ITエンジニアのチームづくりにおいて「心理的安全性」が重視されている。開発スピードを高めるためにはエンジニアチーム、ひいては組織に柔軟で自由闊達なコミュニケーション環境を構築することが求められるためだ。そのような中、さまざまな施策によりエンジニアファーストな組織づくりをおこなう企業がある。SNSマーケティングツール「Beluga」シリーズを提供するユニークビジョン株式会社(以下、ユニークビジョン)だ。SNSマーケティングという日々潮流の変化する業界の中で、同社はなぜ優れたサービスを提供し続け、業界をリードし続けられるのだろうか。同社プロジェクトリーダーの中村遥氏に聞いた。

中村遥氏
北里大学大学院生物科学専攻修了。SIerにて工場向けの自社パッケージ開発に関わったのち、2017年からユニークビジョン株式会社に開発エンジニアとして従事。2022年4月からプロジェクトリーダーへ転向。
趣味は写真、ヴァイオリン、登山、猫と遊ぶこと。

プロダクトの柔軟性と開発チームの実装力


企業にとって、SNSの活用は事業成長やマーケティング、ブランディングに欠かせない存在となっている。BtoC企業だけでなく、BtoB企業でも当たり前に活用されている。一方で、SNS運用や効果検証に課題を持つ企業は多い。SNSは大きな拡散力があるからこそリスクを伴う。運用に問題があれば炎上を招きかねない。また、インプレッション数が稼げていても、それが事業として定性的・定量的な効果を与えているのかは適切に判断しなければならない。

そのような背景から、企業ではSNSマーケティングツールを利用するケースが増えてきている。しかし、ツールの選定自体が課題になる場合も多い。トレンドの変化やサービスの仕様変更などによって、SNSのマーケティング戦略は流動的な対応が求められる。ツール自体の使いやすさもさることながら、ツールの提供側の技術力や対応力も重要なファクターとなるためだ。その両面から高い評価を得ているのが、ユニークビジョンが提供する「Beluga」シリーズだ。

「『Beluga』シリーズは大きく分けて2つあり、1つは企業がSNS上で展開するキャンペーンを支援する『Belugaキャンペーン』。もう1つはオーガニック運用(普段のアカウント運用)を支援する『Belugaスタジオ』です。『Beluga』シリーズのポイントは柔軟性で、お客様のニーズや目的、やりたいことに合わせて柔軟に機能を組み合わせてカスタマイズできます。

加えて大きな強みとなっているのは開発チームの実装力であると考えています。たとえばディレクターがお客様のニーズを把握し、開発チームが着手してから数日から1週間程度でカスタマイズを終えて運用を開始できる。このようなスピード感で実装しています。一方で、SNSは企業にとってブランドイメージにも関わる施策です。カスタマイズ性とスピードを維持しつつ品質も担保できる、そのような開発体制をとれているのは、当社の大きな競合優位性になっています」

『Beluga』シリーズ導入事例(一部、提供:ユニークビジョン)

ユニークビジョンは、Twitterでは日本で7社のみの「Twitter Marketing Partners(Ads API Partners)」に、LINEでは日本で4社のみのLINE Biz Partner Program 「Technology Partner(販促・OMO部門)」に認定されている。SNSプラットフォーマーからの厚い信頼を得ていることも、同社の技術力や対応力の証左となっている。

「たとえばお客様がキャンペーンを展開しようというときに、SNS自体で不具合が発生していることもあります。そういった場合でも可能な限り当社の仕組みでカバーするようにしています。そのための知見は常に社内で貯めていて、組織としての技術的な即応力という面でもお客様に高く評価していただいています」

エンジニアが主体性を持つ「縦横両軸」の組織形成

幅広い機能を柔軟に組み合わせられる柔軟なカスタマイズ性と実装スピード。そして信頼性と即応力がユニークビジョンおよび「Beluga」シリーズの競合優位性といえる。それを支えるのは、紛れもなく強固な開発組織とエンジニア一人ひとりの技術水準の高さだ。中村さんは同社を「技術への探究心が高く、主体性の高いエンジニアが集まる組織」だという。実際、中村さんも自身のスキルを伸ばし、よりよいサービスをつくりたいと思って同社の門を叩いたエンジニアの一人だ。

