キャリアを考える際の軸のひとつに、スタートアップ企業と大企業のどちらが理想のキャリアパスを実現できるか、という点が挙げられる。急成長できる環境か安定か……両者には、“企業のサイズ”という言葉だけでは片付けられない壁があるのは言うまでもない。業界を問わず、多くのビジネスマンがキャリアを考える上でこの問いに頭を悩ませてきたのではないだろうか。

今回話を伺ったのは、大企業からスタートアップで働くというキャリアチェンジを経て、さまざまな環境でチャレンジングな経験を積んできた株式会社GENDA VPoE兼プロダクト開発部部長・荒井勇輔(あらい・ゆうすけ)さん。荒井さんはより効率的なエンジニア組織を目指すべく、純粋持株会社に所属したまま、横断的に業務ができる組織作りに取り組んでいると話す。

プロフィール
株式会社GENDA VPoE兼プロダクト開発部部長
荒井勇輔(あらい・ゆうすけ)

2006年ヤフー株式会社入社。Yahoo!コミック、Yahoo!ブックスの開発に従事。 2011年株式会社VASILY入社。iOSアプリの開発を担当し、フロントエンド開発事業部長としてフロントエンド開発を統括。 2018年グループ会社統合により、株式会社ZOZOテクノロジーズに所属し、テックリード、ZOZOTOWN iOSリーダーとして、同社のiOS組織開発を主導する。 2021年10月株式会社GENDA入社。VPoE兼プロダクト開発部部長に就任。

チャンスのドアが開いたからにはやってみよう

──荒井さんは現在に至るまでのキャリアの中で、スタートアップと大手のそれぞれの企業を経験なさっています。キャリアを重ねる中で、どのような考え方を大事にしてきましたか。

荒井:
“チャンスのドアが開いたら飛び込む”っていう考えがあって。出所は、漫画のセリフだったと思うのですが……曖昧ですみません(笑)。とにかくこの考え方が、自分の中でしっくりきている気がします。

今までのキャリアの中でいうと、おっしゃる通り、私は大手の企業からスタートアップに移った時代がありまして。スタートアップから声がかかったときに、率直にいい機会だと思ったんです。もちろん、大手だからこそチャレンジできることもあったのですが、結果的にはこの言葉通り飛び込んだわけです。

その後、GENDAから「エンジニアの組織を立ち上げてほしい」と話が来たときも、「チャンスのドアが開いたからにはやってみよう」と思いました。ちょうどそのときは、プライベートでいえば子どもが生まれてまだ小さかったタイミングでもあったのですが、挑戦しました。

──過去にもキャリアの要所で転職をされてきたと思いますが、転職の際の会社選びで見るべきポイントを教えてください。

荒井:
中長期で自分がどうなりたいかを一度立ち止まってしっかり考えた方がいいと思います。目先の年収だけに囚われずに、“将来どうなりたいか”をまずはなるべく明確に定める。そうすれば、次は自分がどう成長していきたいかという大きな目標に向けて、もう少し細かくステップアップを考えられますよね。

その上で、自分がちゃんと(会社から)必要とされているかは見極める必要があるかもしれません。それからその会社での経験を通して、中長期の視点で設定したゴールまで行けるようなところかという部分も重要かなと思います。

──IT業界の中でもエンジニアといえば、スキルアップの転職は珍しくない職種だと思います。優秀な人材が組織から離れてしまうリスクに対して、どう対処していますか?

荒井:
そうですね。やっぱり組織にいてもらうためには、会社のビジョンを提供しなければならないと思います。そういう意味でも、GENDAの開発組織はエンジニアの夢や目標を叶えられる組織でありたいです。やっている業務の規模、技術的な課題へのチャレンジ……もちろん、働きやすさも含めてキャリアのゴールにしたい。これはGENDAの開発組織を作る上での、私の目標でもあります。

社内の制度として、これからエンジニアの成長支援は徹底的にやっていきたいですね。それができたら、GENDAがエンジニアにとって最適解の企業になってもらえると思うので。

仕事の質は量があってこそ磨きがかかる

──大手とスタートアップの違いを感じた瞬間はありますか?

荒井:
一番わかりやすいところだと、やっぱり関わってくる範囲の広さは変わりますよね。小さい会社の方が(個人の関わる範囲が)広いですし、大きなところだと組織の中の一部としての立ち回りになります。

わたしの場合は、数千人いた大手の会社から、5人程度のエンジニア組織へと移ったわけですが、まず感じたのがシステム環境の違い。

大手のときは、社内のシステムがすでに整備されていたので、社内のツールを使ってものづくりができたんです。だから重要視されるのは、“社内の優れたシステムを使って、いかに効率的な開発ができるか”という部分だったのですが……。ところが小規模な組織となると、社内の最適化された便利ツールがない状態で、OSSなどを駆使して試行錯誤する形に変わってくる。自分が担当する範囲も広くなりますし、その分の学びも増えます。

