「ヘッドハンター」と聞いて、どのような仕事を想像するだろうか?
一般的には、あまり馴染みのない職業かもしれない。映画やドラマのなかでは聞いたことがあるかもしれないが、実在しているヘッドハンターと関わることは、日常ではほぼないだろう。
今回は、ヘッドハンターである渡辺紀子氏にインタビューを実施した。取材では、ヘッドハンターという仕事から、相手を知るためにはどのような部分に注目するのかについて語ってもらった。馴染みのない職業ではあるのだが、意外にも身近な場面に通ずる部分が多かったことに筆者は驚いた。
特に、組織管理や人材採用に携わる人にとっては、参考になることも多いだろう。ぜひ、渡辺氏の言葉で語られる“人を知ること”についての考え方を知ってもらえると幸いだ。
同日インタビューの記事:
ヘッドハンターの日常とは?渡辺紀子が人生で意識している7つのルール

渡辺紀子
東京大学中国文学科を卒業後、豊田通商にてキャリアをスタート。女性初の駐在員として中国・北京に5年間派遣され、中国企業との合弁会社2社の立ち上げ、経営に関与。その後縄文アソシエイツ入社。日系企業をクライアントとして、さまざまな業界のヘッドハンティングに従事。現在、エグゼクティブサーチ会社ハイドリック&ストラグルズの東京オフィスにて、パートナーとして日系企業を担当。大手企業から成長企業、中堅オーナー企業、ベンチャーまでを幅広くカバー。またジャパンデスクとして、あらゆる産業界の案件をこなす。
目次
ヘッドハンターの仕事とは?
──まず、ヘッドハンターという仕事について教えてください。
渡辺:ヘッドハンターは、人材紹介会社と似ている仕事だと思われることが多いんです。でもこの2つには、明確な違いがあります。それは、“必ずしも転職を考えていない人を転職に誘うところ”です。
一般的に人材紹介会社は、すでに仕事を求めている状態の人が登録しますよね。それに比べてヘッドハンターは、クライアントから「こういった人材を探してきてほしい」という案件を受け、その案件に見合った人を探すのが仕事です。私の場合は、クライアントにいつどんな要望を提示されても、常に4〜6人ほど候補者の方をすぐにご提案できる状態にしています。
──“人脈”がかなり重要になってきますね。
渡辺:そうですね。そのため私は案件がないときでも、自分が優秀だと感じた人には常にコンタクトをとるようにしています。普通は案件が発生してから候補者の方をリサーチをすると思うのですが、私は案件の有無にかかわらず、日ごろからビビッときた方には会いに行っていますね。
常に新しい情報を仕入れて、候補者の方をご提案できるところが私の強みだと思っていますし、人との出会いに無駄なものはないんです。私は年間約2000人ほどの方とお会いするのですが、案件ありきでお会いするのはそのうち半分くらいじゃないでしょうか。
──1年で2000人と会っているんですか!? それはすごいですね……。
渡辺:人と会う以外にも、私自身なにかを学んだり、新たな知識を吸収することが好きなので、時間はいくらあっても足りません(笑)。
──渡辺さんは、どのようにして新たな人材を発掘しているのでしょうか?
渡辺:リサーチの手段は多岐に渡ります。人事発令は毎日チェックしていますし、新聞やWeb記事、ときにはテレビ番組から情報をキャッチすることもありますね。
会話を“立体的”に見る

──渡辺さんは、どうしてヘッドハンターになったのでしょうか?
渡辺:最初は豊田通商に務めており、中国で経営に携わっていました。ただ、社内でジョブローテーションをする必要があるので、中国に駐在をすることが難しくなったんです。ただ個人的に中国はすごく好きな国だったので、まだ日本に帰りたくなかったんですよ。そのタイミングで、親友がエグゼクティブサーチファームの会社を紹介してくれました。「中国にまだ住めるなら」という理由で、その新しい会社に飛び込んだんです。
それからその会社の社長が、いろんな現場に私を同行させてくれました。そこで話の進め方や考え方を学んだんです。いま振り返れば、あの1年くらいがヘッドハンターとしての修行期間だったのかなと思いますね。当時は、社内で“ひと月で100件のアポを行う”という目標があり、在籍していた4年半もの間、出張時以外はずっとその目標を達成し続けていました。その経験は、いまの力になっていますね。
──現場に同行していた社長さまは、どのような方だったのでしょうか?
渡辺:そうですね……。“質問力が高い”人でした。自分が持っているものと、相手が持っているもの、いま話していることを把握して、会話を立体的に見る人だったんです。だからこそ、ふとしたタイミングで相手におもしろい質問を投げかけられたり、ハッとするような話の切り替えができたりしたんだと思います。
都度会話の局面に合わせて脳内の引き出しをいくつか開け、「今度はこのボールを投げてみよう」という選択を常に行っていましたね。この考え方は、いまのヘッドハンターの仕事に大きく影響していることでもあります。
──印象に残っている“教え”はありますか?
渡辺:「物事を見る角度の鋭さと、その刃の切れ味を見ているんだ」と言っていたことですね。物事を見る角度の鋭さというのは、ひとつの物事をさまざまな視点から見るということです。高いところから俯瞰的に見る視点も、自分に近いところからの視点も持っていて、事象を立体的に捉えているのかを観察していたんだと思います。
刃の切れ味というのは、言葉の使い方や話し方にキレがあるかどうかということです。アナロジーを感じるような回答ができたり、的確な比喩表現などを使って相手に伝えられたりするのかどうかも見ていたと思います。
過去の経歴は「ストーリー」と「変換点」に注目する

