企画とは相手目線ありきで考えるべきもの。徹底した分析と密なコミュニケーションにより、相手からの信頼関係を獲得した結果が数字に表れる。
こう教えてくれたのは、本業で培った豊富なマーケティング経験をライター業にも生かし、名だたるメディアで執筆を行う永見薫(ながみ かおる)さん。
何よりも相手のことを考え、最適な提案をモットーとする永見さんに、ライターの業務だけでなく、すべてのビジネスの基本となる仕事術を伺いました。
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目次
Rule1. 視点をアップデートする
まず、わたしが企画を考える際に大事にしているのは、「物事の背景に、あえて疑いの目を向けること」です。
たとえば、ニュースで公表されている数字は、正確ではないのかもしれない。報道されている内容は、事実に尾ひれがついているかもしれない。どうしてこういう話になっているのか、もしかしたらおかしい部分があるんじゃないか。
与えられた情報だけを鵜呑みにせず、真実がどこにあるかを考えるようにしています。世の中で「こうだよね」とされていることに対しても、いかに疑問を持てるか、そしていかにその疑問を解消できる質問や企画が考えられるかが重要だと思っているんです。
こうした疑問を持てるかどうかは、日頃の訓練がすべてだと思います。思えば私は幼い頃より、ニュースを題材に議論をする家庭で育ち、疑問を持つということが自然の行いとなっていました。
しかし大人になってからもこうした思考の訓練は可能だと思います。流れてくる情報に対して、あえて疑問を持ってみる。ちょっとした行動ですが、これをくり返すだけでも、情報の受け取り方は大きく変えられるのではないでしょうか。
Rule2. SWOT分析の活用
マーケティング用語に、SWOT分析という言葉があります。
自社の事業の状況などを、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つの項目で整理して、分析する方法です。
わたしが記事の企画を出す場合は、たとえばそのメディアの強み、弱み、競合サイトはどこなのか……などを調べた上で、「このメディアの独自性を出すにはどうすべきか?」について、ざっくりでも毎回考えるようにしています。
わたしはマーケティングの経験があるので、この考え方がしみついているのかもしれませんが、SWOT分析はマーケティング以外のどんな職種でも応用できるフレームワークだと思います。
Rule3. 市場調査でターゲットを知る
市場調査をする際は、メディアごとの傾向を徹底的に探っています。
たとえば、ある経済メディアに企画を提案したいと思ったら、月間ビューはどのくらいか、読者はどんな年齢層や職業で、どんな暮らしをしているのか……といったことまで深くリサーチします。
そこまで調べていくと、メインの読者層がどんな人たちで、何に関心を持っているかが見えてきますよね。それをもとにすれば、「その人たちが求めている記事ってなんだろう」という仮説が立てられるようになるんです。
Rule4. 競合比較して独自性を考える
どんなメディアでも、企業でも、競合のメディアやサービスは存在します。
企画を提案するメディアが決まったら、わたしは想定し得る限りの競合も探っておきます。その競合メディアの読者層や、公表されている記事などを調べて、比較するんです。
その上で、「このメディアならではの色をどこに出せるか」を分析しています。
Rule5. シーズン性・時事性を意識する
記事に反応してもらったり、興味を持ってもらったりするには、読み手の関心や世の中のトレンドを意識した記事づくりは欠かせないと思っています。
もともとショッピングセンターでシーズントレンドに合わせたイベントやキャンペーンの企画立案をしていたので、そのときやっていたことを、ライター業でも転用している感じです。
たとえば、以前旅行に関するビジネス記事を執筆したとき、「旅行の需要が上がる夏休み前や3連休前を狙ったらどうかという公開時期も含めて提案したところ、企画が成立しました。
単に「こういうことをやってみたいな」で終わるのではなくて、たとえばひとつのネタに時事性やトレンド性やシーズン性を掛け合わせるんです。
なぜ今このネタが必要なのか、他のネタと比べて何がよいのか。「今のこのメディアなら、このネタはどうだろう?」という視点が必要なんです。
逆に、一度営業して不採用だった企画も、営業先や時期を変えて提案すると、採用されるケースもあるんですよ。だから、タイミングや時期や需要を考えた上での企画・提案は、非常に重要だと思います。
Rule6. 新たな切り口を掛け合わせる
これは企画の最後に考えることが多いのですが、記事の切り口や掛け合わせもすごく大事だと思っています。
トレンドに合わせて、このネタがいいかなとなったときに、「じゃあ何と掛け合わせたらおもしろいだろう?」と考えるのが重要だと思っています。
わたしが書こうとしている題材自体は、すでに他の方が取り上げていることもあります。でも、同じ題材だったとしても「どんな目線や切り口で考えるのか」で独自性が出せるんです。
たとえば、以前とあるビジネスメディアの記事でホテルの取材に行ったのですが、いくつも取材を受けられたり、特集されたりしていました。ただ、なかでも企業で働く社員の方々にアプローチした記事が、その時点ではほとんどなくて。このメディアでは、「実際の生活を伴う人たちの生の声や気持ちを発信し、読者が自分ごとにする」ことが狙いだったため、スタッフの方々にスポットを当てた記事を書きました。
そうやって、ひとつの企業に関する記事を書くとしても、社長について話題にするのか、事業内容について触れるのか、それとも企業全体、社員にスポットを当てるのか……といろいろな切り口がありますよね。この切り口を、いかに他のメディアと異なる視点にしていくのかが重要だと思います。
Rule7. リリースもインプット材料にする
インプットについては、幅広くさまざまなメディアを見るようにしています。とくにニュースメディアは、なるべくたくさん見るようにしていますね。
あとは、これもマーケター的な目線かもしれませんが、ニュースリリースサイトなどもよく見ています。とくに興味がある話題については、関連したリリースが出ていないか、定期的にチェックするようにしています。
おわりに
「誰でも、今からでも、大人になってからでもできることばかりですよ」と永見さんは笑います。
「ただみんな知らないからそうしないだけであって、やり始めれば誰でもできること。行動や癖を変えるだけでも、情報の受け取り方ってすごく変わると思っています」
永見さんの7rulesは特別なことではなく、大人になってからでもできること、そしてどんな仕事でも役立つ習慣ばかりでした。
ライター以外の職業の方も、新たな仕事に取り掛かる前に、一つでも意識してみると、新たな視点が切り開けるのではないでしょうか。
(撮影:渡会春加/取材:さつきうみ/文:谷口智香)
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