企業のDXの実現には、エンジニアの開発環境、その環境を通じた開発者の生産性や満足度を向上する必要がある。このような開発者体験における知見の共有を目的としたDevelopper Xperience Day 2024が日本CTO協会により開催され、2024年7月16日から17日にかけて、50名の識者や起業家、開発責任者が登壇した。

AI活用をテーマとするセッションが多かった本イベントで脳科学者の茂木健一郎氏は、「脳力とAIのアライメント」をテーマに講演。人間とAIの違い、人工知能と共存するための仮説について、脳科学の観点から論を展開した。

脳科学から見たAIとAGI

最初に言及したのは、質問に対して真偽のわからない情報を真実であるかのように回答するハルシネーション。現在の生成AIに見られる特徴の一つだが、脳科学の観点から分析すると興味深い事実があると語った。

「人間の場合、質問への回答について確信度と正答率が比例します。つまり、自信が高ければ高いほど正答率も高くなるといえます。しかし、AIはそうではありません。正答率が0%の場合でも回答への確信度が高いのです。つまり、自身の知識レベルを客観的に判断するメタ認知能力が人間にはあり、AIにはないのです。これがAIと人間の大きな違いです」

また、OpenAIが目標に掲げるAGIの実現についても触れた。

AGIは人間の知的作業を理解・学習・実行することができると予想されている。もし開発が実現すると、気候変動のような環境問題やガンの治療法など、人類が時間を変えて少しずつ研究を進めてきた課題に対し、短時間で解決策を生み出す可能性も高い。

しかし、AGIが人類と変わらない知能を持つと仮定した場合、一つの疑問が生じると語った。

「知能が高い人は、あらゆるタスクに対して同じ脳のネットワークを使っています。だから、仮説や答えを出すのが速い。でも、同じネットワークを使う以上、ひとつの課題にしか取り組めません。仮にAGIが高い知能を持つとして、取り組める課題は限られるのではないでしょうか」

AIと共存する方法

AIは言葉や画像など抽象的なアウトプットが大量に可能だ。知的労働がメインストリームの現代において、AIは生産能力を革新的に上げる新たな発明になり、産業構造を一変させる可能性が高い。

もしそうなった場合、人間はどのように働き、生きていけばよいのだろうか。茂木氏は「人間性が重要になる」と仮説を投じた。

「この『人間性』をひも解く上で参考になるのがルネッサンスです。ルネッサンスではキリスト教や教会中心の視点を、ギリシア・ローマ時代のように人間を中心とした視点に戻そうとしました。言い換えると、中世的な神学から解き放たれて、自分の能力を発揮するようになったんです。これを現代に置き換えてみます。これまで、経済の発展のために情報や計算が重視されてきました。もしAIがそれを担うようになり、それらから解放されたと仮定すると、残るのは個人の人間性ですよね」

AIによる人間の声や姿の再現はできるようになりつつある。一方で、AIに人間性を求めると、ものたりなさを感じるのも事実だ。コロナ禍でオンライン生活を経て、実在する人間同士でコミュニケーションを取ることによる重要さも再認識され始めている。

まだまだ定義化が進んでいない「人間性」を分析し、発揮していくことは、AI時代において一つのテーマとなると予測できる。

日本人との適性が高い「コレクティブインテリジェンス」

最後に、東京大学の社会人連携講座で扱っている「コレクティブインテリジェンス」について解説した。

コレクティブインテリジェンスとは、共同知能のこと。多くの人の知恵を集め、ひとつの目標を達成していくという考え方だ。「都知事選に出馬した安野さんがマニフェストをGitHubに公開し、多くの人の案を集め、磨いたこともコレクティブインテリジェンスですよね」と語った。

コレクティブインテリジェンスはチームプレーを得意とする日本人との適性が高いため、ビジネスチャンスが眠っている可能性はある。

「ビッグテックがしのぎを削っているAI業界ですが、コレクティブインテリジェンスなどの人間性をAIに実装する領域で活躍する日本の企業が出てくれば、世界に驚きも与えられるはずです」と締めくくった。

編集後記:技術の発展には脳科学からのアプローチも必要

AI、AGIについて人間の脳科学の観点から考えたことはなかったので、新鮮に感じました。計算能力を代替したときに人間に残されるものは人間性であるという仮説も驚きがあり、これからの技術の発展には脳科学からのアプローチも必要になるのだろうと思いました。

(文:中たんぺい

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