エンジニアの採用時に課題となることのひとつに「スキルを持った人材をなかなか採用できない」ケースがあげられます。しかしその一方で、スキルに固執しない採用をしながら、エンジニア組織を成長させている企業もあります。
マーケティングオートメーションのクラウドサービス「Kairos3」を提供するカイロスマーケティング株式会社では、明確に「技術力よりもビジョンマッチを重視する」という方針のもと、エンジニア採用を進め、組織を成長させてきました。このコラムでは同社で開発リーダーを務める、宮田渉氏に採用時の見極める際の観点や入社後の研修について詳しく解説していただきます。
「一緒に走れる仲間か」をもっとも要視する採用
カイロスマーケティング株式会社(以下、「当社」)の採用は、職種によって採用過程や基準を分けておらず、会社全体で一定の基準に従った採用をしていくスタイルをとっています。
「マーケティングをもっと身近に。」をミッションに掲げており、エンジニア職でもこのミッションを目標に持つことは変わりません。エンジニア採用では、応募時点の技術力よりもまず、当社のミッション・ビジョンに共感していただけるか、熱意を持ってともに成長していけるかを重視して採用をしてきました。
当社では、現時点で実務経験や技術力がないからといって採用しないのは、会社として非常にもったいないと考えています。現時点で足りない部分があったとしても、選考を通して、熱意や伸びしろがある方というのは分かるものです。ビジョンに共感してくれる方で、1年後、2年後に会社の力になってくれる仲間だと確信できれば採用しています。
たとえば、誰でもエンジニアになりたいとは言えますが、そのためにどのような努力をしてきたかを聞いてみると熱量が測れます。少し極端な例かもしれませんが、「勉強時間を確保するために仕事を辞めて、プログラミングスクールで朝から晩まで勉強しています、そしてこういったものを成果物として見せられます」と言う人は信用ができます。エンジニアになるための覚悟を決めて、努力を一本筋を通してできている事実があれば、入社後もがんばっていただけると確信が持てます。
もちろん企業のフェーズによっては、「どうしてもここでは即戦力として活躍していただける方、特定の技術的スキルが高い方を採用しなければならない」というタイミングもあると思います。当社でもそういったタイミングは今後来るはずです。ただ、それでもビジョンマッチの部分を軽視はしないでしょう。現在の離職率の低さからも採用に対するビジョンマッチへのこだわりは間違いではないと感じています。
実務経験が浅くても活躍を可能にしている教育方針
技術力に重きを置かない採用をしていると言うと、他社の方からは「どういう観点で採用しているのか」「未経験者を採用した際の教育コスト、開発効率が一時的に落ちることに対してどうしているのか」などをよく聞かれます。
ここからは、これらの点について、当社の取り組みをご紹介したいと思います。
現時点の技術力以上にこれから伸びる人かの見極めが大切
まず選考についてです。冒頭でビジョンマッチについての話をしましたが、もう少し詳しく説明します。当社では応募時の書類選考と人事面接でしっかりとスクリーニングをするようにしています。技術力の基準はそれほど高くない一方で、それ以外の基準を高く設定していると捉えていただくと分かりやすいかと思います。(詳しい数値は出せないですが)エンジニアとの面接までくること自体が大変です。
その上で、エンジニア面接では、見るポイントを絞りながら応募者を見ています。具体的には、その方が入った半年後・1年後・2年後…と直近の未来を考えたときに、どんな影響をチームに与えてくれるか、教えられる側から教える側に回ったときにどんな教え方をする人か、というところを非常に意識しながら選考しています。
双方の問題点や心配事は面接でつぶしていく方針でやっていて、エンジニア職の面接といっても技術的な話ばかりをするのではなく、「あなたならどう考えますか」という問いかけが多いのが特徴です。面接を通して考え方を聞かせてもらいながら、ありのままの当社の状況や仕事内容をお伝えして、応募者にとってマッチする会社なのかをご判断いただけるように心がけています。
