地方に住む高齢の親。今はまだ元気だけれど、これから認知症の症状が出てきたらどうするのか、家の中で脳梗塞を起こして倒れて何日も気づかないなんてことになったら……。

漠然とした不安はあっても具体的に何をすればいいかわからずにいるなら、「スマートホーム化」という方法があります。昨今は、建設時から導入が必要となるような大掛かりなものでなく、既存の住宅にDIYで簡単に設置できる製品も増えてきました。

築40年の一戸建て実家をDIYでスマートホーム化した経験をもとに、離れて暮らす高齢親の見守りやサポートに役立つ方法を提案するサイト「見守りテック情報館」を運営する和田亜希子さんにお話をうかがいました。

関連記事:高齢の親を守るため、ITを駆使して私たちができることとは?|「見守りテック情報館」運営者が解説

ないなら作ろう!見守り家電の活用法を発信するサイト


――まず、「見守りテック情報館」がどんなサイトなのか、どうしてこのサイトを立ち上げたのかをお聞かせください。

和田:見守りテック情報館は、家電製品をネットワークでつなぎ、自動化や遠隔操作を可能にすることで、離れて暮らす高齢親の見守りやサポートをする方法を提案するサイトです。

「離れて暮らす親を遠くからでも無理なく見守りたい」「認知症の親がなるべくストレスなく暮らせるようにしてあげたい」と思っている人に向けて、必要な情報をまとめています。

スマートホーム化といっても特別な知識や技術は必要なく、やってみると意外と簡単です。インターネット接続が可能な最新のIoT家電に買い替える必要もありません。

私自身もそうですが、だいたい40代後半から50代にかけて親の介護や見守りが大きな課題になってきます。インターネット上にはそうした情報を共有するコミュニティも存在しますが、そこだけでは必要な情報が得られないことも多いです。とくに、ITを使った見守りに関する情報は、私もいろいろと探したのですが、あまり手に入りませんでした。

そこで「ないなら作ってしまおう」と思ったのが、サイトを立ち上げたきっかけです。

――SNSやnoteでの発信という方法もあったと思うのですが、情報サイトという形にした理由は何なのでしょうか?

和田:私は「ミニサイト作り職人」を名乗り、ミニサイト作りを仕事かつライフワークにしています。そのため、慣れているサイトのほうがSNSやnoteより自由度が高く、「入門編」「初級編」「実践編」といった構成を作りやすかったのが一つの理由です。

また、高齢者の見守りは毎日少しずつ新しい情報が必要になるわけではありません。訪問者が時間のあるときに見てほしい情報を得られれば、定期的に見なくてもよいのです。パッと見て理解できることを重視すると、サイトという形が適していると判断しました。

現在サイトコンテンツは30~50ページほどあり、ゆくゆくはPDFで小冊子にしたいと考えています。コンパクトな小冊子にして、必要な人にプリントアウトして配布したり、1アクションで送信できたりするようにすれば、あまりネットを見ない人にも届けられますから。

テクノロジーを活用して見守りをしよう思った経緯


――どういう経緯から、ご家族の見守りが必要になったのでしょうか。

和田:2021年8月に父が亡くなり、足が不自由な母(当時78歳)が千葉県香取市の実家で一人暮らしとなったのですが、その直後から母の様子が少しおかしいと感じることが増えました。配偶者の死をきっかけに認知症のような状態になってしまうことがあるといいますが、まさにその状態でした。

私は神奈川県横浜市に住んで働いていたのですが、それを忘れてしまったようで、「いつまで遊びに行ってるの、早く帰ってきなさい」と電話がかかってきて、違和感を覚えました。

死別のショックが原因なら少し経てば落ち着くかと思ったのですが、一か月経っても良くなるどころかだんだん状況がひどくなっていって。認知症の症状が出てきてしまったことを認めざるを得ませんでした。

――テクノロジーを活用して見守りをしようと思ったのはどうしてですか?

和田:父の死後、足が不自由な母に代わり買い物やゴミ出しをするために自宅と実家を行き来していたのですが、母が頻繁に倒れるようになってしまったのです。私がいないときに家の中で倒れた母はなんとか携帯電話があるところまで移動し、SOSをしてくるのですが、自宅から実家までは3時間半かかるのですぐに助けにはいけなくて……。

2021年9月、母が玄関の外で倒れてしまっているのを、たまたま訪れた母の知り合いが発見し、ベッドまで移動させてくれたことがありました。残暑が厳しく、その日も気温が30度を越えていたので、一つ間違えば熱中症になっていたかもしれません。

また別の日、朝から電話がつながらず、リビングの防犯カメラにも母の姿がまったく映っていないことがありました。一体どこで何をしてるんだろうと心配になり、仕事を早退し実家に駆けつけたら、寝室のベッドの下でうつ伏せになって倒れていました。当時はまだ見守りではなく防犯カメラだけだったので、寝室にはカメラを入れてなかったのです。

母は過去に脳の病気を患ったことがあるので、そのときも脳梗塞の可能性を考慮して身体を動かさずに救急車を呼び、病院に運んでもらいました。結果的に(脳梗塞ではなく)熱中症だったのですが、病院のベッドに横たわる母の姿を見て、「もう電話をして安否確認をするだけでは無理だ。このままでは母の命に関わる」と危機感を抱いたのです。

このできごとが直接的な引き金になって、実家をスマートホーム化して見守り体制を強化しようと決めました。

――実家スマートホーム化というと「大変そう」「難しそう」と感じる人も少なくないと思うのですが、そういう心理的なハードルはありませんでしたか?

