エンジニアの中には、「いずれはCTOを目指したい」と考えている方も多いでしょう。日本CTO協会理事のみなさんはどのようないきさつでCTOになったのか、CTOのネクストキャリアに関する考え方などは、エンジニアが将来を考える上での参考になるかと思います。
本記事では、「Developer eXperience Day 2024」(主催:日本CTO協会)にて「『テクノロジーによる自己変革を、日本社会のあたりまえに』を目指す日本CTO協会理事が考えるCTOのキャリアと今後の協会活動を少し公開!」をテーマにおこなわれたパネルディスカッションの内容をお届けします。このセッションでは、日本CTO協会 理事の小賀 昌法氏、同 芹澤 雅人氏、同 長沢 翼氏、代表理事 松岡 剛志氏が、CTOになるまでとその後のキャリア、CTOの成長パターン、海外の開発拠点などについてお話ししてくださいました。

小賀 昌法理事
日本CTO協会 理事
株式会社LayerX 事業部執行役員(VPoE)
2010年から2021年まで株式会社VOYAGE GROUPでCTOを務め、退職後もTech Boardアドバイザリに従事。企画・監修した『Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち』がITエンジニア本大賞2021で大賞&特別賞のダブル受賞。トラボックス株式会社を経て、2023年4月に株式会社LayerXに入社。
芹澤 雅人理事
日本CTO協会 理事
株式会社SmartHR 代表取締役CEO
2016年2月、SmartHR入社。2017年7月にVPoE就任、開発業務のほか、エンジニアチームのビルディングとマネージメントを担当する。2019年1月以降、CTOとしてプロダクト開発・運用に関わるチーム全体の最適化やビジネスサイドとの要望調整も担う。2020年11月取締役に就任、その後、D&I推進管掌役員を兼任し、ポリシーの制定や委員会組成、研修等を通じSmartHR社におけるD&Iの推進に尽力する。2022年1月より現職。
長沢 翼理事
日本CTO協会 理事
株式会社LIFULL 執行役員 CTO
不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」のWebおよびアプリケーション開発に従事したのち、API基盤の刷新を実施。事業系システムのAWSへの移行チームを責任者として牽引。社内情報システム領域も担当。事業系・社内系システム両面で戦略策定を推進するほか、ベトナム・マレーシア2社の開発子会社のボードメンバー・取締役として、国内外のエンジニア組織の技術力向上および組織力強化を推進している。日本CTO協会幹事から、2024年7月に理事へ就任。
松岡 剛志 氏
日本CTO協会 代表理事
コインチェック株式会社 常務執行役員CTO 開発・人事本部長
2001年に新卒第一期生のエンジニアとしてヤフー株式会社に入社、複数プロダクトやセキュリティに関わる。2007年株式会社ミクシィに参画し、複数のプロダクトを立ち上げたのち、2013年に取締役CTO兼人事部長に就任。 その後、株式会社Viibarの最高技術責任者を経て、2016年に株式会社レクターを創業、代表取締役に就任。2018年6月より株式会社うるるの社外取締役を務める。2019年に当協会を設立し代表理事に就任、2022年8月にコインチェック株式会社執行役員CTOに就任、2024年6月より常務執行役員CTO 開発・人事本部長。
目次
ソフトウェアエンジニア・CTOのキャリアの話

小賀理事:まずはキャリアの話です。CTOという肩書きで仕事をしていると、キャリアの相談を受けることがよくあると思います。みなさんはソフトウェアエンジニアやほかのCTOの人たちから、どのような相談をされたことがありますか。
松岡代表理事:ここ数年でパターンが変わってきたなと感じるのは、エンジニアの方から「CTOになりたいのですが、どうすればよいですか」と聞かれる機会が増えたことです。ただ私や小賀理事、長沢理事くらいまでは、気がついたらCTOになっていた世代かと思います。
最近はCTOも市民権を得たというか、いろいろな会社が「CTOを置かなきゃ」となり、目指す方も増えてきました。それでCTOになる方法を聞かれて、「いろいろなことをしたほうがいいよ」「軸になる技術は一本あったほうがいいよ」などと偉そうなことを言ったりもしますが、翻って「自分は本当にそうなのか」という気もして、つらくなってしまうのが私のパターンです(笑)。みなさんはなぜCTOになったのですか。
芹澤理事:私も、CTOにもCEOにも気がついたらなっていたパターンです。あまり自分の中長期キャリアについては考えないタイプですね。ただ、「あまり先のことを考えるのではなく、目の前のやりたいことをやっていくと、結果として自分のキャリアができていく」という計画的偶発性理論の考え方が大事だと思っています。私も「CTOやCxOになりたいけどどうすればいいですか」と聞かれることはありますが、「自分はなにがしたいのか」を考え続けるのが重要なのではないでしょうか。松岡代表理事はなにがしたいですか。
松岡代表理事:なにがしたいかと言われると、「現状の能力とマーケットにおいて、一番パフォーマンスが高い総和を考え、それを選択し続けたい」というおもしろみのない答えになってしまいます(笑)。

