資生堂では、全世界の拠点の基幹システムを標準化する大型プロジェクトに取り組んでいる。

プロジェクトは「FOCUS」と名づけられ、2019年末にスタート。すでに日本を除く5つの海外拠点で導入が完了した。残るは業務プロセスが複雑な日本のみだ。

日本地域の運用構築を担当するのは、アクセンチュアとの合弁会社として設立された資生堂インタラクティブビューティー(以下SIB)のIT部門だ。SIBはアクセンチュアが持つデジタル・IT領域の知見と資生堂が持つ顧客視点を融合させることで、ユーザーの体験満足度を満たしつつ業務効率化を果たすシステムの開発と導入に取り組んでいる。

部門を牽引するのは2022年に入社した、秋岡洋平IT本部長だ。秋岡さんはDellやアスクルで基幹プロジェクトの刷新や新機能の開発に関わってきた。IT領域のプロフェッショナルは、どのように組織を整備してプロジェクトを進めているのだろうか。話をうかがった。

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秋岡洋平さん プロフィール

資生堂インタラクティブビューティー株式会社
IT本部 本部長

新卒で重電メーカーに就職後、基幹システムの刷新プロジェクトに携わる。その後、Dellで大小さまざまなIT系プロジェクトに取り組む。アスクルではITのほかに新規事業開発や人事の仕事も担当。2022年に資生堂インタラクティブビューティー株式会社へ入社した。

資生堂の成長を支える「FOCUS」導入

資生堂は、2025年以降の2年間に渡る実行戦略として「アクションプラン 2025-2026」を発表している。その中で最優先課題として挙げているのは以下の3点だ。

  • ブランド力の基盤強化
  • 高収益構造の確立
  • 事業マネジメントの高度化

このうち「高収益構造の確立」と紐づくのが「FOCUS」だ。「FOCUS」は全世界における財務会計・生産・購買・物流などの業務プロセスを、グローバル共通のプラットフォームで管理するプロジェクトだ。

「FOCUS」の基幹システムとなるSAP S/4の導入は、海外拠点から推し進めてきた。

「すでにリージョンシステムとしてSAP S/4を導入していたアメリカや、シンガポールにリージョン本社があるアジアパシフィックなどから順次導入を進めてきました」

秋岡さんがプロジェクトにジョインしたのは、スタートから2年が経ったころのことだ。もともとは事業再編の際に発生したシステムの移管のプロジェクトを担当していたが、日本地域のプロジェクトが加速するタイミングで経験豊富な秋岡さんに白羽の矢が立てられた。

「グローバルで進めているプロジェクトなので、要件定義を進めるのが大変でした。基幹システムの導入は、それぞれの領域の業務をシステムに落とし込まなければいけません。日本単独で実施する場合でも、多くの部署の仕事と顧客に関わるため、苦戦することもよくあります。

FOCUSでは、それに加えてほかの国と歩調を合わせなければいけませんが、日本のサービスはほかの海外拠点よりもていねいです。その業務プロセスを棚卸しして、システムにマッチするように整理するのはやはり苦戦しました」

たとえば、出荷の業務において、日本のオペレーションは海外拠点よりも細かい。取引先ごとに出荷のリードタイムが設定されていて、数十分単位で出荷が行われている。一方、海外では出荷の頻度はそれほど多くないという。

出荷の頻度が少ない条件でシステムを構築したいと考える海外に対し、日本でそれを受け入れると出荷の頻度は減り、取引先の顧客満足度の低下を招く。このような商慣習の違いから起こる衝突の全体最適化を図り、プロジェクトを推進するのが秋岡さんのミッションだ。

「整理すべき点と譲れない点をわけて、受け入れられない点は折衝しています。また、海外拠点から、プロセスを変えても同じ業務を実施できる方法を提案してもらうこともあります。お互いに代替案を考えながら標準の業務プロセスをつくっているところです」

