今回お話を伺ったのは、「ブランドを愛したくなる体験」を手がけるブランドエクスペリエンススタジオ、株式会社GENEROSITYでCTOを務める平沼 真吾(ひらぬま しんご)さん。

大学在籍中からプログラミングを学び始め、新卒で大企業に入社。かねてより抱いていた「海外で働きたい」という夢を叶えるため、会社を辞めて20代で中国やヨーロッパ、東南アジアなど世界各国を放浪。旅の最中にひとりで起業し、アプリを開発しながら生計を立てていたそうです。帰国後は、友人の会社でプロダクト開発に尽力したのち、GENEROSITY CEOの西垣さんと同社を設立しました。

「エンジニアがステップアップできる環境をつくりたい」と語る平沼さんに、エンジニアとして市場価値を高めるための7ルールをお伺いしました。

平沼さんプロフィール
大学ではXR (AR/MR/VR)や近未来UIの研究に従事。大学卒業後は東芝、富士通を経た後、海外を視野に会社を辞めて中国へ渡る。帰国後は「海外ノマドスタイル」でのワークスタイルを確立し、自社のサービスや複数のスタートアップのサービスを開発。2015年に株式会社GENEROSITYの創業時に参画。現在もCTOを務め、XRやDXを用いた体験をアップデートする研究開発や制作を行っている。

Rule1.自分の強みをひとつつくる

安定して仕事を獲得していくためにまず必要なのは「この領域なら負けない」という強みを持つことです。たとえば、「画像処理の技術が高い」とか「ウェブサイト開発のスピードが早い」とか。

これは僕の持論なのですが、受託開発におけるソフトウェアの価値って「分量 × 技術的難易度 × 品質 ÷ 開発スピード」だと思っていて。

「同じ規模のページ数のウェブサイト」を「同じアニメーション表現」を使って「同じ応答速度」で作る場合、開発に1ヶ月かかる人より1週間で作れる人のほうが評価が上がりますよね。

もちろん、スピードさえ早ければよいというわけではありません。バランスは大事なのですが、この変数のなかでひとつ強みがあると存在感を増すことができます。

何が強みかわからない方は「分量」と「スピード」を意識するのがオススメです。数をこなしていくと、「技術」と「品質」の部分はアップデートされていくので。さらに言うと、幅広い案件を受けることで、自分の得意な領域がわかっていくメリットもあります。

余談ですが、僕は社会人になってから会社を離れている期間に、俳優をやってみたり、焼き鳥屋で働いてみたりして、「自分がしたいことは何か」を探す時期をつくったことがあります。結果的にモノづくりが好きだと実感して今の仕事をしていますが、視野を広げて幅広いジャンルに挑戦することは大事だなと思いますね。

Rule2.チームで仕事をする

僕自身がフリーランスを経験していたからこそ、チームで仕事をすることの価値を痛感しています。フリーランスになること自体を否定するわけではなく、誰かとチームを組める体制を整えておくことが重要です。

近年、時代の変化スピードが上がるとともに、組織の形も変わりやすくなってきています。この間生まれたチームが、翌週には解散なんてこともしばしば。だからと言って、一人で成功するのも難しい。

他者と「協力していく」姿勢が重要なんだと思います。大きな仕事って、チームがないとやっぱりできないんです。行き詰まったときに相談できる上司や、一緒に考えてくれる仲間。信頼できる存在が近くにいるだけで、成長の速度も変わってきます。

日本の大企業では、部署同士の仲が悪いせいで情報を共有できず、無駄が生まれているという話もよく聞きます。それぞれのプレーヤーがもっと高い視座で、世界のトップとの競争に勝ち抜くほうが健全ですよね。「日本全体で世界と戦っていく」という気概を持って、目の前の仕事に取り組んでいきたいと思っています。

