2014年9月、前職場の同僚5人によって創業された株式会社TimeTree(旧社名:JUBILEE WORKS)。2015年3月には、カレンダーシェアアプリ「TimeTree」をリリースしました。
TimeTreeは、全世界の登録ユーザー数が4,400万を突破(2023年2月時点)。日本と海外の割合は半々程度と、世界中で利用されているアプリです。
世界中で利用されている日本発のアプリは、どのように生まれ、成長してきたのでしょうか。株式会社TimeTree 代表取締役CEOの深川 泰斗(ふかがわ やすと)さんにお話をうかがいました。
プロダクトが決まっていない状態で、チームメンバーありきで起業
――まずはじめに、起業の経緯についてお聞かせください。
深川:前職の同僚5人で起業しました。チームメンバーありきで起業したので、何をやるかは決めていない状態だったんです。メンバーと話し合っている中で、カレンダーアプリが浮かび上がりました。
当時の企画書には、2つのことが書いてあります。1つは「予定管理というのは、コミュニケーションに近いのではないか」。予定には相手のいることがほとんどなのに、当時のカレンダーアプリは、個人用のツールが多かったので不便に感じました。
もう1つは「未来の情報の可視化」。過去の情報は、事前に口コミやレビューなどの情報から選べるじゃないですか。でも、未来のことは可視化されていません。可視化されて何か少しでも情報を得ないと、未来の予定を納得して選べないと思いました。
家族との予定についても、可視化したらどうかという話をしていました。たとえば、事前に奥さんが何日に友達と飲みに行くとわかっていれば、自分も予定を選択しやすいですよね。
――チームメンバーで話し合った後にプロダクト開発がはじまり、TimeTreeがリリースされました。いつごろから「このプロダクトはいける」と感じましたか?
深川:もちろん起業したときは「やるぞ!」と前向きな気持ちでした。しかし、不安もありました。プロダクトに手ごたえを感じたのは、2018年の7月に登録ユーザー数が1,000万を超えたあたりからです。
――2018年7月に登録ユーザー数が1,000万を超えて、現在は登録ユーザー数が4,400万人を超えています。登録ユーザー数の伸びが急加速していますね。
深川:TimeTreeは共有を前提に作られているため、誰かと一緒に使うケースが多いです。人が人を呼ぶので、登録ユーザー数が増えるほど、さらに伸びていきます。ご家族で使ってもらうケースをはじめ、スモールビジネスやスポーツチーム、PTAなどで使ってもらうケースもあります。
――事業を進めていくうえで、さまざまな苦労があったと思います。最も苦労したことは何でしょうか。
深川:プロダクト開発も大変でしたけど、やっぱり組織づくりですかね。組織というのは、変わっていくものです。組織規模によって良い形や良い仕組みがありますし、会社のフェーズによって組織に必要な機能も変わるし、終わりがありません。
アプリをリリースした初年度に、Apple社による「BEST OF 2015」に選ばれる
――日本と海外ユーザーの割合は半々くらいだとうかがいました。開発当初から、これだけ多くの海外ユーザーに利用されるアプリにしようと狙っていたのでしょうか。
深川:狙っていました。TimeTreeをリリースした当初から、日本と海外ユーザーの比率は半々くらいでした。2015年3月にリリースして、その年にApple社が選ぶその年のベストアプリ「BEST OF 2015」に選んでもらいました。日本だけではなく、韓国と中国でも選んでもらえたのは大きかったです。おかげで韓国や中国のユーザーさんも増えました。
――多くの国でユーザーさんがいますが、各国でアプリのUIは変えているのでしょうか?
深川:いえ、UIは一緒です。ただ、表示言語や細かい設定は異なります。
たとえば、中国では旧暦が表示さます。ヨーロッパでは通年の週番号が表示されます。こうした各国の違いは、ユーザーさんに教えてもらいました。ユーザーさんの声をもとに改善しています。
――いまのお話にもあるように、TimeTreeはたくさんのユーザーさんの声を聞いてプロダクトを育てています。ユーザーさんの声はいつから参考にしていたのでしょうか。また、コロナ禍では、ユーザーさんへのヒアリングはどうされていたのでしょうか。
深川:TimeTreeのリリース直後からユーザーさんの声を聞いていました。初期から利用データも集めていて、アプリをインストールすると、誰と使うかを選ぶ画面があります。このデータによって使い方別の継続率がわかります。
コロナ禍では、むしろユーザーさんの声を聞きやすくなりましたね。ユーザーさんへのオンラインインタビューができるようになりましたから。コロナ禍前はZoomを使っている人はあまりいませんでしたが、いまは多くの人が使っています。海外のユーザーさんへのインタビューもしやすくなりました。
コロナも落ち着いてきたので、今年はリアルな場で集まるユーザー会もやりたいね、と話しています。
プロダクトの改良がユーザー数を増やす施策
――今後、TimeTreeで改良しようと考えていることを教えてください。
深川:初心に帰って、シンプルにしたいと思っています。機能が多くなってユーザーさんの認知コストや学習コストが増えると、選ばれなくなってしまいます。
最近のTimeTreeは、UIや機能などが少し複雑になってしまったように感じるんです。機能が増えすぎたのかもしれません。ユーザーさんの声を聞いても、わかりにくいという声が増えた気がしています。
シンプルにすることが、ユーザー数を増やす施策にもつながると思います。多くの人に使ってもらうには、シンプルさが大事です。そのなかで、僕らは便利な使い方をお伝えしていきたいと考えています。
海外への本格展開を考えるとなおさらです。海外は文化背景やITリテラシーなど、日本以上に多様だと思います。
シンプルにしたうえで、ユーザーさんの手助けとなる機能は増やしたいです。決まった予定を書くだけではなく、これからの予定を考えたり決めたりするのがもっと便利で楽しくなるような機能を入れていきたいと考えています。
たとえば、引っ越しをするのって大変じゃないですか。業者選びから荷造りなど、引っ越し当日までには、やることがたくさんあります。でも、やることって大体みなさん一緒ですよね? やらないといけないことをゼロから考えず、やることとスケジュールがTimeTree上に登録されるイメージです。引っ越しは一例ですが、こうしたことができたらいいなと思っています。
シンプルで便利になれば、家族で使っていた人が職場で使うように、職場で使っていた人が家族で使うようになる。そうすれば、さらにユーザーさんの裾野は広がっていくはずです。シンプルにすることはそれだけの価値がありますね。
(取材・文・撮影:川崎博則)