エンジニアからマネジメントへ、そしてVPoEやCTOへとキャリア形成をする中で、見据えるべき目標やそのための思考は変化していく。新卒採用から一貫して株式会社MIXI(以下、MIXI)で働き、現在同社CTOを務める吉野純平氏は、そのようなキャリアの変遷からどのような気づきを得たのか。今回は、6月6日にpaizaで開催された「ITエンジニア マネジメントミートアップ」で吉野氏が語った講演を紹介する。
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吉野 純平氏
株式会社MIXI 執行役員CTO
筑波大学大学院修士課程修了。2008年4月に新卒エンジニア職で株式会社ミクシィ(現MIXI)に入社。同社SNS「mixi」のインフラ、アプリ運用などを担当後、「モンスターストライク」のインフラネットワーク全般の業務に加え、幅広い新規事業のインフラ支援にも従事。
その後、物理インフラ、サーバ運用、ネットワークから映像処理や撮影などのIP通信に関連する開発を手がける。
2019年5月にはインフラ室の室長を担当。2022年4月に開発本部 本部長として多数のプロジェクト、エンジニアのマネジメントに従事し、2023年4月執行役員 CTOに就任。
目次
重要な3つのスキル「視点の数、逆算思考、厳しいことを言う力」

現在ではエンジニアのキャリア形成は多様になっており、転職によりさまざまな経験とスキルを積んでいくことも珍しくない。吉野氏の場合は2008年にMIXIに就職して以来、同社でキャリアを積んできた、いわゆる生え抜きのCTOだ。
一方で、MIXIは国産汎用SNS「mixi」をはじめ、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」やひっぱりハンティングRPG「モンスターストライク」など、幅広いプロダクトを開発している。実際、吉野氏も入社からCTO就任後の現在まで、幅広い業務、事業に携わり、現在は約350名の開発組織をマネジメントしている。吉野氏は自社と自身とキャリアを紹介しつつ、「エンジニアがキャリアを形成していく中で求められるスキルセットも変わってくる」と述べる。
「スキル形成のモデルとしてよくT字型が用いられますが、まっすぐな横と縦になっていることはあまりないと思っています。たとえば技術力は全体から見たら非常に重要ですが、それがすべてではありません。インフラやバックエンド、セキュリティ、Webなどのそれぞれが、T字の1つの軸になるものです。一方で、より大きな成果や貢献をしようとすると多様な能力が求められます。たとえばビジネス面やコミュニケーションも磨いていくべきスキルだと思っています。その中でも課題抽出能力、また誠実なコミュニケーションとは何かといったものは本当に難しく、私自身も悩み続けています」
吉野氏はMIXIのエンジニア研修でも提示したスキル群を提示しつつ、その他にも計画立案や建設的な議論ができるチームビルディングなども重要と語る。また、将来的に重要になるのは「視点の数」と「逆算思考」、そして「厳しいことを言う力」であるという。
「マネジメントの立場では、1つの物事に対して全社としての視点や事業としての視点、さらにはコスト視点など、複数の観点を持つことはぜひ身につけたいスキルです。また、計画を立てる際にはつねに逆算思考から計画を立てることも重要です。甘い計画立てはあとで必ず痛い目をみるので、目標から逆算して、仕事全体が進むためにはどこに注力すべきかを常々探究していく姿勢が必要だと思います。
そのほか、MIXIではBtoC向けのプロダクトが多いので、マーケティング能力なども求められます。CTOの立場であっても、マーケティングとしての目線から経営層と話をすることも多いです。
そして最後に重要としているのが『厳しいことを言う力』です。マネジメントに立場が変わってくると、進捗が思わしくないときや軌道修正をすべきときにどのように伝えればいいか悩むことは多いと思います。ただ、エンジニア一人ひとりの成長を促していくためには、ときには課題となっているところを率直に話し合いながら、成長のパラメーターをどんどん上げていくことも必要になってきます」
