2018年の厚生労働省によるモデル就業規則の改訂や、コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの浸透。これらによって、複業を解禁する企業や複業を検討する個人が増加しています。こうした複業人材を採用したい企業と複業したい個人をつなぐのが、複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」です。
「複業クラウド」を開発・運営する株式会社Another worksは、代表取締役の大林さんと取締役CTOの塩原さんによって共同創業されました。このとき塩原さんは、新卒2年目の24歳という若さでした。それから4年が経ち、Another worksの社員数は50人規模までに成長しています。社員が増えてきたころにプロダクトチームでは独自のミッション・バリューを決め、メンバーそれぞれが目的に向かっています。
塩原さんに「副業」と「複業」の違いや、プロダクトチームについてうかがいました。
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目次
新卒2年目、24歳のときに会社を共同創業
――塩原さんは新卒2年目24歳のときに、会社の先輩だった大林さんとAnother worksを共同創業されました。なぜ起業しようと思ったのでしょうか?
塩原:
率直におもしろそうだと思ったからです。もともと僕自身、複業という働き方を広めていきたい、労働力人口の減少による社会課題を解決したい、という想いを持っていました。ゼロからプロダクトをつくってみたいとも考えていたので、いいチャンスだと思いました。
――複業のマッチングプラットフォームはいろいろとあります。複業クラウドの強みや特徴を教えてください。
塩原:
複業クラウドは、複業したい個人(タレント)と企業や自治体をつなぐ複業マッチングプラットフォームです。特定の職種に限らず、全職種で複業ができる総合型プラットフォームという特徴があります。
もう1つの特徴が、企業と直接契約できることです。求人へ直接エントリーできるので、中間マージンがかからず、原価で案件を受けられます。タレントの登録は無料で、企業からのスカウトが届くこともあるので、登録するだけで複業機会を最大化できます。企業側は毎月定額料金で求人掲載でき、採用が実現しても成約手数料はかかりません。
他のサービスでも、一部こうした特徴のあるところはありますが、複業クラウドの強みは圧倒的なトランザクションにあります。タレントと求人のマッチング数が多いんです。
なぜマッチング数が多いのかというと、間に人が入らないのでやり取りがスムーズだからです。エントリーしたら企業と直接やり取りできます。
もう1つの理由が求人のクオリティの高さです。企業に対して求人のつくり方を発信していますし、クオリティの高い求人が上位に表示されるようなシステムになっています。
しっかりとマッチングが成立する仕組みになっていることが、マッチングプラットフォームである複業クラウドの強みです。
「複業」は金銭報酬だけでなく、感情報酬と経験報酬も目的
――「副業」と「複業」という言葉があります。漢字が違いますよね。意味はどう違うのでしょうか?
塩原:
「副業」は主目的が金銭報酬にあります。一方の「複業」は金銭報酬だけではなくて、感情報酬や経験報酬など、複数の目的を持っています。
たとえば、自分の応援する自治体やスポーツチームに貢献したり、大企業で働いている方がスタートアップで新しいことに挑戦したりなどです。転職して本業にするにはリスクがあっても、複業ならリスクを軽減できます。
受け入れる側の企業にとっては、コストをかけずに即戦力人材の採用が可能です。
将来的には、1人が2-3社に所属するのが当たり前になっていくと思います。そうした世の中になることを見越して、挑戦するすべての人の機会を最大化し、誰もが複業できるようなプラットフォームをつくっています。
――コロナ禍の影響でリモートワークが普及しました。これによって複業する方も増えましたか?
