急成長するスタートアップにおいて、開発組織の構築や採用戦略をどのように実行しているのか気になる方も多いのではないだろうか。
本記事では、「Developer eXperience Day 2024」(主催:日本CTO協会)にておこなわれたセッションを紹介する。セッションには株式会社IVRy プリンシパルエンジニア 成田 一生さん、ALL STAR SAAS FUND パートナー 神前 達哉さん、株式会社SODA CTO 林 雅也さんが登壇。
急成長するテック業界のリーダーたちが、開発組織の構築に必要なリーダーシップのスタイル、組織構造の作り方、効果的な採用戦略について共有した。

成田 一生さん
株式会社IVRy プリンシパルエンジニア。2010年にクックパッド株式会社に入社し、バックエンド、クラウドインフラのエンジニアとして従事。2016年から2022年末まで執行役CTOとして経営に携わり、エンジニア組織における文化の醸成と採用に注力しリーダーシップを執った。2024年2月より対話型音声AI SaaS「IVRy」を開発・提供する株式会社IVRyにプリンシパルエンジニアとして入社。
神前 達哉さん
ALL STAR SAAS FUND パートナー。東京大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社。法人営業を経て、経営戦略室に異動。海外スタートアップとの日本向けB2B SaaSの事業化を果たし、セールス組織開発やCS責任者を担当。2021年よりALL STAR SAAS FUNDのPartnerに就任。
林 雅也さん
株式会社SODA CTO。2020年10月にSODAへ入社し、Webエンジニアとしてスニーカー&トレカフリマ「スニダン」のグロースに貢献。2022年1月よりSODAのVP of Engineering兼エンジニアリングマネージャーとして組織作りやエンジニア採用などエンジニアリングマネジメント領域に注力。2023年10月より執行役員 CTOに就任。
目次
IVRyとSODA、それぞれの会社と組織の紹介

神前さん(以下、神前):本日は、IVRyの成田さんとSODAの林さんと一緒に、急成長するテック企業の採用戦略や開発者体験などについてうかがっていきます。まず、おふたりから事業紹介と組織についてご紹介いただきます。
成田さん(以下、成田):株式会社IVRyのプリンシパルエンジニアをしている成田です。IVRyは電話を自動応答化できるSaaSを開発・提供している会社です。特定の業界向けではなく、幅広い規模のお客さんに使っていただいています。とても安く提供していて、誰でも簡単に設定できることがサービスの特長です。
いまは人手不足で電話番を雇うのが難しかったり、生産性の高い仕事をするために電話応答をなるべく人間がやらなかったりする背景があると思います。IVRyを入れておくと、会社の代表電話にかかってくる電話のほとんどを機械で返せて、本当に人間が出なければならないものはスタッフに転送してくれるというサービスです。AIの自動応答がサービスに組み込まれているので、とても自然な対話ができます。

僕らのビジョンは、「We make “Work is Fun” from now(“働くことは、楽しい”を常識に変えていく)」です。お客さんの仕事も楽しくするし、僕らも楽しんで働くことを重要な価値観としています。
開発組織としては、あまり変わったところがないかもしれません。組織デザインとしては、一般的な職能別の縦型部署ではなく、目的別にクォーターごとに組み直すプロジェクト制と職能別に集めたサークル制で構成しており、2つのチームを掛け合わせ、ヒエラルキーのない組織づくりを目指しています。
林さん(以下、林):株式会社SODAでCTOをしている林です。SODAは「スニダン」というC2Cのフリマアプリを開発・運営している会社です。少し特殊な点として、出品者と購入者間で取引が発生した際に、取引ごとに対象商品を当社の倉庫に送っていただき、真贋鑑定をしたうえで購入者にお送りしています。
メディアもあり、新発売する商品情報を配信しています。また、コミュニティ機能では、ユーザーさんによるコーディネートの投稿や、スニーカーに関する話題で交流が可能です。メディアやコミュニティなども内包したC2Cプラットフォームだと思ってください。スニダンは、日本のみならず海外にも展開しており、少しずつグローバルなプロダクトになってきています。