それぞれのポジションで求められたロールと思考法

次に、吉野氏は自身のポジションの変遷で経験したマネジメントの範囲や、それぞれに求められた思考の変化について解説した。
「マネジメントと一括りにしても、実際に紐解いていくとさまざまな内容があります。私の場合は、まずリーダーやマネージャー、あるいは本部長といったラインマネジメントに加え、チームマネジメントも経験してきました。 そしてプロジェクトマネジメント。さらにはチームのタスクマネジメントもあります。その他にも、コストマネジメントは階層が上がるごとに重要なスキルになります。このように、それぞれのポジションでマネジメントすべき要素、考え方は変わっていきます」
その中でも、吉野氏が最初に経験したのはコストマネジメントだったという。先述の通り、吉野氏は新卒でMIXIに入社したものの、「入社してすぐのころからコスト管理や予算折衝をおこなってきたため、それがマネジメントの立場になったときの心理的なハードルを下げた」と語る。
「実は、学生時代からサークルの予算管理をしていたので、そういったものにはあまり抵抗がありませんでした。ただ、学生時代にはエンジニアリングにおけるお金はパラメーターや評価軸として具体性がなかったのですが、 企業の場合はコストは重要な指標の1つであり、設備投資に対する費用対効果などを考える必要があります。その分、ビジネスの世界ではコストがどう変わるのかと技術が絡み合って楽しかったですね。
入社3年目ごろまではエンジニアとしての仕事と並行して予算折衝、加えて当時は社外の方と協働してネットワーク管理もおこなっていたので、チームマネジメントにも取り組んでいました。大変でしたが、今考えるとラインマネジメント以外はキャリア初期の段階からやっていたので、恵まれた環境で仕事ができました」
3年目からはアプリケーションの運用やミドルウェア、バックエンドなどの業務に携わるようになった。このころはマネジメント業務が減り、指示を仰ぐ立場に回ったと振り返る。一方で、コミュニティへの参加やOSSへのコントリビューションなど、社外での活躍の場も増やしていたという。
転機となったのは4年目、ちょうど海外のSNSが普及しMIXIが変革期を迎えた2013年だった。新規事業の立ち上げと既存事業の運用を並行することになり、開発組織の体制も大幅に変わることになった。そこで吉野氏は本格的にラインマネジメントを担うことになる。
「当時は新規事業をやりつつ、4名ほどのメンバーで既存事業の運用もやっていました。そのメンバーでマネジメントやPMの経験があったのが私しかおらず、ひたすらチーム内のマネジメントをしながらナレッジインプットをしていました。その後、私もインフラネットワーク全般で携わっていた『モンスターストライク』が軌道に乗り始めたタイミングで大きな体制変更がありました。組織としても事業としても非常に大きな変化があり、楽しい時期でしたね。
このときに複数の事業をマネジメントしていたので、両方をスムーズに回していく修行になったと思います。片方がうまくいっているからといって、もう片方が滞っていることの言いわけにはなりません。うまくバランスを取ってラインマネジメントをすることの大切さを学びましたね」
当初はプレイングマネージャーとして現場のマネジメントをしていた吉野氏だが、2017年に正式にマネージャーに就任した。その後は採用や人材育成、組織づくりも担うようになった。さらに新規事業のクローズや新しい部署でのリスタートなどがありつつも、研究開発や技術積み上げ、別の新規事業の開発などに貢献していった。
「マネージャーは1年6か月務め、その後部長になりました。当初は自分がなぜ部長になったのかがわかりませんでしたが、上司からは『部下への評価説明がうまい』ことがきっかけになったと聞きました。部長になると、メンバーには評価に関して、上司には事業を推進するためのコストの妥当性を、それぞれ納得がいくように説明する必要があります。そのためには、自分自身の評価と客観的な評価のギャップが少ないことが求められます。いかに普段からコミュニケーションを取り、信頼関係を築いていくのかも重要です。
