これまで、株式や投資信託への投資は一部の富裕層がおこなうものというイメージがあった。しかし「NISA(少額投資非課税制度)」や「つみたてNISA」の導入後は多くの人が投資をはじめ、1,700万口座が開設され、28兆円の新規投資がおこなわれた。

とくに、これまで投資になじみのなかった20歳代から30歳代の若年層からの利用が拡大し、投資への裾野が広がっている。2024年1月からは「新しいNISA」がスタートし、投資をはじめる人がさらに増えると予想される。

こうした投資初心者の方でも、自動で資産運用できるサービスを提供しているのが、株式会社sustenキャピタル・マネジメント(以下、susten)だ。

sustenの共同創業者で、現在は取締役を務めている中村さんに、プロダクト開発について話を聞いた。

中村 翔さん

株式会社sustenキャピタル・マネジメント取締役。2012年楽天株式会社入社。OSSを組み合わせた検索エンジンのプラットフォームの内製開発、機械学習および自然言語処理を用いた検索精度改善を担当の後、楽天技術研究所にて推薦システムの研究開発に従事。2019年7月、株式会社sustenキャピタル・マネジメント創業。取締役に就任し、システム開発全般を担当。東京大学大学院工学系研究科修了(修士)。

大手企業を辞めて起業を決断した理由

東京大学大学院を卒業後、楽天株式会社(以下、楽天)に入社した中村さん。楽天ではエンジニアとして、検索エンジンのプラットフォームの開発や検索精度改善を担当。その後は楽天技術研究所に移り、推薦システムの研究開発をおこなっていた。

2019年にsustenを共同で創業し、取締役としてテクノロジー部門を統括している。なぜ、楽天というメガベンチャーを辞めてまで起業しようと考えたのだろうか。そこには、岡野大さん(現・代表取締役 CEO )と益子遼介さん(現・取締役 )との約束がある。

「わたしと岡野と益子は同じ大学院に通っていて、研究室も同じでした。当時から3人で『35歳くらいになったら一緒に起業したいね』と話していたんです。大学院卒業後、わたしは楽天へ入社しました。岡野はゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント、益子はディー・エヌ・エーへ入社し、それぞれ社会人生活を送っていました。

その後、31歳のときに岡野から具体的な起業の話を聞いたんです。岡野は、会社の先輩である山口雅史(現・代表取締役 CIO)をスカウトしていました。山口は当時、ゴールドマン・サックスのアメリカ本社で、数兆円規模の顧客資産について資産配分の決定を担うポートフォリオマネージャーとして働いていました。そんな人と一緒に仕事できるのはおもしろそうだなと思い、予定より少し早かったですが、一緒に起業しようと決断しました」

楽天で働きはじめて約7年が経ち、やりたいことはやり切ったと感じていた中村さん。新しいことにチャレンジしたいと考えていたため、岡野さんからの話を聞いて起業を決断した。そして2019年7月、岡野さん、山口さん、益子さんと共同でsustenを創業した。

家族や友人にすすめられる投資運用サービスの創出を目指す

「誰もが安心して暮らせるsustainableな社会の実現」というビジョンのもと、会社を設立した4人。それぞれの強みを活かし、FinTechの分野に参入した。「家族や友人にすすめられる投資運用サービスの創出」をミッションに、事業を展開している。具体的にはどのような事業なのだろうか。強みとあわせて聞いた。

「事業内容を端的に説明すると、個人の方がスマートフォンを使って自動で簡単に資産運用のできるサービスを提供しています。

大企業に対しての強みは、スタートアップならではのスピードで新しいことにチャレンジできる点と、シンプルでお客さまが本当に使いやすいサービスを考えている点です。同業のスタートアップに対しての強みは、自分たちで投資信託を組成する力がある点です。お客さまから見える点では、『完全成果報酬型方式』が挙げられます。お客さまに利益が出たときにだけ、手数料をいただいています

山口さんがゴールドマン・サックスで培ってきた最先端の投資手法と、アルゴリズムによる自動運用を組み合わせることで、完全成果報酬型方式が実現している。

sustenに資産を預けると独自運用する3つの投資信託に集約され、世界最先端の投資理論やテクノロジーによって、自動で資産運用がおこなわれる。岡野さんと山口さんが金融業界で培ってきた経験と、中村さんと益子さんがエンジニアとして培ってきた経験により生まれたサービスだ。

より初心者の方にも使って頂けるサービスにするにはどうしたら良いだろう? を考えたところ、2023年に「つみたてNISA」にも対応させた。つみたてNISAは、投資で得た利益に税金がかからない制度だ。通常、投資信託などの金融商品から得られた利益には約20%の税金がかかる。しかし、つみたてNISAを利用すると、運用による利益(分配金と譲渡益)を最長20年間、非課税で受け取れる(2023年度時点)。

