購入後の体験向上と顧客接点の創造を実現する、購入体験プラットフォーム「Recustomer」を展開するRecustomer株式会社。 

同社でCTOを務める眞鍋秀悟さんは、少数精鋭のエンジニア組織を率いる傍ら、ビジネスサイドまで含めた全社でClaude Codeを活用する体制を構築しています。 

いかにしてClaude Codeを全社に浸透させたのか。そして、AIの技術境界が消失しつつある今、エンジニアが真に磨くべき力とは何なのか。眞鍋さんにお話をうかがいました。

眞鍋 秀悟 プロフィール 

Recustomer株式会社 CTO。京都大学理学部に首席で合格し、京都大学大学院を経てエンジニアの道へ。新卒で入社したフィックスターズにてExecutive Engineerとしてエンジニアリング開発をリードし上場を経験。その後Mujinにてアーキテクトを務める。Preferred NetworksではEngineering Managerを経て、HacobuではCTO室長および研究開発部部長に着任。2024年5月、Recustomer株式会社にてCTOに就任し現在に至る。Startup CTO of the Year 2025 にてオーディエンス賞受賞。 

やりきり力を推進力へ。少数精鋭組織で熱狂を生むマネジメントの極意 

——御社のミッションについて教えてください。 

眞鍋さん(以下、眞鍋)Shopifyに代表されるように、SaaSの普及によって「売ること」が非常に簡単な時代になりました。一方で、消費者側が「安心して買う」ための仕組みは、まだ世の中に十分には整っていません。私たちが注力しているのは、まさにこの領域です。

たとえば、Amazonであれば衣類の返品も容易ですし、配送状況も正確に把握できます。しかし、多くの自社ECサイトでは、返品が困難だったり、いつ届くのかが不透明だったりすることが少なくありません。これは消費者体験(CX)として大きな課題です。私たちのミッションは、こうした負の側面を解消し、消費者がより自由に、安心して購入できる選択肢を広げていくことです。 

——PyCon JP 2025では5名もの登壇が決定されました。少数精鋭ながら、これほど継続的にアウトプットが生まれる環境をどのように醸成しているのでしょうか。 

眞鍋:2024年はエンジニア7名のうち4名、翌2025年は10名のうち5名がPyConに登壇しました。CFP(プロポーザル)にはエンジニア全員が応募しています。全員が自発的に「登壇したい」と手を挙げる組織は稀有だと思いますが、こうした文化を醸成することこそが私の使命だと考えています。 

当社には、組織として「やりきり力」が根付いています。象徴的だったのは昨年のアドベントカレンダーです。わずか10名のエンジニア組織でありながら、12月1日から25日までの枠をすべて自社メンバーだけで埋めきりました。同じ方向を向いて施策を完遂させる、ある種の熱狂的な文化が作れていると感じます。 

私が入社する前から、個々の推進力は非常に高い組織でした。ただ、当時はその力が分散している状態だったんです。これらを束ねて事業の成長へ向けたなら、とてつもないインパクトを生めるはずだと確信していました。最初から大きな改革を狙うのではなく、小さな成功体験を積み重ねてきたことが、結果として文化の醸成や、今の良いマネジメントサイクルにつながったのだと思います。 

非エンジニアをも熱狂させたClaude Code全社浸透の舞台裏

——御社はClaude Codeを全社で活用されています。非エンジニアも活用していく土台を、どのように構築したのでしょうか? 

