「心もつながる」場と機会の創造。

株式会社MIXI(以下、MIXI)が掲げるミッションだ。Webを通じて、コミュニケーションが遥かに容易になった現代。一方で、物理的な距離にかかわらず、心を通わせることの難しさが以前よりも鮮明になったのもまた事実だろう。

コンテンツやプロダクトを通じて豊かなコミュニケーションが生まれ、「心もつながる」サービスを展開するのが同社だ。そのためには、サービスを開発し、会社を支える一人ひとりの人材が自社のミッションを体感していることが求められる。

MIXIのエンジニアはどのような働き方をし、開発組織はどのようなあり方を志向しているのだろうか。その疑問を探るため、同社執行役員CTOの吉野純平さんを訪ねた。

※組織体制等の記述は取材時点(2024年1月)に基づく

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吉野 純平氏 株式会社MIXI 執行役員CTO

筑波大学大学院修士課程修了。2008年4月に新卒エンジニア職で株式会社ミクシィ(現MIXI)に入社。同社SNS「mixi」のインフラ、アプリ運用などを担当後、「モンスターストライク」のインフラネットワーク全般の業務に加え、幅広い新規事業のインフラ支援にも従事。
その後、物理インフラ、サーバ運用、ネットワークから映像処理や撮影などのIP通信に関連する開発・運用を手がける。
2019年5月にはインフラ室の室長を担当。2022年4月に開発本部 本部長として多数のプロジェクト、エンジニアのマネージメントに従事し、2023年4月執行役員 CTOに就任。

従業員の約25%を占めるエンジニア組織

国産汎用SNS「mixi」をはじめ、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」やひっぱりハンティングRPG「モンスターストライク」など、MIXIが提供するプロダクトは幅広い。

MIXIでは現在、主な事業領域を「スポーツ」「ライフスタイル」「デジタルエンターテインメント」の三本柱と定める。エンジニアの総数は約300名、全社のおよそ25%を占めているという。まずは同社の開発組織の構成について、吉野さんにうかがった。

「300名のうち80名は開発本部にいて、残りのメンバーはプロダクトごとに配置されています。スポーツやライフスタイル、デジタルエンターテインメントの3つの領域には、それぞれ1つか2つの本部を設置し、各プロダクトごとにチームを組成しています。

開発本部は特定のプロダクトに所属せず、SREやQAなどのグループを擁するCTO室をはじめ、事業横断型で技術支援をおこなう組織となっています」

多様なプロダクトを開発し、約300名ものエンジニアを擁する同社の場合、マネージメントは非常に難しいように思える。実際、IT企業ではリモートワークからオフィスワークにシフトする事例も散見される。開発生産性やコミュニケーションの不均衡を課題視するためだ。

では、同社ではどのような働き方をとっているのだろうか。

「オフィスとリモート」の垣根を払う新たな働き方

2022年4月。MIXIではより多様な働き方を受容し、オフィスワークとリモートワークを融合した新しい働き方「マーブルワークスタイル」を正式に制度化した。同制度では部署ごとに最適な出社回数をそれぞれの状況に合わせて選択でき、フルリモートも可能としている。また、条件付きで日本全国どこでも居住可能としており、交通手段も新幹線や飛行機など範囲を拡大し、交通費は月に上限15万円まで支給する。

マーブルワークスタイルはコロナ禍の2020年7月から試験運用を開始し、2年弱のブラッシュアップを経て制度化されたものだ。さらに、2023年4月からは制度を拡大。一定期間オフィスと自宅以外の場所で働ける「マーブルロケーション」を策定した。

「開発組織としては、なにか問題が起こった際のリスクマネージメントとして、コロナ禍前から自宅からでも仕事ができる体制は整えていました。なので、エンジニアにとってオフィスやリモートといった働き方の区別はもともとなかったように思えます。

ただ、とくに経験を積んだエンジニアの場合は、自身のキャリア形成に重要な時期と育児や介護などのライフイベントが重なり、働き方に悩むケースは多いです。そういったときにマーブルワークスタイルのように明文化された制度があるのは非常に効果があると思います。現に子育てや介護の両立のため移住した方もいれば、地方に在住している優秀なエンジニアを採用できた実績が生まれているので、採用面での貢献も大きい制度です」

MIXIではマーブルワークスタイルおよびマーブルロケーションの効果から、現在さらに制度を拡充しコアタイムを廃したフレックスタイムの試験運用をおこなっている。

オフィスワークやリモートワークという垣根を払い、一人ひとりのワークライフバランスとも調和しながらMIXI全体の成長につなげていく。つまり無理に企業への方針に染めるのではなく、渾然一体となり多様な「機会と場」を創出するようなマーブル模様のあり方を同社は志向しているのだ。

