生成AIなどの技術革新が急速に進む現代。こうした技術革新によって、ITエンジニアの仕事が奪われてしまうのではないか? そう不安になっている方もいるのではないでしょうか。
今回の記事では「ITエンジニアの生き残り戦略」をテーマに鼎談した内容をお届けします。
参加者は、令和トラベルでEMを務める櫻井さん(以下、miisan)、LayerXでEMを務める新多さん(以下、あらたま)、paiza代表の片山です。
変化の激しい世の中で、ITエンジニア(以下、エンジニア)として生き残っていくために必要なこととは——

櫻井 みづき(miisan)さん プロフィール(写真中央)
株式会社令和トラベル プロダクト開発部 Head of Engineering Office。大学卒業後エンジニアリングを学び、株式会社メルペイでQAエンジニアとして品質保証・品質管理全般に携わり、プロダクトの立ち上げからグロースまで関わる。2022年4月より令和トラベルで1人目QAエンジニアとして旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のプロダクト開発に携わる。現在は、エンジニアリング戦略や組織作りを担当しながら、コーポレートデザイン部 組織イネーブリンググループマネージャーとしても、全社の組織開発や育成、カルチャー作りなどを兼務している。
新多 真琴(あらたま)さん プロフィール(写真左)
株式会社LayerX バクラク事業部 プロダクト開発部 エンジニアリングマネージャー・国立音楽大学を卒業後、DeNAでソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタート。その後はセオ商事、ロコガイドを経て、Cake.jpにて執行役員CTOを務めた。現在はLayerXにて「バクラク申請・経費精算」のEMを担いつつ、コミュニティ「EMゆるミートアップ」「EMConf JP」を運営中。
片山 良平 プロフィール(写真右)
paiza株式会社 代表取締役社長/CEO。インターネット黎明期より100を超える企業のWebデザイン、システム開発などに携わる。その後、エンジニアとしてPHPとMySQLを使用したCMS、ASP型ECモールなどの自社開発を担当。 2007年より、ネットイヤーグループ株式会社にて大手通信企業のデジタルマーケティング戦略を統括。 2011年、新規事業開発の専門会社である株式会社エムアウトに入社。 2012年にエムアウトの社内新規事業としてギノ株式会社(現:paiza株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。
目次
多様なバックグラウンドを持つ3人が語る、それぞれの転機とエンジニアリングの魅力
——まずは、みなさんの自己紹介をお願いします。

令和トラベル miisan:令和トラベルのmiisanです。大学時代は文系で、社会人になるまでコーディング未経験でした。1社目でエンジニアリングを学びバックエンドを中心に開発していましたが、2社目のメルペイでQAエンジニアとしてのキャリアをがっつり歩むようになりました。現職令和トラベルでは、1人目QAエンジニアとして入社し、そこからQA組織の立ち上げをおこないました。現在はQAグループマネージャーと兼務しながら、エンジニアのカルチャーや組織基盤を支える横断組織としてEngineering Officeを立ち上げ、エンジニアリング戦略や組織・カルチャーづくりをメインのミッションとして持っています。直近はエンジニア組織で出来上がった良い文化や取り組みを全社展開するために、コーポレートデザイン部のグループマネージャーも担当しています。

LayerX あらたま:LayerXの新多です。インターネットでは「あらたま」と呼ばれています。私は音楽大学出身ですが、気づいたらプログラミングのおもしろさに取り憑かれて、何社かインターンやバイトをしていました。学生時代からお仕事としてコードを書いてきて、エンジニアとして新卒でディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に入社しました。何社か転職をし、前職のCake.jpでは執行役員CTOとして、開発全体の管掌やプロダクトに関する責任をもつ立場として働いていました。現在はLayerXでEMとして、「バクラク申請・経費精算」を開発するチームのマネージャーをしています。