プロダクト開発組織はエンジニアで50人くらいおり、プロダクトマネージャーやデザイナーを含めて60名くらいです。開発チーム単位では6チームあり、規模が大きくなってきているなかでうまく回っている部分もあれば課題もあるので、本日お話しできればと思っています。
成田さんがIVRyを選んだ理由
神前:成田さんは2024年2月にIVRyへ入社しています。どういった経緯でIVRyを選ばれたのでしょうか?
成田:前職ではCTOをしていて、経営やマネジメントに携わる時間が長かったんです。今年の1月に40歳になり、キャリアを見直しました。経営をしているうちに技術の手触り感がなくなっていき、抽象的な課題にしか取り組まなくなっていった自分が結構嫌でした。本当に難しいものは現場にあるし、それが重要だと思っています。エンジニアとして携わらせてくれるところを探していたことが、IVRyを選んだ理由の1つです。
エンジニアとして仕事するなら、最新の事業がいいなと思いました。IVRyの取り組む「電話」は、最新ではないと思われるかもしれませんが、前提にあるのはAIです。ChatGPTがリリースされる少し前の2020年に、IVRyはサービスを開始しました。当時からLLMが進化することを予見していて、電話の音声データを貯めていました。AIが出発点にあるような事業でチャレンジしたいと思ったことが、もう1つのIVRyを選んだ理由です。
神前:IVRyでは組織がプロジェクト制になっているので、PdMは多くの人数が必要だと思います。このメリットや課題についてお聞かせください。
成田:IVRyを創業した代表の奥西は、ファーストキャリアがエンジニアでした。その後、PdMやBizDevもしてきた人です。彼はPdMとしての解像度がとても高いので、会社としてもいいPdMが採用できると思いました。PdMの採用ってすごく難しいじゃないですか。
でも、IVRyでは社長と一緒に議論できるレベルのPdMが何人もいるので、開発を分けられるんです。それは会社のユニークなところだと思いますし、プロジェクト制組織という構造の原点だと思います。代表の奥西もPdMの1人として、1つのプロジェクトを担当しています。
林さんがCTOに就任してからのモットー
神前:林さんにうかがいます。現在の組織にしようと思われた背景は、どういったところにあったのでしょうか。
林:エンジニアが10人くらいしかいないときは、それぞれのエンジニアが別々のプロジェクトやタスクを持っていました。「隣の人はこういう機能を開発しているらしい」くらいしかわからなくて、レビューするときも大変な状況でした。組織が大きくなり、チームをしっかりと分けたうえで開発のバリューストリームを回す形にすることが、プロダクト開発をスムーズに進めるために必要だと思いました。
僕は、いまの会社ではじめてCTOになりました。かつ、2023年の10月から就任したので、まだそれほど時間が経っていません。なので、有名な書籍を読んだり、ほかの会社でCTOをしている人に相談させてもらったりしながら、アンチパターンは生まないことをモットーにいろいろ決めてきました。
神前:ここに行き着くまでの間に、課題になったことを教えてください。
林:現在の課題として、エンジニアの採用はうまくいっているのに対して、PdMの採用がうまくいっていません。そのため、PdMの兼任が発生して片方のデイリースクラムに出られないことがあり、バリューストリームがスムーズに回らないという課題があります。
IVRyとSODAの採用戦略
神前:採用戦略についてうかがいます。IVRyさんでは、どのようにアトラクトするといった方針はありますか?

成田:IVRyにおける採用の強みの1つは、オフィスだと思っています。僕がIVRyを選んだ理由の1つでもあります。いまもフルリモートで仕事しているところが結構多いと思うのですが、IVRyは出社前提ルールがあるわけではないのに、みんなオフィスに来るんですよね。エンジニアでも週に3日くらいはオフィスにいるので、出社率は高いほうです。
夜遅くに缶ビールを開ける音が聞こえたり、音楽が流れはじめたり、ボルダリングの壁があるので登ったりしています。仕事と遊びの境目があまりない社風で、オフィスに集まって開発したり遊んだりするのが楽しいです。1回オフィスに来てもらうと、「楽しそうだな」と感じてもらえると思います。
そのようなオフィスの雰囲気を伝えられるように、毎月1回はオフィスオープンデーを開催して、採用候補者の方を呼んでいます。
あとは創業者の奥西が魅力的だと思うので、彼と話してもらいます。奥西は、もともとエンジニアなので、エンジニアの話がすごく通じますね。
神前:SODAさんではアトラクト戦略をどうされていますか?