Rule3.目標を具体化して正しく努力する

いくら高い志を掲げたとしても、具体的でなければ実行に移すことはできません。目標に向かうまでの手段が正しいかどうかを判断できないので。

「英語を話せるようになる」という目標ひとつにしても、翻訳の仕事がしたいのか、海外旅行をしたいのかなど、英語を話せるようになった先に何をしたいのかで勉強方法は変わってきますよね。プログラミングも一緒で、どんな場面で何に活用したいのかで、勉強すべき言語も変わってきます。

せっかく努力するなら、まずは目標を具体的にして、正しい手法を定めてから取り掛かったほうが効率的。では、正しい手段をどう見定めるかというと、基礎練習からちゃんとやることと、業界の有識者に聞くのが一番よいと思います。

目標も具体化して、手段も決めたら、あとは期限を決めることも大事ですね。大きな目標であるほど長期スパンで計画を立ててしまいがちだと思うんですが、これは挫折の要因になりかねないので注意が必要です。僕の場合は3か月ですが、とにかく自分の集中力が保てる短中期スパンで計画を立てることで継続できると思います。

Rule4.問題意識を持って解決に動く

「問題意識を持てるかどうか」は、かなり差が出るポイントだと思っていて。そもそも「問題」とは何かをあらためて考えると、目標と現状のギャップ。つまり、「問題」は明確になっていなかったり、可視化されていなかったりする場合も多い。それを踏まえると、問題意識を持てるかどうかって、目標をどれだけ自分の中に落とし込めているかによるんです。

生産工程上のムダを排除するために、トヨタ自動車が提唱している「トヨタ生産方式」にまつわる話が好きで。「トヨタ生産方式」を確立した一人でもある鈴村喜久男氏が現場に来てチームリーダーに「問題ないか」って聞いたときに、リーダーが「問題ありません!」って報告すると、鈴村氏はチョークで床に大きな丸を描いて「そこに立って現場を半日見ていろ」と指導したらしいんですよ。ただ一日中監視することが仕事の目標じゃなくて、生産性を上げることが本来の目標だからです。その目標が落とし込まれていたら「どこかにボトルネックがないか」ということを常に考えるはず。そんなふうに、目標を適切に理解し、問題を見つけ、プランを提案して、さらに行動できるかってところで大きな差がでるなと思います。

先日、とあるサービスの重大な不具合が発表されたんですけど、問題意識を持っている弊社のメンバーが、担当しているプロダクトに影響があるかを調べて報告してくれたんです。でも問題意識がない人だと、そのニュースを見てもとくに行動したりはしません。企業としてどちらを評価するかは、一目瞭然だと思います。

Rule5.常にコンフォートゾーンから抜ける

コンフォートゾーンとは、居心地がよいなと感じるゾーンのことです。

たとえば、新しい職場に配属されたときって、いろいろな不安を抱えるじゃないですか。自分のスキルが通用するか、人間関係をうまく構築できるか。そういう不安から抜け出すために、最初はみんな必死に努力します。

でも、そのコミュニティである程度やっていけることがわかると、安心が生まれる。つまり、コンフォートゾーンに入った瞬間から、ほとんどの人が努力をやめてしまうんです。市場価値を高めるには、コンフォートゾーンから常に上に抜ける努力をすることが重要です。

ユニクロ社長の柳井さんが「現状維持は後退だ」とおっしゃっていますが、本当にその通りで。これは企業だけでなく、個人も持っていなくてはいけない感覚だと思っています。

コンフォートゾーンを抜けるために僕が意識しているのは「常に謙虚でいること」「ロールモデルを見つけて参考にすること」の二つ。

謙虚でいることで上には上がいると実感できるし、現状に満足せず常に成長を意識することができます。ロールモデルを探すときは、自分のポジションと照らし合わせるとよいと思います。僕は経営に近いポジションにいるので、尊敬しているのはやっぱり経営者のほうが多いです。

GENEROSITYでは、在籍しているエンジニアの市場価値を上げることを目指していて。もちろん長期間一緒に働けたらうれしいんですけど、もし転職や独立することになっても、しっかり戦っていける力をつけてほしいと考えているんです。方針に基づいて、評価制度は社内の相対評価ではなく、市場全体で考えたときの絶対評価で設計しています。