和田:2020年夏に一人暮らしの自宅にスマートリモコンを導入したことがあるのですが、やってみたらすごく簡単なことに驚いたのです。小さな四角い箱とアプリを連携し、設置するだけで、古いエアコンやテレビなどもすべてスマホから操作できるようになるんだ、と。

さらに、Google_Homeminiのようなスピーカーを使えば「OK Google」と呼びかけて声で操作もできるようになるのも知って、「なるほど、アプリだけでいいのか!」とハードルが下がりました。一度スマートリモコンという存在を知ると、あとはもう早いと思います。

そうした体験があったので、専門家ではない自分が築古の実家をスマートホーム化することの難しさは感じませんでした。そして、私には非常に後悔しているできごとがあり、それを繰り返したくないという気持ちが強かったのです。

私には伯母が一人いたのですが、彼女には子どもがおらず、唯一の姪である私が実の子のような存在でした。伯母が高齢になってからは、私が伯母の住む家(公団住宅)を探したり、契約をしたりして、サポートをしていたんです。そんな2017年冬、亡父の病気のことで忙しい日が続き、一か月ほど連絡をせずにいた時期がありました。

12月初旬の寒い日、伯母の住む公団住宅の自治会事務所から電話があり、かれこれ1週間ほど伯母の顔を見てないと近所の人から連絡があったと知らされました。慌てて伯母のところに駆けつけたところ、室内で倒れている意識のない伯母を発見して……。

救急車で病院に運んでもらって一命はとりとめたのですが、医師によると、発見の7~9日ほど前に脳梗塞を発症して倒れ、誰にも気づかれずにいたのだろうとのこと。とても寒い時期で半分仮死状態になっていたのが幸いし、飲まず食わずでも生きていられたようです。

とはいえ、結果的に伯母には高次脳機能障害が残り、感情を表現することもできないまま、亡くなるまでの約4年間、病院と療養施設でつらい寝たきり生活を送らせてしまいました。あのときに電話の一本でもしていれば、たとえ伯母が電話に出られなかったとしても、それでおかしいと気づけていただろうと、今でも強い後悔の念に苛まれています。

だからこそ、もう親では繰り返したくなかったのです。「見守りテック情報館」を作って、高齢親を持つ人たちに届けたいという気持ちも、その経験に端を発しています。

見守りできるIT機器を導入し、母と私のQOLが向上


――IT機器を導入して見守りをするようになって、どんな変化がありましたか?

和田:認知症の中でもアルツハイマー型認知症の場合、初期に記憶障害と並んで見当識障害が現れます。現在の年月や時刻、自分がどこにいるといった基本的な状況を把握できなくなるので、たとえば通院の予定のない日に玄関でずっと待つようなことが起こってしまいます。そして、自分は予定通りの行動をしているにもかかわらず迎えに来ない相手を責めがちです。

親に認知症の症状が現れたとき、その事実を受け入れるのは簡単ではありません。禁句だとわかってはいても、毎日同じことを聞かれたり、責められたりすると、つい「お母さん、それ昨日も言ったじゃない」と言ってしまい、自己嫌悪になってしまうことが多かったです。

それでも、母のためだからと自分を正当化して口うるさく言ってしまい、それが母の自尊心を傷つけ、言い争いが絶えませんでした。理詰めで話すと、母自身も自分の認知がおかしいと気づく瞬間があるので、やはりつらかったのだと思います。

「お母さん、今日は日中35度近くまであがるらしいから必ずエアコン付けてよ」どれだけそんな電話をかけたかわかりません。しかし、加齢によって暑さを感じるセンサーが鈍っている母は、なかなかエアコンをつけてくれず、こちらはやきもきするばかり。

しかし、スマートリモコンを付けてからは、「エアコンをつけて」と言わなくても、私のスマホからエアコンを遠隔操作すれば済むようになりました。あるいは、温度計と連携させ、一定の温度を上回ったり下回ったりしたときにエアコンを自動的に稼働させることも可能です。

大切なのは(認知症の)母の認識や行動を変えることではなく、母が熱中症にならないようにすること。母自身でなく、家電をコントロールすればいいんだとわかってからはイライラすることが少なくなりました。

ほかにも、オンラインカレンダーと連携して予定の少し前に音声読み上げでリマインドさせたり、SwitchBot開閉センサーを玄関に設置して無事帰宅もチェックしたり……。母自身はしくみを完全に理解しているわけではありませんが、私にうるさく言われずに済み、日付を勘違いしてトラブルになることもなくなって、ストレスが減ったと思います。

新しい困りごとが出たときも、「どういうIT機器を導入すればこの問題を解消できるのか」と考えれば、ポジティブな気持ちでいられます。おかげでサイトのネタができて発信できる情報が増えると思えば、工夫をすることも楽しくなってきました。

さらにスマートディスプレイを導入してからは、見守りでトラブルを回避するだけでなく、離れて暮らしていても母と良好なコミュニケーションができるようになりました。

ーー

次回のインタビュー記事では、具体的にネットワークカメラ・スマートリモコン・スマートディスプレイをどんなふうに使って見守りをしているのか、これからITを活用して高齢親の見守りをしたいと考えている人に役立つヒントをうかがいます。

関連記事:高齢の親を守るため、ITを駆使して私たちができることとは?|「見守りテック情報館」運営者が解説

見守りテック情報館

(取材・文:ayan / 撮影:つるたま

presented by paiza

Share