会員制ファンコミュニティプラットフォーム『Fanicon(ファニコン)』を運営するTHECOO株式会社で、2022年7月19日に初のCTOに就任した城弾氏。

以前当メディアでは、当時リードエンジニアを務めていた城氏に、現代のエンジニアに求められる「クリエイティブマインド」について、エンジニア自身がサービスをつくる上で思考し、手を動かすことの大切さを語っていただきました。(前回記事はこちら

今回は、入社後に何度かあった誘いを断り続け、現場で手を動かすことに重きを置いていた城氏が、なぜCTO就任に至ったのか、CTOとして成し遂げたいことは何かなどを伺いました。

会社もサービス規模も大きくなり、「個人」ではなく「組織」として課題解決に臨まなければならないことが増えてきたと言う城氏。また、CTOとして採用によりフォーカスするようになり、難しさを感じると同時におもしろみも感じるようになったと言います。「自由と責任」を掲げるTHECOOで、エンジニアとして、そしてCTOとして働く魅力とは。

「大きな課題に立ち向かえる組織にしたい」CTO就任への思い

――さっそくですが、CTO就任までの経緯についてお聞きしたいと思います。決断までに時間を要したと伺っています。

城弾氏(以下、「」):実は5年ほど前の入社時から「CTOをやってくれないか」という話はもらっていました。ただ、当時の自分にはまだ早いと一度断って、そのあとも何度か話題に挙がっては「今はまだサービスをつくるほうに集中したい」と思って就任には至りませんでした。

わたしの中では、まずはユーザーにフォーカスしてサービスを当てて、しっかり利益を出して会社を上場させることが何よりも優先事項でした。当時は極力プロダクトをつくること以外のことを排除したい気持ちが強くありました。

――なるほど。当時の城さんにとって、CTOというのはマネジメントに寄っている印象が強かったんでしょうか?

:マネジメントもですが、採用に時間を割かなければならないイメージがありました。しかし、当時の会社のフェーズでは、自分で手を動かすのがもっとも効率がよく、他のことをする時間があるならコードを書いたほうがいいと思っていました。少なくともIPOするまではサービスに集中して、CTOどころかマネジャーも避けたいと思っていたくらいでした。

昨年の頭に一度エンジニア部署のマネジャーを務めましたが、やはり「マネジメントをやっている時間でサービスを作ったほうがいいな」と感じて、(マネジャーを)降りました。現場で手を動かすほうが会社のためになるという気持ちは変わらなかったからです。

ただ、それで現場メインでやった結果、2021年末には無事IPOすることができました。それによる達成感がとても大きかったため、次はどうしようかと悩みました。実は2022年内くらいで一区切りつけて、環境を変えてもいいかなと思うときもあったんです。

――そうだったんですか! そこからどうCTO就任につながったのか気になります。

:そんな矢先にサービスで不具合が起きました。その対応をする中で、もはや何か問題があったときに個人レベルでどうにかできる限界のところまでサービスが大きくなっていることに気づいたんです。早急に組織で対応できるような体制を整えていかないと、次また何かが起きた際に立て直せなくなる危険性があると感じました。

それもあって、従来のエンジニア組織を変えていくためにCTOが必要だという考えに至りました。はじめは募集したもののぴったり合う人は採れなくて、こうなったら自分がやろうかと悩んでいたときに、タイミングよく社長と取締役から「今度こそCTOやってみないか」とちょうど声をかけていただきました。

――絶妙なタイミングだったわけですね。次のステップが見えたんじゃないですか。

:そうですね。もともと、たとえばわたしが突然病気になってしまったら『Fanicon』のサービスが回っていかないような状態ではあったので、まずはデリゲーション(権限委譲)を進めていくべきだと思ってはいました。また、特定のポジションが手薄という課題感も出てきていて、体制の強化が必要だと感じていました。

IPOまで進められたことで、わたしの思考が現場で手を動かすことを最優先にすることから組織について考える必要もあると変化したのも事実です。

それとともに、サービスや会社、メンバーがすごく好きで、自分がCTOになることで会社にまだ貢献できるならやってみようと思えたことも大きいですね。

エンジニア採用と人材育成はIPO後の企業成長の要

――城さんがCTOとして今一番力を入れて取り組みたいことはなんでしょうか?

