2023年6月14日から15日にかけて開催された「Developer eXperience Day 2023」(主催:日本CTO協会)。本カンファレンス内では、ソフトウェアエンジニアをはじめとする技術者にとって各社が”開発者体験※”に関して、どれくらい魅力的な発信をしているか「開発者体験ブランド力」を調査するためのアンケートを実施し、上位30社のランキング発表と表彰をおこなう「Developer eXperience AWARD 2023」が開催されました。

※”開発者体験”とはエンジニアとしての生産性を高めるための技術、チーム、企業文化等の環境全般を指す。

発表されたランキングは以下の通りです。

今回は、受賞企業と日本CTO協会の広木大地理事による特別トークセッションを紹介します。

多様な業種業態の受賞企業が登壇

(画像左から)
株式会社メルカリ MK Engineering Office 塩飽 泰啓氏
LINE株式会社 上級執行役員CTO 池邉 智洋氏
株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行氏
株式会社LayerX 執行役員 石黒 卓弥氏
エムスリー株式会社 執行役員 CTO/VPoP 山崎 聡氏
日本CTO協会理事/株式会社レクター代表取締役 広木 大地氏

(以下、敬称略)

広木:今回はDeveloper eXperience AWARD 2023の上位30社の企業の中から、個性豊かな 面々を集めて、実践的なノウハウを掘り下げて聞ければと考えています。まずは登壇者の自己紹介とさせていただきます。

山崎:エムスリー株式会社で執行役員 CTO/VPoPをしている山崎と申します。昨年に引き続き、今年も栄誉のある賞をいただきありがとうございます。当社は比較的小さい組織でありながら東証プライムに上場している企業ですが、エンジニアグループのメンバーは今94人ほど。今日はそんな観点から「ベンチャーやスタートアップといったメンバーが少ない組織でも技術発信はできる」ということについて話していければと思っています。

石黒:当社の主力事業のプロダクト「バクラク」シリーズをリリースしてから約2年。チームは順調に拡大し、ソフトウェアエンジニアが約40名在籍する組織になりました。開発者体験に徹底してこだわるのはとても大事なことだと思っていますし、そういったところも含めて今、当社では採用もしっかりとやれていると思います。一方で「自分たちのよいところをもっとうまく伝えていけるのではないか」という点は課題感として残っておりますので、引き続き注力していこうと思っています。

片岡:当社はエンジニアが約200名在籍する技術者集団ですが、受託ではなく内製化支援というかたちで、大手企業や上場ベンチャーさんのインハウスエンジニアと一緒になってインターネットサービスの成長支援をしています。今回は昨年の10位からなんと6位。本当に皆さまの応援もあって躍進するかたちになったと思います。当社は今日集まる錚々たる会社さんのように規模や強いサービスを持つ会社ではありませんが、そのような中でいかに戦っていくのか、という戦略についてぜひお伝えできればと考えています。

池邉:当社はコミュニケーションアプリ「LINE」を提供していて、今年はヤフー株式会社との合併も控えています。サービスの認知度という意味ではありがたいことに非常に高いサービスとなっています。一方で「どんな人が、どういう体制でサービスをつくっているのか」が見えづらい点に課題があると思っています。そういった意味でも、もっと中で頑張っているエンジニアの顔を見せ、発信することによって仲間を増やしていきたいという気持ちでこれまでやってきました。今日はそのようなことを一緒に語りたいと考えています。

塩飽:メルカリもリリースから10周年を迎え、皆さんもご存知のサービスだと思いますが、組織体制はやはり複雑で、まだ見えてないところがあると思います。私はその中でもEngineering Officeという、エンジニアリング組織を横断した課題解決や組織開発などをしている部門に所属しています。その中でもとくにTech PR(技術広報)の分野や全体の戦略を考えることを主な業務としています。一担当者として今日はどういった取り組みをしているかお話しできればと思います。

2022年の技術広報活動の振り返り

株式会社ゆめみ 代表取締役 片岡 俊行氏(画像中央)

広木:今回はB2Cの会社やクライアントワークをしている会社、B2Bのサービスを提供されている会社、医療DXに取り組む会社と、さまざまなマーケットで戦っている会社から「技術広報の戦略」という観点でどんな活動をされているのかも含めて聞きたいと思っています。まず最初のテーマとして「1年間の技術広報活動の振り返り」をお聞きしたいです。

