「暗くなったら帰ろう」
「朝、いい雪が降っていたらゲレンデで一滑りしてから仕事をしよう」

そんなモットーを掲げる企業が、長野県信濃町にある。

サウナ付きタイニーホテル「Earthboat」を展開している株式会社アースボート。代表の吉原ゴウ氏(以下、ゴウさん)は、20代で株式会社LIGを創業し、主にWeb・IT業界を舞台に活動していた人物だ。

「東京にいた頃は、それこそ朝から晩まで当たり前のように働いていた。だからこそわかったこともあって、今は本当に自分が心地よいと思える自然体な働き方ができているんだよね」と語るゴウさん。今に至るまでの経緯には、毎日忙しく働くビジネスパーソンこそ取り入れたい、これからの生き方のヒントやメッセージがあった。

記事前編では、「真剣に遊ぶことで仕事や働き方を良くする方法」を。後半では「アウトドアサウナ」の魅力を紹介する。

吉原 ゴウ
1982年長野県生まれ。2007年-2022年まで株式会社LIGを経営し、Web制作に従事。2022年株式会社アースボートを創業し、代表取締役に就任。アウトドアスクールを経営する家庭で生まれ育ち、子どもの頃よりカヤック、スキー、山採りやキノコ狩りなどをして育つ。田舎の自然の魅力や、アウトドア体験をコアとしたビジネスをするために長野県信濃町にUターン。

IT業界時代は、無限に働く戦略

ーー 今、ゴウさんは長野県を中心に活動しています。ここに至るまで、どういったきっかけがあったのでしょうか。

もともと長野で生まれ育って、田舎の生活を送っていたので幼少期から自然が身近にはあった。

ただ、その反動からか東京に出て、そこからは15年くらい経営に携わりながら、流れが早いIT業界で活動していた。その後、少しずつ軸足が長野の自然のある生活に戻ったので、大きなきっかけというより、自分が楽しいと思って熱中できることを仕事にしたいっていう気持ちに素直に動いている感じかな。

デザインが好きだったのでWebデザイナーとして仕事をはじめ、書くのが趣味だったからLIGブログをはじめた。やっぱりITも好きだったから事業として続けられたんだよね。そんな好奇心から派生して、ゲストハウス「LAMP」やアウトドアサウナ「The Sauna」の運営、今は建築とか空間作り、体験をデザインするようなことに興味があるので、長野で新しい会社アースボートを立ち上げたんだ。

ーー 「熱中できることを仕事や事業に」という軸は変わっていない、と。

そうだね。そこはブレていないんだけど、働き方の価値観は大きく変わったよね。20代で初めて起業したときは、右も左もわからないから、とにかく時間を投下し朝から晩までぐわーっと働き続けるみたいなことを平気でやっていたから。

「土日ってめっちゃチャンスだよ。電話は鳴らないし集中して仕事できる」みたいなノリは、今でこそアウトかもしれないけど、当時はとにかく無限に働くことが戦略のような時代だった。そういう意味で、今はすごく肩の力を抜いた経営ができているし、結果を出すためにもっと遊ぼうとさえ思っている。

それに、長野県の田舎は夜になるとやることもないんだよね。「暗くなったら帰ろう」を会社のモットーにしたのも、そのほうが自然だし、雪がたくさん降ってパウダースノーになれば社員のみんなも滑りに行きたいよねって。ゲレンデで3時間くらい遊んでから仕事するなんてこともあるからね。

遊びを大切にした働き方にも種類がある

ーー 「遊び」というキーワードが出てきましたが、仕事と遊びのバランスを取るのが難しい方も多いと思います。

遊ぶのが苦手な大人は多いよね。でも、固定化された考えの中で生活していると、やっぱりそうなる部分があるのは仕方がない面もある。今の仕事じゃないとダメ、東京に住まないとダメみたいなものもそうで、ある意味では俺も数年前までそうだった。あんまり深く考えずに東京に20年も住んでいたので。

ーー そんなゴウさんは、第三者的に見ると遊びの達人に見えます。どのようなことを意識していますか?

