現場DXプラットフォームを展開する株式会社カミナシにて、画像解析を活用した「AIラベル検査」機能の開発を担った若手エンジニアコンビ、かわりくさんとKenさん。

一見すると、圧倒的な推進スピードを誇るかわりくさんと、技術の深さを武器とするKenさんという対極的な2人。しかし、彼らの根底には「まずは小さく始めて、フィードバックを得ながら改善を重ねる」という共通の思想が存在していました。

さらに彼らは2025年、現役エンジニアでありながら「M-1グランプリ」に挑戦。地下ライブでの試行錯誤を繰り返してネタを修正し、観客を沸かせるまでに成長を遂げます。

ソフトウェア開発とお笑い——「失敗を恐れず、まず現場に出す」という真理のもとで突き進む、2人の軌跡とモノづくりの思考法に迫ります。

プロフィール

かわりく(左) 高校3年生の時にコロナ禍を経験し、「手に職をつけたい」と大阪国際工科専門職大学に進学。大学中退後、株式会社ゆめみを経てカミナシに入社。現場を第一に考えたプロダクト開発において、実装力とコミュニケーション力でチームを牽引する。

Ken(右) 暗号技術・セキュリティ分野の研究とプロダクト開発を横断するエンジニア。早稲田大学1年時にAIサークルで運用や開発に没頭し、大学2年時には「VRAIN Solution」を経て「StatHack」を共同創業し、2024年にカミナシへ合流。研究では「Passkey」のOSSにおける脆弱性を複数発見し、国際的なイベントや標準化団体で発表した実績を持つ。

対照的なキャリアを歩んできた2人の原点

——まずは、お二人のエンジニアとしての歩みについて教えてください。かわりくさんはかなり独特な経緯でエンジニアになられたそうですね。

かわりく:そうですね。私は高校3年生のときにコロナ禍が直撃して、「手に職をつけないと生きていけないのでは」と考え、ITエンジニアを目指すことにしたんです。今思うと安直ですが、当時は進路とコロナ禍でとにかく不安になっていて、必死に考えた結果でした。

もともとパソコンを触ったこともない文系だったのですが、新設された大学の情報工学部に、AO入試で入学しました。入学後はとにかく早く技術を身につけたくて、1年の終わりからスタートアップのインターンに参加し、2年で株式会社ゆめみに内定して大学は中退しました。その後は約2年間開発に従事し、カミナシに入社したという経緯です。

——Kenさんは、かわりくさんとは対照的なアプローチで技術を深めてこられたんですよね。

Ken:そうですね。私はもともと純粋な技術への興味や探究心があって、大学も情報系に進みました。彼が「まず実務に飛び込んで、必要になった技術を身につけていく」タイプなのに対し、私は AIや暗号技術そのものに惹かれて、一つの領域を深掘りしていくアプローチをしてきました。

——そんなお二人が、カミナシの「AIラベル検査」チームで出会ったお互いの第一印象は?

かわりく:最初は、「エンジニアらしい、物静かで落ち着いた人だな」と思いました(笑)。事業責任者の松葉が起業家的な熱いオーラを放っていたので、彼は一見すると地味というか、技術にストイックな職人タイプに見えたんです。

Ken:第一印象は、「若くて明るくて、元気な人が入ってきたな」でした。年齢は2歳しか離れていませんが、持っているエネルギーが凄まじかったですね。

最小限で検証し、改善を重ねる共通のモノづくり論

——「AIラベル検査」チームでは、どのように業務を分担し、プロダクトを開発されたのですか?