さらに、エンジニアとしてなぜ当社のようなマーケティングの事業をやっている会社を選んだのかもお聞きします。そこをしっかり答えていただける、かつチームにもいい影響を与えてくれそうな方となると、必然的に数はとても少なくなってしまいますが、今のところはこのやり方が正しいと思っています。
顧客視点を持つためのプロセスを経て開発現場へ
次に、当社が実施している入社後の教育、オンボーディングについてご紹介します。
入社後の最初のステップとしては、会社やプロダクトを知る・慣れるという期間を1カ月設定しています。
この1カ月の中で、最初の1週間は、当社のサービスである「Kairos3」を触り、画面や機能を把握する期間にしています。1週間しっかり触ることで、そのあと画面操作について何か質問したときには、すぐに回答できるくらいに仕上げてもらいます。
また、サービスについて学ぶということとともに、新鮮な視点で意見を出してもらう意味合いもあります。しばらく経って製品に慣れてしまうと、どうしてもその感覚はなくなってきてしまいますから、最初のタイミングで契約したお客さまと同じ目線でシステムを見て、分かりにくい・難しいと感じた部分を挙げてもらいます。
その後は、製品を触りながらデータの流れを理解してもらって、実際にプログラムを渡すのは最後の1週に入ったときです。ただし、このときもコードをただ上から下に読んでもらうのではなく、画面とデータの流れを把握した上で、該当するコードがどこかを探す練習をしてもらうようにしています。これをこなしていくと3、4週間後にはある程度製品に対する知識がついた状態になるため、そこからはお客さまからお問い合わせに対する調査タスクを割り振っていきます。このようにカスタマーサクセスのメンバーと調査タスクをこなしながら、徐々に開発現場へ合流していくことになります。
ここまでの内容は必ず自分が教育担当として入っていて、それ以降はエンジニアメンバーに引き継いでいきます。教えるメンバーも元未経験のエンジニアで、彼らが後輩に教えることの練習も兼ねています。
これらの内容を経て、早い方だとだいたい3カ月くらいで戦力として活躍できるレベルになり、以後は一人前を目指すステップに移っていきます。そのころには社内で実施している勉強会で講師側になる実力が備わっている人もいます。
多少の個人差はありますが、この方法で途中で詰まってしまった方はいまのところいません。これは元エンジニア未経験で入社してきた先輩たちが、つまずきやすい箇所や、克服の仕方のポイントを理解して新入社員に共有しているというのもあります。
新入社員の熱意がチームのモチベーションを高めてくれる
即戦力でない方を採用したとき、教育を担当する既存社員の工数を取られることによる開発効率の低下と、それにともなうチームのモチベーションの低下は避けなければなりません。
当社の場合は選考での見極めをしっかりやっているので、相当に熱量の高い新入社員が入ってくることがほとんどです。よって、既存メンバーにとってはむしろ「こちらも負けていられない」とさらにモチベーションが高まるきっかけとなっているようです。聞いてみると新入社員の熱心さに驚いたという声も上がるほどです。熱量のある新入社員を教えることには、むしろ楽しみを感じられているようです。
もちろん時には育成に関する業務によって、今日終わるはずだった作業が明日の午前までかかってしまうといったこともあります。ただ、そこは報告してもらえれば問題としないようにすることで、教える側のモチベーションが低下しないようにしています。
リーダーが率先して成長を妨げない環境をつくる
一方で、自分が新入社員の研修を最初の1カ月間見ていることで、開発リーダーとしての業務には影響が出ますので、ここはしっかりコントロールする必要があります。入社の時期はあらかじめ分かっているので、その期間は育成に時間をあてると決めて、重要な仕事を握りすぎないように業務量を調整しています。
なぜそこまでして自分が研修を見ているかというと、それだけ最初の1カ月が大切だからです。自分自身の経験からも入社直後の非効率的な時間を少しでも短くしたいという思いがあります。
