
プロダクト側からの情報提供だけではなく、顧客同士が情報交換できるコミュニティをつくることで、定着化を推進している。
AIエンジニアがプロダクト開発で価値を発揮するために重要なこと
長谷川さんはAI戦略グループのリーダーとして、AI戦略策定やプロダクト改善、新規開発のAI技術をリードしている。プロダクト開発を推進する際に、どのようなことを意識しているのだろうか。

「AI戦略グループは横軸の組織ですが、グループの各メンバーはプロダクトに入り込んで活動しています。その各メンバーがしっかりとプロダクトに入り込めるように、営業側とエンジニア側の情報を把握したうえで全体像と構造化された詳細を伝えることが僕の役割です。情報をしっかりと伝えることでチームとしてワークしていきますし、AIエンジニアが価値を発揮していくために重要だと思います」
個別チームのWikiや案件時の資料を全社公開するなど、会社として情報共有をするための仕組みも用意されている。また、週1日以上はオフィス出社をして、対面でのコミュニケーションを推奨している。
学生時代の長谷川さんは、研究者としてAIに関する研究をおこなっていた。しかし、事業会社に入社したことで、ビジネス面でも求められることが増えている。多くの情報を把握するために意識していることを長谷川さんに聞いた。
「研究者時代はNLP(自然言語処理)だけわかっていればいい状況でしたが、現在は事業やプロダクトに加え、市況や競合の開発状況もわかっていなければなりません。キャッチアップする量が増えたため、これまでのように論文を読む時間がなくなってしまいました。現在は、くわしい人と話したり、SNSで情報収集したりとキャッチアップ方法を変えているところです。また、エンジニアとしてはコードを書く時間がなくなってきています。なので、コードを書くための時間を確保することが大事です。どうしても忙しい時期はまったくコードを書けないこともあるのですが、できるだけ時間を確保するようにしていますね」
情報を把握するだけでなく、エンジニアとして技術を磨くことも忘れない。限りある時間のなかで、効率的な時間の使い方が求められる。
AIエンジニアに必要な絶対条件は「プロダクトを届けたい気持ち」
AI戦略グループでAIエンジニアチームを率いている長谷川さん。AIエンジニアに求めるものを聞くと「ユーザー視点」という答えが返ってきた。
「ユーザーが本当に使えるものをつくりたいのか、最新技術を使いたいのか。この分岐は結構大きいと思います。ユーザーが本当に使えるものをつくるのに、最新技術は必要ないことが多いです。しっかりとプロダクトを届けたい気持ちがあることは絶対条件として必要だと思います。そのうえで、最新技術をキャッチアップする好奇心も大事です。最新技術が使われる頻度は少ないですが、事業インパクトは大きくなります。相反する性質に思えますが、そこがうまく共存している人材は伸びやすいと思います」
エクサウィザーズのミッションである「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」ためには、技術だけでなくユーザー視点に立つことが必要になる。
さらに、AIエンジニアとして働いていくには「好奇心」に向き合うことが大切だ。
「AI業界のスピードはあまりに速すぎて、キャッチアップが大変です。AIは幅広いので、どこかしら楽しいと思えるポイントはあるはずです。好奇心を持って楽しめるものを見つけてもらえればと思います。あとは、プロダクト開発をするうえではユーザーが使ってくれること。これが大事です。その部分に、いかにフォーカスできるかが重要となります。そこにフォーカスしはじめると、UIやUXなどの周辺領域にも関わらなければなりません。そうしたときに、興味がないで終わらずに好奇心を持つことが大事になると思います」
毎日のように新しい出来事がおこるAI業界では、つねにキャッチアップが必要となる。好奇心を持って楽しむことで、AIの進化に取り残されないようにしたい。
「生成AI ✕ SaaS ✕ エンタープライズ」の領域でトップを目指す

2024年5月14日、エクサウィザーズの2024年3月期の通期決算が発表された。売上高は83億8千4百万円と前年比で50%増を達成。AIプロダクト事業においては売上高84.5%増となり、
順調な成長を続けている。ChatGPTを活用した企業向けの生成AIサービス「exaBase 生成AI」は、2024年3月時点での導入社数が447社、ユーザー数は46,714人と伸びている。
さらなる成長を期待されるなか、長谷川さんたちは今後、どのようなポジションを目指していくのだろうか。
「しっかりと業務に使われるようにしていくことが重要です。いい成功フローをつくっていきたいと思います。理想は口コミで広がってほしいですね。『このプロダクトを入れたら楽だよ』という状況をつくることができれば広がっていくと思います」
さらに3年後には「生成AI ✕ SaaS ✕ エンタープライズ」の領域でトップを目指すと力強く話してくれた。
「LLMではOpenAIやAnthropicなどの企業があります。ただ、業務改善の文脈ではトップの企業は、まだありません。そこに向かってプロダクト開発や新規企画もしていきます。ここ2-3年が勝負だと思っています」
生成AIの進化とともに、3年後に長谷川さんたちがどのようなポジションにいるのか楽しみだ。
(取材/文/撮影:川崎博則)
