洞窟のような壁に光るピンク色のネオンサイン。その下にコの字を描くように並ぶ冷凍ショーケース。

不思議な雰囲気が漂うこのお店は、全国各地で見かけるようになったお肉の無人販売所の「おウチdeお肉」だ。

店舗の冷凍ショーケースの中には、冷凍の馬肉やハラミ、ハンバーグや焼き鳥といったお肉が詰められている。1パック1000円前後の価格帯の製品が多く、その中にはサシが多く入ったサーロインステーキなどの高級なお肉も入っている。

「おウチdeお肉」のお肉はクオリティが高い。看板メニューのひとつであるハンバーグは、食べてみると、柔らかさの中にジューシーな肉汁が溶け混んでいて、リッチな肉の旨みが口の中にじゅわっと広がる。専門店に引けを取らないおいしさだ。

人気YouTubeチャンネル「令和の虎チャンネルーFC版 Tiger Fundingー」に社長の林氏が出演を果たすと「おウチdeお肉」の知名度は急上昇。フランチャイズへの加盟希望者が殺到し、創業からわずか1年足らずで全国に180店舗の展開が決定している。

「おウチdeお肉」は、なぜここまで広がったのだろうか。そして、どのようにビジネスを展開しているのだろうか。正社員ゼロ人でここまでの急成長を果たした理由を、社長の林眞右(はやし しんすけ)氏にうかがった。

仕組みをオープンにし、事業を急拡大

――まず、「おウチdeお肉」のコンセプトについて教えていただけませんでしょうか。

林眞右(以下・林):
「コンビニやスーパーには並ばない鮮度抜群でおいしい食品を24時間いつでも買える」が、店舗のコンセプトです。いいものをどんなときにでも買えるように、「第2のコンビニエンスストア」を目指しています。

――コロナ禍をきっかけに餃子などの無人販売所が広がりました。なぜ無人販売所の業態に参入しようと思ったのでしょうか。

林:
きっかけは、僕の住んでいる名古屋に、馬肉の無人販売所ができたことです。「そんなのがあるんだ。おもしろいビジネスモデルだな」と感心して。ちょうどその店舗がフランチャイズを募集していたので、店舗を展開している社長に話を聞きにいったんですよ。そしたら「売れてる」と言うので「売れるビジネスなんだろうな」と。

たしかに人件費がかからず、採用のオペレーションが発生しないのは、店舗を運営する上で楽ですよね。

コロナ禍で、セルフレジ化が進んで店員さんが少なくなっていたので、「店員がいなくてもお店は成り立ちそう」「無人販売所っていけそうだな」と思いました。

――コロナ禍の情勢も相まって、無人販売所のビジネスに可能性を感じられていたんですね。

林:
そうですね。ただ、「商品の販売に店員は必要ないかもしれない」と以前から思っていたんですよ。

もともと僕は、13年ほどトレーディングカードのネットショップを運営していました。ネットのショップでは24時間365日、注文が入りますよね。仕組みをつくって、自動で商品を売るという部分はネットショップも無人販売所も同じです。

――「おウチdeお肉」は無人販売所のビジネスの中でも後発だと思いますが、店舗がここまでヒットしている理由はどのように考えられていますか。

林:
無人販売所の
フランチャイズビジネスの仕組みをしっかりつくり込んで、それをオープンにしたからでしょうね。無人販売所は街中でよく見かけます。でも、どのくらいの投資をして、どれくらいの収益を上げているのかは不透明です。無人販売所を手がけている会社は、潜水艦みたいに水面に潜りながらシェアを伸ばしているように思えます。

――ビジネスの仕組みをつくって、無人販売の業態に参入したんですね。

林:
そうですね。競合になる無人販売所の動向を見て、急いで参入しました。YouTubeチャンネルの「令和の虎」に出演して、ビジネスモデルをオープンにして知名度が上がったことも、店舗数が伸びたひとつの要因です。

――「令和の虎チャンネルーFC版 Tiger Fundingー」に初めて出演されたときは、ビジネスモデルをプレゼンした上で、「フランチャイズ本部構築のお手伝い」を依頼されていました。当時の状況を教えていただけませんでしょうか。

「令和の虎」に初めて出演した時期は、直営店を2〜3か月運営して、200万〜300万の売上が出ていたころでした。直営店はバスに乗らないと電車に乗れないような場所で、立地が悪かったんですよ。店舗に無駄なスペースも多かったです。

ただ、餃子の無人販売所の出店ペースも上がっていて、冷凍庫と物件の取り合いになりそうだということと、「1番悪い条件はわかった。他の店舗ならいけるはず」と確信したことで、「令和の虎チャンネルーFC版 Tiger Fundingー」への出演を決めました。

――直営の1店舗でフランチャイズのビジネスモデルをつくられたんですね。

林:
はい、今も直営店は1店舗のみです。「直営店を複数展開して、様子を見たほうがいい」と言われもしましたが、素早くビジネスを展開できたからこそいまの店舗数に達したんでしょうね。おそらくいま同じビジネスを始めても、ここまでの店舗数にはたどりつけないと思います。