Ken:チーム結成当初から、私たちは異なる領域を分担して実装していました。システム開発において、我々には明確な共通点があります。「まずは小さく始めて、フィードバックを得ながら素早く改善を繰り返していく」という考え方です。

「小さく始める」といっても、雑につくるわけではありません。「この機能は本当に現場の課題を解決するのか」というコアな価値だけを検証できる、最小限の形に絞ってつくり込む。それを実際に現場で触ってもらい、反応を見て、次に何をつくるかを決める。頭の中の仮説ではなく、現場からのフィードバックを起点に開発を進める。この価値観が一致していたからこそ、私たちのチームは迷いなく開発を前に進められました。

かわりく:近年はAIの台頭で、一部では「アイデアや設計こそが価値で、コードを書くのは誰でもできる作業だ」という風潮もありますよね。でも私たちは、どれだけ優れたアイデアも、動くプロダクトとしてユーザーの手元に届かなければ価値はゼロだと考えているんです。考えることと同じくらい、いやそれ以上に、届けきることにこだわりたいと思っています。

——かわりくさんから見て、Kenさんの強みはどこにありますか?

かわりく:技術の深さが尋常じゃないんです。正直言って、技術面で私が彼に勝てるところはありません。SaaSの開発では、一つの正解があるわけではないのですが、彼は複数の選択肢を並べて、それぞれのトレードオフを整理した上で「今回のベストはこれだ」と決めきってくれるんです。技術的な判断の質は、彼が担保してくれる。だからこそ、事業側との接点は私が担おうと決めていました。

——逆に、Kenさんから見たかわりくさんの強みは何ですか?

Ken:事業と技術の間に立って、要求を整えてくれるところですね。事業責任者やPMが「こういう機能がほしい」と言ったときに、彼はその裏にある「なぜほしいのか」「現場で何が起きているのか」まで聞き出して、実装に必要な形に翻訳してくれるんです。さらに判断が必要なところは、こちらから選択肢と推奨案を持っていき、その場で決めてもらっていました。

認識のズレを小さいうちに潰してくれるので、いつも手戻りが少なく、私は迷わず技術に集中できました。彼が要求を整え、私が技術判断の質を担保する。この補完関係が、チームの推進力になっていました。

——カミナシが対象とするノンデスクワーカー向けのプロダクト開発においてこだわったポイントは何ですか?

かわりく:私は父親が市場で働いていて、毎日伝票を手書きしている姿を見て育ったので、カミナシが向き合う現場の課題にも、当事者意識がありました。だからこそ、「オフィスでコードを書いているだけでは絶対に気づけない、現場のリアリティ」にはこだわりました。

実際に工場に行くと、機械がかなり大きな音を立てて稼働していることがわかったんです。そんな環境下で、普通のアプリのような通知ではなかなか伝わりません。そこで我々は、「音を出す」「振動させる」といった設計を組み込みました。これは、オフィスでパソコンに向かっているだけでは生まれない発想です。

人生はM-1に出るか出ないか。人前が苦手なエンジニアが地下ライブで掴んだ覚醒

——ユニークなのが、2025年にコンビを組んで「M-1グランプリ」に出場されたことです。なぜ現役エンジニアのお二人がM-1を目指すことになったのですか?

Ken:発案者は私なんです。私はもともと、大勢の人の前で発表したりおもしろい話をしたりするのが得意ではありませんでした。研究発表なら平気なんですが、機転を利かせてジョークを飛ばすような余裕がなかったんです。

でも、「そんな自分を変えたい、表現力をきたえたい」という思いがずっと心の中にありました。そんなときにM-1グランプリの募集を見かけて、「人生、M-1に出るか出ないかの2つしかないな。だったら出たほうが絶対おもしろい」と確信したんです。

相方は彼以外には考えられませんでした。関西人だしおもしろいし、なんでもノリよく形にしてくれる最高のパートナーだと思っていたからです。

かわりく:ある日突然誘われたのですが(笑)、私は「他者の行動のハードルを下げるイエスマンでいること」がモットーなので、断る理由もなく快諾しました。

——エントリーから本番まではわずか1.5か月ほどだったそうですね。どのようにネタを作り、練習を重ねたのですか?

