“対話を実現する大事な要素
素直でいること 固定観念に囚われない
心を開いていること 心理的安全性がある”

オシロ株式会社の会議室に通されると、名刺サイズの紙に書かれたメッセージが目に入った。クリエイターなどが自由なカスタマイズで世界観を表現し、オンラインコミュニティを運営できるプラットフォーム「OSIRO」(以下、会社名をオシロ、サービス名を「OSIRO」と表記)を提供する同社が重視する「対話」のあり方だ。
以前同社リードエンジニアの西尾拓也氏と技術顧問の増井雄一郎氏にインタビューした際、「コンウェイの法則」が話題に上がった。「対話」を重視するカルチャーから生まれたのが「OSIRO」というプロダクトだという。では、「OSIRO」はどのようなチームで開発され、今後どのような成長を歩んでいくのだろうか。

今回は同社のプロダクトマネジャーを務める鈴木駿介氏に取材。鈴木氏の入社からプロダクトチームをマネジメントする現在、今後のプロダクトの展開への想いを聞いた。

鈴木 駿介(すずき しゅんすけ)氏
筑波大学大学院数理物質科学研究科を卒業後、大手日用品メーカーで研究職を務め、新製品の容器設計、工場での生産導入に従事。2019年にオシロに入社。コミュニティプロデューサー、データサイエンティストを経て、現在はプロダクトマネジャーを務める。

エンドユーザーとして感じた「OSIRO」の魅力


鈴木さんとオシロとの出会いは、鈴木さんの中に芽生えた素朴な思いから始まった。

「新卒で入った前職の会社が日用品をつくっているメーカーで、研究職として働かせてもらっていました。とてもフレンドリーな会社だったので、社内コミュニケーションはとても多くて同期とも仲が良かったりと、社内の知り合いもすごく増えていました。

しかし、そんな中で会社の外の人の文脈というのか。『世の中にはどんなことがあるのだろう』や『どういう人がいるのか』、『どんな仕事があるのだろうか』といったことを知りたくなりました。視野を広げながら、生活とか、いろいろなことを考えていきたいという思いが強くなったんです」

そんなときにTwitterで見かけたのが、「OSIRO」を活用していたコミュニティ「SUSONO」(当時)だった。同コミュニティはジャーナリストであり作家の佐々木俊尚氏、『暮らしの手帖』で編集長を務めた松浦弥太郎氏が主宰するコミュニティで、ちょうど立ち上げの時期だった。

「私が魅力に感じたのは『ゆるやかにつながり、心地よい暮らしの文化圏をつくる。』というメッセージでした。実際に参加してみるとコンテンツはとても多彩で、佐々木さんがアスリートや音楽家、コピーライターなどをゲストに対談イベントをおこなったり、メンバー同士でのイベントや部活動のようなものもあったり、とても楽しいコミュニティでした」

一人のエンドユーザーとして、鈴木さんはコミュニティ活動を楽しんでいた。そんな中で、鈴木さんの転機となったのは、オシロの代表取締役社長である杉山博一さんとの出会いだった。しかし、その「出会い方」が実に自然で、今振り返ると「オシロらしいものだった」という。

「コミュニティに参加して半年ほど経ったときでした。さきほどのコミュニティ活動の一つに、ボードゲーム部というものがあって、月に一回ボードゲームのために集まっていました。その中に杉山も参加していました。メンバー同士で軽く自己紹介をし合った程度でしたので、最初は『ものすごくボードゲームを持っているボードゲーム好きなおじさん』としか思っていませんでした(笑)。まさか杉山がサービスを提供している企業の代表だとは思っていなくて、半年ほど仲良くボードゲームをしていましたが、たまたま待ち時間で話す機会があって、初めてオシロのことを知りました。

そのときに『OSIRO』というプラットフォームをつくっていること、『日本を芸術文化大国にする』というミッションを掲げていることなどを話してもらい、とても素敵だと感じました。それからも会社やサービスについて話していくにつれて、オシロで働きたいと思うようになったんです」

肩書や社会的な役割などに縛られず、互いの人間性に依拠し、リスペクトをもってつながる。楽しそうにコミュニティ活動に参加する杉山さんが、それを体現していた。その後鈴木さんは入社の意思を杉山さんに伝えた。しかし、そこから入社までには、半年の期間を要した。

「あらためて二人で話す機会をもらい、オシロで働きたい旨を伝えたんです。しかし、そこではいったん保留になり、その代わりに会社で週に一回開催されている社内会議に参加することになりました。そこはまさに『互いの価値観が共存しているコミュニケーション』の場で、これからのアイデアやコミュニティの体験ストーリーなどを話し合うものでした」

そこから半年の間、鈴木さんは週に一回、会社終わりに社内会議に参加した。オシロのカルチャーや今後の展開を知りながら、自身の考えやできることを発信していった。そして2019年、鈴木さんは晴れてオシロに入社することになる。