:まずは採用と教育に意識的に時間を割こうとしています。

採用はこれまで片手間でしかできておらず、なかなか人を増やせていませんでした。これまでしっかりとできていなかった採用計画や採用要件の定義、選考での見極めを人事サイドとも協力して進め、フェーズに合わせて必要なエンジニアを確実に採っていきたいです。

しかし、今当社が必要としているスキルや経験を持ったエンジニアは他社との取り合いになる人材でもあるので従来のやり方ではうまくいきません。わたしだけが動いても駄目で、人事と経営層も含めて全社的に「どうやったらエンジニアに選ばれる会社になるか」を追求していくつもりです。

会社とサービスのポテンシャルはまだまだあると思っているので、採用が進めばさらに成長できます。上場したことで知名度は上がりましたし、CTOとして広告塔のような役割も果たしていくつもりです。

教育に関しては、能力の高い人はいるのに、その人たちの能力をうまく引き出しきれていない・育てきれていないという課題感を持っています。当社で力を発揮してくれればもちろん一番うれしいですが、いちエンジニアとしてどこに行っても活躍できる人材に育てたいという気持ちが強いんです。

それらをしっかり実行して、会社とサービスを大きくしていこうと考えています。

――採用時に気をつけていたりこだわっていたりすることはありますか。

:前提として、当社は採用職種にかかわらず面接官の満場一致で採用可否を決めています。そのためエンジニアの採用でもわたしだけの基準ではありません。

見ているポイントはいろいろですが、ふたつ挙げるとするとわたしは「文章力」と「学ぶ意欲」を重視しています。文章力については、現在リモートワークでチャットでのやり取りも多いので、履歴書やメールの文章から円滑なコミュニケーションができるか推し量っています。学ぶ意欲は、たとえば、受験などにこれまで本気で取り組んだ経験があるか、継続して学ぶ努力ができるかという点ですね。

また、面接では相手がどんなタイプかを見極めて話し方や態度にも変化をつけています。書類選考がある程度厳しいため、面接まで進んだ方はぜひ来て欲しいと思う方が多いんです。そのため事前につくってきた言葉より、その人の素のよさを引き出せるように尽くしています。

――もう少し踏み込んで、具体的に御社では今どんなエンジニアを求めているのか伺えますか。

前回の記事では「クリエイティブマインドを持っている人」とお伝えしたと思います。もちろん今でも必要ですが、プラスして上場したからこそ、手堅く仕事をこなしてくれる人も必要だと思っています。新しい価値のあるサービスをつくり出せる突破力のある「攻め」の人と、変化に強く堅実に仕事を進められる「守り」の人、この両方をバランスよく採っていきたいですね。

特にわたしは攻めの姿勢が強いので、手が回らない部分を補完してくれるような役割の方や、マネジャーのポジションの人も必要ですね。今後さらに組織が大きくなれば、CTOが直接メンバーへという形はそのうち立ち行かなくなってしまいます。そのため中間に立ってマネジメントをしてくれる人を迎えて、プロダクトも回しながらみんなが働きやすい会社をつくっていきたいです。

CTOとして「THECOOのカルチャー」を大切にしたい

――人を増やしていく上で、CTOとして大事にしたいこと、絶対に外せないことなどはありますか?

:人数が増えてもできる限り今のカルチャーを変えないようにしていきたいですね。ここまでは創業者の平良がつくりあげたTHECOOのカルチャーをメンバーに浸透させることができていて、いい雰囲気を保てています。今後、人数が増えたときはもちろん、辞める人が出ても、この雰囲気やカルチャーを壊さずにいくというのが至上命題だと感じています。

具体的には「自由と責任」を掲げていて、常識の範囲内で好きなことを自由にやってもいい代わりに自分の責任はまっとうする文化があります。働く時間も比較的自由が利きますし、大学に通いながら働くことも可能です。組織が大きくなってもそういった部分は継続していきたいです。

あとは個人的に入社してくれた人に「こんな会社に入らなければよかった」と後悔をさせたくない思いが強くて、その人のキャリア、もっと言えば人生の貴重な時間を使ってよかったなと思える会社にする責任は感じています。

――上場にあたって、これまでより堅苦しさを感じる面もあったと思うのですが、そのあたりはどうですか?

:おっしゃるとおり、セキュリティ面など厳しくなった部分はありますね。特に初期からのメンバーが会社の変化に対して「面倒が増えた」と感じて辞められてしまう懸念がありました。そのため、面倒事はわたしが引き受けてしまって、一方でしっかり業務面では成果を出してもらうように密にコミュニケーションをとるなど、手厚くフォローするように気をつけていました。

結果的に、上場前後で辞めたエンジニアはほとんどおらず、わたしがやってきたことはそう間違ってはいなかったんだろうなと思います。忙しい時期もありますが、待遇や働きやすさの面は悪くないという自負がありますし、アウトプットを出していればある程度自由という面にも魅力があります。

逆に言うと、ひとりでも「自由と責任」をまっとうせずに好き勝手する人間がいると崩壊してしまうので、各自がその自由を守るためにがんばっているとも言えるかもしれません。きちんと成果を出している人の働きを阻害するような人物がもし出てきたら、わたしからきちんと指導します。

組織のメリットを最大化という視点で得た新たな学び

――城さんは、現場主義であることに重きを置いていたと思いますが、CTOになった今も現場に残れているなと感じられますか?