Ken:エントリーしたものの、冷やかしと思われるのは嫌だったんです。そこでプロの漫才がどんなものか知るために、1回戦の予選会場を見に行きました。そしたら素人でもみんなおもしろくて、「このままじゃいけない」と危機感を覚えました。

かわりく:まずはZoomで話し合ってネタを作り、友人たちの前で同じネタを3時間やり続けました。

でも、身内だけで練習していても本当のフィードバックは得られません。そこで、誰でも出演できる新宿の地下ライブにも飛び込むことにしたんです。

会場に行くと、広さは小さな会議室ほどで、観客席には積み木のようないすが8席あるだけ。私たちの前に出た演者は、急に服を脱いで腕立て伏せをしながら、顎でラジコンの車のスイッチを押して走らせるという芸を披露していました。

かわりく:そんなカオスな状態のなか、我々は8人の観客が誰も笑わないという恐怖体験をしました。そこから「これ以上怖いものなんてこの世に存在しない」と吹っ切れました。そこからは、「何がだめだったのか」を分析し、2週間でネタを解体・再構築して、再びライブに挑むというサイクルを回しました。

Ken:結果として、本番では堂々とネタを披露できました。地下ライブの恐怖体験が嘘みたいにウケたし、最前列のお客さんが笑ってくれているのも見えてめちゃくちゃ嬉しかったですね。また私自身、その後の研究発表や大規模なパーティーでも、臆せず登壇してギャグを交えたプレゼンができるまでに成長しました。周りからも「KenはM-1に出て人が変わった」と言われます(笑)。

失敗を恐れず世に出す。漫才とプロダクト開発の共通点

——未完成でもライブに出て、そこから素早く修正するというプロセスは、まさにソフトウェア開発のプロトタイピングやイテレーションそのものですね。

かわりく:たしかに!言われてみれば漫才とプロダクト開発には、近いところがあるのかもしれませんね(笑)。

Zoomで「これ絶対ウケる」と盛り上がっていたネタが、8人の前で沈黙に変わる。同じことは、開発でも起きるんです。例えば、チームで「これは刺さる」と確信してつくった機能が、現場に持っていくとまったく使われないとか。頭の中で考えている段階では、誰もが自分のアイデアを過信してしまいがちです。

でも、その「使われなかった」事実は、机の上では絶対に手に入らない「現場が本当に困っているのはそこじゃない」という情報なんです。しかも、コアな価値を検証できる最小限の形で出しているから、外してもダメージは浅くて済みます。それどころか、一つ外すたびに、解くべき課題の輪郭がはっきりしてくるんですよ。だから使われなかった機能は、無駄ではなく次の一手の精度を上げる材料に昇華できるんです。

逆に一番怖いのは、時間をかけてつくり込んだものを、リリースの瞬間に初めてユーザーに試してもらうことです。それまで一度も検証していない状態だと、外れたときに戻れる場所がありません。小さく出して、小さく外して、直しながら育てていくほうが、結果的にはずっと健全だし、成功する確率も上がると思います。

Ken:私も地下ライブに出るまでは、「自分たちのネタはおもしろい」と本気で思っていました(笑)。人間、自分の頭の中だけで考えていると、いつまでも無敵のままなんですよね。開発も同じで、プライドを一回置いて、早めに現実の反応を受け止められるかどうか。それが、プロダクトが伸びるか止まるかの分かれ目なんだと思います。

かわりく:現在はお互い別のチームに所属していますが、引き続き現場との対話を大事にして、改善を繰り返しながら貢献していきたいと考えています。

Ken:ここまでの経験を生かして、今後はそれぞれの場所でチームの成果を最大化させていきたいですね。そして技術の力で、現場で働く人たちが「安心・安全で働きやすくなった」と思えるような世界を実現したいと思っています。


あわせて読みたい 今回対談に登場したKenさんは、現場でのプロダクト開発と並行して、パスキーの脆弱性を発見するなど国際的な研究発表も行うセキュリティエンジニアでもあります。

彼が「ハッカーへの疑問」を抱いた中学生時代から、大学でのハッカソン、起業、そしてカミナシへの参画に至るまでのキャリアとモノづくりの思想を深掘りした単独記事もぜひチェックしてみてください。

▶ 記事を読む: プロダクト開発と暗号技術研究の二刀流。カミナシエンジニアKenの挑戦

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