16のユネスコ世界文化遺産と9のユネスコ無形文化遺産があり、豊かな文化と芸術に触れ、おいしい料理とビールやワインを楽しめる国、チェコ。旅先としてとても魅力的な国だが、日本からは遠く、直行便もないため、まだまだ日本での知名度は高くない。
そんなチェコの魅力を日本の人々に知ってもらおうと奮闘しているのは、チェコ政府観光局日本支局局長のシュテパーン・パヴリーク(Štěpán PAVLÍK)さんだ。チェコと日本の文化の違いやそれぞれの仕事のスタイルを伺った。
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目次
中国語をきっかけに観光業界に入り、チェコ政府観光局へ

――チェコ政府観光局日本支局の局長になるまでのキャリアを聞かせてください。
私は大学では中国の言語や文化を学び、現代中国語を専門としていました。大学卒業後は、教授の助手として働きながら博士課程に進み、中国の希少言語について研究しました。当時としては珍しかったチェコ語⇔中国語の翻訳と通訳の活動もしていました。とくに、自分の知らない新しいことを学べる通訳が好きでしたね。
最初は簡単な通訳から始めましたが、スキルアップしていくにつれ、企業の商談や工場視察に同行するようになり、政府の重要な会議の通訳も任せてもらえるようになりました。
学生のときに中国をターゲットとする旅行会社でインターンシップをしていたこともあり、台湾や中国の人向けの通訳兼ガイドをするようになったのが観光業界へ入ったきっかけです。
いくつかの仕事を経験したのちにチェコ政府観光局で働くことになって、上海支局の局長として中国に赴任しました。数年後、本部の方針が変わって上海支局を閉鎖することになったので、日本支局の局長として来日することになりました。2019年のことです。
――学生時代に中国語を専攻していたとのことですが、その理由はなんですか。
もともと中国という国に興味があって、知りたいと思っていたんです。そして知っていくうえで言語を習得する必要があると感じました。学び始めたら「言語ってすごくおもしろい!」と気づいたんです。
言語と文化は密接につながっていて、言語を正しく学ぶにはやはりその国の文化を知る必要があるし、本当の意味で文化を学ぶには言語も知る必要があると思っています。
新しい文化を知ることで、新しい視点を獲得できる

――日本支局の局長として赴任するように言われたときは、どう感じましたか。
上海支局の局長になって3年が過ぎ、中国マーケットのこともある程度わかるようになり、新しく学べるものが少なくなってきたと感じるようになりました。ですから、日本支局局長のポジションを打診されたときは、驚きましたがポジティブな気持ちでした。
新しいマーケットも、新しい文化も、チャレンジングです。私は飽き性なので、いろいろな新しいことを探し続けていくほうが、仕事に前向きに取り組めると思っています。留学時代に日本人の友達がいて、プライベートで一度日本を旅した経験もあったので、日本に対する好印象も決断の後押しになりました。
日本に行くことが決まったとき、家族や周囲の人たちは驚いていましたね。「シュテパーンはずっと中国に関わることをやるだろう」と思われていたし、私自身を含めて、誰も日本に行くことになるなんて予想していませんでしたから。
日本語は話せないし、日本の文化やマーケットについてもほとんど知らなかったので、職務を果たせるのか不安がなかったわけではありません。でも、人生には予期せぬことが起こるもの。新しい環境で新しいチャレンジを楽しんでみたい気持ちが勝っていました。
――もともと中国への興味があったと思うのですが、中国を離れることはマイナスだとは感じなかったのでしょうか。
中国への興味は尽きませんが、中国のことを学ぶにあたって、「台湾」は避けては通れないトピックです。日本と台湾には深い歴史的な関係があるので、日本に来ることでより台湾のことを知れるのではないかとも考えました。中国にいては、できないことですから。
日本の文化を知らずに台湾に行ったら、何も考えずに目に映ったものを台湾の文化だと思うかもしれません。でも、日本に来て日本の文化を知ったうえで台湾に行くと、「これは日本文化の影響を受けたものだな」と気づきます。新しい文化を知ることは、新しい視点を獲得することだと思います。
スタイルの違いを理解し、いいとこどりをしていく