大型プロジェクトの推進に向け実施していること

基幹システムのリプレイスや導入では、システムを担うIT部門とシステムを使うビジネスサイドで対立が起こりやすい。

担当者を越えて部門間の衝突に発展することもあるが、資生堂のFOCUSのプロジェクトでは、このような事態を防ぐためのチーム体制を敷いている。

「ビジネスサイドとITサイドがワンセットでチームを組んでいます。たとえば、ファイナンス領域であれば、グローバルを横串でみるビジネスサイドのリーダーがいて、システム側にもソリューションを標準化するリーダーがいます。プロジェクトの業務の承認ルートなども決めているので、部署間の連携はスムーズです」

プロジェクトは資生堂の社員とアクセンチュアの社員の合同チームで進め、同じフロアで一緒に机を並べているというが、カルチャーの違いで衝突することはないのだろうか。

「アクセンチュアの方々には助けられています。FOCUSというプロジェクトでは、毎週のように新しい課題が発生し、その解決に奔走しています。同じ方向を向いてプロジェクトに取り組むことができているため、衝突は起こっていません」

また、多くの企業を渡り歩いた秋岡さんから見て、資生堂インタラクティブビューティーは社員一人ひとりの能力が高いと感じているという。

「海外拠点と共通化した基幹システムの導入はとても難易度が高いことです。業務プロセスを俯瞰して見ながら、タイトなスケジュールに合わせてプロジェクトを推進しなければなりません。

資生堂インタラクティブビューティーの社員は、一人ひとりが課題を把握し、ほかの部署と折衝しながらプロジェクトを進めていく実行力があります。社員のケイパビリティの高さを実感しています」

プロジェクトは佳境を迎えつつある。グローバルという範囲の広さ・過密なスケジュール・社内調整の難易度の高さが重なり、現場では緊張感が高まっている。一般的に、このような余裕のない状況においては、それぞれの部署の連携が難しくなり、大きなトラブルが発生することもある。

しかし、FOCUSの日本導入プロジェクトでは、発足時から部署間の連携を深めるために、関係者全員が参加する3時間弱の課題解決会議を毎週実施してきた。その土台があるため、部門を跨いで課題を共有し、解決していく土壌が育っている。

「進捗の共有、進捗確認、マネージメント層へのエスカレーションの欄を設けたフォーマットを用いて、それぞれの部署が状況を報告しています。他部署との調整が必要な案件はその場で解決するため、トラブルに発展する前に手を打つことができています」

システムの拡張で、業務改善を進めたい

大規模な基幹システムの導入に、日々緊迫感をもって課題に向き合っている。最後の最後まで気は抜けないが、秋岡さんはシステムを導入した後の未来も見据えている。

「システムを導入した後は、365日安定的に稼働させる必要があります。たとえば、障害が発生した場合には他部署や海外拠点と調整してリカバリーすることも必要です。このような業務をスムーズに行えるよう、体制の土台を固めていきたいです。

そのためには社員の育成も必要ですよね。他部門の仕事を把握することも重要ですし、グローバルで巻き込む力も必須です。とくに海外拠点との折衝は大きな推進力が求められるので、実行力の強い組織をつくっていきたいです」

システムの安定稼働はIT部門にとって土台となるミッションだ。それが完了した際にはさらにシステムを拡張し、業務の生産性を上げていきたいと考えているという。

「巨大プロジェクトを完了させるのは骨が折れます。ただ、そこで力尽きるのではなく、攻めの姿勢でシステムの改善を続けたいです。システムの活用で業務改善につながることはたくさんあります。資生堂グループ全体で進めている構造改革に寄与できるよう、積極的に取り組んでいければと思います」

システムの導入は、これからの成長のための足がかりでもある。資生堂インタラクティブビューティーのIT部門の挑戦はさらに続いていく。

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(取材/文:中 たんぺい、撮影:渡会春加

―<presented by paiza>

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