paiza 片山:paizaの片山です。私は高校を卒業してからしばらくの間、ニートをしていました。ニート時代にインターネットが日本に広がり、おもしろいなと思って自分でホームページをつくってみました。これを仕事にしたいと考えたのが、Webの世界に入るきっかけです。当時、所属していた会社でJリーグに所属するサッカーチームのWebサイトに関する仕事をしていたのですが、情報の更新量が多くて大変でした。まだ無料のCMSがない時代だったので、自分でCMSを作りお客さまもサイトを更新できるようにしました。こちら側での手動更新がなくなり、生産性が劇的に向上したんです。この原体験からエンジニアの仕事はすごくいいなと思い、エンジニアを支援するpaizaを立ち上げました。
——みなさんがエンジニアになってみて感じたことをお聞かせください。
令和トラベル miisan:私はもともと未経験で社会人になってからエンジニアになったので「エンジニア」に対して解像度が低いままキャリアを進んできたのですが、今は場所を選ばずに仕事ができるところがいいなと感じます。私はもともと旅行が好きなので、ワーケーションもできるところが魅力です。先日は2週間、メキシコへ行ってきました。もともと旅行好きなことに加え、令和トラベルには旅行に行きやすくするための福利厚生があり、入社してからは旅行にいく回数も目線も変わりました。カスタマーとして感じた感覚や気づきをしっかりとプロダクトに昇華していくことと、自分の好きなこととが紐づいてきました。
LayerX あらたま:事業ドメインやプロダクトの属性によって着眼点は変わりますよね。私も前職はケーキやスイーツを提供している会社だったので、スイーツの催事を見に行ったり、積極的にトレンドを追いかけたりしていました。いまはバックオフィスの方に向けたサービスを開発しているので、いかに経費精算を「バクラク」にできるだろうかと考えています。そういう当事者意識をもって取り組めるのは楽しいですね。
知らなかったことを知ることができるのもそうだし、知ったうえで解決手段を提案できて、直接的に誰かの役に立っている実感を持ちながら仕事ができて楽しいです。
paiza 片山:事業ドメインにくわしくなっていくことは大事ですよね。私もサッカーチームのWebサイトを担当しているとき、当時スポーツ観戦にはあまり興味はなかったのですが年間50試合くらい観戦に行きました。スタジアムに入った瞬間に感じる「お祭り感」をサポーターは求めていることにたどり着き、Web上でもお祭り感を演出できないかと考えることができました。サポーターにWeb上で投票してもらい、投票が多かったグッズを商品化する取り組みをしたら、とてもバズったのを覚えています。
女性エンジニアを増やすために大切な「ロールモデル」

——今回、おふたりの女性エンジニアがいらっしゃっています。paizaでは、女性のIT人材を増やす取り組みをしていますよね。どうして取り組みをはじめたのでしょうか?
paiza 片山:日本は2008年をピークに人口減少していて、このままだと単純に国力がなくなり、国が衰退して住みにくくなることが確定的です。IT人材は2030年に最大79万人不足すると推計されているので、増やしていく必要があります。現在のIT人材は男性が8割、女性が2割という割合なんですよ。単純計算ではありますが、女性のIT人材が増えれば人材不足の解消に近づきます。
さきほど、miisanとあらたまさんからもお話があったように、IT人材はテレワークもしやすいし、比較的収入も高いです。あとは服装も自由ですよね。目指さない理由もないくらい、ワークライフバランスの整っている、いい環境で仕事のできる職業だと思います。
——それなのに、エンジニアをはじめとするIT人材に女性が少ない理由はなんでしょうか?
paiza 片山:大学入学者に占める女性比率の全国数値のうち、理学や工学などのいわゆる理系学部が依然として低いことが理由の1つとして挙げられます。もう1つの理由として挙げられるのが、女性IT人材のロールモデルの少なさです。私たちは、ロールモデルを知ってもらうための取り組みをしています。
2023年にサイバーエージェントさんと一緒に京都女子大学でイベントを開催し、2024年にはラクスルさんと一緒に山形県立山形西高等学校でイベントを開催しました。どちらのイベントにも女性エンジニアに参加してもらい、学生たちにお話してもらいました。
これからの時代に知っておくべき IT業界と女性のキャリア
ラクスル × paiza「ITは私のミライを広げてくれる。」山形西高校で特別講話を開催

