「記者や編集者とエンジニアは似ている」。対談中に金泉さんから発せられた言葉だ。金泉さんが働くメディア業界と片山が働くIT業界。まったく異なる世界だが、それぞれの業界で長年働く2人が対談すると、目指す方向性は同じに感じる。

OpenAI CEOのサム・アルトマンは、ChatGPTを開発したことにより、多くの仕事がなくなる可能性を示唆している。そのなかでも記者や編集者、エンジニアはAIの影響を大きく受ける職業だろう。

AI時代にも生き残れる記者・編集者、そしてエンジニアとは? NewsPicks Studiospaiza、それぞれの代表が語り合った。

SNSは「ポジショントーク」に溢れている

片山:私自身は1997年くらいからインターネットに触れはじめ、IT業界で仕事をしてきました。インターネットの影響で、メディアも受け手側も変化してきていると感じています。金泉さんは長い間メディアのお仕事をしてきたなかで、メディアや受け手側の変化をどのように捉えていますか?

金泉:おそらく「4マス(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)」と呼ばれる従来型メディアの本質は変わっていないんですよ。こうしたメディアの価値の一つに、「速報性」と「調査報道」があります。さらに「中立性」も必要です。この四半期の間に起きたプラットフォームの変化は目まぐるしく、いまでは誰もがアウトプットできるようになりました。でもSNSの発信の多くは、ポジショントークといえます。

それに対して、中立性と自分たちのオピニオンがしっかりと秩序立って存在することがメディアの価値です。ただ、うまくできていません。本来、従来型のメディアにとって重要なのは第一報と調査報道を出す取材力ですが、そこが矮小化されてしまっていて、もったいないと思います。

片山:私も以前は、メディアに中立性を求めていた気がします。でも、どこかのタイミングで、メディアってじつは結構偏っていてポジションを取っていることが明らかになりましたよね。

金泉:おっしゃるとおりです。ただ、従来型のメディアを擁護するわけではありませんが、SNSで発信しているインフルエンサーよりは、まだマシな状況だと思います。最近は「ベリングキャット」のような、データをもとに客観的な報道をしている取材チームが増えてきていますし。

片山:ポジションを取っていてもいいのですが、X(旧:Twitter)のコミュニティノート機能のように、それに対する情報がうまく見えてくると、何を信じるかはユーザー側に任されますよね。それが中立性という概念に、やや切り替わってきているのかなと感じます。

金泉:そうした機能がテクノロジーによって可視化されるようになれば、もしかしたら従来型の報道取材がなくてもいい時代が来るのかもしれませんね。1人の人間や1つの媒体が中立を取るなんて、究極的には不可能な話です。いまの週刊誌報道の状況を見ていても、双方の見解は異なっていますよね。みんなが既存メディアの報道に違和感を抱いているけど、SNSの情報よりはマシというのが現状かなと思っています。

記事に名前を載せることで、読者とのいい緊張関係が生まれる

片山:匿名で発信される記事が多いなか、NewsPicksは記者の顔と名前が見えています。コメント欄が開放されているので、いろいろな意見がぶつかっていますよね。コメントを書く側も、顔と名前を公開している人が多くいます。そのなかで自分の意見がどこに近いかを選べるようになっていますね。

金泉:NewsPicksは記者のプロフィールを載せ、自分の名前で責任を持って記事を書くことが原則です。多くの記者が新聞社や出版社の出身ですが、おそらく以前の職場にいたころよりも記者力は高くなっていると思います。なぜかというと匿名で顔の見えないメディアと違い、間違ったことを書いたらコメント欄でピッカーと呼ばれる読者から指摘が入ってしまうからです。とてもいい緊張関係で、まさにNewsPicksが目指した世界だと思いますね。

片山:この四半世紀の間にテクノロジーによって誰でもアウトプットできる場所が生まれたなかで、個人が責任と緊張感を持つのはおもしろいですね。

AIの進化によってエンジニアはどう変化するか?

金泉:話は変わりますが、最近は生成AIの進化がすさまじく、シンギュラリティを迎える段階に来ているなか、エンジニアはどのように変化していくと思いますか?

片山:AIの進化によって、人間がコードを書く必要はなくなるのでは? といった声もあります。ただ、エンジニアにとってコードを書くことは、仕事のごく一部に過ぎません。何の仕事をどう自動化するか、自動化して不具合が起きた場合にどう対処するかなど、振る舞いやルールを厳密に設計することが重要です。コードを書く時間は減るかもしれませんが、システム設計や判断は必要です。むしろ、より高度化していきます。

いまはSIerがシステム開発を請け負っているケースが多いので、なにか問題が起きてもSIerが責任を取って対応してくれます。これがAIに置き換わると、発注者側に責任が発生する構造になります。でも発注者側は、その状況を嫌がると思うんですよね。

なので、変わらず責任を取ってくれる人が必要です。しっかりとシステムが動く担保を求めるなら、やはり設計ができないといけません。そのためにはコンピュータの振る舞いを知っている必要があるので、結局は人間もプログラミングを理解しておかないといけない世界になります。

金泉:なるほど。AIの進化によってシステム設計や判断が、より高度化していくと、学び方はどう変わっていくのでしょうか?

