セキュリティ担当の社内SEをやっています。何回か転職して、現在4社目です。何社も内情を見ていくうちに、わたしは「どこでも結構古い技術を使っているんだな」と気が付きました。

古くても有効な技術はポジティブな意味で「枯れた技術」と呼ばれて、長く使い続けられます。たとえば、本文で紹介するTCP/IPという通信技術は、登場から何十年も経っているにもかかわらず、いまだに現役で広く使われています。

IT技術は日々進化していますが、根幹は枯れた技術を使っているのです。

今回は、枯れた技術を勉強することによる、わたしなりのメリットを紹介します。

なにかIT系のテーマを勉強しようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。

古いシステムを使い続ける企業も珍しくない

企業の規模に関係なく、古いシステムを使い続けている企業は珍しくありません。

前述の通り、わたしは4社に在籍した経験があります。そのうち3社で何年も前に公式のサポートが終了したWindowsXPやWindows7、WindowsServer2003のいずれかを使用していました。

古いOSを使い続ける代表的な理由は以下の通りです。

  • 業務に使うソフトウェアが最新OSに対応していない
  • PCをリプレイスするのに大きな手間がかかる
  • 安定稼働している今の状態を崩したくない

業務に使うソフトウェアが、最新OSに対応していない可能性があります。

通常、OSが新しくなるとソフトウェアの開発会社が検証をして、不具合がないようバージョンアップします。

しかし、どんなソフトウェアもバージョンアップされるわけではありません。開発会社が倒産していたり、もう手を引いているといったケースもあります。

次の懸念点は、PCのリプレイスにかかる大きな手間です。

古いPCだと、最新OSの安定稼働に耐えられるだけのスペックを持っていない可能性があります。

社内SEは何台のPCがリプレイス対象か確認し、報告書を作り責任者に話し、予算をとり、発注して納品されたら入れ替えます。

リプレイス時も業務が継続できるよう工夫しなくてはいけません。経過観察をして不具合がないかチェックする必要もあります。

さらに、安定稼働している今の状態を崩してまで新しいOSを導入するのか?という意見も多くみられます。

IT担当の考えでは、サポート切れのOSはセキュリティリスクが高いため安定稼働より入れ替えを優先しなくてはいけません。しかし、入れ替えによるトラブルを考えると、現場からの理解を得ることはなかなか難しいのが現実です。

なお、古いOSがなんでも使われるわけではありません。

わたしの経験上、Windows VISTAやWindows8はほとんど残っていない印象があります。

両者は重かったり使いにくく、当時から評判がよいとはいえませんでした。

WindowsXPやWindows7などは、性能がいいからこそ淘汰されず今でも使われています。

古いシステムはセキュリティ対策されて使い続けられる

サポート切れしている古いシステムを使い続けるには、セキュリティ面でリスクがあります。

穴が開いた決して修理されない盾で防御しているようなもので、容易に防御を突破されてしまいます。

インターネットに接続しなければ古いシステムでも問題ありません。しかし、まったくインターネットを使わないというのは、なかなか現実的ではない場合が多いでしょう。

そこで、閉域ネットワークを構築して外部からアクセスできなくするといった、特別なセキュリティ対策が必要です。

外部ネットワーク環境と完全に隔離することで、攻撃者の外からのアクセスをブロックします。

このように、古いシステムは入れ替えるばかりでなく、安全な使い方で残り続けることもよくあります。

枯れた技術を学ぶメリット

古いシステムと同じように、技術も有効なものは残り続けます。広く長期間使い続けられ洗練されていく、いわゆる「枯れた」という状態です。

新しい技術の習得は大切ですが、わたしは、技術への理解を深めるためには枯れた技術の勉強が重要だと考えています。

枯れた技術は新しい技術の根幹になっているケースが多いです。IT系に限らず、なんでも根幹から学ぶと技術の理解が早まります。

学ぶことで得ることの多い技術の1つとして、TCP/IPがあります。TCP/IPはコンピュータのネットワークで広く使われる通信プロトコルです。1974年に最初の仕様が公開されました。無料で誰でも使えること、シンプルな仕組みであるなどの特徴があります。

かつて、さまざまな独自規格の通信プロトコルが乱立していました。しかし、独自規格だと、違うメーカー間ではプロトコルが違うので通信できず、使い勝手がよくありませんでした。

そこで、無料で誰でも使えるTCP/IPが普及していき、シンプルで使いやすいこともあって、誕生から何十年も経過した現在でも広く普及しています。

Webサイトの表示やメールの送受信、ファイル転送など多くのことがTCP/IPによって実現されています。

IoT、クラウド、VRなど、わたしたちの生活にわかりやすく入り込んでいる技術に比べて目立たないかもしれません。しかし、なんらかの通信が発生するところには、ほとんどTCP/IPが関わっています。

通信というとネットワークエンジニア向けかと思うかもしれません。しかし、Web系エンジニアにとっても、TCP/IPの勉強はオススメです。

たとえば、HTMLやCSS、JavaScript、画像ファイルをサーバからダウンロードする際に通信が発生します。TCP/IPを学ぶことで、ブラウザとサーバ間がどのような通信をしているかがわかるため、サイトの表示速度の改善につながる可能性があります。

また、2013年にGoogleがTCP/IPの後継を狙う通信プロトコル「QUIC」を公表しました。しかし、システムは簡単には置き換わらないことを考えると、まだまだTCP/IPが使い続けられると、わたしは予想しています。

TCP/IPをはじめとした枯れた技術は広く使われているだけあって、参考書や解説のWebサイト情報が多くあり、非常に学びやすいと思います。

長く使い続けられているものには、その理由がある

枯れたシステムや技術として、Windowsの旧OSやTCP/IPを紹介しました。

長く使い続けられているものは、使いやすかったり信頼性が高いなど、淘汰されない理由があります。

後継となる技術が出てきても、簡単には置き換わりません。

枯れた技術には、それを解説する参考書やWebサイトなどが多くあります。勉強しやすく、困ったときも解決に導きやすいでしょう。

学ぶ価値が高く応用も効きやすい技術ですので、ぜひ勉強してみてください。

(文・藤井 宏治

― presented by paiza


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