だから、経営者として、企業や人が成長し続けられる仕組みを作って、実際に数字を生み出し続けている方は本当にリスペクトしますね。社長が何代変わっても売上と平均給与を伸ばし続けているキーエンス創業者の滝崎さんとか、京セラやKDDIの礎を作り、さらにJALの経営再建では経営哲学を形成し、根付かせて経営をバトンタッチした、稲盛和夫さんとか。

Rule6.「お金はもらうものではなく稼ぐもの」という意識に変える

もし、市場価値を高めて給料を上げたいと思うのであれば「お金はもらうものではなく稼ぐもの」という意識を持つ必要があります。

「市場価値が高い人」って「期待に見合った成果を出せている人」のことだと思っていて。

たとえば、プロスポーツ選手は日々、誰に強いられるでもなく自主的にトレーニングに励んでいるはずです。成果を出さなければ生き残っていけませんから。

仕事とスポーツは違うと言えばそれまでですが、考える順番は同じはずなんです。お給料は、成果を出すための練習「時間」に払われているわけではなく、「成果」に対して払われている。

あらためて言うと当たり前なのですが、企業にいて毎月安定したお給料をもらっていると、つい勘違いしてしまいそうになります。残業代をもらうためにダラダラ働く人が出てくるのも、こういった勘違いからではないでしょうか。

「全員がプロスポーツ選手と同じモチベーションで働くべきだ!」と言いたいわけではありません。あくまでも自分の市場価値を高めて給料を上げたい人は、主体的に「自分で稼ぐ」意識を持って努力をするべきだと思っています。

繰り返しになりますが、給料は、時間に対して払われているわけではありません。成果について支払われています。そして、その「成果」は短期的な売り上げだけを指しているのではなく、どんな形であれ利益に貢献したか、という解釈に基づいています。

しかし、とくに大きな組織にいると、プロジェクトのうち「自分が利益貢献した額」ってどれくらいなのかわかりづらいですよね。それこそ「もらうものではなく稼ぐもの」という意識があれば、気になる部分だと思います。

もし、「自分が利益貢献した額」が不明瞭なのであれば、上司に数字を見える化してもらうことをオススメします。給料に対して、自分がどれくらいの貢献ができているかがわかるように。「今の給料をもらう資格がある」と自信になるかもしれないし、「もっと要求してもいいな」っていう判断の軸になるかもしれません。

Rule7.「やりがい」を持つ

仕事において、「お金」と「やりがい」のどちらが大事かという論争はよく聞きますが、個人的には「やりがい」だと思います。お金の話をしたばかりですが(笑)自分の仕事が人のためになっているとか、誰かの笑顔をつくっているとか、そういうものがないといつか挫けてしまうと思っていて。

やりがいを持って続けていれば、誇りも生まれます。キャリアだけではなく、自分自身の成長の話として。

僕自身のやりがいは「笑顔をつくること」。これはみんなに言っていることなんですが、僕は「笑顔フェチ」なんです。

自分がつくったもので、人が喜んだり楽しんだりしてくれることがとにかく嬉しくて。極論、それが達成できればどんな仕事でも「やりがい」を感じます。昔、屋台でベビーカステラをつくってたことがあるんですけど、一個プラスであげたりするだけで、みんなすごい笑顔になるんです。そういうのを見るのが好きなので、それができる仕事をつくり続けられたらいいなと。

とはいえ、「自分のやりがいが何かわからない」という方もいると思います。そういうときは、少なくとも「社会に恥ずかしくない」という基準で選ぶのがいいのではないでしょうか。社会にも家族にも胸を張れるような仕事です。そのうえで「好きかもしれない」くらいの感覚でもよいので、仕事を見つけて、継続してみる。繰り返すことで確信に変わって、やりがいも見つけられるようになると思います。

(文/取材:たけもこ、撮影:野田涼

― presented by paiza

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