片岡:じゃあ、まずは私のほうから一つ、ネタを提供します。今年はいろいろと頑張ったのですが、ゆめみが私の肝いりでもっとも頑張ったのが、Twitterでの大喜利です(笑)。バズることばかり考えると炎上してしまうこともあるので、なんとか誰一人傷つけず、みんなが楽しんでもらえるような施策がないかと試行錯誤していました。その中で行き着いたのが、大喜利ですね。エンジニアの認知が非常に高まるものとなり、その後しっかりと自社のことについても発信していくことで、当社のまじめな面も認知いただける施策となりました。

山崎:エムスリーもダジャレ文化があるので、とても共感しますね(笑)。私たちは医療系のDXをやっていて東証プライムにも上場している。硬い会社だと思われがちなんです。「エムスリーって医療系だからエンジニアでも毎日スーツですか?」みたいなイメージが固まってしまう。それをひっくり返すための採用戦略の一環で「共感してもらえるようなエンジニア川柳がほしい」とみんなに伝えて、Slackのチャンネルで募集して、よさそうなものを採用チームが選ぶという施策をやってます。

塩飽:私たちは基本的なところに立ち返った1年間でした。技術広報にはさまざまな施策がありますが、メルカリグループではブログの発信数が結果的に増えた1年間だったと思います。チームの紹介や一つのプロジェクトが終わった際の振り返りのタイミングで記事を書いてもらいつつ、定常的なアドベントカレンダーをつくったりと、それらが重なり発信数が多くなりました。ただ単にブログを書いてもらうだけでなく、アクセスレポートを作ったり、書いてくれたエンジニアチームにフィードバックをしたりといった、内部向けの施策を頑張っていた1年だったかなと思っています。

株式会社メルカリ MK Engineering Office 塩飽 泰啓氏

石黒:アドベントカレンダーというワードに反応してしまいますが(笑)。LayerXでは「アドベントカレンダー(概念)」というものを始めました。通常アドベントカレンダーは12月に書くものなのですが「その時期に書いても読まれないのでは」「別の季節にやってみても良いのでは」ということから、12月以外でもやってみようと、昨年は1年間のうち7か月間書いてみました(笑)。うれしかったのは、最初は私の旗振りのもと執筆をしていたのですが、徐々に組織内に認知が拡大し、ついにはあるエンジニアの発案で「エンジニアだけで完結させよう」というムードがチームの中で生まれたことですね。やはり自発的な発信をおこなうのは非常に重要なので、それが当社にとってとてもよい影響を与えました。

池邉:LINEではヤフーと合同で「Tech-Verse 2022」というイベントを開催しました。LINEのほうでは韓国の開発チームも来日してもらい、外向けの技術発信をおこなうとともに、日本の開発チームと顔を合わせて技術の話などができたのもよい影響でした。「外向けの発信でもいろんなことができそうだね」と広がりも生まれて、技術発信のコンテンツをつくっていくことが意識されるようになりました。

また、こうしたイベントでも視聴者数や反応、質問などのコメントもやるからには多いほうがよいので、発表者にはしっかりとフィードバックするようにしています。このような施策をおこなった結果、社内のエンジニアが「登壇して発信したい」と自発的に手を挙げてくれるようになったのはよかったですね。

自社の特徴を生かした技術広報のあり方

エムスリー株式会社 執行役員 CTO/VPoP 山崎 聡氏(画像中央)

広木:各社の振り返りをお聞きしたところで、ここで2つ目のテーマ「自社の特徴を踏まえて工夫している技術広報施策」をお話しいただきたいと思います。ぜひ「この施策は自社の特徴が出ているな」と思うものを教えていただきたいのですが。

山崎:エムスリーは、最近ではコンシューマ向けのサービスなども展開していますが、主事業はB2Bなので基本的にイメージが湧きづらいと思います。また、私たちは技術広報専門のメンバーがいないので、効率も重要になってきます。

基本的な戦略としては、2つのステップがあると考えていて、まずは今のメンバーによりよい開発者体験をしてもらうこと。そして2つ目はそれを外部に伝えていくことです。

私たちは「全員採用」というテーマを掲げていて、メンバーからCTOやVPoEまで全員が採用に貢献しています。そのためにはやはり、全員が実際によい開発者体験をしていることが重要で、技術広報施策の根幹であると考えています。その上で私が一番重要視しているのは「オタクをリスペクトしていること」を伝えることだと思っています。技術者のギークな気質に、私たちはとても助けられています。その技術力が日本や世界の医療の発展に貢献している。さらにいえばその対価として、売上利益に直結している認識を持ってもらうことは重要だと思っています。