コミュニティの「熱量」と「健康状態」を可視化


鈴木さんの入社は、オシロにとって次の一手につながる人材の獲得だった。これまで研究職として培ってきたスキルとして、データサイエンスに基づいた分析能力を持っているためだ。

「入社当初はコミュニティプロデューサーという、コミュニティの立ち上げや営業もやっていましたが、主にコミュニティ設計やその後のサポートを担当していました。

その後、当時はまだコミュニティのデータを分析する領域ができていなかったので、私のほうでデータ分析をおこなうことにしました。そこからコミュニティのデータだけでなく、『OSIRO』のプロダクトとしてのデータも分析するようになり、少しずつデータサイエンティストとプロダクト開発を兼ねるような仕事にシフトしていったイメージですね」

データサイエンスの知見により、鈴木さんはプロダクトに集まる定量的・定性的なデータからコミュニティの「熱量」と「健康状態」を可視化した。つまり、コミュニティに参加するユーザーの行動やコミュニティそのものの稼働状況などに鑑みて、適切なアドバイスを提案できるようになったのだ。

土台となっているのは、鈴木さん自身のユーザー体験だ。実際にユーザーとして「OSIRO」を利用したことがあるからこそ、コミュニティに集まる人や求められるニーズの多様性を知っている。だからこそ個別のコミュニティをよりよくする提案をおこなえるのだ。

鈴木さんは2021年からプロダクトマネジャーを務める。現在はプロダクト開発全般をマネジメントするポジションである鈴木さんに、「OSIRO」でコミュニティを運営する主宰者はどのような課題感を持ち、同プロダクトはそれをどのように解決しているのかを聞いた。

「コミュニティを運営する人の観点でいえば、やはりコミュニティ運営はとても大変なことは事実です。コミュニティの魅力やおもしろさはありつつも、一口にコミュニティといってもその活動内容はとても幅広いんです。チャットやブログのようなコミュニケーションのあり方もあれば、イベントの開催もある。あるいはECや月額決済、顧客管理などもあり、コミュニティを運営するための機能がたくさん必要になります。

そういったときにコミュニティ専用のツールがないと、イベントや決済などそれぞれの活動毎に別なサービスを使う必要があり、参加するメンバーも分散されて、誰がどこに参加しているのかもわかりづらくなってしまいます。『OSIRO』の場合、それが1つのツールで完結するような仕組みになっているのです。『OSIRO』のコミュニティに行けばメンバーが集まれるし、幅広い機能をカスタマイズすることでやりたいことが実現できる。そういった点が大きな強みになっていると思います」

コミュニティごとのカスタマイズ性の高さは機能だけではない。デザインの自由度が高いことも「OSIRO」がオウンドコミュニティプラットフォームと掲げている所以だ。

「アーティストやクリエイター、または企業のブランドなどに使っていただくサービスという観点では、やはり運営者もユーザーも、芸術や文化を体験することを重視しています。つまり作品やブランドの想いなどの世界観をしっかりと表現したいというニーズがあるのです。

そういった点でも、SNSをはじめプラットフォーマーのサービスにはプロダクトのロゴが表示される一方で、オフィシャルサイトのように自身が一からつくることは非常に手間がかかります。『OSIRO』では自身の世界観を崩すことなく表現できる質と幅を持っていることが特徴で、ユーザーにとってもオフィシャルの世界観の中で、安心してコミュニティ活動に参加できることは大きなメリットだと考えています」

心理的安全性を担保する『DIALOGUE BASE』


「OSIRO」のプロダクトとしての特徴は、機能の拡充とカスタマイズ性の高さ。しかし、他プロダクトでも利便性の高い機能は日々開発・実装され、それによってユーザーのニーズが新たに誕生している。

実際、オシロではNFTとの連携やスマートフォンアプリのリニューアルをはじめ、2023年上半期内でもさまざまな機能開発やリニューアルを実施している。このような開発スピードを実現させる要因はどのような点にあるのだろうか。

「要因の一つには、やはりエンジニア一人ひとりが責任を持って開発を進められていることが大きいと思います。自身のスキルセットやプロジェクト管理能力をしっかり認識できているので、一人に一つの開発タスクやプロジェクトを任せられることが大きいと思っています。

そのためにはもちろん、わからないところや疑問に思う点を気軽に相談できるような関係性の構築が重要です。技術的な面ではリードエンジニアがケアをおこない、プロダクト開発全般の方向性や認識の共有などは私でおこなう。なによりエンジニア同士でも気軽にフォローし合えるような体制が不可欠です。一人ひとりのパフォーマンスを高めるためのチーム力とコミュニケーションは非常に重視していますね」

潤沢なリソースがないスタートアップにとって、開発組織のパフォーマンスは事業成長の大きな鍵になる。鈴木さんはマネジメントとしてどのようなチームビルディングを心がけているのだろうか。