実際、その効果は企業だけでなく当事者である従業員も実感している。同社では制度導入後、働き方に関するアンケートを実施したが、現状の働き方に満足しているメンバーは非常に多く、生産性も大きな変化はなかったという。

働き方の変化に合わせた人事評価制度の見直し

しかし、オフィスとリモートのフレキシブルな働き方は多くの企業が追求しているが、一方でアジリティを意識するIT企業であっても実現しきれていない場合が多い。その要因の多くは人事評価制度と実態としての働き方との整合性が合わなくなっているものの、働き方の多様化に対して公平な制度のあり方を策定するのが困難な点にある。MIXIではどのように対応しているのだろうか。

「人事評価については、当社でも人材の多様化にこれまでの制度では対応しきれていないという声があがりました。そのため、マーブルワークスタイルが正式に制度化された2022年4月に、新しい人事評価制度もスタートしました」

ただ、これはもともとあった制度を必要な箇所だけアップデートするという形をとっているという。現在の同社の人事制度については、半年ごとのサイクルで人事評価をおこなう。具体的には行動評価のコンピテンシー評価、目標管理のコミットメント評価を併用した形だ。

「コンピテンシー評価は基本給の改定に用いるもので、各等級の定義を踏まえて事前に今期の成長課題を決め、個々の行動について評価シートを確認するようになっています。新しい制度ではMIXIでの働き方や人材によりフィットするよう等級定義を具体的にし、細分化したのが主な変更点です。

コミットメント評価は、賞与の支給係数の決定に用いるもので、期初に基準を設定し、期末の成果で評価を決定するものになっています」

多様性を受容した働き方の制度化や人事評価制度の見直しにより、同社の全体での働きやすさやEX(従業員体験)は格段に向上した。それは対外的な指標からみても如実に表れている。

「2024年1月にクレジット・プライシング・コーポレーション社とオープンワーク社がおこなった『働きやすさスコアランキング』で、MIXIは1位に選出されました。これはオープンワーク社に寄せられた口コミを定量化したものなので、退職者の口コミも多いと思います。

そのような中で当社がもっとも高いスコアだったことは、全社的に働き方や人事評価のあり方を追求してきたからだと考えています。

当社の場合、一度退職した人材が『もう一度MIXIで働きたい』と戻ってきてくれることを歓迎しており、実際直近でもエンジニアも迎え入れています」

では、MIXIの開発組織では具体的にどのような人事評価がおこなわれるのだろうか。

「部署ごとに細かい違いはありますが、原理原則でいえば役割をミッションとしているメンバーの場合は事業成績の比重が大きくなります。そうではない新卒やジュニア層など育成段階からステップアップしていくメンバーの場合は、個人の成果や行動に重きを置かれている印象です。

もちろん、部署ごとに具体的な成果などの定量的な評価もありますが、プロダクトの方向性を変えるための大きな改修作業など、売上や利益などの定量評価では表せない貢献もあります。そのような貢献度や定性的な評価も含めて、一人ひとりのエンジニアを公平に評価できる開発組織を志向していますね」

「やりたいことに挑戦できる」柔軟な開発組織のあり方

一度退職したエンジニアがまた戻りたいと思える企業。MIXIがそう思われるのは、エンジニアのキャリアにとって有意義なDX(開発者体験)を提供しているからにほかならない。

「当社の採用ポリシーは『チャレンジする人にはチャンスがある』。開発組織のあり方としても、それを体現するものでありたいと考えています。開発本部にも新たなチャレンジがあり、各事業のマネージャーやプロダクトに属するエンジニアでもチャレンジしている部分もあります。

そうした組織全体やプロダクトごとのチャレンジをしっかりと後押しすると同時に、一人ひとりが持つやりたいことやできることをマッチングし、うまくローテーションできるような組織を志向しています。

それこそ、当社では新規事業を立ち上げるときもあれば、事業を閉じることもあります。そういった場面になって急に組織のあり方を変えることもできません。企業だけでなく、人材にとってもチャレンジでき、うまく気分転換できる人材配置や働き方が重要だと考えています」

働きやすさもさることながら、業務を通じたチャレンジを奨励する。それはエンジニアとしての新しい技術の習得やキャリア形成にもつながるものだ。同社では募集要件を社内に公開し、新たなミッションにチャレンジできる機会を提供する社内公募制度も活発だという。そのような社内でのローテーションを実現するために、同社では各事業やプロダクトごとに技術スタックを揃えているのだろうか。