眞鍋:私は、コンピューターというものはあくまで事業を推進するためのツールだと考えています。ですから、Claude Codeも単なるエンジニアリングツールとは捉えておらず、ビジネスサイドのメンバーも当然使いこなすべきだと思っています。 

大きな転機となったのは、Claude Codeの進化です。それまではモデルが進化しても、「性能が上がりましたね」程度の感想でしたが、2025年12月に『Skills』がオープン標準化されたことで、決定的なブレイクスルーが起きました。 

これを機に本腰を入れ、まずはエンジニア全員にClaude Codeを浸透させました。活用が遅れていたメンバーには私がマンツーマンで指導を行い、2026年の1月から2月にかけて、エンジニアチーム全体の底上げを完了させました。 

その後、2月末に行ったビジネスチーム向けのキックオフ会で、AIに関する1時間のセッションを設けたところ、現場から想像以上にAIでこれがしたいという具体的な要望が溢れ出したんです。 

そこで私がまず取り組んだのが、Claude Codeを個人のPCにインストールさせるという従来のアプローチを撤廃することでした。 

——なぜ、Claude Codeを個人PCにインストールさせる戦略をやめたのでしょうか?

眞鍋:個人のPCにインストールしてしまうと、一部のギーク(ITに精通した層)なメンバーだけが突出して強くなり、組織全体に広がらないからです。 

Claude Codeの進化は非常に速いですが、常に最新のノウハウを追い続けられる人は限られています。そこで、私がその役割を一手に担うことにしました。具体的には、最新のノウハウをあらかじめ組み込んだ共有環境を1つ用意し、メンバーはそこに接続して利用する形態をとっています。これにより、ビジネスサイドのメンバーは背後で動いている仕組みを意識することなく、コマンドを叩くだけで常に最新の恩恵を受けられるようになりました。 

また、個人PCへのインストールでは、作成したSkillsは本人しか使えませんが、この方式なら優れたSkillsを即座に全社展開できます。実際、現在の社内Skills数を調べたところ、200ほどにまで増えていました。 

——ビジネスサイドのメンバー全員が毎日リミットに到達しているというのは驚きです。なぜ、そこまで徹底した活用が実現しているのでしょうか? 

眞鍋:ビジネスサイドにも、テクノロジーに強い関心を持つメンバーは必ずいます。まずは彼らに、Claude Codeがいかに素晴らしい体験をもたらすかを周囲に広めてもらうハブになってもらいました。 

具体的には、特に意欲の高かった4名を選び、あえてそれぞれに別々の専門知識を伝授したんです。そして、他のメンバーから私に質問が来た際には、「その件は〇〇さんに詳しく伝えてあるから、ぜひ聞いてみて」と橋渡しをしました。 

そうすると、メンバー間で自然と知識の交換が始まるんですよね。この教え合いの連鎖が広がることで、ビジネスサイドの中に自律的なコミュニティが生まれました。 

今では、ターミナルのGhosttyも全社員が使いこなしていますが、これもコミュニティ内で教え合う文化があったからこそ定着したものです。もはや私の手を完全に離れ、現場主導で独自の進化を遂げています。

非エンジニアの活用がエンジニアを再点火させる。職種の境界を越えて加速する「組織の底上げ」 

——ビジネスサイドの自走によって、エンジニアがより自分の仕事に集中できるようになった実感はありますか? 

眞鍋:それは間違いなくありますね。ただ、それ以上に大きな変化として、エンジニア側に良い意味での危機意識が生まれたことが挙げられます。 

ビジネスサイドのメンバーがClaude Codeをリミットまで使い倒している一方で、もし専門職であるエンジニアが使いこなせていなければ、それはプロとして格好がつかない。そういった健全なプレッシャーがチーム全体にかかるようになりました。 

その結果、エンジニアたちも負けじと必死にキャッチアップするようになり、組織全体の技術レベルをさらに一段引き上げる底上げ効果に繋がっています。 

——全員がプロダクトの当事者として動く、Recustomerならではの面白さはどこにありますか?