:「何をもって現場主義とするんだろう」っていうのを考えていて、自分の視点が一段上がってサービスから会社・組織に変わったのは事実なので、離れたとも言えるんですかね。ただ、開発スキルの高いメンバーがいる中で、自分がコードを書くことにこだわるのは果たして正しいのかなと。

それよりも部署を横断した調整や、一筋縄ではいかないような複雑な技術や組織課題の解決、そういったところを自分が引き受けるほうが今は最善だと思っています。

――なるほど。組織としてのメリットを考えた結果ということですね。ただ、実際手を動かさないポジションになることに葛藤はありませんか。

:もちろんあります。気持ちとしては、戻れるのであれば明日にでも現場のエンジニアに戻りたいですが…(笑)。でもいずれ戻れるとも思っているんです。もともとそれほど学ぶことが苦ではないので、またキャッチアップできるだろうなと。たとえば、今後経営に2、3年携わったとしても、その後改めてエンジニアに戻れる自信も持っています。

会社が0→1のフェーズのときは、現場で大きく貢献できるスキルと経験が自分にはあったので、それに徹していましたが、今は10から100に大きくしていくフェーズです。わたしはCTOという立場でそのフェーズが得意な人材を採用して会社に貢献できればと思います。それにCTOのポジションでしか得られない学びも多くあると感じています。

また、エンジニアとして技術的なスキルだけで見たら自分よりできる人はたくさんいますが、わたしは人とコミュニケーションを取るのも好きで、そことかけ合わせることで自分の強みになると思うんです。

――今「強み」というワードが出ましたが、0→1のフェーズでの城さんの強みはどういったところにあると思われますか?

:エンジニアでありながらビジネス要件を咀嚼して理解できる、そして実行に移せるというところですね。先人をまねたり経験者に聞きに行ったりといったことがフットワーク軽くできるほうなので、どちらがよりよい選択かの判断も早いと思います。

あとは、実現への執念ですかね。成し遂げたいことのために魂を賭す覚悟で取り組めるというのも強みかもしれません。

型通りのマネジメントへの苦手意識から自社に合うスタイルを模索

――何度目かの誘いを経てのCTO就任だったと思いますが、実際やってみてやりがいを感じて楽しめている部分もありますか?

:実は結構あるんですよ。マネジメントはそこまで向いていないなと自分では思うのですが、採用のフロントに出ていくのはやってみると結構おもしろくて。人と話すのが好きというのもありますが、採用ってロジカルで戦略なんだなと気づいてから、やりがいをもって取り組んでいます。

――マネジメントへの苦手意識はまだあるんですね。

:そうですね、チームメンバーを動かして成果を上げるのはあまり得意ではないと感じています。ただ、自分自身もそうですがエンジニアってマイクロマネジメントされると窮屈に感じる人も多いので、そういう意味では自由にやりながら個人が成果をしっかり出せるようにという意味でのマネジメントはある程度できているかもしれません。

チームでの統制というより、プロ集団に属する個人の得意を引き出して、最終的なパフォーマンスを最大化させるスタイルのほうが自分に向いていると思います。

――今後、城さんの描いているキャリア像、将来像みたいなものがあれば教えてください。

:新しいことをやりたい気持ちは結構強いですね。というのもWeb 2.0と言われたインターネットが盛り上がってきた時代にはまだ最前線で活躍できるようなエンジニアではなかったので、次のWeb3ではおもしろい波に乗っかりたい気持ちがあるんです。「天下取るぞ!」とまではいきませんが、勝負してみたいという野望はあります。

従来のCTOの型とは外れるかもしれませんが、メンバーをある程度自由にさせて、でもいざというときはちゃんとパフォーマンスを引き出せるようなマネジメントをしながら、新規のサービスも立ち上げてみる…そんなCTOの新しいスタイルをつくっていくのもいいですよね。

好奇心の向かう先はユーザーとプロダクトであって欲しい

――最後に御社に興味を持ってくださったエンジニアの方にメッセージをお願いします。

:当社のエンジニアが大切にしているカルチャーとして、さきほども何度か出てきた「自由と責任」の他に「ファミリーファースト」「ユーザーフォーカス」の3つがあります。

我々は、家族を大切にできない人がいいサービスをつくれるのか?視点が自分自身にだけ向いている人にいいサービスがつくれるのか?と問いかけて、社員の働きやすさといいサービスを生み出すことは大切であり、両立できると考えています。

特にエンジニアとしては「ユーザーフォーカス」の視点は非常に重要で、たとえば、保身のためにメンバーとの衝突を避けて議論しない、ユーザーメリットより自分が楽だからと技術選定するなど、そういうのは当社の方針とは合わないと思います。ユーザーはもちろん、プログラミングやプロダクトに好奇心や興味が向いていて、サービスをよりよくすることに魂を燃やせる人が合いますね。

もちろん最終的に自分がかなえたい夢があって働くことが悪いわけではありません。ただ、よいプロダクトやサービスが世に出せて、ユーザーに認められた結果の自己実現であってほしいと思います。

それができる方にとっては、自由度が高い働き方ができ、裁量のある環境です。責任は負うから自分でなんでも決めてやってみたいという方はぜひ当社でチャレンジしてみてください!

――ありがとうございました。


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