最近思うのが、遊びを大切にした働き方にも2つのタイプがあるなと。

例えば、旅。パソコンがあってネットがあれば、どこでも仕事できるタイプの人は増えてきていて、特にエンジニアやデザイナーといった属性であればハードルは低い。東南アジアなど滞在費が安い地域でバックパックの旅をしながら仕事をする……みたいなスタイル。これも1つの遊び方であり、俺もやっていた。けれどこれ、人によっては飽きると思うんだよね。

その一方で、同じような旅でも、現地でいろいろ体験したことを自分の仕事にダイレクトに反映させるようなスタイルもある。このインタビューを受ける前日まで1歳児の息子を連れて家族でラオスを旅していたんだけど、「このホテルの作りはいいな。ちょっとうちでも真似してみよう」とか学べるのは、今自分が建築や宿泊業をやっているから。遊ぶことは、実際に提供するサービスの世界観を作り込む際にとても活きてくる。

ーー 海外旅行をして、現地で遊ぶだけのパターンもあれば、その遊びが仕事に活きるパターンもあるみたいな感じですね。

そうそう。どっちが良い悪いではないし、みんなはじめは前者の興味関心からだと思う。今回のラオスも、今までいろいろな国に行ったけど、ここはまだだからみたいな単純な理由だったし。

それでも自分で事業をしていると、目に飛び込んでくるもの、体験するもの、全てが違って見える。

例えば、ラオスで薬草入りの湯を沸かすスチームサウナを見たんだけど、「すげー!面白い」で終わらすのではなく、これはどういう仕組みなのかを聞いたり、自社でもできないか検討したり。その流れで「この釜が欲しいんだけどアイデアない?」みたいなことをSNSで呼びかけたら、さっそく反応があって。まずは自分の家のサウナで実装してみる。

ーー すぐに実装できるサウナが自宅にあることもすごい笑

最近、200坪ぐらいある馬鹿でかい古民家を買って、サウナも庭に作ったんだ。

ーー ゴツイ!

このように、遊びの中から新たな気づきがあるし、そのほうが仕事や趣味の幅も広がるじゃん。

世界中を旅して、すばらしい体験をして、そのエッセンスを自分の中に吸収するだけでも仕事に返ってくるし、意味がある。だから同じ遊びでも、仕事とのバランスを取る方法と、その体験が自分の仕事にどうフィードバックが返ってくるのかまで設計して遊ぶのでは、だいぶ違うと思うんだ。

感性を殺さないためにも、真剣に遊べ

ーー 遊びで人生の幅を広げたり、深める。そのために僕らができることって何がありますか。

やっぱり真剣に遊ぶことじゃないかな。そのためにも、まずはいろいろやってハマるものを見つけてみる。例えば、俺も友達に勧められてフライフィシングや海釣り、ワカサギ釣りなどをやってみたんだけど、いまいちハマれなくて。じゃあ次に行こうって新しいことにどんどんチャレンジしてみた結果、広くなっていったんだよね。

最近は土地付きの古民家を購入したから農業をはじめたり、ハーレーを購入したから大型バイクだったり、MPC(Music Production Center)で音楽を作ることにもチャレンジしている。

こうやってまず自分でやってみることで、深まるものは自然と深まっていく。俺の場合はそれが事業のアイデアにもつながっていく。

遊びに関わらず、やっぱり本気でやっていかないと技術が身につかないし、人生に対する良いフィードバックも得られないしね。

ーー 仕事も一緒ですね。

そうそう。IT業界で仕事していたときも、今もやっぱりITは好きだし、テクノロジーなしでは仕事って成り立たない。逆に田舎に来ると、パソコンとかITツールをまったく使えない人や苦手な人はいっぱいいる。自然の中で暮らすことには慣れていても、それはそれでバランスが悪いと思う。やっぱりITをうまく使ったほうが仕事は効率化できるし、人生に広がりも出る。

ーー 人生は振り幅で豊かになる、みたいな。

そうだね。もし、仕事ばかりしているのであれば、自然の中で遊ぶのもいい。都会のうまいレストランで食べるのも、農業体験をして自分で作ったものを食べるのもいい。バックパッカーとして放浪しながらゲストハウスに泊まるのもいいし、リッツカールトンに泊まればまた見える景色が違う。そうやって、仕事も遊びもアップデートしていったらいいんじゃないかな。

ーー ゴウさん自身は今後どのようなことを意識していきたいですか?

俺がずっと意識しているのは、歳をとればとるほど、できることが少なくなっていく、選択肢が狭くなってく人生って嫌だなってこと。実際、仕事だけをしていたらそうなってもおかしくない。

特に、今手がけている事業は遊びとか体験を提供しているので、感性が死ぬと良いプロダクトは作れない。だから、自ら心揺さぶられる体験をしたり、興味のあることを発信したり……そうすると、やっぱり周りも関心を持ってくるからいい循環が生まれるんだよね。

それは、社員にも言っていること。遊ぶことで仕事をないがしろにするのではなく、楽しいとか、綺麗とか、面白いという感性を殺さないためにも、真剣に遊べって。

ーー 感性を殺さないためにも真剣に遊ぶ。とても素敵ですね! 記事後編では、そんなゴウさんと仲間たちが提供する新事業「Earthboat」と、アウトドアサウナの魅力を紹介します。

(取材/文/撮影:松田 然)

Share

Tech Team Journalをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む