たとえば、会社によっては、エンジニアとして入社すると、膨大なソースコードが渡され、一生懸命時間をかけて読み込むことを課す場合もあるでしょう。しかし、経験が浅い方は、そんなやり方ではなかなかスムーズにいきません。「何をどう質問したらいいかも分からない」という状態では時間がもったいないですよね。こちらからすると、大体詰まるところは予想がつきますし、「この部分をこういう視点で見てみてほしい」とひと言加えるだけでずっと進捗がよくなります。なによりモチベーションも下がりません。
また、「難しい」「分からない」といった一見ネガティブな言葉を言いやすい環境作りにも力を入れています。実務未経験で入った方は当然、不安も大きいですし、自分のやり方が正しいのか判断がつきません。それらを早く取っ払うには、いい報告も悪い報告もすべて自発的に出てくるようにするしかありません。エンジニアチームの誰に言ってもマイナスに捉えられない環境があれば、いつでも誰にでも相談ができて、そして誰かしらが答えてくれるというよい循環ができます。現在、当社のエンジニアチームは強固な人間関係ができあがっていて、なんでも相談できる状態というのが非常に強みとなっています。
加えてチーム全体に「失敗をしても全然いい」「1回で完全に理解できなくてもいい」というのを積極的に伝えています。わたし自身「分かりません」とよく言います。サービスに対して正解を持っているのはお客さまであって、わたしもときには間違うこともありますし、絶対的な正解を導き出せるわけではありません。分からないこと、やってみて失敗だったこと、そういった経験も共有して再チャレンジの材料にしてほしいと考えています。
リモートワークをいち早く導入し、コロナ禍にも対応
コロナ禍以降、育成、そしてコミュニケーション全体の新たな課題としてリモートワークの中でどうやっていくかという課題も出てきているのではないでしょうか。
当社の代表はもともと外資系企業に勤めていたこともあり、創業時からリモートワークを含めた効率的な働き方を推奨する文化がありました。そのためコロナウイルス感染症の流行以前から現在まで大きな仕事のやり方としては変わっていません。
そういった歴史もあり、当社では完全リモートワークであっても、コミュニケーションに問題は起きていないと感じています。世の中がここ1、2年で慌ててリモートワークの体制を整えてきたことを考えると、当社はそのあたりはアドバンテージがあるように思います。
開発チームでは週に1回、エンジニアみんなが通話を繋ぎっぱなしでリモートワークしてる時間を設けています。地方のメンバーもいるため、実際に対面したことがない人ももちろんいますが、積極的に意見を交わす機会もつくっています。
今後もよりよいサービスにしていくために
最後に、当社のエンジニアチームの今後の目標についてもお話ししておこうと思います。
冒頭でもお伝えした、「マーケティングをもっと身近に。」を体現すべく、これからもさまざまな使い方を想定してユースケースを増やし、機能も充実していきたいと考えています。そして、見た目もよくて使いやすい、操作方法が分かりやすいとお客さまに言っていただけるものを目指していきます。
そのためにもエンジニア経験のある方・ない方、両方の視点が欠かせないと考えています。技術的なアプローチについて考える必要がある一方、先入観のない状態でシステムを触ったフィードバックをシステムに取り込むことも非常に重要です。経験者とは違った、新しい目が入ってくることでサービスをよりよくできるという確信を持っています。
自分自身、もともとゲーム会社のエンジニアという前職からこの業界に飛び込みました。実際入社してみて、ゲームというBtoC向けサービスをやってきた経験が生かされている部分は多くあります。今後もBtoBだからという固定観念を持つのではなく、使った人が喜んでくれるもの・便利だと感じてくれるものを念頭においてサービスを提供し続けたいと思っています。
技術的な方針はわたしが主導しつつも、「ユーザーにとってなにが最良か」はみんなが考えて形にすることを大切にしていけるチームでありたいと考えています。メンバーには情熱のおもむくままに取り組んでもらい、もし少し道がズレていたらわたしが責任を持って軌道修正をします。開発リーダーとしてはそういった役割でありたいです。