IT業界で働くイメージができないという学生さんが多いので、オフィスの写真や服装・髪型が自由なことがわかる写真を見せたら、とても盛り上がっていました。まずはIT業界で働くイメージを持ってもらうことが大事だと思います。
LayerX あらたま:教育から変えていかないと、どうにもならないというのは、実際に活動していても感じますね。
令和トラベル miisan:本当にそうですよね。ロールモデルのお話をされていましたけど、エンジニアで管理職の女性となると、さらに少なくなるんですよ。私は前職時代にマネージャーになることを打診された時、マネージャーになることを何度か断っていました。日本では女性管理職の比率が12.7%と低いですが、前職でも同様に、ほかに女性のエンジニアリングマネージャーがおらず、自分には担えないと感じてしまったからです。0と1には途方もない距離があって、”1”がいることにどれだけのインパクトがあるのかを、そのときに理解しました。だからいまは「いること」を伝えるのが、私の役割だと思っています。
LayerX あらたま:ロールモデルがいないから挑戦しづらいという話は、miisanだけではなくて、いろいろな方から聞きますね。個人的にはすごく衝撃なんです。そもそも音楽大学からエンジニアになる人が私の周りにはいなかったので、ロールモデルがいないから挑戦しづらい、という思考回路が自分にはありませんでした。でも、就職してみたら同期の女性エンジニアがすごく少なかったんです。私が配属された部署には、女性が2人しかいませんでした。不便さというか、なにかやりづらさみたいなものは感じることもありましたね。
ロールモデルになれるかはわからないですが、一種のサンプルとして自分のことをとらえてもらえれば、社会にとって価値があるんじゃないかなと考えていて、最近は結構発信にも力をいれるようにしています。
「得意が噛み合えば素晴らしい成果に」―個の力を最大限に引き出すチームマネジメント

令和トラベル miisan:以前、自分の専門領域以外のチームもマネージメントしなければならないときに、あらたまさんとお話したんですよ。そのときに、いろいろとお話ししたことで「できるかもしれない」と思えました。自分にとって、あらたまさんは転機を与えてくれた人なんです。あらたまさんご自身は、EMとしてどのように組織と向き合っているんですか?
LayerX あらたま:私は、すべてのいいことも悪いことも、結局は人と人の間で起きるんだなって、いろいろな組織を見ていて感じました。得意なことが噛み合って、すばらしい成果につながることもあれば、同じ目標を追いかけていたはずなのに、ちょっとしたボタンの掛け違いですれ違ってしまうこともあります。
難局を突破するにはエンジニアリングスキルも当然必要ですけど、人と人の関係性に着目して、そこをエンジニアリングすることでもレバレッジが効くと思うんです。
エンジニアやデザイナーのように、1つの専門知識を深めてきた人ほど、マネージメントスキルは専門知識であることを知らないケースがありますよね。個人のスキルはとても高いのに、チームでうまくいかないケースが結構起きていると思うんです。それをマネージャーが対処することで、情報連携やコミュニケーションなどがうまくいき、高いパフォーマンスを出せることが実感としてあります。そういったところに少しでも貢献できたらいいなと考えています。
令和トラベル miisan:突き詰めていくと、1人でできることの限界がわかってくるじゃないですか。そのときに、チームとか組織に着目しはじめると思うんです。でも、1人のエンジニアとしての自分もいます。このバランスを両立することの難しさを感じるんですけど、そこはどうされていますか?
LayerX あらたま:DeNA創業者の南場さんが「ベクトルが自分に向いているうちは、なにをしてもダメ」とおっしゃっていました。この言葉がすごく好きで、難しい局面にぶつかったときに思い出して「頑張るぞ」と気合を入れています。主語をチームや組織など、自分以外のものにして考えるようになると、現状を客観視できるようになります。そうすれば、おのずとバランスが取れると思います。と言っても、難しいなと日々感じているのが実際のところです。
生成AIの発展により、エンジニアのキャリアはどうなる?

——生成AIが急速に発展し、さまざまな業務に実用されています。AI時代のエンジニアのキャリアについて、みなさんのお考えをお聞かせください。
paiza 片山:生成AIがコードを書けるから、エンジニアの仕事がなくなると話す人もいますが、私はむしろエンジニアの仕事は増えると思っています。社内のエンジニアに、週40時間のうち何時間コードを書いているのかアンケートを取りました。すると、平均で約10時間しかコードを書くことに使われていませんでした。でもこれって業務全体の約25%程度なので、そこまで多くありません。しかも、コードを書く約25%の仕事は、生成AIを活用しても0%にはできません。
要件のヒアリングや既存コードの読み込み、各所との調整など、コードを書く以外の仕事に約75%の時間が使われています。AIはPdMのところに仕様確認にはいってくれませんし、出力コードの仕様の間違いを確認してくれるわけでもありません。結局のところ、これらの仕事の重要性が増し、「できるエンジニア」が生成AIを活用して、より生産性が高まるのではないでしょうか。生成AIを活用できるかどうかで格差は広がりそうです。
令和トラベル miisan:格差が広がる話でいうと、生成AIの使用については深刻なジェンダーギャップが存在するというデータもあります。実際に「生成AIが大事なのはわかるけれど、業務外で学ぶのは難しい」と、メンバーに言われました。家庭の事情があったり時短勤務をしていたりすると、業務外で学ぶのは難しいですよね。だからこそ、業務のなかでしっかりと組み込んでいく必要があると思います。令和トラベルでは最新テクノロジーに乗り遅れる組織や個人を作らないように、各部門から1人ずつAI局長を作り、定期的にAI局長同士で議論する場を設けています。そこでの気づきを組織基盤にするためにAIラボチームで仕組みを作るなど会社として工夫しています。
また生成AIの活用が進んだとしても、プロダクト開発は人と人との営みの連鎖だと思うので、エモーショナルなものは残ると思っています。なので、結局はマネージメントやコミュニケーションの部分は、より求められてくるのではないでしょうか。