眞鍋:他の会社では決して味わえないようなスピード感でキャリアを形成でき、圧倒的な成果を出しやすい環境だと思っています。たとえ将来、別の道へ進むことになったとしても、周囲から「そんな領域まで一人で完結できるんですか?」と驚かれるような実績を語れるようになる。それは本人の将来にとって、大きな資産になるはずです。 

大企業ではどうしても分業化が進み、狭い領域に特化した業務になりがちですが、Recustomerはまだ成長途上のスタートアップです。どの部門を見渡してもまだ誰も手をつけていない課題が至るところに転がっています。自分の職種という枠に閉じこもらず、他領域と越境しながら事業を大きくしていく手応えを感じられるはずです。 

また、私たちの事業領域が買い物であることも大きな特徴です。買い物は誰もが日常的に経験する普遍的な体験。だからこそ、プロダクト思考の強いエンジニアであれば、入社初日からユーザー視点に立ってもっとこう改善できるというアイデアを出し、即戦力として活躍できる。このドメインとしての「手触り感」は、大きな魅力ですね。 

「DIY」が普及する時代こそプロの設計が必要。AI時代にエンジニアが担うべき最後の砦

——AIがコードを書く時代、エンジニアが「自分の頭」で考え抜くべきことは何でしょうか? 

眞鍋:開発速度が極限まで上がった先に、エンジニアが向き合うべきはビジネス思考と保守・ 運用です。 

当社ではエンジニア全員が参加するテーブルレビュー会を徹底しています。設計の意図を丁寧に言語化し、議論を重ねることで、次にビジネスで何が起きるかを先読みする力が養われます。今ではエンジニアの間で今後のビジネス展開はどうなるかという会話が日常的に交わされるようになり、彼らの意識は確実にビジネスの核心へと近づいています。 

また、ビジネスサイドがAIでプロダクトを作れるようになったからこそ、エンジニアに求められる役割も変わりました。AIは動くものは作れますが、それが「1年後も確実にメンテナンス可能なコードか」までは担保してくれません。 

これは建築のDIYに似ています。作る難易度が下がり、見栄えの良いものは誰でも作れるようになりました。しかし、10年後に修繕しようとしたら「設計図がない」「構造がバラバラで手が出せない」という事態が必ず起きます。こうしたカオスを防ぎ、持続可能なシステムとして品質を担保することこそが、プロのエンジニアが担うべき領域です。 

実はこの半年ほど採用を止めていたのですが、最近やはり再開しなければと考えを改めました。AIを使えばプロダクトの数を増やすことは容易です。しかし、それらを長期的に保守・運用し、事業の信頼性を支え続けるためには、やはりエンジニアというプロフェッショナルの存在が不可欠なのです。

広さはAIが担い、深さが人間の武器になる

——AIの進化に不安を感じている20代に、伝えたいことは何でしょうか? 

眞鍋:何でもいいので、「自分だけのマニアックな深掘り領域」を一つ持つことをおすすめします。 

これまでは、フロントエンドからバックエンド、インフラまで、日々の膨大なアップデートを追いかけ続ける知識の広さが求められる時代でした。しかし、そうした表層的な情報をキャッチアップする役割は、今やAIが大部分を代替してくれます。 

次に重要になるのは、ビジネスを構築する根幹の部分です。そこでは、オブジェクト指向や関数型プログラミングといった、物事を捉えるための「抽象化された概念」が鍵になります。 

——情報のキャッチアップ以上に、本質的な理解が問われるのですね。

眞鍋: そうです。私はエンジニアに「コードレビューで『LGTM(Looks Good To Me)』としか返せない人は、職を失いますよ」と伝えています。「良いと思います」と言うだけなら、その人の確認を待つよりも、その工程をスキップしてAIに任せた方が圧倒的に速いからです。 

だからこそ、「自分はこうしたい」「ここにはこういう意図がある」と、自分の意志を明確に表現できることに価値が宿ります。 

そのために必要なのが、抽象化能力です。これは、何か一つのことを徹底的に学び抜いた時にしか見えてこない視点です。これまでは「知っていること(表層的知識)」が武器になりましたが、これからは「深く議論できること(本質的知識)」が問われます。何か一つ、誰よりも深く語れるテーマを持っている人は、これからの時代に間違いなく強いはずです。

 

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