石黒:LayerXの場合は2つあると思っていて、一つは当社でも「全員採用」「全員広報」「全員営業」といっているのですが、その際に意識しているのが機会提供のあり方です。

当社の場合、代表取締役 CTOの松本勇気や執行役員の名村 卓などには、取材やイベント登壇の問い合わせが多くあります。スケジュール的にかなり難しい場合もあるので、他のメンバーに取材や登壇機会を渡して場数を踏んでもらうことを意識的に取り組んでいます。それぞれのメンバーが表に立つ経験を積んでいくことは、それぞれがプレゼンスを高めることにもつながります。

もう一つはプロダクトマネジャーからの技術広報。当社もソフトウェアエンジニアの育成に注力していますが、同様に、プロダクトマネジャーもディベロッパーやデザイナーと一緒に勉強会をしたり、プロダクトマネジャーのカンファレンスにプロポーザルを出していったりなどしています。やはりお客様の体験をつくるのはソフトエンジニアだけではできません。よりよい体験を総合的に提供するために、またエンジニアブランドだけが先行してしまわないためにも、会社として少し広義での開発者というものを意識付けしています。

株式会社LayerX 執行役員 石黒 卓弥氏(画像左から二人目)

塩飽:メルカリの場合は全社で見たら約2000名の社員が働いているので、かなり大きく幅広い人材のいる組織体になっています。その中で共通認識を持つことは大変なことですが、メルカリでは「技術広報の方向性」というドキュメントをベースにしています。これは初代CTOが技術発信に対する啓蒙活動として、大切にしたいことや想いを残したものです。

具体的には、一つはテクノロジーを使ってお客様の課題を解決していくこと。もう一つが技術発信のサイクルを通じて業界に還元していくこと。これは自分たちが学んだことを発信することが業界の発展につながるという考え方です。そして最後に、それに応じて変化し続ける新しい組織をつくっていくこと。この三点を大切にしています。

一方で、現在当社のエンジニア組織は国籍も豊かで、さまざまなバックグラウンドを持つエンジニアが活躍しています。そのような方々が会社やサービスの発展に寄与している半面で、異なるバックグラウンドを持っているからこそ認識を合わせるのが難しいケースもあります。Engineering OfficeとしてはそのようなD&Iの側面をはじめ、言語的な障壁などをなくすような土台を整備していくことに注力しています。

池邉:LINEの場合も、やはり人数が多く、さまざまなエンジニアが働いていることが特徴だと思います。一方で、DevRel組織が引っ張っていくようなイベントの場合、「Tech-Verse 2022」のような大規模なものを年に何回も開催することは難しいです。

しかし、人数が多いのもあって、エンジニア発の草の根活動のようなものもあります。DevRel組織としては大規模イベントだけではなく、そういったエンジニアの「やりたい」を手助けして、小規模ながらもイベントとして開催できるようなことを手助けしていきたいと考えています。そういったボトムアップを拾っていくために、当社では「yorozu」というSlackチャンネルを設けています。「イベント相談」などのネーミングだと少し身構えてしまって、アイデアを出しづらいことがあると思いますが、こういった名前にすることによってまだ小さいアイデアベースから発信できる。それを拾えるような場をつくっています。

片岡:ゆめみには「5歳児未満の振る舞い」という言葉があります。これはイノベーションに向けた合理的な話をしながらも、自分らしく振る舞えるあり方です。もちろん仕事としてはまじめに全力で取り組みますが、まず自分らしく楽しんでいくことが第一としてあります。
そして、社内でいい開発者体験をつくれれば、出し惜しみせずに透明性をもって発信していくことを大切にしています。これは「ゆめみオープン・ハンドブック」という形でNotionで積極的に公開していて、クリエイティブコモンズとして商用利用可能なかたちにもしています。これは広報というよりは、日本語というマイナーな自然言語で戦っている企業同士、組織知を共有していくムーブメントを一歩でも広げ、進めていきたい想いからおこなっています。

技術広報の今、これからのあり方とは?