LayerX あらたま:当社でも、行動指針に「Bet AI」を掲げて、全社的に生成AIの活用に力を入れています。たとえば業務のなかで、Google検索ではなくPerplexity AIを使おうとするなど、ちょっとしたことから生成AIを試す機会をつくり出しています。こういう環境が社内にあるのは、すごくいいところだなと思っていますね。
ただ、個人的にとても危惧しているのは、ジュニアエンジニアの育成です。シニアエンジニアになるまでに、先人の書いたコードを自分なりに解釈し、学びながらコーディングするという過程がありました。そういう機会が生成AIによって、なくなってしまうのでは? と思っています。
結局、課題の構造化や抽象と具体の行き来、クリティカルシンキングなどの合わせ技で、設計や実装をしていくものだと思います。私たちはプログラミングを通じて、それらを培ってきました。プログラミング以外の方法で習得するパスみたいなものを確立していく必要があるんでしょうね。
モチベーションを保つために、それぞれが抱く活動の根源

令和トラベル miisan:私をモチベートしてくれる存在のあらたまさんに、活動の根源を聞きたいです。あらたまさんはすごくアクティブで、めちゃくちゃ精力的に動いているように見えます。自分が20代のころは、やりたいことがわからないなか、試行錯誤していました。
30代になり、「このままだとモチベーションが続かない」と、ふと思いました。自分の経験やキャリアをどのように活かすことが、社会貢献につながるのか、自分にしかできないことはなんなのかと考えるようになりました。
そこで、最近は2つのものに向き合っていこうと思っています。1つは「女性エンジニアを増やせるようなロールモデルでいる」こと。もう1つは「QAエンジニアのプレゼンスを高めていくこと」です。最近は少しずつ変化を感じますが、QAエンジニアは、エンジニア職のなかでは給与テーブルが低いとされています。QAエンジニアもしっかりと事業やビジネスにコミットメントできて、かつ事業やプロダクトのグロースに寄与できることを証明し続けていく。これらを自分のミッションにしようと思っています。「より良いものをお客様に届けていく」というQAエンジニアとしての原点やバックグラウンドを持っているからこそ体現できる活動を続けていきたいと考えています。

LayerX あらたま:考えて組み立てているというよりは、目の前のご縁を大切に生きてきました。大きな柱があるわけではないんですけど、一番大事にしているのは「自分が楽しそうにしていること」です。それを見た人が、「エンジニアという職業はこんな楽しい生き方ができるんだな」と思ってもらえれば、すごくポジティブなことですよね。自分が楽しそうに踊ってみせることで、「みんなも一緒に踊ろうよ」みたいなことをやり続ける。それが社会に対して、いまの自分ができることだと思っています。
ある種の転機としては、2023年のカンファレンスで発表した「あの日ハッカーに憧れた自分が、『ハッカーの呪縛』から解き放たれるまで」があります。若手に対して、なにか渡せるものがないかを考えて出したコンテンツです。育ててもらったコミュニティに対しての恩返しのつもりで登壇しましたが、思いのほか、いろいろな人から反響がありました。
自分と近いと思ってもらえるような人が発信していくことも、業界全体をエンパワーメントしていくためには必要だと感じました。
paiza 片山:paizaは「人類の可能性を最大化する。」というビジョンを掲げています。なぜ、エンジニアの支援をしているのかを考えると、インターネットが人類の可能性を大きくしていて、それを支えているのがエンジニアだからです。活動をしているなかで、女性エンジニアの少なさを課題として感じました。エンジニアが増えれば日本の生産性が高まり、日本が住みやすい国になるし、それによって古い産業も変わっていくかもしれません。今日お話ししたmiisan、あらたまさんも含め、さまざまな方と協力しながら変えていければと思います。