「前職は新卒で入った社員数500名ほどのSIerで、私はその中でも自社プロダクトをつくっていくという、社内ベンチャーのようなプロジェクトにアサインされていました。あまりSIerらしい仕事ではなく、チームでプロダクトをつくっていたので、そこは現在の仕事に似たようなものです。入社してから3年ほど同じチームにいて、プロダクトを開発することもとても性に合っていました。しかし、自社プロダクトの開発は主事業ではないため、できることは限られていて、なによりノウハウも少なかったのです。自身の技術をもっと伸ばしていきたいという思いが強くなり、転職を決意しました。そこで出会ったのがユニークビジョンです」

中村さんが入社した当時、ユニークビジョンはまだ20名ほどの組織だった。それでも、日本のSNS黎明期から事業の中心に据えた同社は、他社に先駆けノウハウを蓄積し、技術的にも強みを持っていた。競合の多いWeb業界で技術によって差別化ができていること、なによりCTO以下エンジニア組織のあり方にも魅力を感じたという。エンジニア一人ひとりが主体的であり、技術への探究心がありながらも、それを他のメンバーにも積極的に発信し、チーム全体でノウハウが共有されていく。同社が掲げるバリュー「OPEN & FLAT」を魅力に感じ、入社を決意した。

「入社してからは、現在の『Belugaスタジオ』の開発チームに入り、途中からプレイングマネジャーになって、足掛け4年ほど従事していました。このチームではまず『Belugaスタジオ』全体のリニューアルを行い、投稿管理機能や分析機能などを刷新しました。その後、簡単なキャンペーンがおこなえる機能や、キャンペーン運用を支援する『事務局機能』など、さまざまな機能群を実装しました」

最初はサービス内の機能開発から始まり、徐々に独立したプロジェクトを担当するようになった。こうして自身の技術を伸ばしていくとともに、リーダーとしてチームをけん引することも増えていった。

「その後、LINEのキャンペーンをおこなう『Belugaキャンペーン for LINE』のチームに移り、サービス群の立ち上げを2つ経験しました。現在はキャンペーン本体の開発に従事しています。そして、昨年の4月からはまた新たなサービス群を立ち上げるチームに入り、2022年からは正式にプロジェクトリーダーになり、実務としてもチームのマネジメントに専念するかたちになりました」

「Beluga」シリーズの成長とともに、さまざまなプロジェクトで実績を積み、現在はプロジェクトリーダーとしてチームをマネジメントする立場となった中村さん。そのような経験から実感するユニークビジョンの開発組織の特徴とはなんなのだろうか。

「ユニークビジョンの開発組織やチームづくりのあり方は縦横の広がりを持っていることが特徴です。組織の構造は、大きく『Belugaスタジオ』と『Belugaキャンペーン for Twitter』、『Belugaキャンペーン for LINE』とプロダクトごとに開発チームがあります。それぞれのチームが開発も案件の運用も担っています。基本的にはそれぞれのお客様との案件には担当エンジニアも、ベースとなるプロダクト開発にも携わっている者がつくかたちです。プロダクトの構造や機能に精通しているからこそ、技術に関する無駄なコミュニケーションコストが発生せず、柔軟な対応を可能にしています。

また、プロダクトの開発チームとは別に、当社には『ワーキンググループ』というチームがあります。これは開発チーム横断で解決していきたい問題やテーマベースに組成されるチーム制度です。たとえば『品質向上チーム』や『コードレビュー改善グループ』『セキュリティー委員会』などがあります。チームの大きなテーマに沿ってエンジニアが課題を持ち寄り、エンジニア自身が主体となって対策や仕組み作りを行い開発チームに還元しています。このようにエンジニア全員が主体的になり、自分たちの開発者体験や成果物をよくしていく取り組みがおこなわれているのは、当社の開発組織の特徴であり強みだと思っていますね」

心理的安全性を醸成する制度とリーダーの役割

一人ひとりが主体性を持ち、思ったことや自分の考えをどんどん発信していく、良い意見があれば立場に関係なく取り入れていく。これがユニークビジョンの掲げる「OPEN & FLAT」の意義だ。エンジニアが能動的になれる組織づくりがあるからこそ、「Beluga」シリーズはよりよいプロダクトとなり、利便性も満足度も高い顧客体験を実現しつづけている。