小賀理事:新卒入社した会社でCTOになった長沢理事はいかがですか。
長沢理事:最近よく聞かれるのが「最初からCTOになろうと思っていたんですか」「いつからCTOを意識していましたか」といった質問ですね。エンジニアマネージャーになるのか、スペシャリストでいくのか、その辺のキャリアで迷っている人たちに聞かれます。そのときは私も「気付いたらなっていた」と答えていますね。
エンジニアになって、最初は「このプログラムの一行をよくしたい」「ソフトウェアをよくしたい」と考えるじゃないですか。そこから「システムのアーキテクチャをよくしたい」「組織のアーキテクチャもよくしたい」となって、気付いたら会社全体の組織やビジネス全体を意識するようになっていました。
芹澤理事:わかります。エンジニアの場合、まず「よいものを早くつくりたい」という考えがありますよね。よいものを早くつくるには、技術を習得する必要があって、いろいろなことを知る必要がある。一人でできることには限界があるから、チームを束ねるためのマネージメントも学ぶという感じで、私も気付いたら経営者になっていました。
小賀理事:松岡代表理事はある上場企業でCTOをされたあと、退任されて次の会社でもCTOになりましたよね。それは狙って目指したということではないのでしょうか。
松岡代表理事:そうですね。まずは自分の手札を一番高く使える場所がどこか考えました。あとはもう快楽というか、技術を使ってプロダクトや組織やビジネスをつくるのがおもしろくて仕方ないんですよね。だから、やみつきになっているというのが正直なところです。
小賀理事:気付いたらなっていて、一度は離れてみたけど、やはりおもしろかったからまたやりたくなったと。
松岡代表理事:そうですね。一度は社長にもなったのですが、向いていなかったので退任して、結局CTOに戻ってきてしまいました。
目指すべきCTOと育成

小賀理事:日本CTO協会では、常に「これからのCTOはこうあるべきではないか」といったことを考えて動いております。CTOをされてからCEOになられた芹澤理事に、そのあたりのお話をしていただければと思います。
芹澤理事:私は現在CEOですが、キャリアのバックグラウンドはエンジニアなんです。最初は正直に言って、CTOからCEOになってなにかが変わったという自覚はそれほどありませんでした。ただここ一年ほど協会の理事をさせていただいて、いろいろな方とコミュニケーションをとっているうちに、「CTOの今後のキャリアとして、CEOを目指す道が増えてほしい」と考えるようになったんです。そこで協会でもなにかバックアップできないかと思って、まずはCTOの方々の実態調査をしています。
CTOからCEOになった話をすると、驚かれるというか「そんな道があるんですか」という反応が多いんです。日本の技術者は、技術部門を統括・マネージメントすることで、出力を最大化していくのがミッションという感覚がありますよね。その先の経営に携わることは、経営陣からもあまり求められていないでしょう。「まさかCTOからCEOになる道なんてないよね」という感覚が強いと思います。
私も最初は自分がCEOになるとは思っていなかったのですが、実際になってみると非常に共通項が多いとわかりました。よいものをよくつくっていくには、組織全体をマネージメントしていく必要があります。だからCTOにはぜひCEOを目指していただきたいのですが、CTO本人も経営陣も、目指すイメージがないでしょう。だから、どうすればCTOからCEOを目指せるかの研究を始めています。
小賀理事:実際にやってみて、CEOにはこういう仕事があるんだと気付いたことはなにかありますか。
芹澤理事:最近のソフトウェアエンジニアは、アジャイルやスクラムをベースにしている方が多いと思います。このアジャイルなどの考え方は、経営にも使えるんですよ。
製造業が主体だった時代は、物資の調達から始まり、つくるスパンが長くて、CFOが強かったという歴史があります。でも、ソフトウェアはそうではありません。アジャイルによいものをつくるには、アジリティが重要です。ただそれをきちんと理解している経営陣は意外と少なくて、CTOが一番理解しているはずなんです。
松岡:私自身は人事部も管掌していますし、コインチェックはカスタマーサクセス部門の部長も元エンジニアです。スクラムのようなエンジニア的美徳というか、私たちの中で美しいとされていることをほかの分野で生かしてみると、驚くほど改善できて、数字も伸びていきます。だからエンジニアの仕事をきちんとしていれば、キャリアは無限に伸びる可能性があると思います。
CTOはどこに進むのか。やりたいことがあれば、社長でもCEOやCFOでもいいと思いますし、「やりたいことにフォーカスすべき」という流れができたらいいなと思います。
芹澤理事:エンジニアには、継続的にインプットをする学習習慣がありますよね。こういったカンファレンスで学びを得る、技術書を買って読むといったことはみなさんふだんからされてると思います。ただこれって、独特の文化なんですよね。これほど勉強している部署って、おそらくほかにないんですよ。ずっと学び続けて、変化に適応しながら改善を続けられるというのは、無敵の習慣だと思います。こうした習慣を素養として身につけているエンジニアは、どのフィールドでも活躍できるはずです。だから、臆せず一歩踏み出してほしいと思います。
小賀理事:まさに「テクノロジーによる自己変革」ですね(笑)。
芹澤理事:本当にそうですよ(笑)。ただどうやって一歩を踏み出すのか、どのようなCEOを目指すのか。私自身もCTO時代から取締役会には出ていましたが、正直言って発言する機会はあまりありませんでした。たとえばKPIやファイナンスの話を聞いて、理解はするけど、自分が言うことはとくにないと思っていました。だから「経営に口を出したほうがいいよ」と言われても、「とはいえどうやるんですか」と思う気持ちもわかるんです。今後の協会の活動としては、そこをサポートできるメンタリングやグループワークなどを実施して、日本のソフトウェア業界をさらにおもしろくできればと思います。
グローバル拠点の話