とはいえ、この話だけだと「じゃあ大手は悪いの?」と不安になってしまう方もいるかもしれませんが、そんなことはなくて。大手は、大きなネームバリューを持っているというのはもちろん、規模が大きなシステムや、大規模なトラフィックがあり、だからこそできる仕事もありますからね。

──大手にもスタートアップにも、それぞれの良さがあるわけですね。

荒井:
そうですね。ただ私の例に限らず、大手からスタートアップに移った場合、どんな企業でも多少の課題が浮き彫りになるケースは珍しくないのではないのでしょうか。最初はとにかく、忙しかったですね(笑)。

とはいえ、仕事の質を担保していくためには、まずは経験を重ねることは重要だなと思っていて。インプットの量も、単純に業務に向き合う時間的な量も、序盤はある程度必要になる気がします。経験上、量を重ねてこそ改善点がわかったり、同じ業務に向き合うにしてもスピードが早くなったり、仕事が効率的になっていきます。

横断的に業務ができる開発組織へ

──GENDAに入社後、エンジニア組織を効率化するにあたって最も重視した点は何ですか?

荒井:
そうですね。そもそもGENDAは、“純粋持株会社にエンジニアが所属している”っていう、かなり稀な状態にある企業なんです。多くの場合、事業会社に開発組織があって、会社=サービスになっていますよね。または、グループ内に開発専門の会社があるケースも多いと思います。

一つの事業会社にエンジニアがつく形だと、「他の会社の開発をやりたい」と言っても、法人が異なるので、なかなか移動ができないのは想像しやすいと思います。技術的な情報共有も、その体制だと結構難しい。

そこでGENDAが挑戦してるのが、純粋持株会社に所属したまま、横断的に業務ができる組織作りです。もちろん今後GENDAはどんどんプロダクトが多様化していくと思いますし、まだまだ課題があります。横断的なフレームワークや同じ共通のツールの整備も含めて、属人化を徹底的に排除しなくてはいけない。でも、それが可能になった世界は非常に効率的だと思うんです。

──GENDAでは、効率化のためにメンバーの専門性を活かす体制作りを運用しているとお聞きしたのですが、今の体制の運用に至った背景を教えてください。

荒井:
繰り返しにはなりますが、GENDAが目指しているのは、横断的に業務ができる効率的な組織です。そこを踏まえて「横断的な組織にするためにどうすればいいのか」と考えたときに、エンジニアの専門性に着目しました。GENDAでは、エンジニアそれぞれの“モバイルの開発が得意”とか“バックエンドの開発が得意”とかを活かす形で、連携しやすいような体制づくりをしています。

具体的には、開発部内でバーチャル組織を作って運用しています。職種を“チャプター”と呼んで、“モバイルチャプター”“フロントエンドバックエンドチャプター”という形態にしています。その中で柔軟にプロダクトへのアサインを決めたり、フォローしあったりして、横断的にプロダクトを見ています。

──ありがとうございます。現状の運用体制は荒井さんが発案なさったのでしょうか?

荒井:
立ち上げにおいて参考にしたモデルはあるのですが、GENDAにおいては0から構築しました。私が入ったときには、前任のCTOが1人で技術系の課題に向かっていく状態で、複数のプロダクトに取り組んでいた状況でした。

本当に0からのスタートだったので、まずは組織の計画を立てていくところから始まりましたね。採用計画はもちろん、「こういう組織にしたい」という目標から、「そのためには、こういう人が必要だ」という人材の定義もしましたし……。プロダクトの状況から不足している人材を定義していき、最初はリードエンジニアの採用を優先しました。

とはいえ、最初は面接のフローもないですし、正直苦戦はしました。何より、自分1人しかいなかったので(笑)。面接官とか面談の調整とかも(同時並行で)全部走らせながら、環境を整えていく日々でした。

──最後に、荒井さんがこの先のキャリアの中で成し遂げたいことを教えてください。

荒井:
どんな場所にいたとしても、自分の中で大切にしていきたいのは、“期待をしっかり把握して応える”というところでしょうか。今の私は「開発組織を立ち上げてほしい」という期待を背負ってきているので、そこはしっかり達成したいですね。ただ、「開発組織を立ち上げてほしい」という言葉の意味は、箱を作って、人数を増やすことではないとは思うんです。

求められているのは、事業を伸ばすようなエンジニア組織とか、他社に負けないような組織へと完成させていくことじゃないかな、と。エンジニアが憧れる企業として、GENDAの開発組織を作っていきたいと思ってます。

「GENDAの目指すエンジニア組織を本当の意味で完成させる」というのは、数年で達成できる目標ではないかもしれません。10年、20年と長い時間をかけてようやく達成できるものだと思っています。エンジニア、マネージャーとしての生涯をかけて達成していく目標になるかもしれませんね。

(撮影:新井達也/取材・文:すなくじら

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