ただ、その後すぐに新規事業だった共遊型スポーツベッティングサービス「TIPSTAR」のマネージャーも兼務するようになりました。プレイングマネージャーを超えてプレイング部長のような立場でしたね(笑)。ただ、20名ぐらいの部だったことと、当時はやることの解決すべき課題を明確にできたので、なんとかなっていました」
事業部全体を見ながら現場のマネジメントをこなす日々が3年弱続いた2022年、吉野氏は開発本部長に就任する。そのときのMIXIは、開発組織の規模も拡大していた。吉野氏が次に求められたのは、まさに今後の成長を見越した組織づくりだった。
「当時は組織が拡大しつつもまだ部署の分割などが十分にできていない状態でした。私が本部長に就任したぶん、その下に部長を任命しつつ組織を構成していき、しっかりと業務を回せる組織づくりをしていきました。
私自身はフラットな組織のあり方が好きで、情報共有は可能な限りフラットにし、事業部間でもどんどんシェアすべきだと思います。しかしやはり、組織が大きくなるごとにフラットな組織では限界を迎えます。ラインマネジメントはある程度階層化を進め、それぞれのレイヤーのメンバーが自分のすべきことを明確にし、組織全体で目指す目標などの共通認識をつくっていくチャレンジが求められます。このような組織づくりは組織が大きくなるごとに求められるもので、CTOに就任した現在でも改善すべきポイントだと思っています」
成長期にある開発組織でCTOに求められる思考とは

2023年4月、吉野氏は執行役員CTOに就任した。就任から1年が経った現在、吉野氏は「本部長とCTOではまた思考すべき点は変化し、私自身まだまだ修行しなければならない点は多い」と語る。
「CTOになると、今度は長期的な方向性やビジョンの示し方を学び、またMIXIではVPoEを置いていないので、私自身がVPoEのロールを学ぶ必要があると考えています。加えて、開発組織全体で評価体制を整備する機会も増えてきたので、自分の経験を踏まえて上司である取締役やメンバーと議論しているところです。現在では会社全体としての方針を開発組織に伝え、取り組むべきことを決めていく立場となりました。これが本当に難しく、日々反省しています」
また、成長し続ける組織内でのコミュニケーションについても日々模索しているという。実際、吉野氏が本部長からCTOに就任するまでの1年超の間に、開発本部単体でも50名から120名と、急速な成長を見せていた。
「さきほどの通り、開発組織全体では350名に増えています。そうなるとより効率的にコミュニケーションを取ることが課題となります。実は最近、1日でメンバー18名と一気に1on1をしてみるというのをやりました。やっているときはいいのですが、全員終わるころには頭がオーバーヒートしてしまい、その後は仕事にならなかったですね(笑)。
やはり自分だけで一人ひとりと綿密なコミュニケーションを取ることは難しいので、組織をしっかりと階層化し、部長やマネージャーがメンバーとていねいにコミュニケーションを取れる体制はつくっていきたいと考えています」
これまで吉野氏は自身のキャリアの変遷を振り返りながら、それぞれのポジションで求められたロールと思考のあり方について紹介した。CTOとなった現在では、経営層が描く企業としてのビジョンを開発組織につなげる、中長期的な視野が求められているという。吉野氏は最後に、CTOとしての今後の展望を語り、講演を締め括った。
「自身のポジションが上がっていくにつれて、開発組織が中長期的に目指すビジョンを示し、全体に浸透させていくことが大事になりますが、今振り返るとそのような思考はどのような立場であっても必要です。それは自分が事業やプロダクトをマネジメントしていた際にも考えていたことであり、立場が上がるにつれて考える領域が広がっているだけともいえます。なので、いきなり特殊なスキルを要求されるのではなく、一つひとつ積み上げていくことが最も重要なのだと考えています。
MIXIはコミュニケーションをつくる会社です。CTOとしても開発組織の中でより良いコミュニケーションを体現できるよう、ビジョンやありたい姿を示しながら、組織づくりを進めていきたいと思っています」
(取材/文/撮影:川島大雅)