「プロダクトマネジャーになって最初に意識したことは、プロダクトの目的や方向性、方針をしっかりと伝えていくことでした。『今開発しているこの機能は、こういう点でお客様の役に立つ』という自身の仕事における意義を伝えていくことを大切にしています。

あとは、私自身がエンジニア出身ではなく、開発に関してわからないこともたくさんありますので、『決めたものをつくってほしい』という押し付けは絶対にしないようにしています。エンジニアに意見を聞きながら、コミュニケーションをとりながら『一緒につくっていこう』という意識を醸成しています」

チーム力とコミュニケーションの向上を支えるためには、チームの心理的安全性を担保しなければならない。オシロのプロダクトチームの強みには、冒頭にある「対話」の力があるようだ。

「私としても心理的安全性はとても大切にしています。そもそもコミュニティ活動は、心理的安全性が担保されていなければ成り立たないものです。オシロではコアバリューの一つに『DIALOGUE BASE』を掲げています。コミュニティのサービスを提供している会社として、安心安全な心理状態で誰とも対話ができるカルチャーを、全社員が大切にしていく。この考えが浸透している点が、オシロの生産性が高い理由だと思います」

オシロの掲げるコアバリュー(提供:オシロ)

「OSIRO」が目指す「コミュニティ経済圏」の実現

2023年、オシロは新たな一歩を踏み出した。「コミュニティマネジャーAI化」に向けて、総額5.15億円のシリーズA資金調達を実施したのだ。そもそもAI化とはどのようなものなのだろうか。

「オシロにはコミュニティプロデューサーという役割があり、コミュニティ運営者の方々に伴走し、コミュニティの活性化や困りごとの解決をお手伝いすることを担っています。『コミュニティーマネジャーAI化』が目指すのは、そういったコミュニティ内での課題や運営者が困っていることを検知すると同時に、その解決策まで自動で提案する機能です。

現在、『OSIRO』はコミュニティ数、ユーザー数ともにかなり増えてきていますので、さまざまなジャンルのコミュニティから定量的・定性的なデータが取れてきています。こういったデータから、それぞれのコミュニティに合った課題解決方法が提案できると考えています」

(提供:OSIRO)

コミュニティ運営は規模が大きくなれば運営者の負担も増していく。一方で、運営者自身のリソースには限りがあるため、課題や困りごとを放置してしまい、コミュニティの不活性化や不健全な運営に陥りやすい傾向にある。運営に多くの時間が割かれてしまい、自身の活動の妨げになってしまえば本末転倒だ。そういった課題をよりスムーズに解決するのが「コミュニティマネジャーAI化」だという。

「やはり、クリエイターやアーティスト、または新規事業に取り組んでいる方々などは一人または最低限のリソースで活動されていることがほとんどです。コミュニティ活動のための時間が増えれば増えるほど、創作や事業にあてる時間は減ってしまいます。そういった手間を極力減らし、自身の活動に集中できる時間をつくりつつ、コミュニティ活動も楽しんでいただきたい思いもありますね。

『OSIRO』が目指す世界として、『コミュニティ経済圏』を掲げています。これはコミュニティがクリエイティブ活動を支える基盤となるだけでなく、将来的には一つのコミュニティで経済圏が形成されるという考え方です。

『コミュニティマネジャーAI化』はその一歩だと思っていて、コミュニティ活動をAIによってどのように支えられるか、成長させられるかが経済圏を実現していくためのカギだと思っています。その文脈でいえば、現在ではWeb3などの概念も取り入れつつ日々、研究しているところです」

コミュニティを活動の基盤からコミュニティ経済圏に。その先にあるのはオシロが掲げるミッション「日本を芸術文化大国にする」の実現だ。そのためには今後の会社の規模も大きくしていく必要がある。最後に、プロダクトリーダーとしての今後の組織づくりの展望を聞いた。

「現状、ほぼすべての職種で新しいメンバーを募集していますが、プロダクトチームでいうと、やはりコミュニティをもっと把握していくことが重要だと考えています。現状データ分析のメンバーは私を含めて4名いますが、データサイエンティストにかかわらず、データを把握していくことに関心のある方を増やす必要があると考えています。

一方で、『OSIRO』の特徴である世界観の表現は、より高めていきたいと考えています。これは単に自由度を上げるだけではなく、どのような表現をすれば運営者の世界観がよりよく可視化され、同時にユーザーの体験価値を上げていけるかに関わってきます。UI/UXを含め、広い意味での体験設計ができるクリエイティブ寄りの人材も望んでいます。

ただ、私たちのサービスはオウンドコミュニティプラットフォームの提供です。オシロが目指している1歩先のミッションに共感していることも、とても大事だと考えています。サービス自体のことだけでなく、今後の働き方や、もちろんスキルアップも一緒に考えながら、会社や事業とともに成長していける仲間になってほしいですね」

(取材/文/撮影:川島大雅

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