塩原:
増えましたね。リモートワークが普及したことは結構大きいと思います。複業するために出社を求められると、本業終わりに移動しないといけないのでなかなか難しいですよね。リモートワークであれば出社する必要がないので、複業をする時間も確保できます。
プロダクトチーム独自のミッション・バリュー
――会社のミッション・バリューとは別で、プロダクトチーム内のミッション・バリューがあるとうかがいました。どのようなものか教えてください。
塩原:
正社員を採用しはじめた2021年の5月ごろに、プロダクトチームのミッション・ビジョンを決めました。チームとして大事にしたいことを定義しようと考えたんです。ゼロから考えたというよりは、普段から大事にしていることをチーム内でブレストして言語化しました。
プロダクトチーム内のミッションは「プロダクトの力で、人の世界を広げる」。バリューは
「Wired in 熱中せよ」 「All are Owners 全員がオーナー」 「Make Harmony 調和を目指して」です。
バリューの「Make Harmony 調和を目指して」だけは少し異質で、チームというよりはマッチングプラットフォームを運営するうえで大事な考えを言語化しています。
ミッションやバリューは、言葉によく出すようにしています。掲げているだけだと忘れてしまうので。
――マッチングプラットフォームを運営するうえで大事な考えとはなんでしょうか?
塩原:
複業クラウドは、企業からはお金を支払ってもらっていますが、タレントからはいただいていません。マッチングプラットフォームは、どちらかがお金を支払って、どちらかは支払わないパターンがわりと多いです。
そうなると、お金を支払っているほうをどうしても優先してしまいます。でも、複業クラウドでは、どちらかの要望がどちらかを不幸にするような機能は、絶対に実装しません。
それはマッチングプラットフォームというのは、両者がいて成り立つものだからです。優先度をつけずに、どちらも大切にしようという考えを明文化したものが、「Make Harmony 調和を目指して」になります。
――バリューのなかに「All are Owners 全員がオーナー」 があります。全員がオーナーシップを持つ組織をつくるためには、どうしたらいいと思いますか?
塩原:
自分のやりたいことを提案したときに、オーナーとしてやってもらうことを徹底しています。そうすると、「オーナーシップさえ持てばやりたいことを実現できる」と思ってもらえます。オーナーシップと裁量をセットにすることを徹底しているんです。オーナーシップだけあって、裁量がないのはつらいですよね。
エンジニアのメンバーが、入社して2か月くらいで「LT(ライトニングトーク=短時間のプレゼン)会をやりたい」と提案してくれました。そのままLT会のオーナーをやってもらい、いまでは100名規模の共催イベントを開けるまでになっています。
CTOとして技術選定する際に大事にしていること
――プロダクト開発はどのような技術を使って開発していますか? その技術を採用した理由も教えてください。
塩原:
現在は、Node.js ・Next.js・Typescriptを使って開発しています。開発当初は、早期にプロダクトを立ち上げるため、RailsとVue.jsを使って開発していました。当時はそれほど複業が普及していない状態でしたが、今後必ず世の中に広まると信じていました。先が読めないなかで、まずは最短でリリースして、価値検証できるようにRailsを採用しました。
それから2年くらいが経ち、複業が世の中に浸透してきたタイミングで、複業クラウドが長期的なプロダクトになるなと確信できたんです。そこで、より安定的に開発できるTypescriptを選択し、載せ替えました。
――CTOとして技術選定する際、大事にしてきたことを教えてください。
塩原:
技術選定に関しては、憧れと感情を捨てる必要があります。「有名な企業があの技術を使っているから、自分も使ってみたい」「新しい話題の技術を使ってみたい」という考えは、なるべく排除します。
個人として勉強するとか、個人でつくるプロダクトであれば別にいいんですけどね。
なにを解決したいのか。それを解決するためには、なにが最適なのかが大事です。そのために、憧れと感情を捨てて技術戦略の意思決定をする必要があります。
もう1つ大事にしているのが「スタンダードを意識する」ことです。技術戦略の意思決定においては、独創的な発想はいらないと思っています。
スタンダードではない技術を使うと、メンテナンスが大変ですし、新しく入ってくる人も対応できない可能性があります。「これってスタンダードなんだっけ?」と常に意識するようにしています。
(取材/文:川崎博則)
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