先日の将棋の名人戦を勝利し、史上最年少で名人位を獲得、さらに史上最年少で七冠を制した藤井聡太“新名人”。まさに天才という言葉がぴったりの恐るべき才能と強さに加えて、今の彼は“誰も手が付けられない感たっぷり”の止めようがない勢いが重なって、年内中の八冠完全制覇も絵空事ではないと思われます。
そんな何度目かの将棋ブームに合わせまして“将棋映画”をご紹介。AI将棋、実話モノ、人気コミックの映画化といったバラエティ豊かな並びとなりました。
共通しての売りは“将棋のルールがわかっていなくても十分楽しめる”ことでしょう。
目次
『AWAKE』
将棋電王戦から着想を得たAI将棋を扱った2020年公開の映画。奨励会に通いプロを目指すものの、二十歳のときに挫折した主人公・英一の物語です。
大学に進学した英一は“人工知能研究会”に入会、プログラム開発を通して新たな仲間たちと出会い、止まっていた時間が動き出します。そして自身の知識と経験をもとにAI将棋ソフト“AWAKE”を開発し、コンピュータ将棋大会を制覇。かつてのライバルとの電王戦に挑みます。
大河ドラマ『青天を衝け』出演直前だった吉沢亮を筆頭に、若葉竜也、落合モトキ、寛一郎、馬場ふみかといった若手キャストが揃った変則的な青春譚となっています。
2010年代には盛んに行われていた“棋士VSAI”ですが、近年は小康状態。最新将棋AIと藤井7冠の対決など夢想してしまいます。プログラミングに詳しい方は、また違った楽しみ方もできるかもしれません。
『聖の青春』
各時代を彩る名手、強者が登場する将棋界ですが、藤井聡太7冠の登場前で“天才”と言えば羽生善治九段でしょう。1996年に七冠、2017年に永世七冠となりました。また、同時期に多くのライバルが登場し“羽生世代”が将棋界を席巻したこともありました。
そんな羽生善治のライバルの一人と称されながらも、病により早逝した村山聖。彼の短くも鮮烈な人生を描いたのが、松山ケンイチ主演で2016年に公開された『聖の青春』です。
奨励会入会からプロ入りまでの2年11か月という期間は、羽生善治や谷川浩司を上回る異例のスピードでした。“東の羽生、西の村山”として期待されていましたが、幼いころから病気がちだったことと1997年に癌に罹患したことで活動を縮小、そのまま翌年の1998年の夏に29歳の若さで亡くなりました。
主演の松山ケンイチは20kg増量して本作に挑みました。
『3月のライオン』
『るろうに剣心』5部作(2012,2014,2021)や『レジェンド&バタフライ』(2023)で知られる大友啓史監督によって、2部作として作られたのが2017年の『3月のライオン』。
「ハチミツとクローバー」などで知られる羽海野チカのベストセラーコミックを映画化したもの。前後編の作品ということで原作のエピソードを拾いつつも、ていねいな人間ドラマになっています。
主人公の桐山零を演じるのは神木隆之介、有村架純や倉科カナ、染谷将太、加瀬亮に加えて清原果耶や新津ちせの最初期の作品でもあり、脇を見れば中村倫也や高橋一生までいるという、見ているだけでも贅沢感のある映画です。原作同様、さまざまな棋士のバックグラウンドまで、ていねいに描かれています。
サスペンスやアクション、時代劇大作の多い大友啓史監督作品のフィルモグラフィーの中では異色の作品ですが、NHKのディレクター時代には「ちゅらさん」(2001)を手掛けたこともあるなどこういうホームドラマテイストの映画もお手の物です。
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これらの映画以外にも、奨励会退会後、強豪のアマチュア棋士として活動したのちに、前代未聞のプロ編入試験に合格した瀬川昌司プロの自伝を松田龍平主演で映画化した『泣き虫しょったんの奇跡』(2018)などがあります。
静かな盤上の裏で展開される、凄まじい心理戦と頭脳戦が展開される将棋。将棋界を娯楽作品として映像化するのは決して簡単なことではありません。
しかし、それを乗り越えてきたこともあって将棋映画は、本数こそ多くないものの、クオリティはいつも高いイメージがあります。海外ですとチェスや囲碁の映画もありますが、これもなかなか拾いモノ作品が多いので、将棋映画を入口にそちらにも手を拡げていただくのもよろしいかと思います。
(文:村松健太郎)