「よくエンジニアの間でいわれる『コンウェイの法則』にあてはまると思います。『Beluga』シリーズはプロダクトや機能間で非常に柔軟な連携ができるサービスです。それはユニークビジョンという組織の、縦横の両軸から主体的に問題解決を図ろうとする『OPEN & FLAT』というバリューがあってこそ。これは組織レベルだけではなく、プロダクトを開発する一つひとつの組織、そしてエンジニアにもいえるものです。

私としてもリーダーシップが求められるポジションとなってからは、そういったバリューをより活性化させていくことを意識しています。メンバーの一人ひとりがいかに主体的に仕事に取り組んでくれるか、そのためにはやはりマネジメントの立場からうまく物事の交通整理をして、コミュニケーションコストをなくしていくことが必要だと考えています。たとえばチーム間でのコミュニケーションや、課題解決を開発チームとワーキンググループのどちらで取り組むかを判断していく。こういったユニークビジョンの組織構造を生かしながらメンバーが動きやすく、コミュニケーションが取りやすい環境をつくっていきたいと考えています」

「OPEN & FLAT」な組織の醸成には、エンジニア自身の主体性や目的意識が求められる一方で、組織として心理的安全性の高さが求められる。エンジニアが萎縮するような環境ではそもそも「OPEN & FLAT」なカルチャーが成立しないためだ。ユニークビジョンは組織としてどのような制度設計や工夫をおこなっているのだろうか。

「そもそもの大前提として、私は心理的安全性自体が目的ではないと考えています。私たちの目的はあくまでよいものを早くつくることであり、お客様に付加価値を提供し続けることです。しかし、そのためにはやはり『OPEN & FLAT』なコミュニケーションは絶対に必要で、心理的安全性を担保することも必要になります。こういった目的をしっかりとメンバーに共有していくことは重要です。

たとえば、ユニークビジョンはOKRを導入していて、会社とプロダクトチーム/ワーキンググループ、そして個人単位でOKRが設定されています。そういった目的意識を前提としてチーム全員、あるいは1 on 1で確認し合って意見交換し合えるような取り組みをしています。もう少しカジュアルな制度でいえば、火曜日から金曜日の朝会で、5分間はメンバーをシャッフルして自由にコミュニケーションが取れるフリートークの場を設けていたり、毎日1人を選び、感謝の気持ちやポジティブフィードバックを送る『Belpo』という制度を取り入れたりしています。希望者が自由なテーマで登壇できるトーク会、「UTAGE」も毎月開催しています。そのほかにも定期的にシャッフルランチをおこなっていたりと、メンバー間での心理的な障壁を取り払ってコミュニケーションをとっていけるような取り組みは多くあります」

目的を明確化させつつ、カジュアルな制度も組み合わせながら自由かつ建設的なコミュニケーションが生まれる環境をつくる。それを担うリーダーとして、中村さんが持つ課題感やリーダーとしてのあり方とは。最後に、中村さんの展望を聞いた。

「2023年からプロジェクトリーダーとしてマネジメントをしていますが、実は今年からはチームが変わり、マネジメントする人数もおよそ倍になっています。もともとプレイングマネジャーのような立場だったので、マネジメントに関しては右も左もわからないということはないのですが、ついつい自分でもタスクを持ってしまうことが課題ですね。ただ、当社のエンジニアは優秀な人材が集まっているので、仕様を詰めていくといったより上流なことも含めて、若いメンバーにも渡していけるように考えています。

同時に、メンバーの話にはなるべく傾聴することも心がけています。特になにか問題が起こったときに、あくまでも個人の問題としてではなく、チームの課題として解決できるように意識を持っていくことが大切です。個人の力で解決するよりも、仕組みで解決していくというのがユニークビジョンのあり方です。そういった意識づけは非常に重視しています。

マネジメントするチームも大きくなった現在。より大きな方向性や課題、解決した先にある達成感をチーム全体で感じられるような環境をつくっていくことも、私の役割として大きくなりました。そのためには私自身がもっと会社を大きなビジョンで見て、メンバーに共有していく必要があります。そのためにもチーム内外への発信を積極的に増やしていきたいですね」

(取材/文/撮影:川島大雅

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