片山:学び方はそれほど変わらない気がしています。厳密にコンピュータが動くように規定することを覚えなければならないので、コンピュータサイエンスの基本を学ぶことは変わらないはずです。基本を理解していれば、新しい言語やテクノロジーが出てきてもキャッチアップのスピードが速いんです。

金泉:基本は変わらないわけですね。エンジニア不足が叫ばれるなか、エンジニアの転職支援をしている会社がたくさんありますよね。そのなかで御社は、どのような戦略でエンジニアの登録を増やしているのでしょうか?

片山:私たちが会社を立ち上げたのは12年前になりますが、当時からエンジニアが足りないと言われ続けていました。転職したいエンジニアのサイトへの登録を増やすために、広告を投下していくのですが、CPAがめちゃくちゃ高いんです。そこから実際に転職のCVを確認すると、事業が成り立たないとわかりました。

そこで、広告に投下していたお金をコンテンツに投資する方向にシフトチェンジしました。「プログラミングスキルチェック」やプログラミングを題材にした漫画やゲーム、動画などの楽しみながらプログラミングに触れられるコンテンツをつくっています。

paizaが提供するプログラミングに触れられるコンテンツ例

 

結局、転職支援だけしていてもエンジニアの総量は増えないので、学習コンテンツをつくって総量を増やしていくしかないんですよね。

金泉:たしかに最近はリスキリングして、エンジニアを目指す人が増えてきましたよね。

AIが進化しても人間にしかできないこと

片山:AIの話になったので私もお聞きしたいのですが、AIは記者や編集者にどのような影響がありそうですか?

金泉:AIを使った記事制作の実験はしているんですけど、すべてをAIだけで完成させるのは、まだ難しいですね。AIには人の心を動かすストーリーをつくる力がまだないので、記者にはそこが求められていくと思います。将来的にはストーリーづくりもAIが担えるようになるかもしれませんが……。

ただ、調査報道のように、まだ可視化されていないものを調べることは記者でなければできません。あと、さきほど片山さんのお話にもあったように、「誰が記事に対して責任を持つのか」が重要になってきます。誰が言うのか、誰が書くのかですね。

片山:発信者のバックボーンやメッセージ性は重要になってきますよね。そこはAIにはどうにもできないところです。エンジニアの世界でも、コードをレビューして「このコードはどういう意図で書きましたか?」と聞いたら「GitHub Copilotがこう言っているからです」と答える人が出てきました。コーディングを支援するAIのGitHub Copilotがコードを書いたとしても採択したのはその人ですから、その人に責任が発生します。誰が何の目的で、どういう想いを持つかが問われる時代になってきているのかなと思います。

「育成の場」が求められる時代に

片山:最後にお聞きします。今後、メディアの立ち位置や役割はどうなっていくと思いますか?

金泉:メディアはクリエイターの育成機関であることが重要です。ノウハウを学んで調査報道ができるようになるまで、10年くらいの時間がかかります。そして学ぶことは、まだ1人ではできないと思います。漫画家や作家もそうです。編集者とのコミュニケーションを経ることで、よりよい作品が生まれます。

片山:これはIT企業にも通じるものがありますね。AIが進化したからといって、経験のない人がいきなりシステム開発できるわけではありません。「それっぽいもの」はできるかもしれませんが、いろいろな抜け漏れが出てくるので製品としては成り立ちません。現場を経験して、訓練をすることで身につくものです。そのためには育成機関の存在は欠かせません。

金泉 俊輔さん プロフィール
NewsPicks Studios代表取締役CEO。雑誌ライターとして活動後、女性情報誌・女性ファッション誌編集を経て、週刊誌編集へ。『週刊SPA!』編集長、ウェブ版『日刊SPA!』創刊プロデューサーなどを務める。株式会社ニューズピックスへ移籍し、NewsPicks編集長、プレミアム事業担当(編集部・パブリッシング・ソーシャル編集部)執行役員を経て、2021年1月より現職。
片山 良平 プロフィール 
paiza株式会社 代表取締役社長/CEO。インターネット黎明期より100を超える企業のWebデザイン、システム開発などに携わる。その後、ITエンジニアとしてPHPとMySQLを使用したCMS、ASP型ECモールなどの自社開発を担当。 2007年より、ネットイヤーグループ株式会社にて大手通信企業のデジタルマーケティング戦略を統括。 2011年、新規事業開発の専門会社である株式会社エムアウトに入社。 2012年にエムアウトの社内新規事業としてギノ株式会社(現:paiza株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。

(取材/文:川崎博則、撮影:野田涼

― presented by paiza

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