2024年度からはじまる新しいNISA制度では、非課税保有期間は無期限に変更される。

少人数ではじめたプロダクト開発

2019年7月に会社を立ち上げ、2020年1月ごろからプロダクト開発を開始した。開発期間に約1年をかけ、2021年の2月に長期投資専用サービス「SUSTEN」がローンチされている。開発は中村さんと益子さんを中心に、内製でおこなった。

ローンチ時にはエンジニアが数名加わっていたが、プロダクト開発がはじまってから約半年間は、中村さんと益子さんだけで開発をしていたそうだ。UIの設計には中村さんの知り合いのデザイナーに業務委託として入ってもらい、社内の投資やトレードを行うプラットフォームに関しては山口さんもコードを書いていた。取締役全員がコードを書けるというのもsustenの特徴だ。少人数で進めた開発は、大変な面もあったという。

「わたしも益子も金融サービスを開発したことがなかったので、キャッチアップが大変でした。はじめのころは、金融サービスの開発をしている方々が集っている勉強会に参加して学んでいました。手探りでやっていましたね。金融サービスには独自のお作法のようなものがあると思っていて、恐れというか懸念のようなものがあったんです。振り返ってみれば、一般的なWebサービスとそれほど変わらないんですけどね」

一般的なWebサービスと比べて、金融サービスのつくり方はそれほど変わらないと中村さんは話す。しかし、法律やレギュレーションは他業界と比べて厳しい。しっかりと法律やレギュレーションを守るため、豊富な金融業界の経験がある岡野さんや山口さんとコミュニケーションを取りながら慎重に進めた。

2022年11月にスマートフォンアプリの提供を、2023年2月にはつみたてNISA機能の提供を開始。さまざまな機能を開発する際に意識したことを中村さんに聞いた。

「お客さまが使いやすいUI・UXを意識しました。『SUSTEN』は投資経験者の方だけでなく、投資初心者の方にも使っていただきたいと考えています。投資初心者の方がよく利用するつみたてNISAは、投資できる金額の上限が決まっています。月々のつみたて金額は何円で、年間に換算すると何円になって、上限金額のどれくらいまでつみたてしているかがわかるようにつくりこみました」

金融サービスは顧客の大事な資産を預かるため、開発には責任がともなう。当然、セキュリティ対策も重要だ。対策として、創業当初から社内レギュレーションを引いた。社内チェックを何度も重ね、リリース当初からセキュリティ診断をおこなって開発している。

2024年1月からは、新しいNISA制度がはじまる。制度の要件がようやく固まり、sustenでも機能開発に着手する。すでに開発をはじめている機能も存在している。

新しいNISAのポイント(出典:はじめてみよう!NISA早わかりガイドブック 金融庁 p.7

「新しいNISAと現在のNISAは共通している部分もあるため、そのまま使える機能もあります。たとえば、口座開設周りの機能が挙げられます。金融サービスの口座開設は複雑なものが多いので、お客さまが簡単に早くはじめられるように、現在もUXを改善しています。今後は、マイナンバーカードを活用した本人確認機能の実装も検討中です。これが実現すれば、新しいNISAを利用したいお客さまもサービスを利用しやすくなります」

sustenではスクラムで開発を進めており、機能に優先順位をつけてリリースをしている。スタートアップの強みを活かし、少数精鋭でプロダクト開発・改善を続けている。

新しいNISAを幅広い層に届ける

最後に、会社として目指していることを中村さんに聞いた。

「一番使ってほしいサービスとして、新しいNISAに本腰を入れていきます。そこで独自のポジションを築いていきたいです。大手の証券会社がデパートだとすると、わたしたちはメーカー兼個人商店です。大手の証券会社はたくさんのメーカーがつくったものを集めて売っていて、われわれは自分たちでサービスをつくって、販売経路も自分たちで握っているのでお客さまの声も反映しやすいです。制度は国によってつくられましたが、新しいNISAをどのようにお客さまに届けるかは事業者が進めることです。大手もスタートアップも横並びの同じスタート地点からはじまるので、自分たちの想いを伝えながらいいものをつくり、お客さまに届けていきたいです」

これまでの投資は、資金に余裕のある人しか手を出せないイメージだったが、NISAの制度ができたことで裾野が広がった。投資初心者や若い世代にとって、安心でわかりやすいサービスが求められる。

中村さんは、「大変だと思いますけど、楽しみでもあります」と笑顔で話してくれた。

「誰もが安心して暮らせるsustainableな社会の実現」に向けて、sustenは新しい投資運用サービスをつくり続ける。

(取材/文/撮影:川崎博則

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