LINE株式会社 上級執行役員CTO 池邉 智洋氏

広木:これまで2022年の技術広報の振り返りや、自社の特徴を踏まえた技術広報のあり方を聞いてきましたが、最後に皆さんの「現在注力している・これから注力したい技術広報施策」をテーマにお話しいただきたいと思います。

山崎:さきほど話題に挙がったLayerXさんの「アドベントカレンダー(概念)」は非常に参考にしています。数年前からなのですが、エムスリーでも「アドベントカレンダーって、終わったらさみしいよね」という声があったので、アドベントカレンダーが終わっても有志で投稿を続けています。そこから発展して「ブログチームリレー」という施策をやっています。これはメンバー全員が連続で記事を書くというもの。チームの姿勢も発信できるので、ブログを読んでいただいたことでカジュアル面談につながったりと、採用としてもとてもよい影響が出ていますね。

また、私たちは「M3 Tech Talk」という名前でやっている社内LT大会の様子をYouTubeに投稿しています。今後は私とVPoEの河合と一緒にPodcastのようなYouTubeも配信していきたいと考えています。

石黒:LayerXもPodcastをやっていますが、最近更新が滞っていて心苦しいところですね(笑)。

当社が現在、技術広報として注力しているのが、生成AIやLLMといった分野で、広報としての上期の指針にも入れています。たとえば当社では4月にLayerX LLM Labsを立ち上げ、3月には新卒向けのプレスリリースを出すというスピード感で取り組んでいます。これらの技術広報は早く出すことが重要で、他に先んじることで主要メディアでの露出も増えます。私たちは小さなチームですが、その中で他社に比べてなにが勝るかといえばスピードです。そこから認知をしっかり取っていく意図があるとともに、今後も意識的に、盛り上がっている分野に注力していきたいと考えています。

塩飽:さきほど山崎さんも動画について言及されていましたが、メルカリの技術広報ではYouTubeで「Mercari Gears」というチャンネルを運営しています。最初はオンラインセミナーのような内容がメインでしたが、昨年の半ばごろからはエンジニアリング組織のカルチャーを発信していくことに注力しています。一般的なものでは外国から来たエンジニアの仕事紹介や、プロジェクトについての内容。もう少しくだけた内容だと、エンジニアが社内でやっている部活紹介などですね。

最近あった例ではメルカリには「着物部」というのがあるのですが、エンジニアを含むメンバーが着物を着て出社し、業務にあたったり交流する様子を撮影した内容になっています。こういったカルチャーを動画で発信していくことには力を入れています。さきほどブログの本数も多かったと話しましたが、ブログの場合は日本語と英語で別々に投稿もしているので、そういう意味ではうまく発信の頻度をコントロールしていくことも意識していますね。

日本CTO協会理事/株式会社レクター代表取締役 広木 大地氏

池邉:LINEでも動画の活用はしていて、これまでのイベントのアーカイブ動画などは消さずに残しておき、いつでも観ていただけるようになっています。個人的には過去に自分が出ている動画を観ると、少し恥ずかしい気にもなりますが(笑)。ただ、現在だけでなく過去の取り組みについても知っていただけると思うので、一連の文脈からエンジニアリング組織のあり方やカルチャーなどを知っていただけるのではと考えています。

片岡:冒頭でもお話しした通り、ゆめみは決して強大な組織ではありません。それを踏まえて、私たちが技術広報、採用広報のコンセプトとして社内で共有しているのが「コバンザメガベンチャー」という考え方。たとえばメガベンチャーが登壇するようなイベントがあれば必ず申し込む。私たちよりもはるか上の方々と並ぶことで「なんかゆめみって会社はすごそうだ」と思っていただくものです(笑)。最近ではいろんな企業さんのPodcastにも出演させていただいたりと、必死で頑張っています。

これから注力していく方向については、実は誰もやっていないことをやろうとしています。さきほどの通り、私たちは徹底的な透明性を志向して発信していますが、最近取り組んでいるのが事業や資本提携ではなくて「心理的提携」という関係を会社さんと結んで、ご近所付き合いを始めるというもの。近日中にプレスリリースを出す予定ですが、近隣の会社さんにご近所同士のようにオープンな交流をして、私たちの取り組みを知っていただき、事業に活かしていただくというお付き合いのあり方を始めようとしています。まさに日本CTO協会のようなコミュニティ活動を通じて、よりよい体験やよい価値をつくっていけるようになれればと思っています。

(取材/文:川島大雅

― presented by paiza

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