お肉に特化したのは「専門店への疑問」から

――無人販売所の中でもお肉というジャンルを選んだ理由はありますか

林:
無人販売所のビジネスを展開するために、競合を調べたとき、ほとんどが専門店だったんですよ。あるお店は餃子、ある店は馬肉と。「なんで専門店にするんだろう」と疑問を抱きました。

そんな風に考えていたら、「全種類のお肉を置けばいいんじゃないか?」と思い浮かぶようになって。馬肉も置けばいいし、餃子も置けばいい。多くのジャンルのお肉を取り扱えば、うまくいかなかったときに専門店への転換もしやすい。

色々な可能性を考えて、お肉オールジャンルの専門店にしました。

――「おウチdeお肉」は商品のラインナップが魅力的だと思います。商品の開発は自社でされているのでしょうか。

林:
OEMでない限り商品開発はしていません。世間に埋もれている「いいもの」を探し、販売することが僕たちの役割です。

おいしい食べ物をつくれるけど、発信が苦手な方って世の中には多いんですよ。

「食べてもらえれば好きになってもらえるのに」と悩んでいる人たちを探してこれれば、ユーザーは探す手間がなくなるし、メーカーも売る手間がなくなります。

Amazonや楽天をイメージするとわかりやすいでしょうか。売り手と買い手を繋げていく。僕たちの場合、それが冷凍食品でお肉だったんですね。

――たしかに1500円のサーロインステーキがおいしくて驚きました。

林:
品質が高い商品を24時間いつでも買えるようにするというのは、コンビニとの差別化をはかるために、力を入れているポイントです。

販売する製品の鮮度にはしっかりこだわりつつ、ユーザーが買える価格の製品をそろえるようにしています。

「所得がちょっと上がれば、豊かになれるよね」がテーマの副業モデル

――「おウチdeお肉」は、オーナーが副業で店舗を運営するというビジネスモデルを掲げています。その内容について教えていただけませんでしょうか。

林:
「おウチdeお肉」は、本業を辞めず、人を雇わず、誰でもできるという新しい副業モデルを掲げています。

副業を始めるには、スキルや資格や人脈が必要です。でも、「おウチdeお肉」のオペレーションは、商品の入れ替えがメイン。誰でもできます。人件費もかからず、無人というスタイルなので、店舗に常駐する必要はなく、オーナーは副業で店舗の運営に取り組めます。

――このモデルをつくった理由について教えてください。

林:
「友人たちとおいしいご飯を一緒に楽しむことが難しくなってきたな」と思ったことがきっかけです。

年齢を重ねていくと、同じ年齢の友人の中でも収入に差が出たり、家族ができたりするので、少し豪華な食事を一緒に楽しみたくても価格帯によっては躊躇する人が出てきます。

月に5万円でも10万円でも自由に使えるお金が増えたら、友人と一緒に楽しめる時間が増えるんだろうなと思いました。

でも、週に5日働いてると副業をやる暇はない。家族との時間も欲しいですよね。だったら、仕組みで商品を販売するビジネスモデルがあれば、本業を辞めずに副業に取り組めるんじゃないかと考えました。

「おウチdeお肉」のビジネスは、「所得がちょっと上がれば、豊かになれるよね」もテーマなんですよ。資格やスキルやセールスが必要ないビジネスモデルです。

――ありがとうございます。「おウチdeお肉」を副業で経営されてているオーナーさんはいるのでしょうか。

林:
はい。いま最も収益を出している店舗のオーナーは、20代後半の会社員の方です。他にも副業で実績を上げている人がほとんどです。

――フランチャイズで店舗運営となると投資金額はどのくらいかかるのでしょうか。

林:
黒字化までの投資として、500万円から600万円程度必要になります。現在フランチャイズへの参加希望者は多いのですが、立地や家賃がある程度のデータに合致しない場合、加盟を断っています。やるからにはオーナーに利益をあげてほしいと思うからです。

また、中途半端な気持ちで始めたら失敗するので、FCに参加する人は面談で選ぶようにもしています。無人販売で商売を始めやすいのはたしかですが、店舗運営でやるべきことは意外とあるんですよ。リスクや採算ラインについてもすべて説明するようにしています。

今後はアイスの無人販売所も計画

――今後は、アイスの無人販売所も始められるそうですね。どのような店舗を目指しているのでしょうか。

林:
これまでの無人販売所のビジネスで蓄積したデータを活用して、うまくいかなかったことを削ぎ落としたビジネスモデルでアイスの無人販売所を展開します。世界観をつくり込んだ店舗にするので、オープンを楽しみにしていてください。きっと無人販売所のイメージが変わりますよ。

――最後に、新しいビジネスなども展開されていますが、目指している先について教えていただけませんでしょうか。

林:
新しい常識を作っていきたいです。僕の好きなドラマに「誰でも普通に使える。そういうものを最高というんだ」というセリフがあります。“そういうもの”を目指してかっこよく事業を展開できればと思います。

(取材/文/撮影:中 たんぺい

― presented by paiza

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