クラウド会計ソフト・クラウド人事労務ソフトでシェアNo. 1を誇る、freee株式会社。2012年の創業以来、急成長を続ける同社のエンジニア組織はどのような変化を遂げてきたのでしょうか。企業規模ごとの課題とその解決策、採用について、そして独自文化を重視している理由など、創業期からエンジニアとしてサービス開発に携わり、現在はCTOを務める横路隆氏にお話を伺いました。
後半はfreeeが100人の壁を超え、現在の形へ近づくまでの事業や組織の変化、そして企業が成熟してきたことで軌道に乗った新卒採用についても伺いました。
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「最初、自分はマネジャーに向いてないと思った」freeeのエンジニア組織の歴史をCTOに聞く
目次
多様化するプロダクトに適したエンジニアチームの形を追求
――ここからは、100人を超えてきたあたりのお話を聞かせてください。100人というともうだいぶ大きな組織だと思いますが、開発組織をどんな形にして、どういった取り組みをされたんでしょうか。
横路隆氏(以下、「横路」):5、60人を超えるころには、プロダクトのラインナップも増えてきて、お客さまのセグメントもどんどん増えてきていました。具体的には、最初は個人事業主の方だけだったのが法人のお客さまも多様になってきて、起業したてのところもあれば、300人ぐらいの老舗の中堅企業もあるという状況でした。
それまではエンジニアが考えてエンジニアが作るというのを一気通貫でやっていて、それが強みでもあったんですけど、多様なお客さますべてに対応するのは厳しくなってきました。
ちょうどそのあたりから、プロダクトマネジャーやUXデザイナーといった役割を分けるようになりました。お客さまのことをしっかり理解し、適切なソリューションを考えることを分業しておこない始めたころですね。
プロダクトマネジメントが注目されだしたのもちょうどそのぐらいじゃないでしょうか。それ以前は、ディレクターはいましたけど、プロダクトマネジャーみたいな職種はなかったんじゃないかと記憶しています。
――よく話題にのぼるテーマではありますが、組織を機能別に分けるのか事業部制にするのかについても教えてください。各事業部の中にエンジニアチームをおくこともあれば、開発部が独立していることもありますよね。今おっしゃっていただいた、多様化したお客さまに対応していくにあたって、そのあたりのバランスはどのようにお考えになっていますか?
横路:企業のフェーズによってどんどん変わっていくとは思いますが、これまでのフェーズでは、レポートラインはエンジニア間でというのは一貫しています。ただ、事業が増えてきた関係もあり、普段の仕事のやり方としては、担当する事業の中で他部門の人と4、5人ぐらいのスモールユニットを作っておこなっています。
一方で、エンジニアとしての将来的な成長も考慮したフィードバックや評価をきちんと受けられる仕組みづくりもできています。今はマトリックス組織としてうまく機能しているんじゃないでしょうか。
――初期のころからそういう傾向が強かったのか、だんだんマトリックス化してきたのかどちらでしょうか?
横路:そういう意味では段階的にですね。最初は本当に機能でバシッと分かれていたんですけど、そこから徐々に事業ごとにスモールユニットで仕事をする形になってきました。
先行されてる企業さんを見てみると、今よりもう少し組織が大きくなったあとは事業部制に移行することもあるとは思いますが、完全な事業部制は今のところ考えていません。
もちろんエンジニアがチームに分かれてまったく別のことをやるというのは、効率が上がる部分もあります。それでも今はまだ、エンジニアリングにおけるナレッジなど共有しておきたい部分が大きいですね。
あとはもっと大きな企業、たとえばSalesforceさんとかを見てみても、レポートラインは全部エンジニアで統括して持つことはできているんです。規模が大きくなってもスケールする方法はあるのではないかと思っています。
CTOとして「視座を上げる」難しさと急成長ゆえのおもしろさ
――はたから見ていると、事業の成長スピードがかなり速く、成功されているなと思うんですけども、急激な加速ゆえの課題というのはありましたか?
横路:やっぱりエンジニアリングマネジャーが足りないという問題はありましたね。
今でこそ、エンジニアリングマネジャー経験がある方が転職市場にいらっしゃったり、ミートアップやコミュニティでもお見かけしたり、書籍も結構出てきてますけど、私たちが急成長し始めた7、8年前はまだそういったものはなかったと記憶しています。ですので、マネジメント経験がないメンバーが四苦八苦して、しかも「本当はエンジニアリングが楽しいけど、マネジメントも必要だからやるか」といったことが多かった。
もし今起業するとしても、何でもゼロからやることがベストだとは思っていません。ナレッジを持った人にしっかり適切な場面で関わっていただいたほうが、より事業的にも早くレベルアップできるじゃないですか。初期メンバーがマネジャーとして成長するいいきっかけになったことに違いはありませんが、今から同じやり方でやるかというとそうではないですね。
――CTOくらいにレイヤーが上がってくると、マネジメントといっても経営的な意思決定も必要になってきますよね。そこに上がるときに何か苦労したことはありますか?