小賀理事:日本CTO協会では、これから日本の社会はさらにグローバルにビジネスをしていかなければならない、そのためにも開発拠点づくりが重要になると考えております。そこで『グローバル検討準備室』をつくり、うまくいけばワーキンググループ化の検討も予定しています。準備室に参加している長沢理事から、グローバル開発拠点についてどう考えていくとよいかをお聞かせいただければと思います。
長沢理事:グローバル開発拠点については、「なんとなく興味はあるけど、具体的になにをしたらよいのかはわからない」「何らかの事業の課題、エンジニアについての課題はあるけど、そもそもグローバルという選択肢を知らないので、話に上がらない」といった企業も多いと思います。だからまずは、「グローバル開発拠点を設ける」という選択肢を提示できるようにしたいです。
その上で実際に拠点をつくるとなったときは、どのような観点で進出先の国を選ぶのか。たとえば人口はどれぐらいかなどの人口統計、メインの宗教、言語などの文化的情報、時差はどれくらいかなどの地理的情報などいろいろな観点があるんです。グローバル拠点を持つ企業が今まで気をつけたことや意識したことなどを共有して、認知を広げたいと考えています。
またいざ進出フェーズになったら、そもそも外資100%でいけるのか、税制はどうなのか、ビザは出やすいのかなどといった観点も必要です。これらをきちんと網羅的にガイドしながら、海外拠点という選択肢を提示するために、グローバル検討準備室を進めています。
小賀理事:いいですね。ただグローバル展開となると、開発組織よりもコーポレート側の負担が大きいのかなと感じますが、いかがですか。
長沢理事:それはありますね。すでにある現地法人をM&Aするのではなく、一から立ち上げる場合、たとえば管理側やHRをどうするのかなど、さまざまな問題があります。とくに一人で立ち上げるときのために、現地のセクレタリーの会社などをリストアップしようと考えています。すでに付き合いがあって、信頼できる会社とスタートできたらスムーズにスタートが切れるでしょう。
小賀理事:松岡代表理事は海外の開発拠点について、どうお考えですか。
松岡代表理事:海外の開発拠点づくりについては、どうしようもないぐらいビジネスが伸びていて、エンジニアが足りないときの選択肢だと思っています。私も以前海外拠点をつくったことはありますが、非常に大変でした。だから選択肢としても、なかなかあがってこないのかなと思います。
芹澤理事:そもそも魅力があまりわからないというのはありますよね。実は私もやったことがないので、あまりわかってはいません。
長沢理事:最近はスタートアップでも初期の段階から、ベトナムをはじめとした海外のオフショア拠点をパートナーとして開発しているようなパターンもあったりします。。
今後は「グローバル拠点も選択肢としてありだな」と思えるような情報を、みなさんにお届けできたらと思います。
最後に
小賀理事:最後に、みなさんから一言ずついただければと思います。
芹澤理事:日本CTO協会ではこのように日々いろいろなことを考えていて、日本のCTOをよくしたいと考えています。
長沢理事:我々は「テクノロジーによる自己変革を、日本社会のあたりまえに」を、本当に実現したいと考えています。自分も貢献してみたいと思う方がいたら、ぜひ声をかけていただければと思います。
松岡代表理事:みんなで学び合いながら高めあいながら、よいコミュニティをつくっていきたいと思います。

取材後記
協会理事のみなさんの体験談や、取り組み事例が満載のセッションでした。
みなさんCTOには「気がついたらなっていた」とのことですが、役職として目指していたというよりも「なにを実現したいのか」を追求し続けた結果、CTOになった方が多いのだろうなと感じました。
いずれはCTOになりたいと考えている方も、まず「目の前の業務をよくするにはどうすべきか」を考えて追求し続けていくと、CTOへの道が開けてくるのではないでしょうか。
(取材/文:谷口智香)