林:SODAの場合は、事業面・技術面・組織面という3つのおもしろさを候補者の好みに合わせて伝えています。多くの場合、候補者は3つのどれかに興味関心が強いことが多いと思っています。伸びている事業に身を置きたいと考える人がいたり、ユーザーさんが増えているなかで技術的な難易度におもしろさを感じる人がいたりします。
3年半前に僕が入社したときは、僕ともう1人しかエンジニアがいませんでした。それがいまは50-60人の開発組織になってきているなかで、大きな組織で大きなプロダクトを伸ばしていくことがおもしろそうだと思ってもらえる人もいますね。
その他の細かい施策としては、エンジニアがテックブログを結構書いてくれていますし、カンファレンスのスポンサーをすることもあります。
IVRyとSODA、採用の見極め戦略
神前:採用における見極めの戦略についてうかがいます。採用プロセスのなかで、意識や重視しているポイントについて、成田さんはいかがですか?

成田:IVRyはまだ人が少ないので、1人あたりの重要性が高いです。事業を伸ばすために、どんどん人を増やすことに僕は慎重派で、とにかくめっちゃいい人を1人採用するほうが重要です。なので、採用は結構厳しく見ていると思います。
いまの社内にいるエンジニアは、ジェネラリストタイプの人が多いですね。特定分野に強いスペシャリストを増やしていくことで、できることは増えていくと思います。現時点では、少数のスペシャリストを採用していく戦略で進めていきたいです。
神前:林さんはいかがですか?

林:採用の見極めは難しいですが、大枠の方針としては課題の発見・解決力を重視しています。過去にどういった課題発見・解決をしてきたのか、それをどのくらい言語化できているのかについて、頑張って見極めようとしているところです。
あとは組織が大きくなっているなかで、個人の成果というよりは、組織全体の成果を最大化する意識があるかどうかを重視しています。面談ではできるだけそういう話ができるようにしています。
開発者体験をどのようによくしていくのか
神前:開発者体験についてもうかがっていきます。IVRyでは開発者体験をどのようによくしていっているのでしょうか?

成田:IVRyのエンジニアはビジネス目線の強い方が多くて、開発だけにフォーカスするのではなく、総合的なビジネスのつながりを考慮して開発します。なぜ自分たちはこれをつくるのかというWhyの部分から関わり、実装するHowのところまでおこなうのがIVRyに浸透しているカルチャーです。これをやらないと、開発者体験としてもHowにだけ集中して、実装するだけの人になってしまいます。
Whyのところに会社ごとの違いやおもしろさがあるはずです。そこに関わっていけるのは、開発者としておもしろいかどうかを分ける重要なところだと思います。
なので、なるべく横断的に越境を推進して、首を突っ込んでいきましょうという感じです。
神前:林さんにも、開発者体験をどのようにしてよくしているのかうかがえればと思います。

林:なにがどうなったら開発者体験はよくなるのか。それを、開発者自身で考えて意思決定できる状態こそが開発者体験のよい状態だと思っています。
定量的なメトリクスが計測できることは重要です。ただ、それがそのまま人事評価に活用されてしまうと、意味のないメトリクスになってしまうのはよくある話です。人事評価に活用されないメトリクスがあることは大事だと思います。
エンジニアが増えたことで、PdMやデザイナーの数は相対的に少なくなっている状態です。そのなかで、バリューストリーム全体に関与できる体制や権限のある状態が、組織デザインでは重要だと思っています。
あとは、課題を発見して解決していくこと自体が評価につながっていくことも大事です。エンジニアとして社内で評価されている人が、社外での市場価値も上がっていく状態になればベストだと思います。
神前:本日は貴重なお話をありがとうございました。私も大変勉強になりました。
取材後記:スタートアップに欠かせない採用戦略
IVRyの成田さんとSODAの林さん。それぞれの会社でどのような採用戦略を実行しているのかを話してくれた。
人材不足のなか、とくに優秀なエンジニアは引く手あまただ。採用するためには、しっかりと戦略を練らなければ成功しない。
おふたりはアトラクト戦略を言語化し、実践している。だからこそ急成長を続けられるのだろう。
スタートアップの方は、ぜひ参考にして採用戦略を練ってほしい。
(取材/文:川崎博則)
