CTOやVPoEをキャリアの視野にキャリア形成を考える場合、技術力以外にもマネジメント能力が求められる。しかし、マネジメントのあり方は開発組織の方向性や自身のスキルセット、経験によって異なるものだ。では、現役CTOがこれまでのマネジメント経験の中で重要だと感じたスキルや経験とは、どのようなものだろうか。今回は、6月6日にpaizaで開催された「ITエンジニア マネジメントミートアップ」に登壇したGMOペイメントゲートウェイ株式会社(以下、GMOペイメントゲートウェイ) 専務執行役員CTOであり、日本CTO協会で理事を務める三谷隆氏の講演をレポートする。

三谷 隆氏
日本CTO協会理事/GMOペイメントゲートウェイ株式会社 専務執行役員CTO日本アイ・ビー・エム株式会社にてスタートアップ、中小企業、メガバンクを担当アーキテクトとして歴任。その後シンガポールへ赴任。金融系グローバルプロジェクトにて、プロジェクト・エグゼクティブを担当。2017年にGMOペイメントゲートウェイへ入社し、CTOとして全体アーキテクチャや内製組織の拡充およびグローバル展開を推進。

十人十色のマネジメントで意識すべき「5つの習慣」

三谷氏は日本IBMでスタートアップや中小企業を担当した後、金融部門に移りメガバンクのアーキテクトを担当した。シンガポールに赴任しグローバルプロジェクトをけん引したのち、GMOペイメントゲートウェイに入社した。三谷氏は冒頭、自身のキャリアを説明するとともに、GMOペイメントゲートウェイの事業と開発組織を紹介した。

「GMOペイメントゲートウェイは、ECの裏側のオンライン決済サービスを提供しているFinTechの会社で、現在では私たちのシステムで年間で約16.7兆円(連結数値、2023年4月から2024年3月の合計)のお金が流通しています。25%の営業利益成長の継続を目標に掲げ、増収増益を続けてきました。前期では年間200億円ほどの利益が出ており、右肩上がりの成長を続けています。

開発組織としては約250名のエンジニアが在籍する組織です。決済サービスなので品質は当然のこと、スピードにもこだわるために基本的に内製で開発しています。もともとはオンプレミスで開発していましたが、この5年ほどでオンプレミスとクラウドを併用するようになりました」

また、日本CTO協会の理事を務める三谷氏は、同協会の成り立ちや7月16、17日に開催されるイベント「Developer eXperience Day 2024」について説明した。日本CTO協会の理事として多くのCTOやVPoEと交流してきた三谷氏は、「スタイルや経歴は十人十色」と踏まえつつ、マネジメントを目指す上で意識して取り組むべき習慣を解説した。

「これは私が定義しているものですが、5つの習慣があると考えています。具体的には『識見』『論理的思考』『簡潔・明瞭・タイムリー』、そして残り2つが根性論のようになってしまいますが、『責任感』と『熱意』です。今回はそれぞれのTipsを説明していこうと思います」

「識見」「論理的思考」「簡潔・明瞭・タイムリー」

1つ目の「識見」について、三谷氏は「エンジニアとして幅広くアンテナを張り、正しい情報を見極めて判断をしていく能力を養うことが重要」と解説。新技術や市場の動向、顧客の声をキャッチアップすることは事業と開発組織をつなげるために非常に重要だが、情報の偏りなく判断するのは経験が求められる。

「そのため、私は若手のころから、自分の担当以外の業務を知ろうと心がけていました。 たとえば、私もそうでしたが若手のころは漠然とプロジェクトに入って、自分の業務だけしかわからず全容が理解できていないことがあります。それで本を読んで勉強しても、読んで理解した気になって、実際にはほとんど何も身についていないことも多いです。

しかし、自分のプロジェクトに関連するものはとても定着しやすいです。自分にとって身近で実践的であるため、その学びは次に繋がります。同時に、プロジェクトにアサインされているプロフェッショナルに話を聞くこともできます。興味さえ持てば、非常に多くのチャンスがあるんです。ただ、プロジェクトが終わってしまうとチームが解散して疎遠になってしまうこともあるので、進んでキャッチアップしていくことが大事になります。プロジェクト進行中は当然忙しいのですが、身近なところに貴重な情報源があり、組織の垣根も越えて情報を集められる絶好の機会なので、ぜひ意識して取り組んでほしいです」

2つ目の「論理的思考」では、三谷氏はこれに付随して「論理的網羅性を持つことも重要」と説明する。

「私はエンジニアは『芸術家』ではなく、『プロフェッショナル』であってほしいと思っています。つまり、芸術は説明できないものがある一方で、エンジニアリングでは幾重もの選択肢から合理的な意思決定を行い、そしてそのすべてに説明責任がともないます。そのため、説得力ある説明をするためには論理的思考とともに、意識して網羅的な知識も大事です」

