ライター・編集者という職業柄、本屋さんに行って新刊棚を眺めるのが趣味です。とくにほしい本がなくとも、週5ほどのペースで足を運んでいます。そんななか、最近よく表紙上に踊るようになった言葉が「コミュニケーション」「雑談」「言語化」などです。
今回ご紹介したい「瞬時に『言語化できる人』が、うまくいく。」(著・荒木俊哉)のタイトルにも、しっかり「言語化」と入っています。また流行りの“言語化本”か、と思いきや、一味違いました。
なぜなら「わたしたちが言語化を苦手とする理由」からていねいに解説してくれているから。思うことはあれど、なかなか言葉にできない! モヤモヤする! ……そんな悩みを抱えるわたしのような方にこそ、読んでほしい本です。
目次
なぜあなたの言語化はピンとこないのか
巷には、さまざまな「コミュニケーション本」が溢れています。同じジャンルの本を10冊ほど読めば、おおよその知識やスキルは身につけられそうですが、世間から「コミュニケーション」「雑談」「言語化」にまつわる本が消えそうな気配はありません。それは、いくら本を読んでもわたしたちの伝え方は“根本的な意味で”向上していない……そんな恐ろしい事実を意味しているのかもしれません。
なぜわたしたちはこうも、自分の思いや意見を言葉にするのが苦手なのでしょうか。
その答えが本書に書いてありました。それは、著者の荒木さんいわく「『言語化』と『伝え方』はまったく別のスキルだから」(P48)です。
評価を決めるのは「どう言うか」<「何を言うか」
わたしの頭のなかには「『言語化』と『伝え方』は別のスキルってどういうこと?」と、読んだ瞬間にハテナが飛び散りました。どちらも、自分の思いや意見を言葉にして、相手に伝える作業を指しているのでは? と。
本書では「言語化」と「伝え方」はまったく別だと、以下のように定義されています。
・言語化=何を言うか(What to say)
・伝え方=どう言うか(How to say)
つまり言語化は「自分の思いや意見を言葉にする作業」のこと。そして伝え方は「言葉にした自分の思いや意見を相手に伝える作業」のこと。似ているようで、やることはまったく違います。
まずは「言語化=何を言うか」を磨いて、自分の思いや意見を言葉にする力を養うこと。「伝え方」を練習するのは、その後の工程です。なぜなら、何を言うかが決まっていない状態で、いくら伝え方(小手先のテクニック)だけを磨いても意味がないから。中身のない言葉が上滑りしてしまうでしょう。
百歩譲ってプライベートではある程度なら許されるかもしれませんが、ビジネスの場ではそうはいきません。あなたの評価を決めるのは「どう言うか」ではなく「何を言うか」です。
A4用紙1枚の言語化トレーニングがあなたを救う
振り返ってみれば、私が新卒で葬儀会社に入った当時(詳細はぜひ「<キャリアチェンジ>葬儀屋からフリーライターへ。「好きなことを仕事にする」が精神安定剤になった私の話」で)、まさに「どう言うか」ばかりを気にしていました。
お客様に対して、祭壇のお花の豪華さやお料理の質をアピールする日々。お花を飾ることやお料理の価値にどれだけの“本質的な意味”があるのか、自分でさえも曖昧なまま営業トークを繰り返していました。時効だと思って許してほしいのですが、業種は違えど、営業と名のつく仕事をしていた方なら身に覚えがあるのではないでしょうか。
「どう言うか」ばかりを気にして、信頼してもらえる伝え方や、お客様の心をつかむ言葉ばかりを重視していた結果、私の社内評価が上がったかと言われると……。いたた、急に頭と胸が痛くなってきました。
社内外に信頼してもらうためにも、そして、自分の思いや意見をしっかり言葉にできるようになるためにも、本質的な“言語化トレーニング”は必須だと感じます。ましてや、これからのわたしたちが生きるのは、コロナ禍を経たオンライン重視の時代。顔や声のないテキストコミュニケーションに重きが置かれる世の中で、言語化力は身を助けるスキルのひとつになってくれます。
「瞬時に『言語化できる人』が、うまくいく。」には、忙しいビジネスパーソンでも簡単に習慣化しやすい「A4用紙1枚を使った最大6分の言語化力トレーニング法」が紹介されています。小手先のテクニックではなく、この先の自分を救ってくれる言語化力を高めていきましょう。
(文:北村有)