「意図的に揃えているわけではありませんが、あまりにも尖った技術を使ってしまうと新しいメンバーをアサインするときに効率が悪くなってしまいます。基本的には個別最適を求めていますが、プロダクトをつくる、あるいは組織をつくるとなったときに、『これを使っておけば間違いはないよね』というものはあります。

もちろんビジネス要件から抽出したものであれば新しい技術にも積極的にチャレンジしてほしいと思っていて、その判断も基本的にはそれぞれの領域の判断に委ねています。たまに私に相談が来ることもありますが、どちらかといえばツールの選定や導入に関する費用について相談されることの方が多いですね」

より活発なコミュニケーションを生み出す仕組みをつくる

『豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。』

マーブルワークスタイルと新しい人事制度に先がけて、MIXIは2022年1月に上記のパーパス(存在意義)を含めた新たなコーポレートブランドを策定した。同社がそれぞれの事業領域で展開するプロダクトの特徴は、まさにコミュニケーションに着目し、差別化を図っている点にある。ただプロダクトの利用を促すだけなく、プロダクトを起点に「心もつながる」。

そのような同社の価値を生み出すのはまさしく開発組織であり、吉野さんがCTOに就任してから約10か月弱の間にも、成長へと歩みを進めている。今後吉野さんが組織形成において重視する点について聞くと、その答えは意外にも「コミュニケーション」だと語る。

「当社はDevRelの頑張りもあり、社内外のエンジニアとのコミュニケーションは比較的うまくいっていて、ありがたいことに採用も順調です。一方で、当社のパーパスやミッションを実現し続けるためには、エンジニア同士での交流の機会をもっと増やしていきたいと考えています。

現在は四半期ごとにエンジニア全員が集まる会を設けたり、小さなものでは勉強会やLT会が自主的に実施されています。このようなエンジニア同士が集まって、コミュニケーションをとりながら横の連携を深める機会を増やしていきたいんです」

エンジニア間のエンゲージメントをより強化することで、事業間でのシナジーを生むと同時に、リモートワークのメンバーでもスムーズに連携できる体制を構築するのが狙いだという。そのため、吉野さんはエンジニア間のコミュニケーションを促進しつつも、仕組みによっても改善を図っていくという。

「もっと人にものを頼むのをうまくやれるように、技術を使っていきたいと考えています。たとえば、リモートワークに限らず、人に作業を頼みたいときに相手が知らないことをうまく補足できないケースもあって、齟齬が生まれることもあります。そういったコミュニケーションは仕組みで解決したいと考えていて、現状メンバーをアサインして動き出そうとしているところですね。

同時に、開発組織全体で『豊かなコミュニケーション』を広げていくためには、一人ひとりのエンジニアの余力を生み出すことも必要です。そのため、現在は並行して開発効率を上げていく取り組みも試験的におこなっています」

最後に、吉野さんがCTOとして目指す開発組織の姿について聞いた。

「当社は『発明』『夢中』『誠実』の3つのバリューを定義しています。私としては、エンジニア全員が一丸となってワクワクしながら開発し、お客さまにバリューを発揮していくことで、パーパスやミッションを実現していきたいですね」

取材後記

マーブル(Marble)は大理石を意味し、語源はギリシア語のmarmaros(「光り輝く石」の意)だ。数千年にわたり建築物や美術作品に利用されてきた大理石は、貝や動物の化石が積み重なった石灰岩が、長い年月をかけて地中でマグマの熱や圧力を受けながら再結晶化されることでできる。そのため、大理石は産地によって独特の色味や縞模様を描き出す。まさに地球が生み出した芸術といえるだろう。

MIXIの働き方はまさに「マーブル」であり、リモートとオフィスという言葉の隔たりを用いないこともまた、同社が持つコミュニケーションへの敬意、そして一人ひとりへの人材に向けた敬意の証左となっている。

社会は変わる。働き方も変わっていく。しかし、そのような変化を受容しながら磨かれていくものもあるだろう。それこそが企業であり、同社もまた時代の変化を研磨剤としながら、自ら輝きを増していっている。

多様な色が交わり、渾然一体になりながら美しい紋様を描く「光り輝く会社」こそ、永いときを経てもなお人々に愛される企業の姿なのだろう。

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(取材/文:川島大雅、撮影:野田涼

― presented by paiza

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