3つ目の「簡潔・明瞭・タイムリー」は、結論ファーストで話すことが大事だと強調する。専門性が高まるごとに詳細な説明をしたくなるものだが、三谷氏は「専門家こそわかりやすく、スマートに説明すべきだ」と説く。

「やはり立場が上になればなるほど多忙なので、エンジニアにはしっかりとすべて説明したい気持ちがありますが、大抵の場合聞いてもらえません。結論ファーストを心がけて、きちんと理由を説明するよう心がけると、信頼を勝ち取れます」

エンジニアが持つべき「責任感」と「熱意」

4つ目の「責任感」では、三谷氏はGMOペイメントゲートウェイが重視する「他責も自責」の言葉を紹介。エンジニアに求められる責任感のあり方について説明した。

「本当に他人が悪い場合でも、その責任ばかりを追求したところで、次につながりません。 トラブルがあった際には『自分だったらどうした』と考える習慣を持つことで、次回に活かせます。また、自分自身がトラブルを起こしたときも、反省して落ち込んでいるだけでは得るものがないので、次につなぐ意識を持つ姿勢が重要です」

また、三谷氏は先述の「識見」の習慣があると、トラブルからチャンスが生まれるケースがあるという。

「プロジェクトで自分の枠を越えて全体を知ろうとすることを習慣にしていくと、トラブルが起きたときにチャンスがやってきます。なぜなら、自分はフロントエンドしか見ていなかったとしても、実はバックエンドやインフラがどうなっているかを全部把握できているので、トラブルの原因を特定できるようになります。私自身、そうすると若手のころから信頼されるようになり、さまざまなプロジェクトにアサインしていただきました」

一方で、三谷氏は知識がたまるごとに「謙虚さを失わずに、しっかりと耳を傾けることも重要」と強調する。最後まで話を聞いてみると、自分が想像しているものとは違う新鮮な情報や、自分よりも良いアイデアであることも多い。そして何より、傾聴の姿勢が信頼関係を生む。

「そのような形で、ある領域のプロフェッショナルになったり、幅広く知識を持っている人材になるほど、 相談される機会も自然と増えてきます。相談が舞い込むとはつまりチャネルができることです。そういう輪が広がり情報がたまるほど、まるで自分でやったかのような、疑似体験にも近い解像度になっていきます」

そして、5つ目の「熱意」について、三谷氏は積極的に手を挙げチャンスを掴むことはもちろんのこと、「チャンスを与えてくれた人の期待を超える結果を出す努力が必要」と語る。その思考の習慣は、立場が変わったときに大きく役立つという。

「たとえば、相談を持ちかけられたときに、まったくお門違いな内容を聞かれる場合があります。そのときに『自分にはわからないが、あの人なら知っているかもしれない』と付け加えれば、相手からのイメージが大きく変わります。このように、相手の期待に対して最大限の努力をしていくのは、信頼を得るために非常に重要な考え方です。

また、GMOペイメントゲートウェイでは『変化する者だけが生き残る』という言葉を大切にしています。そのため、たとえば昨年のプロジェクトのやり方がうまくいったからと、同じ予算を申請しても通ることはありません。私たちは常に成長し続けることを目指しているため、昨年と同じ結果では満足しません。

また、どんなにうまくいったプロジェクトでも、2、3の失敗は必ずあります。その振り返りなしには成長はありえませんので、私自身でも意識して振り返りをするようにしています。

その一方で、私たちは人間なので、やはりモチベーションに左右されます。そのため、CTOとして一人ひとりが好きな仕事の比率を少しでも増やせるような組織づくりを進めています。もちろん仕事なので100%は難しいですが、好きな仕事が多ければ多いほど、エンジニアの熱意も上がり高いパフォーマンスが発揮できると考えています。それが本人の自信になり、力をつけることにもつながるので、組織全体で熱意を出せる環境をつくっていきたいと考えています」

三谷氏は最後に、CTOやVPoEに就任すると重要になる「もう一つの習慣」について紹介し、講演を締め括った。

「『人をみる目』は、CTOやVPoEになったときに非常に重要なスキルです。ただし、それは人のことを評価するだけではなく、人の長所ややる気を引き出し、全体としての総合力を底上げする能力を指します。

たとえば、とても長くアプリケーション開発をしていたエンジニアの性格や適性をみて、思いきってセキュリティにアサイン変更したところ、非常に高いパフォーマンスを発揮した例があります。私自身多くの人を見て組織づくりをしてきましたが、最終的に一人ひとりがパフォーマンスを発揮できる場におくことでチームの力が上がっていくと、やれることが増えていきます。

企業はやはり人で成り立っていて、 人は気持ちで動く生き物です。だからこそ、組織全体のモチベーションをうまくかき立てて、自分自身も楽しんでマネジメントをしていただきたいです」

(取材/文/撮影:川島大雅)

― presented by paiza

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