――日本に赴任して、日本人に対してどのような印象を持ちましたか。
チェコ政府観光局はチェコ大使館内にあり、私が仕事で関わる日本人はある種のバイアスがかかっているので、私の日本人に対する印象は一般的なものとは異なるかもしれません。日本企業とミーティングをする機会もありますが、彼らは私が政府観光局の人間だと知って対応してくれるので、日本での一般的な企業同士のやりとりとは違うでしょう。
そのうえで私の印象を述べるなら、日本人は秩序立っていて、一貫性があると思います。何かを決めるときも、準備に準備を重ねて、正確なことがわかるまでイエスと言いません。一度決定してしまえば、ころころ変わることなく、最後までやり遂げる傾向がありますが、決まるまでにずいぶん時間がかかると感じています。
それに対して、チェコ人は“DIYタイプ”の人が多いです。物事が決まっていない状態で見切り発車して、試行錯誤しながら理想形に近づけていきます。アジャイル思考といってもよいかもしれません。
――そうした国民性の違いは、ビジネスの交渉の場でも感じますか。
ビジネスの交渉において、日本では合意形成ができたらよほどのことがない限り変更はないと思いますが、チェコでは一度決まったことでも後からどんどん変わっていきます。
一度決まれば最後までその通りに進んでいくのは日本の組織のよいところだと思いますが、決定までのプロセスが複雑で、長い時間を要しますね。一度のミーティングで非常に細かいところまで話すので、「細かい部分はあとで別の人に任せて、この場では大まかな骨組みだけを話し合えばいいのに」と思うことは少なくありません。
日本スタイルは、最初からいい状態に持っていけてリスクも減らせるのがメリットですが、状況が変わったときに対応しにくい点がデメリットだと思います。
――シュテパーンさんご自身は、日本で働くようになって、そうした日本スタイルに近づいていったのでしょうか。
自分自身が大きく変わったとは思いませんが、「決まるまでに時間がかかるものの、一度決まったことを変えず完遂する日本スタイル」と、「決まっていない段階で開始して、行きつ戻りつしながら理想に近づけていくチェコスタイル」の、いいとこどりができればいいなと考えるようになりました。柔軟でありたいですが、きちんとしていたいな、とも。
私は本国の職員をはじめとしてチェコ人とやりとりをすることが多いので、チェコ人と日本人の中間の立ち位置で、必要に迫られてそう考えるようになったのかもしれませんね。
これからも、日本でチェコの魅力を伝えていきたい

――シュテパーンさんの今後のビジョンをお聞かせください。
本国に戻って昇進したいとは考えておらず、できることなら、今後もチェコ政府観光局日本支局の局長として日本人に観光地としてのチェコの魅力を伝えていきたいと思っています。
私はまだほとんど日本語を話せず、仕事では英語と中国語を主に使用していますが、最初に話したように文化を学ぶには言語も知る必要があると考えているので、日本語を習得して、日本でキャリアを築いていくのが目標です。
――最後に、まだチェコに行ったことがない人へのメッセージをお願いします。
「まだチェコに行ったことがないのは大きなミステイクですよ」と伝えたいです。チェコには魅力的な文化と景観、美麗な建築、美術館、博物館などの見どころがたくさんあります。領土は大きく3つの地域(ボヘミア、モラヴィア、シレジア)に分かれており、実際に旅してみると、同じ国とは思えないほど雰囲気が違うことに驚くでしょう。
首都プラハだけでなく、ぜひ地方も訪れて、日本人の口に合うおいしいチェコ料理や、ボヘミア地方のビール、モラヴィア地方のワインを味わってみてください。最低10日間は確保しておかないと、チェコを存分に楽しむには時間が足りないかもしれません!
チェコ政府観光局
(取材/文/撮影:ayan)