──面談をする前には、どういった準備をしていかれるのでしょうか?
渡辺:まずは相手のことをリサーチします。ポイントとしては、「業界」、所属している「会社」、そして「本人」についてですね。
「業界」は、時代の変化に合わせて現状のリサーチをします。たとえば、いま急成長しているフィンテック業界や、動きが激しい半導体業界などは刻一刻と状況が変わっていますよね。相手の業界の最新情報は、必ずチェックしています。
「会社」についてはすでにだいたい把握しているのですが、新しいベンチャー企業の場合などはしっかりと調べます。業界の現状や所属している会社のことがわからないと、相手がその世界でどのような立ち位置にいるのかが掴めないので、リサーチは重要です。
──相手の経歴書に関しては、どのような部分に着目しているのでしょうか?
渡辺:経歴書を見るときは、“ストーリーと変化点”に着目します。たとえば、ひとつの会社、もしくは同じ部署に長く在籍していたことがあれば、それはなぜなのかといった背景を自分なりに考察します。またその期間に、どのような成果や取り組みをしたのかについても着目します。
変化点で注目するのは、転職した部分ですね。なぜ転職するに至ったのかの仮説を自分のなかでいくつか立てて、実際にお会いしたときにその説が合っているのかどうかの答え合わせをします。あとは、失敗経験も変化点になると思います。失敗し、そこからなにを学んで、どう成長したのか、どの部分がいまに活きているのかに関心があります。
──なるほど。ちなみに、新卒で入社した会社については、そこまで着目はしないのでしょうか?
渡辺:新卒の時点で明確な理由をもとに就職先を決める人はあまり多くないので、そこまで重要視しませんが、ひとつ言えるのは「1社目の色は残る」ということです。明確な入社理由があってもなくても、最初の3年間でなにを学んだのかによって、後から出てくるその人の色が決まります。
雑談から掴む本来の姿

──面談を行うときには、どのように進めていくのでしょうか?
渡辺:決まった手順はないのですが、“雑談”から入ることは多いですね。たとえば、化粧品会社に勤めている方であれば、「DHCがオリックスに巨額買収されましたが、どう思いますか?」といった、相手の業界に通ずる質問を投げかけます。業界に関する情報に、普段からどれだけアンテナを張っているかをそこで判断しますね。いま自身が行っている仕事のことだけではなくて、もう少しマクロな視点を持っているかどうかが、雑談によってわかると思います。
──普段から情報をリサーチしているかどうかが試される瞬間ですね。
渡辺:そういった雑談から投げかける質問は、相手の本来の姿を映し出す手段にもなります。あとは「地頭」を測るために、少し難しい質問をあえて聞いてみることもありますね。
──地頭ですか?
渡辺:面談には、5つのポイントがあります。1つは「地頭」、2つ目が「エネルギー」、3つ目が「可愛げ」、4つ目が「運の良さ」、5つ目が「好奇心」です。
地頭については、相手の方のバックボーンがヒントになっていることが多いです。高校時代のお話をお伺いすると、どのような過程を経て地頭が形成されたのかがわかりますし、人となりも把握できます。学生時代に誰とどんなことをして、どんな道を歩んできたかを聞くことで、いまにつながる情報が発見できたりするんです。

──渡辺さんが思う、地頭がいい人とはどんな人でしょうか?
渡辺:具体的な視点と抽象的な視点を行ったり来たりできる人です。たとえば、相手が話していることを自分ごとに置き換えて話せたり、もしくは俯瞰して考えて返せるような人ですね。多角的な視点を持っているかどうかを測るために、難しい質問を投げることもあります。
そういった視点を持っていない人は、難しい質問を聞かれたときにうまく捉えられず、ズレた回答をしてしまうことがあります。それに比べて地頭が優れている人は、聞かれたことがたとえわからないことでも、しっかりと受け止めて相手の真正面に答えを返してくるんです。
──ちなみに、4つ目のポイントである「運の良さ」とは、どういうことでしょうか? 運の良さは自分ではどうしようもないように感じますが……。
渡辺:たしかに運はどうしようもないことではあるのですが、運がいいと感じる人は、こちらも転職をお手伝いしたくなるし、おそらく次の会社でもうまくやっていけるんじゃないかと思わせてくれるんです。自分に起きた出来事をポジティブに考えられる人は、周りの人に「助けよう」「協力しよう」と、思わせる力があると思います。
──ありがとうございます。最後に、コロナ禍だったこともありオンライン面談が増えてきたかと思いますが、対面の面談との違いはあるのでしょうか?
渡辺:正直優秀な方であれば、オンラインでも対面でも関係ありません。オンライン上でも、言葉を介してその方の実力は伝わってきます。逆に、当落線上の立ち位置にいらっしゃる方の場合は、こちら側の判断材料がたくさん必要になるので、オンラインだと見極めるハードルが高くなりますね。

おわりに
渡辺氏の面談の極意を聞いて感じたのは、“多角的な視点”を持っている人は業界に限らず強いということだ。限られた視点でしか物事を見ることができない人は、仕事におけるアイデアや円滑なコミュニケーションなど、多くの場面でズレを生じてしまうのだろう。これは、現状転職を考えていない筆者でも、かなり勉強になる部分だった。
ヘッドハンターでいう成功とは、紹介した相手が入社後に成果をあげ、クライアントを満足させることだろう。そのためには、相手を分析し見抜く力はもちろん、さまざまな業界や会社の知識も必要になる。
今回は面談をテーマに取材をしたが、別記事では、渡辺氏のそこ知れぬ知識がどこから生まれるのかについても掘り下げている。ヘッドハンターという仕事について興味が湧いたのであれば、ぜひそちらも読んでみてほしい。
