誰にでも、その人にしかない「仕事の流儀」がある――
今回の記事では、株式会社TimeTree 代表取締役社長CEOの深川 泰斗(ふかがわ やすと)さんに、テクノロジーや組織づくりなど、仕事に関することをうかがいました。記事の最後にお聞きした内容を「仕事の流儀7選」としてまとめています。
全世界の登録ユーザー数が4,400万人を超えるTimeTreeを生み出した、深川さんの仕事の流儀とは?
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目次
注目されている新しいテクノロジーは、とりあえず触る
――最近、世間ではAIが注目されています。深川さんが注目しているテクノロジーはありますか?
深川 泰斗氏(以下、「深川」):ブロックチェーンやNFT、ChatGPTなど、注目されている新しいテクノロジーは、とりあえず触って遊んでみています。たとえば、最近は名刺代わりに「プレーリーカード」を使っています。スマホをかざすだけで、情報を送れるデジタル名刺です。


――先ほど深川さんのプレーリーカードを読み取らせていただきました。初めて見ましたが、とても便利ですね。新しいテクノロジーやサービスを積極的に試す深川さんですが、最近学んでいることや、チャレンジしていることはありますか?
深川:英語を勉強しています。TimeTreeを使ってくれる海外ユーザーさんが多いので、自分でユーザーインタビューができるようになりたいと思って始めました。
TimeTreeのユーザーは、いまのところ日本と海外でおよそ半々の割合です。ただ、少しずつ海外の割合が増えているので、1年後には海外ユーザーのほうが多くなると思います。
――現在、全世界の登録ユーザー数は4,400万を超えました。日本発で、これだけ世界中で使われているプロダクトは珍しいと思います。
深川:海外ではほとんどマーケティングをしていないのに、これだけのユーザーさんが使ってくれているんですよね。本格的にマーケティングをおこなえば、さらに伸ばせると思っています。今年は、ユーザーが増えているアメリカに拠点をつくりたいですね。
――マーケティングをしていないのに、これだけ海外の方が利用しているのはすごいですね……! 深川さんは、ヤフー、KAKAO JAPAN(ヤフーからの出向)を経て起業されています。これまでの仕事に活きたスキルがあれば教えてください。
深川:大学院で社会学・文化人類学を専攻した経験が活きています。学んでいた当時は「そんなの、何の役に立つの」と言われていましたが、いまは学んでよかったと思っています。
社会学や人類学は、自分以外の社会や人を理解することに向いている学問です。会社組織やユーザーさんのことを考える際に活きています。
意見を言い合うハードルを下げるための「ニックネーム制度」
――TimeTreeの組織運営で印象的なのが「組織の全員がニックネームで呼び合うこと」です。深川さんはFred(フレッド)と呼ばれているそうですね。
深川:はい。フラットな関係を表現するために、ニックネームで呼び合うことを制度化しています。これは、職位や年次の違いを意識せず、メンバー同士で意見を言い合うハードルを可能な限り下げるためです。
ニックネームは自分で決められます。僕は前衛ギタリストのフレッド・フリスから付けました。「さん付け文化」もないので、みんな僕のことを「Fred」と呼びます。
――とても面白い制度ですね。アプリ開発にはエンジニアが欠かせません。エンジニアのマネジメントで意識していることを教えてください。
深川:1つは、エンジニアのやっていることを理解することです。私はヤフー時代、企画職をしていました。そのときに、エンジニアがどのようなことをしているのかわからないと会話できないと思って、非エンジニアの同僚と一緒に勉強したんです。
Ruby on Railsを学んで、3か月でUGCサイトを作ってみました。これはやってみてよかったです。そこからエンジニアの人と話していても、通じやすくなった気がします。
エンジニアになるつもりでプログラミングを学んだというよりは、良いコミュニケーションをとるため、チームワークを円滑にするために学びました。
もう1つは、目的や価値にフォーカスして一緒に考えることです。「これ、仕様書通りに作って」ということはやりません。仕様が正解ではなく、議論を重ねて、ユーザーさんにとってより良いものを作るのが目的です。まず会社のミッションやコアバリューから共有する。すべてがそこにつながっていますから。
新メンバーへ5日間にわたって、会社のミッションやコアバリュー、企業文化などを代表自ら説明する
――過去にプログラミングを学ばれた経験が、エンジニアのマネジメントにも活きていそうですね。エンジニアに限らず、マネジメントで工夫されていることを教えてください。
深川:TimeTreeには、「ウェルカムプログラム」というプログラムがあります。新メンバーに向けて5日間、1日30分を使って会社のミッションやコアバリュー、企業文化をどう考えているかなど、私が直接説明するプログラムです。このウェルカムプログラムは、2014年に起業したときから継続しています。
――代表自らですか! それだけ企業の方向性を伝えるのが重要だと考えているのですね。プロダクト開発についてもお聞きしたいです。深川さんがプロダクトマネジメントにおいて重要だと思うことを教えてください。
深川:個人的に気を付けているのは、ユーザーさんの心理を深く想像することです。かつ、あえてネガティブに想像します。
たとえば、新しいユーザーさんがプロダクトを使ってくれるとしても、楽しみながら使い始めないと思うんですよね。新しいことを覚えるのって面倒くさくありませんか? 説明書とか読みたくないじゃないですか。そういうネガティブな状態をイメージして考えます。
私たちはIT業界にいて、ITが好きだから、アプリやツールの使い方は自分から学びますよね。でも世の中には、そうではない人もたくさんいます。そうした人の認知コストや学習コストを、とても重く考えています。
――確かに新しいことを覚えるのは面倒です…。続いては経営者という立場で、エンジニアに求めることを教えてください。
深川:目的意識をしっかりと持ってほしいです。TimeTreeエンジニアの場合、目的はユーザーさんの体験を良くすること。コードを書くことは手段であり、目的ではありません。こうした目的意識を持って一緒に仕事ができる人を求めています。
人と人が何かを一緒にやるのって、めちゃくちゃ大変だと思うんですよね。人数が増えたらなおさらです。何もしなくていいなら、1人で生きたほうが楽だなと思います。
でも、何か世の中に対して大きいことをしようと思ったら、みんなで協力するしかありません。そこを一緒にトライしたり、チームワークを発揮することに関心を持ってくれる人と働きたいです。
――同じ目的意識を持って、チームワークを発揮できる方ということですね。TimeTreeが、今後目指す世界について教えてください。
深川:人類の予定管理をアップデートしたいです。世の中、忙しさが増しています。忙しくて誰かが何かを我慢したり、疲弊したりすることをなくしたいです。
いろいろな人が協力して、日々をスムーズにゆとりを持って暮らしていける世界にしたいと思っています。
「TimeTreeがなかったころって、どうやって予定管理していたか思い出せないと言われたらいいね」と、起業当初から話していました。そうなりたいですね。
――最後にうかがいます。深川さんにとって「仕事」とは何ですか?
深川:僕にとっての仕事とは、ほんの一歩ずつでも、毎日を良いものにしていくことです。
――ありがとうございました!
株式会社TimeTree 代表取締役 深川 泰斗 さんの【仕事の流儀7選】
(取材・文・撮影:川崎博則)