横路:CTOってなんとなくエンジニア代表みたいなイメージがあるじゃないですか。でも、経営陣はCTOにエンジニアの代表としてのロールは求めていません。
どういうことかというと、会社の大きな課題に対して、どんな技術的なアプローチができるかを考える役割がCTOであるということです。つまり課題解決にあたって、技術面では一番解像度が高かったり実行力があったりする人っていうだけなんですね。そこのマインドシフトが長らくできませんでした。エンジニアの代表という気持ちで会議に出ていたこともありました。
たとえば「これって技術で解決できないの?」という質問が飛んできたら、もちろん答えられます。でも今振り返ってみると、主体的に会社にとって今一番重要な課題を自分事として捉えることは全然できていなかったなと思います。「課題があったら解くよ」みたいなエンジニア側に立った発言が多かった自覚があります。
現にいろんなスタートアップの社長とかから、CTOがそういうスタンスからなかなか抜け出せないという話は聞きますね。
――横路さんはどういうきっかけで、そこのシフトができたんですか? このままでは駄目だと、どこかで気付いた瞬間があったのでしょうか。
横路:具体的には明かせないんですけど、やっぱり挫折の経験ですかね。失敗を重ねてというのが大きいです。
特にCTOになりたてのころは、みんなその課題にぶつかるみたいで……だから、私はそういう失敗をしてきた側の人間として、困っている人の助けになりたいという気持ちもあります。
――現場で開発に専念していたころと、レイヤーが上がってマネジメント中心になった今を比べて、「昔に戻りたいな」といった気持ちは出てこないものですか。
横路:もちろんコードを書くのは好きですが、それ以上に変化が好きなので「戻りたい」はないですね。成長している途中のうまくいかないことだらけの課題の山の中にいると、毎日違う世界を見ることができます。そういうのが好きんなんです。
得意かどうかはまた別の話かもしれませんが、マネジメントも含め、何でも引き受けてここまで楽しんでこられたなと。実際、全部楽しかったですね。
多様なメンバーを迎え入れられる環境が新卒採用を変えた
――最後に、現在のチームについて教えてください。横路さんから見て、今の開発メンバー、チームにはどのような印象を持っていますか。
横路:非常に優秀なメンバーが揃ってきていて、いい時期だなと感じています。
freeeのことをよく知っている、カルチャーの体現者みたいな初期メンバーもいれば、100名を超えてからは界隈を代表するようなスキルの高い人たちも集まってきてくれています。あとは50名くらいのころから始めた新卒採用も続けています。多様なスキルや個性を持ったメンバーがひとつの目標に向かって、一緒に切磋琢磨できる環境ってすごくいいなと思っています。
前職で感じていたことですが、大きな企業にはスキルフルな人が多くて、自分を鍛えてくれる環境が整っているんですよね。freeeにはすでにその環境がありつつも、スタートアップの勢いはまだ残っているので、特に新卒の方にとってはいいとこどりできるんじゃないかという自負はあります。
――新卒の方が非常に成長していける環境であると。
横路:新卒入社のメンバーには「3年でCTOになってほしい」と言っているんです。スモールユニットにおいて、技術的なこと、開発面のことをすべて頼られる存在に3年でなれるような教育プログラムを組んだりもしています。
――新卒採用を従業員50名のころから始めたというお話でしたが、当時と今で採用方針や求めるスキル、属性の変化などはありましたか。
横路:ありますね。やっぱり最初はなんのレールも敷かれていないので、自走できるメンバーしか取れなかったんですよ。だから「すごく技術的なスキルは高いけど、チーム開発や振る舞いについてはある程度手を引いてあげないといけないな」みたいな人はなかなか採れなかった。ただ、最初の年に自走できるメンバーを採用して、その人たちがちゃんとレールを作ってくれたので、いろいろな人を採れるようになりました。
たとえば、技術力は高いけれどもチームへの関わり方はそんなに得意ではないとか、言語化するのがあまりうまくはないというメンバーでも、自分の得意なところで力を発揮して成長していける環境ができています。もう新卒採用を始めて5、6年経つんですけど、そこがすごく大きな変化ですね。
さきほどもお話ししたとおり、多様なメンバーがいることが強みになるフェーズでもあります。技術力がすでにあってそれを生かしたい人も、これから身につけたくて熱意だけは人一倍ありますという人も、単純に技術が大好きな人も、とにかくみんな来てほしいなと今は思っています。
――ありがとうございました。